FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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遅れませながら、ただいま


第百九章・裏:キャスター・リンボ:真名判明

 ……一度。

暗闇の中、口の端が裂けでもしたかのように悪辣に笑う奴の顔を思い浮かべ。そしてその名前を頭の中で咀嚼してから、ゆっくりと眼を開ける。

 

「蘆屋道満……か」

『――日本の平安時代における高名な陰陽師の一人だ。そして……キミと同じ時代に活躍した人物でもある――だよね? 紫式部』

「……はい。間近でお顔を改めて拝見して、漸く確信を得ました」

 

 通信機越しのダ・ヴィンチちゃんの問いかけに、式部さんはゆっくりと頷いた。

 

「目鼻立ちとあの術のキレは、全く衰えている素振りも無く――あの晴明様が一目置いた道満法師様に相違ございません」

 

 ――安倍晴明。式部さんの師匠。そして、日本でもっとも有名な術師。

 

 オカルトに詳しくない一般の日本人でも、その名前を聞いた事はあるっているビッグネーム。俺だって知ってる。多分日本でキャスターってなったら間違いなくこの人が召喚されるんだろうな、って言うレベルだ。

 

『神秘の色濃い国においても尚、一番と目された『神秘』の使い手……そんな人物が認めた使い手か……敵方がシャドウサーヴァントをアレだけスムーズに運用していたのは、彼の手腕であると思っていいのかな?』

「はい。かのお方も式神を用いた術は得手としておられましたから……その辺りの応用だと考えれば、不可能では……ないでしょう。私のような似非術師とは、そも格の違う術を扱う御方です」

 

 道満って奴の事に詳しくなくても、その晴明がちゃんと認めてて、尚且つ我が家の最高のキャスター(マスター的贔屓目)の式部さんが格が違うとまで言ってるんだからまぁバケモノなんだろう事は想像も付く。

 ……少なくとも、オケアノスで戦ったっていうメディアレベルを想定しておいた方が良いか。俺は直接戦ってないけども。

 

「……ただ」

「ただ?」

 

 険しい表情を浮かべたまま……式部さんは、ゆっくりと首をひねった。

 

「生前とあまりにも雰囲気が違い過ぎるのです……私も、ああして間近で見るまで気が付く事が出来なくて」

 

 ……確かに。

 式部さんはこうして奴を蘆屋道満だと知っている。そして……以前も、その声だとかに反応していたのは、何となく覚えてるし。彼女の記憶にはしっかりと残っていたのは間違いないだろう。

 

 だというのに……式部さんがリンボがその記憶の蘆屋道満その人である、と気が付いたのは、奴と直接矛を交えたついさっきの事だ。

 そこまで勘付く事が出来ない、となると……?

 

「そんなに違うのか。その……式部さんの知っている蘆屋道満とは」

「……私がお会いしたのは、宮中で。それも、晴明様とご一緒の時でした。ので、素の顔を晒されていた、とは断定できません」

 

 ……前置きが一つ。次いで、自分に視線を向けてくる彼女に、軽く頷いて返す。此方の仕草に、小さく頷いて見せた式部さんは、再び口を開いた。

 

「――それでも、生前の法師様は、晴明様とお会いする時も実に穏やかに見え……あくまで表での振る舞い自体は、ごくごく普通の識者のそれである、という印象が私にとっては強かったのです」

『ほうほう、それはまた。我々が見ていた彼とは、まるで真逆じゃないか』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言う通りである。穏やか、なんて口が裂けても言えやしないだろう。アレを見たら。寧ろラリってる、と言われても一切文句は言えないレベルである。

 しかし……それが本当だとすればおかしな話だ。生前からそう言う素振りがあった、というなら兎も角、式部さんから見てもそんな素振りは見た事が無い、か。

 

「サーヴァントってそう言う事ある……のか?」

『サーヴァントはあくまで生前の『英雄』のコピー……劣化版だからね。想像されている本人とちょっと性格が違う、ってことはある。あるけど、その範疇を遥かに超えた変化を起こすって事は……まぁ無いだろうね』

 

 ……まぁ、式部さんもその辺りを把握してたからこそ、本人だと確証を得られなかったんだろう。あくまで自分も見た事があるのはその人物の一面だけだとしても、そこから余りにもかけ離れ過ぎていた、と。

 

「……アレよりは優しい人だったって事か?」

「あ、いえそういう事ではなく。あそこまで言葉多く、威圧的な事を言う方ではなかったというだけで。恐らくは性根の部分はあまりお変わりないようかと」

「アッハイ、左様で」

 

 ハッキリと式部さんは首を振って、そう口にした。

 そこは変わらないんだ……成程。っていうか意外と式部さん容赦ねぇな。生前から割と性根腐ってるって真顔で言うんだ。そっかそっか……まぁ作者さんだし、人物評には変な嘘は吐かないってだけかもしれないけれども。

 

『うーん……例えるなら、クラスの陰キャ君が長期間の休み明け、急にバリバリの陽キャデビュー! って感じかな?』

「いやそんなざっくばらんなダ・ヴィンチちゃん……」

「あ、そんな感じでございます。ダ・ヴィンチ様」

「そうなん!?」

 

 ……兎も角。根っこは同じだとしても、生じる振る舞いがそれくらいにバチバチに違うってなると、そりゃあ困惑もするだろう。しかし……陰キャが、いきなりの陽キャデビューって言われると……あの、陰キャが無理して変なテンションになっちゃうアレって事? うわぁ、緊張感が失せる。

 

 いや、今はそこを気にしてる場合じゃないか……

 

「……まぁ、その陽キャデビューが、単なる性格の変化って取れるならこれ幸いだったんだが。そんな訳がねえよな、ダ・ヴィンチちゃん」

『だろうね。サーヴァントは基本的に生前のコピーだ……その立ち振る舞いに、生前とは余りにも差異が出ているというのであるなら、それに応じた何かしらの『変化』があると思っていいだろう』

 

 ……変化、か。こっちに利するものになっててくれりゃ、それに越したことは無いんだけれども。そんな甘い訳ないよなぁ。

 全く。陽キャになるって言うのを勘違いした結果、どっかのタガが外れて変に凶暴になっちまうとか、高校生の頃の黒歴史じゃねぇんだぞ……そう言うのは若い頃に卒業して欲しかったもんだが。

 

「まぁ式部さんが『キレに変わりがない』って事は弱くなってるって事は無いんだろう」

「……あくまで、私の主観ではありますが」

「式部さんの人物評は主観でも、出来る限り客観的に見ようとしてるって信じてる。俺にとっちゃ、一番信頼できる言葉さ」

 

 生前より蘆屋道満は、ほぼ強くなってるって思って良いだろう。さて……そこで当然ながら疑問になって来るのは、蘆屋道満がどれくらい強くなっているか――ではなく。

 通信の先で話を聞いているであろうダ・ヴィンチちゃんに向けて、問いかける。

 

「……そうなるに足る原因がある、って事だ。ダ・ヴィンチちゃん。サーヴァントを……より凶悪にさせるやり方ってのは魔術の中では一般的なもんなのかい?」

『――いいや? サーヴァントは『最強の使い魔』と呼べる、霊的存在のトップクラスの存在だ。弱体させるのは勿論、強化させるのだって、その存在『そのもの』に干渉するのは生半可な術じゃまぁ無理だよ』

 

 ……成程。

 胡坐をかいたその上に肘を突き、状況を整理する。

 蘆屋道満という存在について……性格が変わる程の何かしらの『干渉』を受けて、大きく強化されてる。その『最悪』を基本とした場合、蘆屋道満をサーヴァントとして用いている奴も……か。

 

 これまでの奴らの言動から、この人理焼却を起こした黒幕――仮称『ソロモン』とは別人である事は凡そ確定している……んで、人類を焼くようなとんでもない化け物と組んでいる輩が、普通である事は間違いなくあり得ないんだが。

 その具体的な『ヤバさ』が滲み出てくるような、そんな情報だ。

 

『まぁ、バーサーカーの様に『狂化』を付与されて、本来の性格から変わっている事もあるしその類似ケースって場合もあるけど――それだって、万能の願望器たる『聖杯』という規格外を前提してのモノだ』

「そのレベルのインチキが飛んで来るのは、確定か」

 

 まぁシャドウサーヴァントをあれだけいっぱい送り込んで来る辺りもう既にインチキ極まってる気はするけれども。アレだけじゃ済まないと考えると、あんまり愉快な気分にはなれねぇな。

 

「――お星さま一個焼かれてるんやから、今更やねぇ。お相手の事も取り敢えずいっこ分かったんやし、今はそれで良し、でええんちゃうの?」

 

 ……とはいえ、実際の所、正にそう。

 敵の一味の正体の一人が分かったのだ。それを一歩前進として取り敢えず置いておけばいいモノを……そこから厄介さを再確認してシリアスになってどうするって言う話だ。こういうの、人間の良くない部分だ。

 

「はわわっ!?」

「よし、よし。そない怯えた顔せんと、にこにこしとき? なぁ?」

 

 それはそれとして、である。

 首元に絡みつく細い両腕の、すべすべとした肌触り。頭を撫でる、細い指先の僅かにくすぐったい感触……目を閉じて、ため息一つ。いきなりのコレは、流石に同じ女性の式部さんはビックリもんだろう。

 我がキャスターは純情なんだからあまり刺激的な事は控えて欲しいものだが――そう思いながら、くるりと背後を振り返る。

 

「別に、怯えてるつもりはないんだが……っていうか、カルナとアルジュナの喧嘩見物してたんだろ、アサシン。良いのか見て無くて」

 

 背後から、何の前触れもなく抱き着いて来たアサシンに、顔を顰めながら声をかけた。

 

 そういうつもりも一切ないだろうに、こっちを揶揄う為にこうしてちょっとしたボディタッチをやって来る辺り、マジで『魔性』だなコイツ。

 少しつまらなさそうに、先ほどまで大爆撃戦争、カルナVSアルジュナのタイトルマッチが行われてたあたりを見つめる流し目まで、何処か色っぽい辺りとか、特に。

 

「お互いに『見合う』所に入ってもうて……あ、先言うとくけど、うちは蘆屋の法師様についてはあんま知らんよ? 清明の方なら、まぁそれなりには耳にもしたけどねぇ」

「そっちは期待してねぇよ。安心しろ」

「ならええけど。あぁ、それと――お客さん、来てるで?」

 

 ……耳元で、ぽしょ、と静かに、擽る様に囁かれたその言葉に――頭の中心が、きつく引き締まるいくのを感じた。お客さん。それが敵か味方かなのかは置いておいて、彼女がわざわざ報告をしに来たのだ。

 

 立ち上がって、次いで彼女が視線を向けた先に、顔を回す。

 荒野の向こう……確かに、そこに人影が一人。目を凝らしてよく見てみると、その片手には……アレは、槍か。そして、あの濃いマゼンタの長髪は……?

 

「――スカサハさん?」

 

 ……頭を掻きながら静かに歩いてくるその姿は間違いなく。

 藤丸と共に、はるか遠くのワシントンまで、クー・フーリンを討ち取りに動いていた筈の、スカサハさんだった。

 

 




体調崩して死んでましたが更新再開します。
何処まで更新できるかは未知数です(震え声)
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