FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第百六章・裏:大戦の佳境

 火力は、正に圧倒的だった。

堰を切って溢れ出す、大河からの鉄砲水の如く。抵抗する者を押し並べ、遥か冥府へと攫って行くだろう……なんて思わずポエミーにもなる程だ。

 例えば山に一匹、人では殺し切れぬ獣がいたとして。それが押し寄せてくる土石流を逆に押し返す事は出来るか?

 

 んなもん答えは決まってる。否だ。

 

故に、ゴルゴーンさんとリンボの戦いも、単純な防戦一方。反撃の余地なし。正しく蹂躙と呼べるような戦いになってしまうか。

 

「そう思ってたんだけどなぁっ……!」

 

 が。俺の視線の先に広がっているのは、想像していた景色とは、大分違う。

 

「――否、否、否ァッ!!」

「ちっ……存外と、良く足掻く」

 

 確かに、ケダモノは土石流を押し返す事は出来ない――だが、押し寄せるそれらの間を縫うようにして、駆け抜ける事は出来る。

 しかし……だからと言って本当に獣みたく、軽業染みた足運びでもって、リンボがすいすいとあの猛攻の中をすり抜けていくとか誰が思うか。増してや、あの巨体と術者スタイルを見て。時にはチーターの如く大地をかけ、時には豹の如く軽やかに跳んで見せる。

 

 結果的に、相手の肌に掠ったりする事はあっても、何れも致命打には至っていない、と言うのが現実だ。圧倒的な蹂躙とはいかない、微妙感じがずっと続いている。

 

「――っ! っと!」

 

 今も……指先を掠めるように紫の光が飛んでいったが。直前で気が付いて、僅かに手を引いていなければ、容赦なくリンボの手の甲をぶち抜いていただろう。

 ――だが、被害ゼロと言う訳ではない。

 

「ぬぅ……我が札も、安くはないのですがねぇ」

 

 寸前。

 懐から取り出していた札は、その一撃によって綺麗に塵と化している。因みに同じ様な光景を見るのは……さっきから数えて五回目だ。

因みにゴルゴーンさんは狙ってやっている訳ではない。というか、そんなちまちましたやり方はせず、ずっと本体を狙って攻撃している。

 

反撃の為にと僅かに作った『余裕』から容赦なく焼き尽くされている……即ち。

このゴルゴーンさんの無数の波状攻撃に、反撃の余地なんてものは全く存在しないという事でもある。完全に防戦一方に追い込んでいる事は、間違いない訳だ。

 

「……しかし、必死になってゴルゴーンさんの攻撃を掻い潜り――」

「――マスターっ、後ろっ」

 

 ……おっと。

 

「危ないなっ……っとぉ!」

 

 懐に飛び込んで来た一太刀を、薄皮一枚くらいのギリギリ加減で回避。

実に殺意マシマシなその一発に――垂直に伸びるお靴の踵で返礼を返す。ごっ、と言ういい音共に、顎を蹴り上げられた黒い影が宙に浮かんで。

 

「~~~っ!?」

「はいはい逃げたら――」

 

 ――がしり

 

「あかんよ?」

 

 そのまま、今度は地面に顎を叩きつけられて……ピクリとも動かなくなる。下手人はその『黒』を纏った人型よりも大分小柄な――鮮やかな鬼の少女である。

空中を蹴って、相手を鷲掴み、地面に叩きつける。人間離れした荒業を成したしなやかなで力強い脚力は、流石に鬼の首魁か。

 

 アサシンは、シャドウサーヴァントの頭を叩きつけた綺麗な色白の掌をちらりと見つめてから、一つ。大きな溜息をついた。

 

「血ぃが足りひんわぁ……歯ごたえはそこそこなんやけどなぁ?」

「まぁまぁそう言わず。まだまだおかわりはいっぱいある――うぉおおっ!?」

「あらん」

 

 ……が、こうして一人を仕留めて尚、まだまだ敵は此方に向けて突っ込んで来る。

狙いは俺。出来るだけ距離を取るように、今度は余力を持って回避。弧を描いた切っ先は虚しく空を切り、地面に食い込んだ。その太刀の先端を――引っこ抜こうとした所で再び、上から降って来たアサシンのつま先が、優しくふに、と抑え。

 

「そぉれ」

 

 ――その抑えた場所を起点にくるりと回ったアサシンの横回転からの浴びせるような蹴りが、シャドウサーヴァントの横っ面に鞭のように叩きつけられる。

ごきり、という一瞬の鈍い音の後、地面に叩きつけられた黒い人型は、ピクリとも動かない。これにて十人は仕留めたか。

 

 ゴルゴーンさんと俺達、即ちはアメリカ軍と共同で動いてるチームの戦況は……此方有利なのは間違いなくとも、攻め切れていないという一点で共通している。向こうの陣営も本気を出して来たのか、リンボが率いて現れたシャドウサーヴァントが、今まで以上の数と質で、戦場にて猛威を振るっている。

 ケルトの雑兵が湧く速度は、体勢を立て直したアメリカ軍の、二度目の全力攻勢の勢いには追い付けていないのだが……その勢いを、シャドウサーヴァントの質が無理矢理に抑え込んでいる状況だ。

 

「マスター。エレナ様から報告が。ネロ陛下率いる一団が、敵方の前衛を食い破ったとの事です。向こう方が士気を落とし敗走する事はないとはいえ……」

「陣を食い破られて分断されたなら、流石に抵抗も弱まる、か?」

「はい。しかし……やはりかの武者の姿は見当たらず」

「……逃げたっていう確証がねぇと、怖いな」

 

 リンボの奇襲によるカルナ死亡、及びアルジュナの開放は阻止出来た、一応状況は致命的に悪くなっておらず、前線の瓦解もしてはいない。

 だが逆に言えば、リンボによって、イケイケ押せ押せの勢いを寸断され、停滞した空気に持ち込まれたとも言えてしまう。もう一発デカいモノを叩き込まれたら、先程のように今度こそ立て直せなくなるかもしれない。

 

デカいモノ――即ちは、撤退したあの武者である。

 

「シャドウサーヴァントを潰しつつで……何処かに逃げたアイツを見つけ出すのは勝利の必須条件か――ダ・ヴィンチちゃん」

『そうだねぇ。次、あの武者が暴れ始めたらギリギリの所で持ってる此方の有利が、向こう側に傾きかねない』

 

 デカすぎる後顧の憂いだ。何れ爆発する事が確定している爆弾とか、軍事の素人の俺でも放置はマズいってのは分かる。

リンボとしては、カルナの暗殺とシャドウサーヴァントの投入でこの戦況をひっくり返し、武者の復活をもって止めを刺す……っていう流れだったんだろう。となれば、奴が戻ってくるのは、ほぼ確定的だ。

 

 今の停滞した状況の中でずっと有利に居られるって言う訳でもない。時間が経てば、結局無限の物量を持つケルト側に傾いてしまう……

 

『この状況を再び此方の流れに引き戻すには、敵将を討ち取ったっていう明確な成果で

こちらの士気を上げる必要もあるし……爆弾解除は我々の仕事だよ』

「オーライ……それは、良いんだけどな」

 

 傍で、瞳を閉じて静かに何かを待っている式部さんの方を向く。

やおらにす、と掲げられたその手元に戻って来たのは……小さな蝶々。彼女の飛ばしていた式神で、戦う事は出来ずとも最低限の索敵は出来る。やっぱりそう言う事が出来る辺りちゃんとした陰陽師なのだとは思う。

 んで、それに成果があったかどうかは。此方を振り向いてふるふると首を振った彼女の仕草で何となく分かった。

 

「やっぱいなかった?」

「……少なくとも、この周りにはあの武者の姿はありませんでした。申し訳ありません」

「いや、謝る必要ないよ。傍から空振りのつもりだったし。これで……『切る』大義名分も出来たってもんだ」

 

 ……ちらり、と手の令呪に目を向ける。

 

 三画しかない大切な切り札。滅多な事では切らないエリクサー……が、だからといってこんな緊急事態でラストエリクサー症候群に陥っても仕方ない。

 故にいっそ、『切る口実』を見つけて切ってしまった方がいい。

 

「ダ・ヴィンチちゃん」

『うん。タイミング的にはここがベストだろう。やっちゃえ☆』

「サンクス……」

 

 ちらり、と戦っているゴルゴーンさんに視線を向ける。未だ、リンボに一切の反撃を許していない彼女に。もうあと一押しか、それとも……まだ『底』が見えないのか。

 何れにしても構わない。万が一の事があろうと、彼女が負ける姿なんざ想像もした事はないが。それを『絶対』にしてしまえば、もう一切の不安はなくなるってもんだ。

 

 ――一瞬、その特徴的な瞳と、目があった。

 

 にやり、と。面白そうなモノを見たように、その瞳が弧を描く。

 

「――令呪を持って命ずる!!」

 

 カルデアの令呪は、サーヴァントへの絶対命令権じゃない。でも……彼女達の背中を押す事くらいは、出来る。ブースト材だ。

 

「ンンンっ!?」

「令呪のブーストを受け取って……女神として――そいつに神罰落としちゃって! ゴルゴーンさん!」

 

 紅く、紋様が瞬く。刻まれた三画の内、一画が消えていく。

 輝く紅は――暴れ回る紫紺の中へと、溶け消えていって。それを起爆剤としたが如く紫紺の魔力は……更に、盛んに輝きを増す

 

「――いけませんな、コレは……はっ!?」

 

 それを見て、僅かに動揺したか。一瞬……足が止まった。

 

「遅いっ!」

「ごっ!?」

 

そこに頂点より振り下ろされるのは――太い太い、ゴルゴーンさんのご立派な尻尾。直撃したリンボはその下敷きになって、見えなくなる。最早人一人埋め立てる勢いの一発。

だが。

 

「――ふぅ、危うい所でしたなぁ」

 

 そことは別の所から、再びリンボは現われた。ゴルゴーンさんの影から滲み出すようにして……背後を取った。どういう術だ。

 

「しかし……お陰で、漸く貴女の手の内から逃げ出せました。仕切り直しですな?」

「――ふん。小賢しい奴めが」

 

 ……だが。不敵に笑うリンボに対し。ゴルゴーンさんは実に冷静、冷徹。感情をあらわにするわけでもなく、そちらに向けて既に蛇達を威嚇するように向けている。

 リンボには余裕が見える。だがそれ以上に。ゴルゴーンさんには、絶対的な『威』というモノが現われているようだ。

 

 ちらり、と。ゴルゴーンさんが此方を向いた。ちょっと不機嫌そうな顔。でも……いつも通り、堂々とした顔。僅かに鼻を鳴らして、ちょっと此方を睨んで見せた。

大丈夫だ。どれだけ相手が化け物だろうと――もう絶対に、彼女は負けない。

 

「……令呪一画分の働きはしてやる。さっさと行け」

「あぁ、頼むぜ女神様!」

 

リンボとやり合い始めた最初から、マスターとして傍にいる必要もあるかどうか位に脂が乗っていたんだ。

寧ろ……この先は、彼女の邪魔にすらなるだろう――であれば。

 

 隣の式部さんに目配せを送り。

もう一体シャドウを仕留めたアサシンを手招いてから……ゴルゴーンさんに背を向けて走り出す。この戦場は、今から彼女の独壇場だ。

 

「今、俺達が探すべきは……!」

 

 何処にいるかも分からない、武者のサーヴァントだ。

 




リンボが意外と肉体派と、七番勝負で登場した時一体誰が想像しえたか……
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