FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第百五章・裏:鬼の牙と武者の太刀

 ……自分が、アサシンを引き連れて、こうやって敵の合間を縫って、何とも情けない有様で逃げてるのは……ただ、無駄に時間を稼ぐためでも。勿論、アイツに怯えて逃げている訳でもない。

明確な理由が、ある。

 

 あの武者と戦ったのは、このアメリカでは、数えで二回だけ。サンプルにするには、数は少ないだろうが……今現状と合わせて考えると、確信できることがあって……っ!?

 

「――アサシン!」

「見えとるよ。前に回ってるわ」

「悪い……ったく、何時の間に、ちょいちょい背後は確認してるってのに!」

 

 これだ。

 

「――死ねぇい!」

 

 振り返った前方から、ざん、と。耳に嫌に残る音が。そして共に……ケルト兵を真っ二つに切り裂き、その返り血を吹き散らしながら、迫る銀色の軌道が――っ!

 

「……アサシンっ!」

「はぁい」

 

 礼装起動。

瞬間、アサシンがその一点、その銀閃に的確に割り込んで、刃と刃をかみ合わせた。

一瞬の拮抗、その僅かな隙に合わせ、相手の刃をしゃらり、太刀の側面を滑らせて、つんのめった敵の刀を、絡めとるようにして剣を振り上げて――諸共に襲撃者を弾き返して見せる。

 

手にした獲物が大剣であるとは思えない、余りにも冴えた動き。絶技、といってもいいだろう動きは、一応、礼装の援護があるとはいえ、余りにも冴え過ぎた返しだ。

 

「っぶねぇ……っ!」

「おのれ……鬼の小娘、またしても……っ!」

「その台詞、隠してへん血の香り、消してから言った方がええと思うよ。そないな香りなんて、うちの鼻に匂わへん訳もないしねぇ」

 

 地面に降り立ち、此方を睨みつけるのは……先ほどまで此方を追いかけていた女武者。何時の間にやら俺達の前に回り込んで『不意打ち』を仕掛けようとしていたのだ。

 もう、これで何度目だろうか。目の前の彼女がこうして、『周りの敵、味方』に見事に紛れ、影から不意打ちを仕掛けてくるのは……スカサハの言っている事もまんざら嘘ではないのだろうか。

 

「『古い戦士のやり方』、か……はっ」

 

 思えば、二度の戦い……彼女が真っ向から勝負を仕掛けて来た事は、無かった。木々に紛れ、大将首を狙う戦術に、二回目の不意打ちと。事ここに至り、彼女の得手とする戦い方を、漸く理解出来てきた。

 

 即ちは……単騎での、ゲリラ的戦術。

 ある時は狭い木々の視界の悪さを利用しようとし、ある時は別の敵と戦っている時に背後より強襲する。混乱の中で、一撃にて致命打を与えるやり方が、奴の真骨頂。

 ……それ即ちは。

 

「こういう乱戦なら、寧ろもって来いってなもんだろうな……!」

 

 無数の他の敵に紛れ、不意を打ちやすいこの乱戦は、奴にとって最高のホーム。

 

「逃げられると思うなよ……キサマ」

「逃げられるなんざ思ってないっていうの」

 

 それこそ周りの敵兵やらなにやら全てが、俺にとっての障害物であり、奴にとっての隠れ蓑であり、そして……周りに兵士が居る限り、この戦場全て、奴にとっては不意打ちの狙える、キリングゾーンだ。

 ……厄介極まりない。理解は出来ている。だから、逃げ回っている。ここから逃がしてもらえるかは……微妙な所ではあるとは分かってて。

 

「――……式部さんは……まだ、掛かるか」

 

 それでも尚、逃げ続けている。

 ……やっぱり、アルジュナが出てきて、カルナとぶつかりあった時に思いついた即興の第二プランで行くべきなんだろうか?

 

 ……いやいや。こういう時にブレるのが一番よくない。

その結果として明後日の方へ走り出そうものなら、地道に積み上げて上手く行きかけたタワー建設とかがぶち壊しになりかねない。それはマズい。

と言う事で……辛くとも、ここからは忍耐の時だ。

 

「アサシン、もう一回離脱のチャンスを作りたい。頼めるか」

「はいはい」

 

 礼装の起動状態を維持。目の前のサーヴァントに意識を集中する。下手に時間をかければ機を逃す。勝負は一瞬……それなら。

 ちらり、と手の甲の赤い印を見つめる。どうせ帰還したら補充されるんだ。最終決戦のここでケチって何が切り札か――

 

「――突っ込んでくれ。令呪で援護する」

 

切り札なんてもんは、温存し過ぎても切りにくくなるもんだ。 僅かな隙の一つを作り出す為に、豪快に切るくらいで、ちょうどいい。作戦は決まった。

 

 カルデアの令呪の使い道は、そんなに多くない。一つは、英雄の切り札たる宝具発動の為の魔力装填と……そして。

 二つの使い道を知っているアサシンは……此方に顔を向けてから、ニヤリと笑って。

 ゆっくりと――地面に、爪を突き立てるようにして、手を構え……足を、力強く地面に向けて、踏みしめる。

 

 まるで、ケダモノが跳躍するその直前の姿勢。メキ、メキと。えげつない音が、太ももから響いてくるのが、僅かに聞こえる。

 

「……分かりやすい動きだ」

 

 女武者が、呆れたように口を開く。

 確かにそうだ。間違いなく、これから何をするかが丸わかりの動きだ。一直線、弾丸の如く飛んでいって……喉首に食らいついてやる、と。最早宣戦布告といっても良いレベルの構え。

 

「それを凌げない私だと思うか?」

「さぁて――どないやろねぇ」

 

 ざくり、と――太刀の一本が地面に突き立てられる。

 刃を正面に構える、正眼の構え。両手でがっしりと握られて。まるで鞭のように立派な拵えの日本刀を自由自在に振るう、奇天烈かつ苛烈、そして瞬身の動きからは想像も出来ない様な――どっしりとした姿勢。

 そこから放たれるのは山の如き、うずたかく、そして揺るぎもしない、剣圧。

 

「剣客、と言う訳ではないが……『あの時代』に生きた者なら、この程度は出来る。見え透いた跳躍の一つや二つ、咎める事も訳はない」

 

 真正面から突っ込んで来るだけなら――切って捨てて、お終いにしてやる。

口に出して言わずとも、仮面の下から覗く薄笑いが、そう此方に告げていた。

 

「――はっ、笑わせる。なぁおい」

「せやねぇ……」

 

 ――可笑しいのは、こっちの方だっていうのに。

 

 お互いの笑みと、引き絞られる弓の弦の如き殺気は――深まるばかり。お互いを喰らい尽くさんと構える獣二匹……ケルトの陣営のど真ん中だというのに、周りのケモノは気圧されたのか、近づくどころか、一歩、後ずさっている様な有様だ。

 気持ちは、分かる。俺だって……こんな、一歩動いただけで、二人のキリングゾーンの中でミンチ肉にされそうな状態、下手な事はしたくない。

 

 衝突の邪魔をするものは、周りにはなし。

 開始の切っ掛けはなんだ。二人の間を抜ける風か、刃から滴る血の雫か、はたまた、ケルトかアメリカ、何方かの軍が上げる鬨の声か――否!

 

「――カルナぁぁああっ!!」

「アルジュナっ!!」

 

 天を見上げる。

 

 二人の上。輝く日輪の内に滲む、二つの影。カルナ、アルジュナの戦いは、最早戦場の四方八方へと飛び回り、一つどころには留まっていなかった。

 戦場に響くは、神話の激突。天を駆ける焔の翼と、四方八方より睨む蒼い矢の穂先が今や、激しく、激しくぶつかり合う。貫かんと迫る大槍、迎え撃つ神弓、激突は最早一つ一つが爆発に変わっていって。

 

 そして――そこから弾けた一発の流れ弾が、墜ちて、落ちて落ちて落ちていって……!

 

「「――っ!!」」

 

 至近距離にて、爆発。

 

 飛び出すタイミングは、全く同時だった。

 起爆剤に着火したかのような、言葉にもならない激昂の叫びが、一瞬の内に縮まって一つのカタチへと姿を変えていく――!

 

 ざ く り

 

 二つの影の衝突の一瞬……相手よりも先んじて閃いたのは。

 

「――言わんことではないな、小鬼風情が……!」

 

 噛み砕かんとする鬼の牙、ではなく。

 振り下ろされた太刀の、日の輝きを照り返す銀色だ――

 




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