FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:暗殺指令

『――珍しいね。君ほどの剣客がしくじるとは……景清?』

 

 ……絶好の好機だった。

別の相手と戦っていた所に、背後からの奇襲を仕掛けて。ケルト側のサーヴァントと共に挟み込みの形に持ち込み、完全に有利な状況に乗じる事には成功した。

相手のサーヴァントもいたが……大柄な蛇妖相手だ。体の一つでも千切る覚悟で踏み込めば、幾らでも、首を刎ねられたであろう機会はあった。

 

全てのお膳立ては整っていた。前回と違い、絶好の機だった。一切の横入りも何もなかった――だというのに。

何もいいわけも出来ない程に。酷く無能を晒して……今、ここにいる。

 

こうして、自らの大将の前に膝を立てて、顔を見せている事が、余りにも不甲斐ない。アレだけ大口を叩き、機会を寄越せと口にしたにもかかわらず、このザマ。

 如何に景清が目の前の男に忠誠を誓っている訳でもないにしろ、ここでふてぶてしくもう一度機会を寄越せ、等と口にできる程に気が狂っている訳ではない。

 

『……いや、責めるつもりは毛頭ないんだ。サーヴァントとは言え人の子である事は変わりないからね。とはいえ……何か、任に集中できない理由があるなら、私にも話してくれれば、何かしら知恵も貸せるかな、と』

「いえ……そのような……事は……まるで」

 

 責めてくれたのならまだいい。これだけのしくじりだ。昔から重用している家臣と言う訳でもないのだから、寧ろ無能となじるのがごく当たり前の反応だろうに――そんな素振りは欠片も無く。

 

『コレは別に、決して君だけの為に言っている事ではないのだ……君が任に集中してくれなければ、私も困る。情けをかけられている、等と考える必要もない。お互いに利がある提案なのだよ……気軽に話してくれると、此方としても喜ばしい』

 

 自分に優しく語りかける。

ただ一方的に情を振りまく訳ではなく……此方が拒めない様に。仕方ない、と妥協できる理由を作って、自ら股を開けさせ、そこから中に潜り込むのだ。

 

 その甘さが……酷く、心地が悪い。

 まるで泥沼だ。冷たい代物ではない。寧ろ、人肌ほどに温かく、全身を包み込んで、冷えた体をじっくりと溶かしていくような……気持ちの悪い温度が、体に染み込んでいって何時の間にか……自分の芯に染みわたっていく。

 

『どうだね……? お互いの利益になるのだ、話しては貰えないかな……景清』

 

 ぎり、と奥歯を噛み占める。この胸に燻る僅かな疑問は、確かに自分の判断を曇らせるのだ。コレを解かぬ事には、自分はアレの首を断ち切る事も出来ない。

 

「……貴方は――貴方は、何処であの男の事を知った」

『源氏の末裔という事を、かね?』

「やつは……源氏の末裔だという事を知らぬだろう。それは……初めて会った時の態度で分かった……自分ですら分かっていないものを、どうやって」

 

 ……違う。聞きたいのはそんな事ではない。しかし迂闊に踏み込んでのらりくらりとかわされては意味がない。楔を打ち込み、そこ掴んで逃がさぬように、聞かねばならないだろう。自分は今から……目の前の男にとって、都合の悪い事を聞こうとしている。

 

『なぁに、ちょっとした伝手さ。リンボを拾った時の様なね』

「……そうか。何処からの伝手だ?」

『――()()()()()

 

 だがしかし。

 あっさりと、闇の向こうの怪物は……口を開いて見せた。特に隠す意味などない、と言わんばかりに。どうでもいい事の様に……

 

「あの者は、貴方に連なる者か」

 

 ――あの時。

 

 角を生やした、男を見た。源氏の臭い以上に……鼻にかかる物がある。あの男からにじみ出ていたのは……目の前の、暗い孔からあふれ出す、怪物の気配によく似ていた。

 見て見ぬふりは出来ない。源氏に連なるならば、全て殺さねばならない。もしこの匂いが本物ならば――先ずは、自分を謀っていた不埒物から切り捨てねばならん。

 

『そうだね。酷く遠い縁に当たる存在だ。要するに私の身内だが、まぁ……君の目的とも合致するのでね。任せる事にしたのさ』

「であれば――貴様は、源氏か」

 

 かちゃり、と。置いていた刀に手をかける。返答次第では、即座にこの暗い穴の中に飛び込んで――差し違えるのも、厭わない。体よく利用されるだけならば、許容もする。だがしかし、その素性を知って私の前で笑っていたならば。

 

『……ふむ。私の血が混ざった相手が、偶々源氏になった――その程度のつながりで君は私を源氏と断ずるかね?』

「……」

『私は源氏ではない。名も、何もかも違う。彼らと関わる前に、私は哀れにも、島流しの憂き目にあった……まるで繋がりもない。正に赤の他人だよ。まぁ、それでも気になるというのであれば――構わない』

 

 ……このカラダから溢れ出す殺意を、理解していない訳ではないだろう。

 しかしそれでも尚、目の前の孔は、閉じるどころか――大きく、大きく、私が通り抜けられる程に大きく、広がっていく。

 

『相手をしよう。不満を受け止めるのは将たる私の仕事だ』

 

 その声に、僅かな震えも無く。この手が刀を抜くのを、寧ろ何も気にしていない……歓迎している節すらあった。手が震える。

 舐めている? 媚びる色はまるでない……酷く穏やかな口調が癪に障る。自分の言っている事を、まるで疑っていない――自分の言葉を正しいモノと信じて疑っていない。

 

「……貴様を切った所で、貴様は私を哀れんで死ぬのだろうな」

『うん――そうだね』

「であれば、切るに値しない……源氏でも、平氏でもない。外野の貴様にそんなうすら寒い目で見られるなど、ぞっとせん」

 

 これを切って、愚かを晒すは――自分だけだ。

 源氏を殺す『現象』が、この『景清』だ。しかし、だからと言って、この身が平氏であった頃の事を覚えていない訳ではない。武士であった頃の事を覚えていない訳ではない。

 切るべき相手を選ぶ位の『作法』は……まだ、覚えている。

 

『……ふふ、そうか。景清は優しいね。信じてくれるのかい』

「ふん、よくぞ言えたものだ……」

 

 事ここに至っては、信じる信じないの話ではない。自分が切る意味があるかどうかの話だ。ここまで、契約内の事はしっかりと熟して来た。無為な嘘を重ねて、此方の神経を無為に逆撫でする程間抜けではない。

 

 ……よしんば最悪ので目を引いて、私が目の前の闇に飛び込んでその奥の首を刎ねたとしても……奴にはリンボが付いている。身代わりの一つや二つ、用意しておいてあっても不思議ではない。この窮地を切り抜ける事等、難しくもなんともないだろう。

 

 嫌な理解と、態々嘘を吐いて逃げる必要もない程に整えられた場が、この男がこの場で嘘を吐く必要性が一切ない、と言う事実を勝手に焙り出す。

 

「……まぁいい。であれば、今度は迷わん。奴の首を……刎ねる」

 

 まるで、この事実に辿り着かされたこの感覚は……気に入らない。だが今は目の前の怨敵だ。気に入らずとも、切る理由もなく、まだ気を与えてくれるというのであれば。互いに利用する関係は、続けるべきだ。

 

 リンボの予測では……奴らは、いよいよ西の攻略に力を入れてくる頃合いだ。奴を切る機会は、ここからいくらでも現れる。

 

『うん。良い気合いだ――だが、それは少々厳しいかもしれないね』

「何?」

『どうやら、向こうは計画を多少変えたらしい。西ではなく……東の陣営に目を向けているようだよ、彼らは』

「なにぃ……!?」

 

 そう思っていた所だった。思わず立ち上がり、背後に視線を向ける。目の前の底知れぬ闇とは違う、薄暗い影の中から、『ンンン』と鳴き声が聞こえた気がした。

 

『道理ではあるね。人理に反する両陣営が争っていて……まだ『東側』はトップを挿げ替えれば、人理修復のための戦力になる可能性があるのなら、そちらを先ずは叩く』

「しかし、それでは間に合わぬと判断すると……!」

『トップを張れる人材がいなければ、と言う話だよ。景清』

 

 ……ラーマは、インドの王子。それが東側の頂点に立ち、改めて国を纏めればケルト陣営を一時的に押し返し、そこを楔に、サーヴァントの一極集中運用で一気に首を狩る。単なる暗殺よりもずっと勝ち目の大きな一手ではある。

 

 しかし――ラーマは心臓を砕かれ、広大な東部を纏めるだけの力は残っておらず。それを取り戻すには時間がかかる。如何にアルカトラズのシータの事を嗅ぎつけたとて――あと一歩が間に合わない。そう言う話だったはずである。

 

『――だが、この特異点には、もう一人――王が現われてしまった』

「……ネロ・クラウディウス……!!」

 

 未確認であった特異点の呼んだカウンターの一人。アウトロー、体制への反逆者の多いその中でも、数少ない体制の理解者にして、優秀な皇帝。

 

「奴を旗頭にするつもりか……!」

『心臓の無い理想王を頭に立てるよりは、現実に置いて名君である時期もあったネロ・クラウディウスを頭に据えた方が良い……表向きの神輿はこれまで通りにエジソンがやるだろうが、しかしネロと言う本物の『王』が付いた東部は、今まで以上の働きを見せる』

 

 そうなれば――流石に、今までの様にはいかない。東部の合衆国の中で、自由に敵を切り捨てるのも、難しくなってくるだろう。

 刀の柄を握る手に、力が籠る。血がにじむほどに、強く。

 

「おのれぇ……!」

『――故にこそ、ここで彼らの好き勝手にさせる訳にもいかないだろう。此方も一つ、ここらで賭けに打って出ようじゃないか』

 

 その言葉に。

 後ろに向けて振り返る。

 

 まるで焦らない。落ち着いた様子で……男は、薄く、笑って見せた。

 

『ふふふ。次の任は決まったよ、景清――ネロ・クラウディウスの暗殺を頼む』

 




みりょくてきなあくやくをかきたいです(血涙)
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