FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
……なんだろう。珍しい気がする。
「いい加減にしろ。俺は貴様の事を見ていた訳ではない……失礼する」
「いいえ、間違いなく此方を見ていました。何か用があるのであれば、誤魔化さずに直接伝えなさい。それに以前、私の事を別の名前で呼んでいた一件についても詳しく聞きたい事があります」
藤丸と話している時、というか誰と話している時も、基本はあの不敵な態度を崩した事のない巌窟王が……明らかに、焦ってる。と言うか、困ってる。
……いやそもそも、相手が目の据わったナイチンゲールさんともなれば、まぁ仕方ないという話ではあるのだけれども。勢いに押されて、対応も難しいのだろうか。
主にラーマを看護する為に彼を背負って行動していた所為か、藤丸と一緒に動いていたから、『婦長凄かった』という藤丸の言葉にどうにも実感を持てなかったのだが……仏頂面か意味深に笑うのが常みたいなあの伯爵に、あんな顔をさせるとなると……
「……そんな覚えはないが」
「記憶分野に問題がありますね。やはり診療が必要です」
「……アレはちょっとした言い間違えだ。その程度も許容できんのか」
「そうとは見えない様な言い方であった故です。患者の口調や態度から、内面を察するのも医に携わる者として必要な事なので、その程度は分かります」
「ええい、半端に理性的なバーサーカーは、これだから始末の悪い……!」
うーん、あんまりな言い方だとは思うが……しかし、実際あの調子でガンガン詰められると考えると、気持ちは分からんでもない。なんていうか、優しく微笑むでもなく只管真顔で詰めて来てるんだよね。ナイチンゲールさん。実際こわい。
さて、どうあれを振り切る巌窟王……まぁ、俺はどう足掻いても助けられんが頑張ってくれ。
「……そもそも、貴様の事を俺よりも必要としている輩は幾らでもいるだろう。其方に行くべきではないか――そこの禿げた小僧だとかな!」
「――はっ?」
そう思って、踵を返そうとした、その時の事。
高らかに響いた男の声に、表情が引きつった。
今、信じられないなすり付けをされたような気がして思わず振り返る。
いやまさか、そんな人類史に残る英雄サマが、自分にとってのピンチを一般人のいたいけな少年に擦り付けて逃走しようだとか、そんな情けない事をする訳が――
「――見つけました」
「いぎゃああああああっ!? あの根暗アヴェンジャあああああっ!?」
しやがってた。白い髪の鋼鉄の看護婦さんが、何時の間にやらポークハットの伊達男の所から、俺の目の前まで前進して来ていた。
間に合うか、後ずさりからくるりと片足を軸にして最小限の動きでターン、明日への逃走の姿勢へと体を――
がしり
「逃げてはいけません」
「はい……」
無理だった。文字通り、一瞬で捕まった。サーヴァントにヒトは敵うワケなかった。人間というモノのよわよわ加減について、自覚というものが足りなかったらしい。そのまま廊下をズルズルと引きずられていってしまう。あぁ、兵士の皆に『なんだコイツ』的な眼で見られてしまうのが恥ずかしい……
取り敢えず目を閉じて、全ての情報を遮断しつつ、取り敢えず笑顔を浮かべておく。笑顔と言うのはさざ波のたった心を鎮めてくれる……
と言う事で無言で引きずられる事、暫く。
「……あの~……えっと、何の御用でしょうか~……」
真っ白な医療ルームに放り込まれて。二人で椅子に座って、対面で膝付き合わせて向き合っていた。完全にどうでもいいけど俺の黒スーツ風の礼装にガチガチの軍服の婦長が一緒だと、完全にどっかの国の闇医者とマフィア風味だな……
まぁそれはいい。問題は、めっちゃ雑に擦り付けられたりしたとはいえ、あの巌窟王の口ぶりからして、どうにも婦長さんは俺に明確な御用があるらしく……というか、そうじゃないと幾らなんだって婦長さんもあの場から俺に擦り付けられたりはしないだろう。
と言う事で、真っすぐに向き合って、その辺り。
口にすれば……すぱっと、簡潔に、言葉は返って来た。
「休みなさい」
「はえっ?」
「休みなさい」
……言葉の意味が理解できなかった訳じゃないんだが。余りにもシンプル過ぎた一言に一発で思考が飛んでしまって……思わず、ぽかんと口を開けたまま、その後の言葉が続かなくなった。
「休みなさい。貴方が今一番するべき事はそこです」
「あっ、えっ、いやちょっと……よ、要件ってそれだけ?」
「それだけとは何ですか」
あっ、余計な事言った。めっちゃ顔が近くてコワイ。美人って、顔近づけて真顔で凄むだけでこんな怖いんだね。俺初めて実感した気がする。
その赤い目で睨みつけながら、ナイチンゲールさんはさらに口を開く。
「私にとっては万物よりも優先するべき事柄です。睡眠不足による体調不良等と、あらゆる悪徳などよりも私はそれだけを嫌悪します」
「そ、そりゃあ……」
「もし寝付けない等の症状があるのであれば、私にその理由を明確に示しなさい。あらゆる手を尽くし、貴方が安心休めるように対処します」
……これは参った。
明日の戦いに向けて、実際先ほどまで眠れなくて……それで、外に出て来てしまったのは確かだ。藤丸から聞いてる彼女の性格的に、ここまで過激な反応をするのも不思議ではない気がする。
しかしながら、休めるような努力と言われましても、と言う話だ。そもそも、どうして眠れないか、なんて分かる訳もないし……
「いや、アレだから。ちょっと疲れたら自然と――」
「いけません。はっきりと症例を示し、それに対処するのが基本です。そもそもこの時間に起きているだけでも十分な重症だというのに」
「重症て、ただ眠れないだけだよ、うん」
「いいえ。睡眠不足は心の病か、体の病か、いずれにせよ可能性のある厄介な症状です」
ダメだ。やっぱり話が通じない。流石はバーサーカーと言うべきか……俺じゃなくてもっと他の、危ない症状の人とかいるんじゃないだろうか。普通に兵士さんとかの中に。そう言う人達を診察した方がいいんじゃないだろうか。
なんて、そう思っていると――余計に、彼女の視線の『圧』が強まった気がした。
「――私は、看護婦です。従軍した時に、多くの患者を診てきました。その中でも、最も厄介な顔の患者とそっくりの色を、今、見ました」
「や、厄介?」
「『私より先に』『先ずは他の人に』『助からないから別の人に』……彼らは口々にそう言って、『善意』から私の手を取って、他の患者の元へと導こうとしました」
ギクリ、と。頭の中で、物理的な音が鳴った気がした。凄い。そう言う事を口にしたりだとか、なんなら素振りとか態度とかにも出してないつもりだったのが。
「ふざけないでください。何様のつもりですか。貴方達は、私が助けるべき人達だったのです。それなのに、自分から治療を拒むなどと」
「い、いやいやいや」
「貴方達の仕事は、何よりも『万全』になる事。不健康ならば、どのような事情も無視し自分が健常になる事を優先なさい。不健康な時に無理をして、更なる不健康を呼び込もうものなら本末転倒だと思わないのですか」
ぐいぐい、と目の前に乗り出す婦長さんの圧力に、完全に気圧されている。口を差し挟む事も出来ない。流石に、正論。寧ろ医療従事者として、余りにも完璧な言葉だ。患者の仕事と言うのは、何よりも先ず、健康になる事だと……
……あらゆる事情を無視して、か。
「……無視して、良いもんですか」
「当然です」
オウム返しの様な俺の問いに。
彼女は、当たり前のように頷いた。それが当然だと、強く言い切った。
……もしこれが、ある程度知り合って仲良くなった人の言葉なら、『気を遣ってくれてるんだろうなぁ』と思っていたかもしれん。けど。
この人と俺は……実は、この特異点内で、一番関わる事が少なかった。彼女とサシで話すのは、これが初めてだったりもする。
実に『フラット』な言葉だ、と素直に思う。
「……あの、なんか書くための紙とか、無いですか」
「症状を書き出したいのですね、分かりました」
……俺の要求に、婦長は躊躇う事も無く、白い紙とペンを探し始める。
その様子を見ながら、ふと思う。
割けるリソースは限られてる。故に、ドクターの負担を減らしたい、と思っているのは、本当の事だ。けれど。
相談してみるくらいは、良いんじゃないか。余裕がないと言われれば、改めて、自分で解決する方向にもっていけばいいんじゃないか。
そんな思いが、ふっと頭をよぎった――
婦長出しちゃうと話が早い早い! 逆に早すぎて話の展開が止まったりするけどそこはご愛嬌。