FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
頭に血が上って周りも見えない敵がこっちに突っ込んで来てる。お供のシャドウサーヴァントすら無しで単騎。加えて、何か考えがあるかどうかすらも怪しいレベルと来た。
よっぽど、あの噛みつきでまんまと一杯食わされたのがお気に召さないのか。
まぁ分からんでもない。そりゃあ、以前は無視して突っ込んでいた筈のレベルの攻撃で悲鳴上げて、完全に足止め喰らったんだから、そりゃあ分からんでもない。
こっちはそんなもん知った事じゃないし、勝手にブチ切れてくれてるだけだから都合がいいとしか言えないんだが。
「……ここまで理想的にハマってくれるとかあるんだな」
「運が良かったと考えましょう」
「そうだなっ……と!」
余りにも出来過ぎたシチュエーション。罠を疑いたくなるが、罠を張っているのは此方で、ここは敵地ではなく味方の陣地――しかも最奥、本陣の傍、ギリギリな所で……もしここで敵に暴れられでもしたら、前線にまで影響が出そうな所だ。
……まぁ逆にそんな所に敵が罠を張れる訳もなく、安心ともいえるんだが。
故に……確信をもって、踵を返せるというモノ。
先に踵を返したのは、俺とアサシン。そして、ワンテンポ遅れて、俺の背後を陣取る形で式部さんが構えを取った。
――その場で、先ずは周辺確認。
周りに兵士の姿無し。というか、式部さんとアサシン、マスターの俺以外の姿は何処にもなしと来た。成程、完璧な仕上がりと言える。
問題なし。敵の状態も良し。確信をもって言える。
「――取った」
……長かった、かもしれん。
戦いが始まり。全ての敵がここに集まって来る事を、想像出来なかった訳もない。ちゃんと休んだ頭で、それ位の事は閃いた。と言うか冷静に考えれば、逆にこんな混沌とした戦場、それこそ潜り込んで、俺の首を狙うチャンスではあると思った。
ならば、これはチャンスだ。そうダ・ヴィンチちゃんは口にした。
「――巌窟王の前で、宣言してたところだしな。奴らの大物を取っ捕まえて、一つ内情を聞かせて貰うとしようじゃねぇか!」
いよいよ、俺を狙ってくれてる勢力の鼻っ柱を、一発、豪快にぶん殴ってやるチャンスなのだと。
「――逃がさんっ……!」
怒り心頭、俺達が待ち構えるのに、三拍子ほど遅れて、女武者が真っ直ぐに突っ込んで来て――ああ凄い、鬼みたいな形相してやがる。その有様で前傾姿勢のままに転びそうな勢いで突っ込んで来てるんだから、ひえーやっべぇな、としか言えないというか。
ちょいとでも油断したら首持ってかれそうだ。うん。
……まぁそれも覚悟で、ここまでアイツを引き込んだんだから、真っ向から向かい合ってやるつもりしかない訳だが。
「あの程度で、私が……儂が……止まるとでも思ったか、痴れ者が……っ!」
「いやいや、そんな風に思ってないさ。寧ろ、信じてたよ――」
もう、『ライン』は越えた。
今から取って返しても、絶対に間に合わない。
「――ここに突っ込んで来てるってな」
瞬間。
「――起動!」
「っ!?」
女武者がいる辺りを中心として、四方が輝く。
狐面の奥の瞳が見開かれたのが、こっちからでも分かる。異変に気が付いて視線をその輝きに気を取られたのが分かる、その更なる一瞬の間に、天に向けて、その四方の閃光が真っ直ぐに飛び立っていく。
「砲撃……いやっ!?」
そして、もう一瞬。それが何なのか理解し――『嵌められた』事に気が付いた相手が慌てて、一旦踵を返そうとした、その一瞬。
それこそが、明暗を分けた。
「――『封』!!」
天に上った光は、それぞれ四つが直角に折れ曲がり――別の光が打ちあがった方向へ向けて伸びていく。線の『頂点』同士を結ぶ軌道は、それぞれ『辺』となって、巨大な光の壁を作り出す。
そして……荒野に成された光の壁、その数は五枚。四方、そして上方を固め、それらは一つの『匣』の形を成した。
「結界、だと……っ!」
「そう焦んな。変なデバフ効果なんざねぇよ」
即ちは、『結界』……色々と役割はある。目の前の女武者が警戒するように、敵対する相手に悪影響を与える『場』を形成したり、逆に自分にブーストをかけたり、と。相手の攻撃を防ぐためのモノもあるだろう。
だが今回は、そう言うものではなく、単純明快。
自分と相手を、ただ一か所に閉じ込める為の……いわば、『檻』としての結界だ。
「もう逃げたりしないさ。寧ろ……そっちに逃げて欲しくないもんでね。態々こんなリングを用意したんだよ」
「――驕ったか、貴様」
かちゃり、と。その中に響くように、刃が鳴る。
女武者は、此方を睨みつけるように笑っている。
互いに退路を断ち、逃げられないようにするための、この舞台は……諸々あれど、相手にとっても都合のいい部分はある筈だ。
「最早、逃げ場はない。お前自ら断ったのだ。其方から、首を差し出す様な真似をしてくれるとは……二度、三度と退けて、私に勝てる、とでも錯覚したか?」
「錯覚じゃねぇよ。勝てる算段があるから、こんな真似してんだ」
「くふ……ふははははははっ!!」
……笑ってやがる。酷く楽し気に。敵陣の真ん中で、閉じ込められて……普通は、もうちょいと不安げに振舞っても不思議じゃない。援軍もこの中には入ってこれない。逃げ出そうにも、出られない。
絶体絶命――そう思っても不思議じゃない所で。
笑えるという事は……こんな状況ですら、あの女武者にとってはなんて事もない。寧ろ獲物が自分から、柔らかそうな腹でも無防備に晒してきたように見えるのだろう。
勘違いか? いいや、勘違いと思えるような強さなら――奴に苦労はしていない。
「四方に壁、そしてこの広さ――」
薄笑いを浮かべ……女武者が、壁際に向けて、くるりと跳んで距離を取る。
背後には、結界の壁、その指先が無造作に、結界の壁に触れ――特に、何もならない。ただ透明なガラスの様に、その指先を受け止める。
当然だ。相手を傷つけるものではなくあくまで閉じ込める事に特化した結界。触れたものを傷つけたりしないし――その代わり、相応に硬いのは間違いない。
浮かべた笑みは、その事に、更に深いものに変わった。
「儂にとっては、くくっ……自分の為に誂えられた舞台と変わらぬ」
そして……そんな壁が作り出す戦いの舞台の広さは……正に、広くもなく、狭くもなくである。飛んだり、範囲攻撃をしたり、遠距離を得意としたり、そんなサーヴァントではないあの女武者にとっては……太刀を振るうのに、理想的な大きさだろう。
「こんな中で、やり合うだと? はっ――そんな貧弱な術師と小鬼では、一呼吸ともたんぞ、貴様」
「ま、アンタにとってはおあつらえ向きってのは、確かにそうだろうよ。だけどな……それはこっちにとっても同じだ」
――条件は、同じ。
この中であれば、相手の太刀も、アサシンの爪も、牙も、全てが『必殺』の間合いだ。
今まで、アサシンが完全にこの女武者に競り負けていたか? いいや、違う。マスターとしての贔屓が一切入ってない――とは言わないが。
互角以上に、戦えていた。
「人が、真っ向勝負で鬼に勝てるかってんだ、ばーか」
「――いうではないか、小僧……!」
……まるで悪役の言うセリフではあるが。しかし。これが全てだ。鬼の――人外の強さは、一番良く分かってる。振り回されるように、自分の力を乗り回して……否、その前から振り回されてたからこそ、その『強さ』には信頼がある。
それに。
ちらり、と背後を見る。
頷きを返してくれた彼女は――そんな鬼の力以上に、信じられる。
「勝負だ。今までの借りを返すぜ」
「良かろう――積年の恨み、ここで晴らしてくれる……!」
景清と義経の書き分けに苦しむ今日この頃