FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第九十四章・裏:シャーマンにして戦士 後編

 息を大きく吸い込む――森の香りではなく、少し埃っぽい、荒野の匂いだ。

 周りを見回す。さっきまで抜けてきた森はもう大分後方に……自分達以外に、人影は一つもない。式部さんは少し不安そうに森の方を気にしている、うーん美人にはちょっと不安そうにしてる顔も似合う。ゴルゴーンさんはもう退屈がピークになったのか、軽く欠伸をしている。かわい――

 

 しゅっ(目の前を蛇が横切る音) ざくっ(地面に蛇の歯が突き立つ音)

 

「――何だ?」

「あ、いえなんでもないっす」

 

 歯がとっても健康デスネ……良かった良かった……

 うん。この人が気が立ってるところに余計な事はもう二度と考えまい……流石は神話の女神様、勘の良さは多分人間と比べ物にならない。

 ……それは置いておくとして。

 

兎も角、二人とも大きな傷も無しだ。本当にここまで何もなく。スムーズに逃げてこられた。てっきり、一回くらいは、追いついてくる事もあるかと思っていたのだが。

 

「――追いついてすら来なかった、か」

 

 ちらりと視線を後ろへ向けるが……結局、最後まで先ほどの武者野郎は、一度森の木々の向こうに見えなくなってから、一度も顔を見ることもなく。

 感想としては、何時の間にか振り切った、と言う感じだった。

 

「……物凄い執念深く追いかけてくるとばかり思ってたけど、あっさりだったな」

「まぁ、そういうやり方をした。寧ろ殺意も強く、一点に熱中している程に、ハマりやすいというモノだ」

 

 んでもって。それを成し遂げた吾人はと言えば……軽く腰など叩き、伸びしつつ、欠伸を一つしている。襲撃して来た敵から逃げ切った後とは思えない程に、非常に呑気にしていらっしゃる。

 アメリカに根付いていた古いシャーマンであり、勇猛果敢な戦士でもある、という話だったが。俺だったらこの人を、『賢者』って表現する。

 

「後は、アサシンを待って出発するだけか」

 

 

 

 

 

 

「……で、どうする」

「普通に逃げる……が、特定の場所に、彼女を誘い込む必要がある」

 

 具体的には――自分が、通って来た方向へと。

 ジェロニモさんは、静かに、聞こえぬようにそう話を切り出した。指さす先には……森の木が一本。そして、そこに描かれた……文字、だろうか?

 木の模様に紛れるように描かれて、ただの模様にも見えてしまう。どうやら、ジェロニモさんが施したものらしい。

 

「ここに来る前に準備は整えてきた」

 

 との事。

 

『ふーむ、実に興味深い……この木に馴染みながら、確かに主張している、調和と浸食という相反するテーマを内包したこの文字、いや、紋様かな? ううむ、現地でスケッチした~い』

「……魔術的とかじゃなくて、そっちなんだ」

『私は万能の天才である以前に、芸術家だからね。気になっちゃうとも』

 

 そうでっか……って。

 見られた、睨まれた、ヤバイヤバイ……話しているのモロバレしちゃう……

ったく、なんでアサシン相手にしておいてこっち見れる余裕があるんだか。軽口の一つくらい叩かせて欲しいもんだ、万能の人と、友達みたいに気軽な会話するなんてそこそこ貴重な機会だしな。

 

 ……とはいえ、コレであのサーヴァントがどれだけ冷静に、そして執念深く此方を狙っているかは分かった。例えアサシンが相手であろうと、絶対にこっちが逃げようとする一瞬を、あのサーヴァントが見逃す事はないだろう。

 

「――とまぁ、あの調子だ。マジでいけんのかい、ジェロニモさん」

「ちゃんと引っかかってくれれば、問題はない」

 

 ううむ。物凄い自信。

 ここまではっきりと言われては、信じざるを得ない。

 

「とはいえ、確実に引き込めなければ、どうにもならない可能性がある……故に、万が一も無いように。手伝って欲しい」

「手伝う……えっと、どういう方向で?」

 

 ちらり、と取り敢えず周りの二人を見回す。暴力ならゴルゴーンさん、頭使う仕事だったら式部さんになる訳なんだけれども。

 そんな俺の視線に応えるように、ジェロニモさんが指し示したのは……式部さんの方だった。どうやら頭脳労働の方をご希望らしい。

 

「――やって欲しいのは……彼女の気を引く事」

「気を引く、ですか」

「どんなやり方でもいい。先ず一度、ハッキリと『此方に注意を向けさせる』事。それも回り込む様な理性ある戦いをさせてはいけない――此方へと猛獣の如く、襲い掛からせて欲しい」

 

 そう言って、ジェロニモさんは自分の持っている……キセル? っぽい何かを見せた。そこから立ち上っているのは、何かしらの煙なのだが、しかしながら。只のタバコの煙とは思えない。

 なんだか、匂いを嗅いでいると、こっちの意識が、ぼーっとしてくる、様な――

 

「――よしなさい」

 

 はっ、と。

 肩を叩かれて、意識がはっきりと戻って来る。

 

 目の前に、ジェロニモさんが立っていた。何時の間に……と目をしばたたかせる。ふと、若干泣きそうな表情をしている式部さんと目があった。何か俺はしてしまっただろうか、ふと思い出そうとしていると……

 

『あーっ! 漸くバイタルが安定した! 君! 迂闊に変な煙とか吸い込まない!』

 

 こちらの耳をぶん殴る様な剣幕のダ・ヴィンチちゃんの怒鳴り声が、通信機から耳に向けて飛び込んで来て。思わず顔を顰めてしまう。

 ……どうやら、さっきの煙を、ほんのちょっとだけ吸い込んだけでエライことになっていた、らしい。自覚がない。

 

 ちらり、と。一番こういう時、冷静に話をしてくれそうなお人に視線を向ける。此方の視線に気が付いたのか、呆れたように息を一つ吐いた。

 

「……その男が、手元の煙の説明をしようとした途端、阿呆のように口を開けて人形のように立ち尽くし始めたのだ。面白い物を見れたぞ、存外とな」

 

 ……どうやら、俺が間抜けを晒しただけのようだ。

 

「しかし……嗅いだ、っていうか。鼻に香っただけで思考が鈍ったんだけど……ヤバい煙だったりする?」

「少しばかり、ね。そして……サーヴァント相手でも、十分に通じる」

 

 古くからアメリカの大地で暮らしていた、ネイティブ・アメリカンの人達。

 例えば、ジェロニモさんが属していた『アパッチ』等は、たばこの煙や、自生していたサボテン、その他色々な物を使ってトランス状態に入り、精霊と交信していたのだという。結果として、彼らはそういう薬草などに自然と詳しくなった。

 

 そしてそれを活かし――ジェロニモさん曰く『悪用』だそうだけど――彼らは、卑劣な侵略者達にゲリラ戦を仕掛けていった。

 

「――その知識の一つ。意識を一点に集中させて、その他の事に無防備になる。本来は集中力を高める為に使われるモノなのだが」

「それに突っ込ませさえすれば……後は?」

「彼女には、自らの手で迷ってもらう事になる」

 

 ……その後。

 式部さんの式神を使い、アサシンとこっそりと連絡を取ってから。作戦は実行に移された訳だ。

 

 

 

 

 

 

 んで。式部さんのお手伝いで『意識するくらいの大声』を張り上げて逃げ出した俺に対して、完全に奴はロックオンを定めて、一発でジェロニモさんが散布していた煙に突っ込んだ訳なのだけれども。

 

「……結局、あれって言うのはどういう仕組みなんだ? 本当に勝手に離れたけど」

 

 しかし、集中力が高まっているのに変わりはない筈で。そんな状態で自分達を見逃すとは思えないのだけれども。そう思って尋ねた俺に、ジェロニモさんは、俺達が逃げて来た方向――森があった方を見つめながら、口を開く。

 

「森、というのは元来より迷いやすい。木々の中と言うのは、我々が暮らす場所とは明確に違う『異界』なのだよ。故にこそ、その力を少し、借りるだけでも……知識のない者は容易く、道筋を見失う。今回の場合は……間違った道筋を追う、と言った方が正しいか」

「なるほど……」

 

 それは。

 寧ろ集中力、一点しか見えなくなっているなら、致命的だ。誰か止める者もいないのなら、間違っているかどうかも考えず、突っ込んでいってしまっても、不思議ではないと。

 追いかけてくる追手を、間違ったところへ突撃するように誘導する。実に手慣れたやり方と言えるだろう。

 

「スゲェ知啓だこと」

「……誇れるようなものではないがね」

 

 だけど。それを褒められても、ジェロニモさんは。

 ちょっとだけ困ったように、頬を掻いて笑うだけだった。

 




ジェロニモさんみたいなタイプが一番怖い気がする。

明日は更新はありません。ご了承ください。
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