FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
アメリカ側の拠点の一つ。俺達に割り振られたテントの中。
テントの左右に配置された小さなマットの上、正座した式部さんと……マットの上に突っ伏して動けない、クッソ情けないマスターが、視線だけを合わせている。
式部さんの視線は、とても真っすぐ、真っすぐ……俺を、心配してくれているのが良く分かる。潤んだ彼女の瞳を見つめ返していると、、なんだか色んな悲しみを超えて、悟りを開けそうな気すらして来てしまった。
「……と言う事で……」
「あ、いえ。寧ろ今日は休んでください。ゴルゴーン様にとんでもない勢いで連れ回されてたのは、私も見てましたから……それを見て『しっかりしてください』等とは言えませんから……」
「ホント意気込んておいてこのザマでごめんなさい……」
はい。と言う事で、第一回『自分の過去を見つめ直してみようの会』は、開催前に終了する結果となった。アメリカの広大な大地を、怒り心頭の女神様と駆けずり回って全身疲労困憊。もう喋る気力すら湧いてこない有様である。
明日を御休みにする訳にもいかない。ケルト側に大攻勢をかけるには、全員揃って動くのが大前提であり。だからこそ、じっくりと準備を整える為の時間を稼ぐ為に自分達が派遣されたのだ。
んで、その時間稼ぎで時間取られ過ぎて大攻勢に間に合わないとか本末転倒極まって天地反転まである。いやまぁ、ゴルゴーンさんとカルナの衝突とか、ここでの戦いはマジで天地がひっくり返る位のとんでもない戦ばかりではあるんだが……それは兎も角。
「……ここが一番いいタイミングだと思ったんだがなぁ」
ごろん、とマットの上で寝返りを打つ。頭の上で僅かに揺れる、モスグリーンカラーのテントの天幕が目に入る。
それこそ。大きな攻勢のタイミングで、何かしら仕掛けられたら困る。だからこそ僅かにでも、暇な時間があるここは絶好の機会だと思っていたのだが……
「戻ってから、時間あると思う?」
「……どうなんでしょうか。エジソン様達も、急ピッチで準備を進めるとおっしゃっていたので、到着した時には準備が終わっているという可能性も、十分にあるかと」
「……そうかぁ、そうだよなぁ」
……この野営地についてから、ダ・ヴィンチちゃんからの通信が入った。どうやら藤丸達も、無事にアメリカ軍本拠地までたどり着けたらしい。アメリカ軍の準備も着々と進んでいるという話で。
色々と忙しくなることも想像できる……最悪、カルデアに帰ってからって事になっても不思議じゃないだろう。
「そうなったらなったで仕方ない、か……良し。切り替えて行こう」
ダメになった事を何時までも引きずっても仕方ない……今は、それよりも優先するべき事がある、と言う事だ。
「そうですね。今日は早めに寝るのがお仕事、くらいの気持ちで参りましょう」
「贅沢なお仕事だなぁ……」
この疲れを、明日以降に始まるだろう大攻勢に持ち込むわけにはいかない。時間がない以上は、体調を万全にしておくのが、マスターとして大切なお仕事だろう。
「……そう、思ってたんだけどなぁ」
どうして私はこうして、テントから這い出して夜空を眺めておるのでしょうか……結論を申せば、一度目を閉じて、意識が落ちた後だというのに、バッチリと目が覚めてしまった事が原因かと思われます。はい。
疲れすぎると、意外と眠れないという奴なのか。それとも、闘争に次ぐ闘争で、未だ脳味噌の中心が大興奮しているというのか……
ちらり、とテントの中を見る。
式部さんは、かなりぐっすり。サーヴァントに睡眠は必要ない、等と言う前提知識なんざ吹き飛びそうな位、可愛い寝顔をしていた。
やっぱり、生前そういう『無茶』をした事のない人なら、普通に寝た方が調子も良くなるんだろう。
「と言う事で、夜更かしするのは俺だけ~……」
少し歩いて、気持ちが落ち着けば自然と眠くなってくるだろう、と言う事で。
僅かに、橙色の光が差し込む夜闇の中を、一歩一歩、ゆったりと歩いていく。
まばらに生える雑草を揺らしながら吹くそよ風の中、ちらりと差す光を負って、そちらに顔を向ける。見張りの兵士さんが二人程、ぽつぽつと何事かを話しているのが見えた。
その内の一人が気が付いて、此方に手を振ってくれたのに、手を振って返した。
「……あんまり遠くまではいけないしなぁ。となりゃ綺麗な星でも見て暇潰す位か、出来るって言ったら――」
「――であれば、私と一つ話でもせんか?」
「っっっ!?」
そうしてから下ろした手が、再び天へと向かって伸び上がる位にはめっちゃ驚いた。
……いや、これは、仕方ない。背後に音もなく近寄られた挙句、いきなり声をかけられたならそりゃあこうもなる。どきどきと、静まるどころか余計に高鳴ってしまった鼓動と覚めてしまった眠気に、若干ながら、イラっとしつつ……背後を振り向いた。
「……折角寝ようと思って歩いてたのに、おどかす奴があるかよ」
「別におどかそうというつもりは無かった。まぁ、生前から気配を消して動くのは癖になっていた故な、そこは許せ」
焚火の輝きで照らし出された俺の影の中に、滲み出すように――スカサハは、立っている。まぁ別に、当然のように立っている事自体はそこまで不思議な事でもない。俺が起きた気配くらいならば、彼女であれば当然のように感知出来るだろうし。何処にいるかも手に取るように分かるだろうから、こっそりと接近するくらいは訳もないだろう。
だが、そんな事をする、と言うのをそもそも考えなかったから驚いている。別に俺が起きて、外を散歩するくらい、そう咎めるような事でもない。野営地の外を出歩いている訳でもなく、夜の番をしているであろう兵士達から見える位置にもいた。
「それに、一つ話って……」
「何、安心しろ。そうして訝しんでいる通り、雑談でも楽しもうという訳ではない」
「……安心は出来ねぇなぁ」
……例えば、不意な遭遇で、ちょっとした雑談、なら話も分かる。
だが、彼女が雑談の一つでもしたいから、態々夜の暗がりに紛れて不意打ち気味に声をかけるか?ってなると……
会話が出来ない、しない、必要ない、とかそう言うタイプの人ではない事は、間違いないのだが。しかし、分かりやすく戦士肌の人でもある。話を楽しむよりは、武器を合わせて愉しむのがお好みの人なんじゃないか。
であれば……と思うのはごく自然の事だ。実際、的中したし。
「言っておくが、『コレ』の事だったら、何度でも遠慮させてもらうが」
と言う事で、先に一手。何時も角が生える辺りにとんとん、と指を置いて勘弁してく強調しておく。俺にかのケルトの大英傑の気を引く部分があるとすれば、これくらいしかないだろうし。
「何、そう言うな。別にあれこれと『指導』してやろう、と言う訳ではない」
「いやここの事ではあるんかい」
「あぁ。少し、気になった所があってな――」
「お主、
……だがしかし。
彼女が口にしたのは、何というか……思いもよらない様な言葉だった。
「……えぇ? えっ? ど……え?」
「私は、これでもそこそこの数の神性を狩ってきたからな。あやつらについて、ある程度は知見もある。そして……うっすらと、だがな。感じるのだよ、貴様の内から」
視線が合う。何の冗談かと頭を傾げる。此方を真っすぐ見てる。瞳を見返す。ジーっと見つめられる。目と目が合って見つめ合って……全然逸らさないなコレ。こんな真摯に見られると、嘘を言っている様に思えないというか。
……でも、えーっと……神性?
「……心当たりないけど」
「そうか。ふむ……であれば、その事は留意しておくと良い。自分の知らぬモノが内に潜んでいることほど、恐ろしい事も無かろうて」
そう言ってスカサハは笑う。いや、笑われても困るんだが……えっ? あの、いきなりそんな怖い事言われましても……えぇ?
これが、何の根拠もない言葉であれば、別に気にする必要もないんだろうけど……目の前の存在そのものが根拠と言うか。英霊って存在するだけで言葉の全部が信用マックスみたいな存在だし。
「ふふふ、まぁ信じるも信じないも、お主次第だ。頼れるカウンセラーの言葉だけ信じたいのであれば、それも良かろうて」
そう言うだけ言って、赤紫の髪を翻し、スカサハは夜闇へと消えていく。
……武人肌なのは間違いない。人の嫌がる事を進んでやる、とかいうロクでもないタイプっていう訳でもないのは間違いない……そして。それらを踏まえて、分かった、と言うか確信できた事がある。
「……それを言われて気にしないでいられるのは、只のバカと思うんだけど」
こうなるのを分かって言ってるであろうあのケルトの女武人様、絶対イイ性格してる。
回収しきれないかもしれない伏線を積極的に撒いていくスタイル。