FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:甘やかな影の中で

「っがァアアアアアアアアッ!!」

 

 部屋の中に響き渡るは、絶叫。

音の波は壁を震わせ、そして肌を痺れさせるほどで。腹の底で火薬が盛大に爆ぜたが如き轟音は――その中心で藻掻く、たった一人の武者の腹の底からあふれ出て。未だ止む気配を見せない。

 

 ……ただ、叫んでいるだけならいい。しかしながら、その絶叫の中で、本来動く事すら敵わぬような、幾重にも幾重にも体に巻き付いた厳重な拘束の中で。体をねじり、地面を踏みしめて。

両腕に力を込めて、その戒めの縛を、ぎしり、ぎしり、と音を立て、僅かとはいえ引き延ばし、歪ませているのだ。

 

体中に張り付けた呪符も加えて、式神も駆使した鉄壁の檻――の筈なのだが。若干『これいつ破られますかねぇ』等と、枷を嵌めた張本人であるキャスター・リンボは何処か遠い所を見ながら、考えてしまっていた。もし、余裕ぶちかまして真っ向から捕まえようとしていたらどうなっていたのか若干、背筋が寒くもなっていた。

 

「……御大将の命に従って正解でしたなぁコレは」

 

 ――ほんの少しだけ、前の事だった。

 

リンボは自らの主から勅命を受けた。『彼女を拘束せよ』と。今、目の前にいる化け物染みたサーヴァント――平景清を。

 

雇い主が、何処からか連れてきたサーヴァント。平景清、とは名乗っているが。しかしながら。どうにも『個』として成り立っているようには見えない。何かしらが、混然一体になっている様な印象を受ける、得体の知れない剣士。

 

その女将を、雇い主は殊更に重用しており――『万が一、彼女を行かせては、むざむざと殺されかねないからね』と。口にした時には、少し困ったように笑っていた。

 

『彼女が合流場所に来たら、不意を打って拘束したまえ。そしたら『出入口』を使って屋敷に連れて……その上で、改めて二重、三重に拘束する。いいね? 不意の打ち方は、ふむ――そうだな。いくつか候補を渡そうか。状況に応じて、一番良い物を選ぶと良い』

 

 リンボは、自分が悪性の存在であることを自覚している……自覚しているが。その上で自分の味方を捕まえるのに、まるで詰将棋染みて、逃げ場もなく隙も無い、敵に使っても尚『もう少し手心とか……』と思うような余裕もクソも無いえげつの無いやり方を、顔色一つ変えずに提案するとは。自分の事を棚に上げ、若干ヒいた。

 

「――おのれ貴様ァッ!! この枷を外せっ!! 外せぇっ!!」

「いえいえそれは……主の命によって嵌めた物ゆえに、主の命無しでは外せませんぞ?」

「ふざけるなっ……!! 源氏が、我が怨敵が目の前にいるというのに……!!」

 

 ……とはいえ、その容赦のないやり方だったからこそ、こうして無事に拘束できているのだが。彼の恐ろしい所は、正にその『容赦ない』やり方だと思う。あの時代、絶大な権力に屈する者が多い中で、それでも尚、自らの才覚で頂点にあと一歩の所にまで上り詰めたのは、正に天才の所業であろう。

 後の世に恐れられ、祀り上げられたのも、むべなるかな。

 

『――景清』

 

 ふと。部屋に静かに溢れたその声に、僅かにため息を吐いた。

 どうやら、噂をすれば影、と言ったところだろうか。

 

「……っ!」

『おかえり――どうやら、見つかったようだね。良かったよ』

 

 穏やかな声だ。後の世で謡われた苛烈な恐ろしさなど、欠片も感じられない程に。それこそ、ただの詩人であると、誤解してしまう程に。

 そんな声に、景清は強く、不満をぶちまけながら声を――等という事もなく。寧ろ、僅かにばつが悪そうに、顔を伏せ。先程とは打って変わり、静かな声でぽつりと呟いた。

 

「……外しては、貰えませぬか」

『それは出来ない。君の刃が届きうる、そんな機であれば、その枷を解き放ち、君の刃の冴えを堪能するのもやぶさかではないのだけれどもね?』

 

 この狂犬を一体どのように従えているのか、リンボは知らない。何か特別な事をしたような事もなかった。

 

『かつて私は、一国丸ごとこの手に置きたいと口にした事があるけれど……君は、その国に匹敵する程の将なんだ。それを、むざむざ死ぬような道へとひた走らせる等と、出来るわけがない』

「……」

 

 ただ、少なくともこの主と言うのは、自分達をよく観察し、彼なりに自分達を理解したその上で命を下しているのは間違いない。そうリンボは考えている。

 リンボは、今の雇い主に対しても、腹に一つ黒いものを抱えている。しかしながら、最近分かったのだが……どうやら、彼はそれを初めから理解したうえで、リンボに仕事を任せている節があるのだ。

 

 

『あぁ、先の作戦の失敗の事かい? いいさ、構わないよ。『彼女』を呼んだあたり、そもそも失敗前提だったところもあるだろう――私を容易に殺しうる刃を準備するのは、君としては当然の事だ。違うかな?』

 

 

 ……つい先日そんな事を言われた時は、正直、顔をしかめた。

 此方は、この先への布石として、従順ぶって油断を誘うつもりだったというのに。寧ろ向こうの方からその先の事を笑顔で肯定されるなど。寛容等と言う話を越えている。

 

 

『私はね、君のそういう貪欲な所を買っているのだから。多少は目こぼしもするさ。それは何者にもない、明確な長所だ……活かしたまえよ、リンボ』

 

 

 そう口にした時の落ち着いたその態度に、感じた苛立ちを明確に覚えている。

 自分の裏切りなど警戒に値しない――と言う訳ではない。背中から刃を突き刺される脅威を理解しても尚、泰然自若と構えているのだ。

 最早、そこまで行けば『油断』ではない。

 

 例え、背中を刺されたとしても。その刃すらも、纏めて呑み込んでしまいそうな……底知れない『余裕』がそこに有る。

 

 

『その時になれば、私も君を真っ向から相手するとも。焦らなくていい……じっくりと準備を整えたまえよ。その間は、私の手伝いも、ついでにやってもらうけれどもね』

 

 

 何時かは仕掛けてくる、というその言葉も。

 逆に言えば、今は、その時でないのだから、仕掛けてこない――ちゃんと待つだけの聡明さは、此方にあるだろう、と。言外に告げているのだ。

 此方の『有能さ』と言うモノに理解を示し、ある種それを信頼している様に口を開くのだ。そして、その言葉が間違っているのか、と言えば。

どれも、強ちそうでもない。

 

 ……景清を捕まえるように口にした時も、そうである。

 

 

『彼女は聡明な猟犬だ。獲物を追い詰める為なら、一旦退く事も良く分かっているだろう……必ず合流地点に戻って、目標の情報を求めるだろう――素直で可愛い彼女の様な将を、失うのは些か以上に惜しい』

 

 

 等と。ペラペラと事細かに解説した挙句……その後、言った通りに景清が戻ってきた辺り、大分気持ちが悪い程に、彼女の事を理解している、とリンボは思う。

 ……此方へ向ける温かな情があるのか、と言えばそれは違う。友情、慣れ合い、仲間意識等と言ったものとはこの陣営は無縁ではある。

 

 だがしかし、それでも尚……酷く温く、鼻に付く程に腐った甘い香りをさせて、弱々しく纏わりつく、この雇い主の作り出す仄暗い影の中は。

 酷く仕事がやりやすく、そして居心地も良い。

 

『流石に、景清を動かした辺りで、向こうも『今までとは違う』という事が分かって来ているだろうからね。リンボが担当したあの場所の時の様に、捕まえたサーヴァントから情報を聞き出そうとしたりしても、不思議じゃない』

「……待ち受けている虎口に、突っ込むようなものだ、と」

『君は戦巧者だ。ここで動くべきではないと分かっているだろう。されど感情を制御できるかと言えば違う……感情を納得させるのは、君に鬱憤を貯めさせた、私の仕事だ』

 

 あぁ、コレを何といえば良いのか。リンボは、忌々しいながらも理解している。

 『甘やかされている』……自分達は、雇い主に、甘やかされているのだ。決してやさしくなどない。此方の事を思っての事ではない。此方のやりやすい様に整えれば、その整えた分、自分の思い通りに動かせる、と思っているのだ。

 

『私を信じて待ってくれないか……君の獲物を用意した、契約を果たした、その僅かな縁に今しばらく、縛られてくれないか、景清。その時になれば必ずや――君の鎖を解き放ち忌々しき源氏の首の元へと、導くとも』

「……良いでしょう、貴方はワタシの望む通り、源氏を私の前に連れてきた。言を守ったそれに免じ、もう一度だけ、鎖に縛られてやりましょう」

『――あぁ、ありがとう。景清。麗しき復讐者、無念を晴らす者……君の刃は、間違いなく義に満ちている。きっと、かの怨敵に届くとも』

 

 ……先ほどから既に大人しく話を聞いている景清と。雇い主との会話を見て。どの口が言うか、と反吐が出そうになる。

 

 きっと、あの男は、別に景清の復讐が成功しようと失敗しようと関係ない。彼女がそのように動けば、それが自分の『利』になる様に、もう調整は済んでいるのだろう。

 しかし直ぐに死んでしまうとそうはなり得ない。だから、あくまで『彼女の復讐を手伝う』体でその動きを押し留め――もっとも良き時を狙う。

 

『いいや……私も待っている。届かせてくれ。お願いしよう。その景色を、私に見せて欲しい。頼むよ、景清……』

 




明確にムカつく悪役って書けねぇなぁ……
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