FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

244 / 373
第百章・裏:酷い交渉術

「――カァッ!!」

 

 牙を剥くは、変生し、魔に成った女神。

 その咆哮に応えるように彼女の髪が変じた無数の蛇妖が、正面に立つ白い戦士を取り囲む様に一斉に襲い掛かる。個人に対して向けられるには、余りにも圧倒的な物量の暴力を前に――それでも戦士は、眉一つ動かさず。

 

「ハァッ!!」

 

 一瞬。一閃。一刀両断。目にも止まらぬ早業。両腕で払うように振るわれた黄金の槍の切っ先が、食らいつかんと迫る蛇の牙を蹴散らした。人外の猛攻に対するは、超人の絶技である。

 

この光景は、ただこれ一つで神話となりえるだろう。

黄金眩い武具を身に纏った神々しき白いクシャトリヤに対するは、多頭かつ巨大、禍々しき呪詛纏う、女神の如き麗しき蛇妖。

実際、周辺のアメリカ兵たちの中には――足を止めてその戦いに見入ってしまっている哀れな者もいる。そんな彼は。

 

「はい隙あり」(パァン!!)

「あひょんっ」

 

 実に、実に哀れな事に。機械装甲の顎の部分を、弾丸で揺らされるという曲芸じみた狙撃で、意識を刈り取られてしまった。戦場にて、余りにも雄々しく、神々しい戦いが展開されてしまった事が、彼の不運だろうか。

 

「いやー……でも、気持ちは分かるよ兵士諸君。見ちゃうよね、ああいうの」

 

 ビリー・ザ・キッドは、自身が享楽的で、割と好奇心に流されてしまいがちな部分がある事を知っている。プライドもあるが……しかし、アウトローとしての根っこは変えられないものだ――そう考えると、目の前の兵士の事を、まるで責められない。

 隣で繰り広げられる、生前では決して目に出来なかったでろう、人外魔境の一騎打ち。そりゃあどっちが勝つのか、手元でコインの二、三枚でも弾きながら観戦したいと思うのは人間の性と言う奴だろう。

 

「んで、その辺り、君はどうなの。偉い学者さんなんでしょ? オカルトの」

「あんまり。そりゃあまぁ、カルナの活躍だったら見ていて面白くないって事は無いけれど……でもあれから何か天啓を得られるかっていうとねぇ」

「そっかぁ」

 

 まぁ今、手元で悠長にコインなど弾こうものなら……目の前のキャスターに消し炭にされる未来しか見えないが。一応、彼女の後方に陣取っているジェロニモと共に、挟み撃ちで追い詰めている……つもりなのだが。一向にそんな風にはなってくれないのが現実だ。

 単純な魔術師としての腕なら、自分より遥かに上、と。少し笑いながら言っていたのはどうやら事実だったようだ。

 

 自分もジェロニモも、サーヴァントとして隔絶したパワーを持ってはいるが、しかしそれはあくまで対人に置いての力だ。一方の彼女に関しては……文字通り、手元に火砲を携帯しているに等しい火力がある、にもかかわらず取り回しもかなり良いと来た。流石に迂闊に飛び込めない。

 

「ま、良いけどさ――気づいてるだろうけど、僕らは今のままでも全然構わないし」

「えぇ、まぁ……カルデアのマスターの姿が見えないのに、最初に気が付くべきだったわね。今更言っても仕方ないんだけど」

 

 ……それが都合が悪いかと言えば、そんな事もないのだが。ビリーもジェロニモも、挟み撃ちで追い詰められれば更に良し、くらいの気持ちだったので。こうして、このサーヴァントを短時間でも、此方に釘付けに出来ているのだから、下手に動く必要も無し。

 

 ……そして、今も激戦を繰り広げている、東部最大戦力、カルナもそう簡単には抜け出せはしないだろう。逃げられないだろう。

何せ、彼を相手取るゴルゴーンの方は時間稼ぎとかそういう諸々の枷からは完全に解き放たれている。というか、彼女のマスターが解き放った。

 

『――ランサーとやり合いたい?』

『当然だ。あやつには諸々の借りが残っている。今度こそ、全部纏めて返してやる』

『おっけー。んじゃ令呪で魔力装填する』

『え゛っ?』

 

 あの美声からは信じられない様な濁声が聞こえた気がした。その時は。

 

『ゴルゴーンさん。好き勝手に暴れてきていい。時間稼ぎなんて考えるな。ムカつく白面ランサーを思いっきりぶん殴って来い』

『……ふん、随分と無責任な事を言う』

『うん。言うよ。それが一番貴女が実力を発揮できる条件だ。寧ろ下手に時間稼ぎしてください、なんて枷掛けたら、ゴルゴーンさんの方が傷ついてしまいかねない相手だし。そうなるくらいなら好き勝手やって欲しいな……あ、フォローはビリー達に任せるね』

 

 とか雑にぶん投げられた時、ジェロニモは無言で天を仰ぎ、自分は最大サイズのため息を吐いたのを思い出す。全力で。

カルナと言う最大の強敵を任せるのだから、自分達がそのフォローくらいしても何らおかしなことはない。ので、手加減してくださいとも言えなかった。

 

……まぁ結果として、ゴルゴーンが暴れ回ってカルナと衝突する、その余波だけでもアメリカ側の兵隊も混乱しているので、そんなに此方のフォローが必要と言う訳でも無かったのだが。

寧ろ、自分達が何かするよりも先に、目の前の彼女が必死に周りをフォローをしていたのを覚えている。

 

「……王様をどうするつもり?」

「殺したり王座から引きずりおろしたりはしないさ」

「とはいえ、一度痛い目を見てもらう事にはなるが」

「成程……だそうだけどカルナ! 王様の所には戻れそうかしら!」

 

 彼女が声をかけたカルナの方も、初めの方は出来るだけ周りに被害が出ない様に気にはしていた。だがしかし、もうそんな余裕もないらしい。

 

「不可能だ。この敵を相手に、無為な行為をするのは躊躇われる」

「当然だ。貴様が背など向けようものなら、喜んでその背中を撃ち抜いてやろう……!」

 

 天空にあって尚、此方の肌を焼くような『熱さ』が解き放たれている。どうやら、向こうもいよいよ本領を発揮するらしい……エレナのため息と、二人が得物を構える音が、静かに重なった。

 

向こうは上手くやれているだろうか?

 そんな事を思いながら、ちらりと城砦の方を見つめる――僅かに、その中から、土煙が上がっているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 どごーん

 

 豪快な音と主に、床が割れる。壁に穴が開く。ぐぉおおおおおおと迫真のライオンシャウトを高らかに上げながら、妙に綺麗に背を伸ばして全力疾走するその姿、到底アメリカ東部合衆国を統べる大統王とは思えぬ必死過ぎる姿勢。

 背後からは剣を構えて追っかけまわすネロ。側面からはロビンと式部が鴨打の如く容赦なく遠距離攻撃を、撃つ、撃つ、撃つ。容赦なく撃つ。まるで屋台の的当てを見ているかのようなクッソシュールな光景。

 

コレがアメリカ東部合衆国の未来を決める重要な戦いとは思えない程、見た目はコント染みている気がする。

 

「ええい、ここは熱く私を説得するとかではないのかね!? なんだこのサーヴァント三人がかりの筋肉式交渉術は! 大統王をなんだと思っている!」

「アンタみたいな頑固なタイプの主張は、力でぶち壊しにするのが一番だって言う経験則があるんで!」

「申し訳ありません! 申し訳ありません!」

「謝りながらぶっとい黒ビームを撃つんじゃあない!」

 

 ……まぁ自分で命令したんだけれども。この本造院康友、余りにも非道な事をしているのではないかとふと考える。いややってる。殺しはしないけど、追いかけ回して力づくで降伏を迫っている辺り、言い訳出来ない。

 

「いい加減! 諦めて降伏せよ! 今なら温情もアリアリであるぞ!」

「剣を構えて突撃してこなければその発言にも説得力があったのだがね!!」

 

 とはいえ、この『説得』を止めるつもりもない。そんな悠長にやってたら外の陽動が無意味になるし、この逃走劇はもうしばらく経てば自然と此方の勝ちに終わるだろう。エジソンは決して『強い』タイプの英雄ではない。流石に三対一の猛攻を耐え凌ぐのも無理。

 彼に『アドバイザーの言うこと聞け』と頷かせるのは、大将を取ったと全軍に降伏を促してからでもいいだろうし。じゃあ先ずは『捕まえる』と言う方向に舵を切ったのは、多分間違いじゃないと思いたい。

 

 ……懸念と言えば、先ほどまではあった。とはいえ、もうここまで反応がないのであれば、大丈夫だろう。とはいえ、気になりはするので、一応通信機器を起動し、ダ・ヴィンチちゃんを呼び出しておく。

 

「――どう? 酒吞の方は、敵見つけた?」

『うん。『暗殺』に来ていたらしい武者のサーヴァントを、無事に発見したみたいだね。戦闘している大きな反応が、城砦の中からしてるよ』

 

 それを聞いてから……ゆっくりと立ち上がる。

 身体を伸ばし、首を鳴らして。ほぼ勝利を確信した。

 

「……頑張れよ、酒吞ちゃん」

 




色々エジソンを説得しようとか思ってたんです。でもそんなスマートなやり方はこの禿げ頭には似合わないなって……結果、エジソン君はその弁舌を振るう機会すら与えられず、追いかけ回される事となりました。あはれ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。