FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:神話大戦の前夜、ワシントンにて

「――ああもう! エジソンの奴……ホントに、ここぞとばかりに好き勝手やってくれちゃって!」

 

 かつかつ、と踵によって奏でられる苛立ちの旋律を、彼は無感情に聞いていた。先ほどの斥候からの報告が、いよいよ女王の余裕というモノを奪い去ったらしい。

 報告自体は、シンプルなものだった。そもそも、聖杯の力で生み出されたまがい物の戦士故に、単純な仕事しか出来ない。そこから、敵方の状況を的確に読み取った上で、感情が逆立っている。目の前の女王が出来る故にそれが裏目に出ている。

 

 この女王が無能なのであれば、少なくとも自分はコノートとの戦い、彼女の首を刈り取ってそれでいつも通りに勝っていたのだから、目の前の女の癇癪はある種、想定通りの事とも言えた。

 

「うるせぇぞ、メイヴ」

「だってクーちゃん! 向こうに時間稼がれちゃって……その間で、向こうの兵隊の改良が大分進んでるのよ! こうなると面倒だから物量で圧し切ろうと思ってたのに……!」

「戦争なんざそんなもんだ。自分の思う通りに行くことの方が少ない……まぁ、エジソンの野郎の『技術屋』としての実力を侮ってたのは、確かだがな」

 

 想定外だったのは、大統王としての諸々を投げ捨てたエジソンの、化け物染みた最高出力か。『普及』と『既存の製品の改良』で、世界で未だ語り継がれる英傑だけはあるか。

 

「……万が一も無かった」

 

 それは、メイヴ自身が、一番自覚しているのだろう。噛みしめた口の端から――僅かに鮮血が零れているのを、狂王は見逃していない。

 

「でも、向こうの勢いを考えると、『万が一』が出て来ちゃったのは、間違いない。それが、それが一番悔しい……っ! この私と、クーちゃんが揃ってるっていうのに、そんな僅かな隙を、作り出されたっていうのが!」

 

 愛用している鞭を、最早へし折れるのではないかと言う程に力任せに曲げたその姿からは、『自分の不甲斐なさ』への怒りが滲み出している。

 有能故に、実に、実にプライドの高い女だ。気づいて、そして怒り狂っている。自分と言う『理想』を手に入れたからこそ、喜んで、舞い上がって、そして増長した。自分達であれば、容易に勝てる、と。

 

「――あの、ムカつく女戦士は何処にいるの」

 

 ……故に。

 向こうにとってはここからが、地獄だろう、と。酷く冷静に分析していた。

 

「分からない? 探しなさい。必ず、向こうが仕掛けてくる前に……あのいけ好かないインテリ野郎との窓口になるのは、あの女しかいないの」

 

 今までは、彼女は夢を見ていた。

 自分の理想の王、愛した男と共に戦える、そんな第二の生に置いて、理想の夢を。

 だがそこに、いきなり冷や水を浴びせかけられた。原因は、自分の失態。ここまで揃えば最早……火が付かない理由がないだろう。

 

 自分が、『死ぬほど』に苦しめられたコノートの女王が。間違いなく、はっきりと目覚めたのだと、『柄にもなく』少し恐ろしく思う。蜂蜜の様に甘く、しかしながら、敵対する相手には毒の如く容赦なく悪辣に殺す、あの女王が。

 

「良いのか? そりが合わねぇとか言ってただろうが」

「そうだけどね。こんな『無様な負け方』するよりはマシ。負けるにしろ勝つにしろ、いざって時には、見苦しくても全力尽くすのは、イイ女の基本よクーちゃん」

 

 そして……思わず、口の端に。

 久しぶりに、獰猛な笑みが零れだす。

 

「はっ――こうなってから、一番乗り気になれるようなザマだ。悪くねぇ」

「……こんな余裕のない姿、ホントは見せたくなかったんだけど。まぁ、クーちゃんならそっちの方が好みよね。知ってた」

 

 玉座から立ち上がる自分を見て、メイヴは苦笑する。

 皮肉な話だ。彼女が、自分が、彼女の理想のままに振舞っていた時は、そこまで気合いを入れるつもりもなかった。敵を只管に処理して食い荒らすつもりしかなかった。

 だがその理想をかなぐり捨てようとしている、今こそ……自分の槍が、この体になった時からの、一番の冴えを見せるだろうという、自覚がある。

 

「だから私色に染めたかったのに……ま、でもそんなクーちゃんも好きだけど」

「だったら普通に召喚しろ」

「や。だって普通に召喚したら……クーちゃんとべたべた出来ないし?」

「別に今もそこまでしてねぇだろうが」

 

 ――闘争だ。。

 

 冷徹、冷酷、狂った王となったこの肉体に、始めて熱を灯す様な……そんな、戦いが始まろうとしている。がちゃり、と。獣の如き有様となった足を、踵を鳴らす。

 浮かれている。自覚はある。とはいえ、こんな狂った霊基で、楽しめる事と言えば数も少ない。楽しみにしても、仕方あるまい。

 

『――お二人とも、仲が宜しい事で』

 

 ……そんな熱の中に、差し込まれる冷ややかな温度。

 

 ちらり、とメイヴが声のする方を見る。

 玉座の傍らに……黒い『孔』が広がっている。

 声はそこからしていた。闘争の場とは無縁な、酷く穏やかな音色……聞いている此方の肌が粟立つような、『薄っぺら』な皮を被った声だ。

 

「……あんた、どうして」

『この玉座の会話は、逐一聞かせて貰っていますから。今、交渉役のリンボが手を離せない以上、私自ら売り込みをせねばなりませんのでね』

「最低。品性の欠片も無いわね、アンタ」

『これはこれは、申し訳ありません。されども、今はその辺りを言い争っている場合でもないかと――ご入用で?』

 

 メイヴの顔が明確に顰められる。この女は、割と男をえり好みはするが、しかし一度はキッチリと見定める事をする好事家でもある。そんな女が、初めて声を聴いた時点で、明確に一線を引いた態度を取っている。

 

 一番いけ好かないタイプのインテリだ、と。

 

「……あんたの所の影法師の兵隊、それと……カゲキヨっていう剣士、貸しなさい」

『景清を、ですか……分かりました。彼女には、狙いをアメリカ側一点に絞るように伝えておきましょう……彼女の扱い方は、御存じですね?』

「えぇ。んで、兵隊は……あるだけ」

『――ほう、ほうほうほう。それはそれは……ありがたい事です』

 

 別に、自分もこの声の主が嫌いかと言えば、特に好き嫌いはない。そう言った方向への起伏が低くなるように作られてはいる。だがしかし……ここまで『信用が置けない』タイプの声は、初めてだとは思う。

 

 胡散臭い、だとか。ろくでなしだとか。悪辣だとか。人が嫌悪する様なモノを感じ取る訳ではない。寧ろ、一見して酷く真っ当にすら見えもする。実際、誰かを騙して得を積極に得ようとするようなロクデナシではないだろう。

 ……だが、全員を騙さず、誠実に仕事した――と振舞っている陰で、ヘドロの如き濁り水を、毒薬に練り上げるような類の輩ではある。

 

『頼って頂けるのは誠にありがたい事……お任せください、お気に召すままの兵をお渡しいたしましょう』

「さっさとしなさいよ」

『はい――それでは。直ぐに景清も向かわせますので……』

 

 ……孔が閉じる。

 

 はぁ、と。盛大にため息が一つ。

 疲れた、と言わんばかりに。メイヴは、玉座のひじ掛けに腰を下ろした。近くでよりはっきり見えるようになった眉間の皴は、今まで一番しっかりと寄っている。戦の準備とはいえ、相当に精神を削ったか。

 

「ほんっと、アイツは好きになれないわ」

「――お気持ちは分かります」

「あら?」

 

 ……そんな男の声に取って代わって響く、第三者の声。

 視線を目の前にやれば。黒い肌に、白い衣服を纏った男が一人、此方に向けて、歩いて来ているのが見える。

 

「アレは、『人』であろうと『虫』であろうと、ある種平等に見ている……正直、意外でした。あの男に、貴女が頼るとは思ってもいなかった」

「頼りたくはないわよ。でも次は、本気の決戦。流石に手抜きは、ね」

「――決戦、ですか」

 

 がちゃり、と。男が構えた弓が、僅かに音を鳴らす。

 

 先ほどまでの時に居なくてよかった、と思う。冷静に見えて、意外と激情家なのがこの男だ。孔の先の男とは相性最悪で、もし『因縁』の一つでも弄られたなら、爆発しかねないだろう……向こうが親切だと思った事で、コレの感情が弾けようものなら、抑えるのが面倒この上ない。

 

「では、あの男も、当然前線に、出てくるでしょうね」

「その時はアンタに任せるわよ。アメリカ側の切り札、きっちり抑え込んで見せなさい」

 

 メイヴの言葉に、男はこくり、と頷いてみせる。

 アメリカ側が戦力を整えたように。此方にも未だ見せていない切り札はある。

 

 波立たない筈の感情が、激しくなるであろう闘争に向けて高鳴るのが分かる。自分はつくづくクー・フーリンなのだと、他人事のように自覚した。

 




我ながら、メイヴちゃんが初見で『うげ』ってなる男って大分終わってる気がする。
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