FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
……夕暮れの荒野。
矢傷切り傷刺し傷……傷ついていない場所は、体の何処にもない。火傷に打撲まで、ケガのオンパレード。しかし、それでもなお致命傷って呼べるものが無いのは、お互いの化け物染みた腕故なのか。
深く――ケダモノの様に体を沈み込ませて……地面に添えたその指先の先端は正面の敵へ。長大な槍の穂先は、血と裂傷に塗れた片手で握られたまま、ピクリとも震えていない。
されど、相対する弓の先端はブレない。呼吸は、荒れていない。湖面の様に透き通って凪いだ瞳と、真っ直ぐに伸ばされた背筋。射手の構えには一部の隙も存在していなかった。
間合いを取ってはいるが、この程度の距離であれば二人にとっては有ってない様なモノだろう。互いに射程圏内……誰もが固唾を飲むしかない様な、緊張感の中で。
たった一人だけ。僅かに薄笑いすら浮かべながら、戦の空気を愉しむ方が一人。その隣に歩み寄ると、此方を一瞬ちらと見て、その薄笑いを直ぐに引っ込めてしまった。
「……ゴルゴーンさん、戦況はどんな感じ?」
「気になるのであれば見ていれば良かっただろう」
「まぁそうなんだけど……取り敢えず、俺達が優先するべきはリンボの奴の情報収集だと思ったし。それも一段落ついたし。せめて最後位はさ」
そう言って、尻尾の隣に腰を下ろす。やっぱり地べただが、今さっきまでガッツリ荒野の上で胡坐をかいていたので今更ではある。さて。
「ふん……互角だな。どうも弓使いの方の動きが、ケルトの将として戦場に居た時よりはマシになっている気はする。それなりに見応えのある殺し合いになった」
成程。多くの勇士を討ち取って来て、戦士の皆様に関しては、嫌々ながらも目の肥えているであろうゴルゴーンさんが言うんだから間違いはない……となると、アルジュナの精神の重りになりそうな事……ケルト側に付いていた事か? それがなくなって、何にも考えず宿敵とやり合えるようになって、やる気が噴出したのか。
……うーん。確かに、カルナに向けて弓を引いてるアルジュナの瞳が、心なしかキラキラとしている気が、しないでもない。いや、これギラギラって言った方が良いか?
「……ホント凄いな。お互い、あんなにボロボロでも迫力はそのまんまとか」
「お互いに燃え尽きる直前の蝋燭のような物だ。この戦いで己の全てを余す所なく、燃やし尽くす腹積もりであろう」
何方も……自分が砕け散るより一瞬でも先に相手を討ち取れれば、それでいいと考えているのではないか――そんな想像をしてしまう程に、ただお互いを、穴が開く程に見つめている。僅かな所作すら見逃さないって感じだ。
睨み合って、お互い全く動く様子もないこの状況。傍からこうして見てる分には、こりゃあ相当に長引くのではないか――なんて考えそうにはなる。
が、こうして英霊達と旅し、時にはしのぎを削って来た自分だ。彼らはあらゆる面において人知を超えていて、こっちの想像なんざ及ばぬような神業やってのけるのは当たり前である事は、嫌って程に理解している。
「――もうそろそろ、決着も付くか」
故に――これだけ互いに睨み合ったのだ。お互いに、相手の首を取る準備は万端といっていい。ほんの些細なきっかけであっても爆発する位に。
「……」
周りは、固唾をのんで見守っている。エジソンやエレナ、ネロ……アメリカ軍兵士の面々も勿論の事。式部さんも。アサシンも、目を細めながら二人の事を見つめているし。スカサハさんも同じだ。
何方が勝ったにしろ。この特異点における結果は何も変わらない。彼ら自身が言っていた事だが――コレは『余分』に過ぎないだろう。けど。
それでも。この特異点を締めくくるのに、これ以上の決着は無いだろう事は、俺も、他の皆も理解している。だからこそ各々、ケガをしていようと、動ける奴らはこうして彼らの周りに集まって、その趨勢を見守っているのだ。
「婦長殿には内緒にしておかねぇとな」
なんて。
口にしたその直後――視界の端、アルジュナの後ろの方で、乾いた草の塊が、ころりと転がるのが、確かに見えた。しかも、まるで蹴っ飛ばされるように、激しく――
「――来る」
呟いた言葉に繋がる様に。
その風は――静かに放たれたアルジュナのその一矢を、まるで後押しするかのように一直線に……吹き付けた。アルジュナの短めの黒髪を靡かせる程の、かなりの突風。その中でも、カルナに向けた放たれた矢はまるでブレているようにも見えない。光の矢だ。影響を受けるとは限らないが――
「風に矢を乗せたか」
スカサハのその一言で、例えそれが実体のある矢であろうとも、アルジュナがこの好機を逃さなかっただろう事は、想像も付いた――アルジュナには追い風となった。カルナとっては文字通りの向かい風だ。
だが――カルナは、その風に、逆らう事をしなかった。
「――いや、カルナも! 背後に飛んでる!」
矢が放たれたその直後。追い風に向かうのは僅かでも不利になると考えたか。寧ろその風に導かれるが如く、焔の翼から吐き出したジェット噴射で――背後へと、吹っ飛びつつ。
反り返る様な姿勢で地面スレスレを滑り、弾丸の様に飛んで来る光矢を、紙一重でやり過ごして見せた。
全員が息をのむ。風に動じることもなく正確な射撃でカルナを狙ったアルジュナもとんでもないが……その一撃を、横ではなく、敢えて背後へと飛ぶ事で、ギリギリの所で回避して見せたカルナ。東部アメリカ軍最強の将、その名は全く以て伊達ではなかった。
「――ふッ……!」
そのまま、身体を百八十度、くるりと回し地面へ足を突いて――再び、アルジュナへと突撃する態勢に映る。アルジュナも、慌てる様子無し。それすら想定していたのか、既にその弓には青白い光が灯っている――が。
「僅かに狙いを定め切れていないか」
そのスカサハさんの一言と共に、カルナが弾丸の様に前方へと飛び出した。先程と同じ位の――否、それ以上のジェット噴射によって、文字通りに飛翔しながら。
「――ッ!!」
咄嗟に放たれる、迎撃の光の矢。狙いを付けるよりも、咄嗟に数を優先したか。カルナの加速の、一呼吸にも満たないその一瞬で。空中を走る矢の数は、凡そ六つか、七つか。
思わず周りが悲鳴を上げるのも分かる。
一本一本が、普通の頼りない細い矢とは比べ物にならない。稲妻のように閃く光の矢である。決して多い数ではないが、一直線に突っ込んで来るカルナを迎撃するのであれば十分に過ぎる数にも見える――あぁ。
射ったアルジュナ本人が。
ほんの僅かにとはいえ。顔を顰め、歯噛みさえしていなければ……それらが確実にカルナを撃ち落とすために放ったものだと、思えたのだろうが。
「――見事だ、アルジュナ」
矢の群れで封鎖された空中で――しかし、カルナは確かに力強く、微笑んだ。
自分に突き進む矢。そこに突っ込んでいく彼自身。彼我の距離は、自らので、通常の何倍もの速さ、雷電の如き勢いで詰まっていく。だというのに、その雷速よりも、伝説のインドラの雷電の槍の切っ先は、なお疾い――!!
瞬間、突き出された赤い一閃が、たった一本。たった一本の矢を切り飛ばす。それ以外をカルナは見てすらいない。空中に出来たのは、矢と矢同士の、僅かな隙間。そこに向け、一直線。
当然、決して広い間隙ではない。無理矢理に抜けようとするカルナの白い身体に、光の矢の穂先が食い込む、引き裂く、肌を焼き焦がす。それでも尚、伝説の『
「だが、此度は――!」
「カルナッ……カルナぁあッ!!」
ほぼノーモーションで、再びアルジュナが弓を構えるも、さらに一歩、遅い。その『ほぼ』ですら、カルナにとっては片手の大槍を振るうのに、十分すぎる時間である――!
――ざんっ
……一閃。
黄金の輝きが、その胸を貫いた。
「――生前の因縁、というのは生易しいものではない。もしも人理というモノがあやふやになっていなければ。この世界そのものが、あの弓使いに味方していた可能性は否めぬ」
……だかしかし。今は、人理焼却という一大事。彼らが歩んだ歴史すらあやふやになりかけたこの状況下であれば。文字通り、何の干渉も、横入りもなく、その腕を競える。
勝負の趨勢が一つ、別の所に転んでいれば、分からなかった。それ程の拮抗した勝負。制したのは、確かに――
「俺の……勝ちだ」
地面の上。力なく、突っ伏したまま、転がっているカルナで。
力なく、汗だくで笑う顔は、この特異点で初めて見たような、屈託のない笑みに彩られている。
貫かれたまま、天を見上げたままのアルジュナのその胸は……彼の槍の穂先で深く、えぐり取られていた。
「……あぁ、そうか……私の……」
……何を言おうとしていたかは、想像も付かない。
ただ、少なくとも。空を仰ぎ、胸の傷に手を当てた、その最期の表情は。眠りにつく前の様な、酷く穏やかなものに見えて――再び吹き込んだ一陣の風が、その場に残っていた黄金の残滓を巻き上げ。何処かへと……消えて行く。
――わっと、周辺から上がる歓声。
カルナに駆け寄る、戦友たち。ぶっといライオン頭に胴上げされる細い身体。飛び跳ねる小柄な少女。その表情は、まぁ。態々よく見る必要も。態々語る必要もない位に……
「……良いもん見れたな」
「あぁ。まぁ向こうの出し物よりはマシであろうよ」
……その言葉に、若干、顔を顰める。
カルナとアルジュナの決着劇。同時上映ならぬ同時演目は……『エリちゃん・アメリカブロードウェイ征服LIVE』である。
藤丸が果たして、無事にカルデアに戻ってこれるのか。それは、エリザベート・バートリーの喉の具合のみぞしる、って感じである。
まぁ、時間も出来たし、特異点も解決できたし、エリちゃんもテンション上がってたし……ね?