FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第百五章・裏:平安の戦

 白い、珠のような肌が、紅に染まる。

 女武者に組み付いているのはアサシンだ。あの姿勢になったなら、最早尋常の相手では彼女を引きはがす事も出来まい。そもそも、文字通り弾丸のように飛び出した彼女の勢いを受けて引き倒されず、

 

「如何な切り札……否、宝具か? それを打とうとしていたかは知らぬが、この距離での一瞬の勝負でなら、如何な大技よりも、ただの一太刀の鋭さが勝る――それが戦場というモノだ。くくくっ……!」

 

 女武者が嗤う。無謀な挑戦、バレバレの突撃など容易く見切られて、こうなるのだ、と此方を嘲笑する。剣の柄を力強く握りしめ、そのまま振り抜いてしまえば哀れ、無能なマスターの指示に従って無駄死にしたサーヴァントが、黄金の光と消えていくだろう。

 自らの勝利を、太刀にかかる肉を裂く感触から確信したであろう、そんな女武者の嬉しそうな顔、自身に溢れた姿に――

 

「――くははっ」

「……何が可笑しい?」

 

 胸の奥から……溢れ出すのは、喜悦。

 なんなんだろう、この感情は。あぁ、成程……これで、初めて分かった気がする。

 

 あのキャスター・リンボが、どうして策略を練るのか。どうして、策を練って相手を嵌めるのが好みな性格なのか……理解も出来ないと思っていたけれど。

 成程、こんな感じなのか――勝ち誇った奴の足元を、思いっきり掬ってやる気分は。

 

「いや? 勝ちを確信するのはそっちの勝手だけどよ――」

「――ちょいとは目の前、見たらどない?」

 

 ……一瞬、キョトンとしていた顔の中、瞳だけが、その声の意味を理解して、ばか、と開かれる。そしてその視線を、此方から瞬時に今だ自分の身体に組み付いた離れぬアサシンに向けようと――

 

 した所で。

 それよりも早く、項垂れていたおかっぱ頭が、しゃらりと揺れて……口の中の牙を剥き出しに、その顎を開いた。

 

「――っガァアアアアアアアッ!?」

 

 絶叫。

 ぱしゃり、と高く空に上がる鮮血。

 

 喉元――ではない。肩口に、アサシンは食らいついていた。優しく抱きつくように首に手を回し、身をくっつけてから……人間の体などは容易に食いちぎれるであろう、鋭い鬼の牙が、あの至近距離から、避ける暇もなく浴びせかけられた。

 あの血の量からして、かなり深く、食い込んだか。

 

「っ♪」

「きっ――ザマァっ!!」

 

 咄嗟に地面に突き立てられていたもう一本を引き抜いたか、アサシンの体で封じていた刃とは別の斬撃――それを避けて、俺の元へとアサシンは戻って来る。

 ちらりと彼女の胸元の肌を見る。先程の斬撃の傷は――もうほぼふさがっている。僅かに残っている様な気もするが、それも直ぐに塞がるだろう。

 

「――令呪、を使って……切られた瞬間に、傷を……っ!」

「何も宝具を使うなんて一言も口に出しちゃいないしな? 勘違いしたそっちが悪い。ほれ見ろ、こんな綺麗なカラダに傷なんて、残すのもアレだし?」

「旦那はん? うちの胸見ながらそんな事言うて……ふふっ♡ 期待して、ええの?♡」

「何の期待だよ」

 

 くすくすと笑うアサシン――思い出すのは、源頼光と戦った時の事。彼女の体に刻まれたのは、余りにも深い雷の傷……令呪を持ってその傷を癒したのは、何気にコイツが初めてだったかもしれない。

アレだけの深い傷を、瞬間的に癒した令呪の力は、伊達じゃない事を、その時俺は初めて知った。即死でさえなければ、一度なら凌げる。

 

 切られるのなんざ初めから想定の内。

致命的な斬撃の傷を、令呪の力で即時修復し、無理矢理に押し通る――戦場で負った重症の一つや二つ、気にせず前進するのは、魔境平安のお家芸だ。

 

「戦場じゃ鋭い一太刀が勝る、だったか――それで敵が止まるような、生易しい時代の英霊って所だな、アンタは。少なくとも平安はそれじゃ済まねぇと思うぜ」

 

「一太刀浴びせかけられようが……決死の覚悟で前進してくるだろうよ」

「く……がっ……」

 

 ……まぁ実際平安がそんな時代かは置いておくとして。少なくとも、俺の傍らのサーヴァントは、そんなお行儀の良い戦いなんてしない。

 その辺りを理解していなかった甘いお嬢様に、背を向けて走り出す。結構な深手を負わせたし、離脱する時間は、作れたはず。

 

まぁ、向こうも深手の一つや二つ、気にせず追撃してくるタイプかもしれんが……少なくとも、素早い行動が出来るかは微妙な所だろう。

 

「んもう、旦那はんもひどいわぁ」

 

 先ほどまでの衝突に、気勢を削がれた敵の間を駆け抜けつつ。傍らで並走するアサシンに視線を向ける。

 

「……まぁ、傷付く前提で突っ込ませたのは悪いと思うけど」

「あぁ、それは別にええよ? うちかて承知して行ったんやし?」

「じゃあ何が不満なのお嬢さん」

「一太刀で、ほんまに必死になるみたいな……うち、そない『やわ』ちゃうし。首刎ねられても嚙みついたるよ? 首で」

「……あぁ、そっち」

 

 うん。前言を訂正させて貰おう。平安は『そんな時代』、どころかさらに魔境だった模様だった。一太刀で止まらないのはもう前提条件であったか……なんか、もう一撃で倒さないと絶対に突っ込んで来るだろうこの平安脳鬼娘ってば……

 ある意味可哀そうですらある。こんな鬼娘と、頭特異点な俺みたいなマスターを相手にしてしまった哀れな武者のサーヴァントに敬礼を。

 

 ……とはいえ、これから更なる無礼を働く事になるかもしれないのだけれども。

 ちらり、と上空を見る。ちょうど、その視線の先、天に上る一筋の線が見える。どうやら準備も終わったらしい。

 

「――アサシン、退くぞ」

「向こうの準備も終わったん?」

「あぁ……後は、周りを出来るだけ巻き込まない様に、連れてこれるか、だな」

 

 アレだけの深手を負わせたのだから、撤退を選んでも可笑しくはないが……まぁそれならそれでもいい。俺達としては、逃げられたなら追撃する理由は特にない。

 だが……もし、前回までと同じように、否、それ以上に……徹底的に襲ってくるようなら、『確実に倒す』準備を、整えているだけだ。

 

 ちらり、と背後を見つめる。追跡者の姿は……いや。

 此方に向かって来ていたケルト兵の一人が、不自然なタイミングで崩れ落ちたのが、ちらりと見えた。どうやら、アレだけの深手を負っても尚、こっちを追跡して来ているらしい。物凄い執念と言うしかない。

 

「――ダ・ヴィンチちゃん、聞こえてる?」

 

 であれば。こっちもそれなりのおもてなしをせざるを得ない。

 

『あぁ、ばっちりだ。撤退するルートを探って欲しいのかい?』

「頼めるか」

『任せたまへ……って、ああいや、そのままでいいよ。どうやら、君のサーヴァントが気を利かせてくれたらしい』

 

 上手い事誘導できるか――とか考えてた所に飛び込んで来たその言葉で、ハッと前を見る。視線の先、吹っ飛ばされる黒い影法師と……佇む、線の細い女性の姿。

 こっちに一生懸命に手を振る姿と、揺れる黒髪に、思わずして笑顔が漏れる。

 

「――マスター! こちらに!」

「迎えに来てくれるとは、ありがたいねぇ式部さん!」

 

 現れた式部さんと、合流すると同時に。

 彼女の周りに居る機械化兵たちが、背後から迫って来ていた兵隊たちに向け、腕の機銃を一斉射。それと共に――俺達から離れるように、左右に散開していく。

 その中心に、自然と開けるのは、一直線の道だ。

 

「この先か」

「はい。エレナ様の位置の都合上、どうしても本陣の近くに誘い込む事になるとの事で」

「そっか。んじゃま、確実に仕留めないと首脳部壊滅もあり得るか……はっ、とんだリスキーな戦いになるなオイ……っ」

 

 背後に視線を向ける。

 

 倒れ伏す屈強な戦士の間から――一陣の風の如く、端を赤く染めた、狐面が飛び出して来る。疾い……っていうか、アレだけのダメージ負ってんのに、寧ろもっと素早くなってないかアレは。

 こっちに向けて、脇目も振ってない。左右に展開した兵士達にも、それによって出来た『通路』にも一切お構いなしだ。

 

 完全に頭に血が上って、周りが見えてない。さっきの挑発も、大分効いたと見える。これならもう……

 

「……逃げられもしない、か」

 




口元真っ赤に染めた酒吞童子の差分欲しい……欲しくない?
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