FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第百章・裏:鬼と武者、再び

 地面に散らばった硝子の破片。それはこの時代にはまだ存在しない筈の物体、エジソンが率先して導入した裸電球達の末路だ。

天井に取り付けられた電球達が割れ、あるいは落ちて砕け散り、薄暗くなった廊下は最早荒れ果てた廃墟のようですらある。

 

 その暗がりの中で……更に濃く滲む二つの影が、二度、三度と交錯する。

 二つは、重なる瞬間に、激しく火花を散らしていた――それは、鋼と鋼のぶつかり合う軌跡。人と人が、武器をぶつけ合った時に爆ぜる輝きだ。

 そう……二つの影は、何方も人型の超常――サーヴァントであった。

 

 互いに常人には捉えられぬ程に疾く、狭い廊下の中を駆け巡る……否、跳ねて飛び回っている。床から天上へ、壁から壁へ、更には、壁を伝って天井へ、そこから更に床へ。超三次元的な超高速戦闘が、静かに暗がりの中で繰り広げられている。

 それは――まるで、あの森林の中での出来事の様に。

 

「――またも邪魔をするか、化け物風情が!」

 

 直線的に加速する片方の影が、苛立たし気に叫ぶ。

 

「つれないわぁ、折角また会えたんやしつきあっておくれや――!!」

 

 身軽に四方を飛び回るもう片方の影が、楽し気に語る。

 

 二人が交錯する度に、床から天井にまで、傷が一つ、二つと、どんどん増えて行く。五本の連なり傷、深い斬撃の跡、交差する二つの刀傷……森林の時の激突よりも更に狭い空間の中、高速戦闘の密度は最早異常なレベルにまで突入していく。

 

 再現するは、武者のサーヴァントと、酒吞童子。

 接近戦のエキスパート二人の激戦。人気の無い場所で無ければ、多くのアメリカ兵を巻き込んで、凄惨な光景を生み出していただろう勝負は……決着が付く様相を、未だ見せてはいなかった。

 

「――っちぃ!」

 

 その現状に、焦れたかのような、打ち合い、激突、互いに弾かれ――駆け巡っていた二つの影が、漸く床に降り立って、止まる。鳴り響く、苛立ちの込められた舌打ち。

 再び切り込んでやろうか、と言わんばかり、一歩を踏み出した武者のサーヴァントだがしかし。その一歩だけで、彼女の動きは止まった。次の一歩の代わりに一つ、大きく深呼吸。自分を落ち着かせる様な、そんな深い、深い呼吸だった。

 

「……逆上せれば、貴様の思うつぼか?」

「さぁて、どないやろねぇ。少なくとも、うちがアンタはんと競り合うのを楽しんでるのは、違いないわぁ」

「だろうな」

 

 焦っているのが手に取るように分かる。

誰かの邪魔をするのが趣味ではない。が、しかしこうして強い武者が自分の手で顔をゆがめているのを見ると、してやったりという気分になってしまうのは……平安時代から染みついた、癖のようなものだと、酒吞童子は思う。

 

こうして、僅かな会話からすら隙を見出そうと必死なのだ。こうなってしまうと、存外とおしゃべりに付き合ってくれることを、経験則上、しっていた。そのおしゃべりの間にも、獰猛に牙を剥こうと狙ってしまうから。

 

故に……気になっている事を、何となく口にしてみる気になった。

 

「一つ、聞きたいんやけど」

「……なんだ」

 

 隙を固める事はしない。敢えて、ギリギリのところで、見せつけるように、僅かに体の力を緩めて見せる。付け込むには、些かに浅い……このまま話し続ければ、更に大きく広がるのではないか、と期待させる。

 会話に付き合う、理由を作りだす。

 

 そうしてやると……呑気に口を開いても、静かに応えてくれている。どうやら上手い事かかってくれたようだ。気が変わる前に――切り込んだ。

 

「旦那はんの『あれ』、どないなってるん?」

 

 ……そう、口にした時の、武者の表情を見て。思わずして、口の端が吊り上がる。分かりやすい反応だった。

 

「うちとお仲間かと思ってたんやけど……旦那はんとちょいと結んでみたら……なんやちゃうやんか」

「……」

「アンタら、旦那はんが狙いなんやろ? なんか知ってはる?」

 

 ……答えるとは、初めから思っていない。

 だがしかし……目の前の女は、咄嗟に口を引き結び、そして僅かに顔の表情をこわばらせた。どうするべきかを、惑うかのように。

 何も知らないのなら、虚を突かれぽかんとするか、眉を顰めてその問い事態を訝しむだろうか。それでは、目の前の今の表情は?

 

「……知ってはるみたいやねぇ」

 

 じろり、と睨みつけられる。思考が表情から読まれた事を悟ったのだろう。実に可愛らしいというか。こう何百年と生きた後だと、こうして人を揶揄う楽しさと言うのがたまらなくなってしまって、困る。

 

「どないなん? ええやん、ちょいと話してくれたって」

「……それを貴様に話す理由は、無いが」

「そう言わんといて、な?」

 

 が。読まれた割には、焦りの表情は見えない。上手く隠しているだけか、はたまた彼女にとってはどうでもいい事なのか。

 表情を読ませないのは……得意ではなさそうだ。恐らくは後者だろうとアタリをつけてさらに唇を――胸元を、開いて見せる。

 

 会話に意識を傾けて……注意がおろそかになっている様に。

 

「うち、こういうの気になってしもたら、夜も眠れへんのや……このままやったら、あんたの腸引き裂いてでも、その答え、聞きたなってまうわぁ」

「ふん、やれると思わんことだ。その時には、貴様の首も落ちているだろう」

 

 目の前の武者の意識が、自分の首に向くのが分かる。殺され方故に、ここへの殺意にはちょっとだけ敏感だ。機を伺っているのが分かる。

 もうちょっとだけ、目の前の武者の反応が見たい。つい最近、手酷いお預けを喰らって大分欲求不満だったのだ。これくらい楽しんでも、罰は当たらないだろう。

 

 答えなくても良い。その分、出来る限り観察させてもらおう。

 自分の命をちらつかせ、ひりつくような殺意を愉しむ……一体、いつ以来の享楽だろうか。益荒男との真っ向勝負も悪くないが、こういった『すれすれ』の際に浸るような殺し合いも、好みとするところだ。

 

 爪が自然と尖る。口の端が吊り上がる。もっと命をちらつかせ、硬くて鋭い物を誘ってしまう。たまらない。さぁ、どれほど口にしてしまうだろうか――

 

「――アレは……同じではあるが、貴様とは根本が違う」

 

 ……そう思っていた。

 

「貴様が魔なら、アレは……『怨』よ」

 

 産まれた、僅かな一瞬の意識の隙間。

そこに向け、既に武者のサーヴァントは踏み込んで来ている。刃が僅かに閃く。ヒヤリとした冷たい空気が、肌に触れる――

 

「っとぉ」

「……おのれぇ……っ!!」

 

 間に合ったのは、人ならざる反射神経を持ち合わせ、命を失うその瞬間まで、いっそ冷徹と言えるほどに心を落ち着かせられていたから。実に落ち着いて、振り抜かれそうになった太刀を、僅かに首を反らし、薄肌をさくりと切る程度で納められた。

 一応、爪をカチャリと鳴らしてその切っ先を向けると、武者のサーヴァントはすぐさま一歩下がって距離を取る。緊張感も途切れていない。ニヤリと笑ってしまう。今のは中々の殺意だった。

 

「危ない危ない……なんや、あっさり話して、呆けてしもたわ」

「……別に、私が隠す様な事でもない。向こうも、隠すつもりもない。であれば、貴様への餌にはちょうど良かろう」

「っふふ♪ せやなぁ。もうちょっとで釣られてまうところやったわぁ」

 

 ……楽しみながらも、冷静に頭を回す。

 同族ではある……だが、あの匂いの違いは……

 

「――へぇ、成程ねぇ」

 

 にま、と笑ってしまう。

 自分は、昔から()()だった。だがしかし……成程、人がそう『成る』のもあり得ない話でもなく、そう言う事も幾らもあるだろう。その例を知らない訳でもない――

 

 しかし、怨。怨である。それで成る、というのは……聞いたことがない。思い一つで化生になる等、そうそうあり得ない。だがしかし。聖杯に蓄えられた知識が、とある可能性を彼女に告げる。

 だが、それを『隠す意味もない』というのは……

 

「ふふっ……ふふふふっ、なんや、おもろくなって来たやないの」

 

 かちゃり、と刀が鍔を鳴らす、その中で。

 酒吞童子は、楽し気に笑って――再び、爪を、剣を構える。どうせ、何時までもは続かぬこの勝負……楽しい時間を、極限まで楽しむために。

 




エジソンがいるって事は電球も出てくるでしょ(暴論)
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