FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第百十章・裏:『限界』と『交渉』

「――向こうからの宣戦布告だからね。やるんであれば、僕らも万全に備えるとも」

「向こうもそれをお望みで、こんな大胆な事をしてくれたんだろうし?」

 

 ……カルデアの両顧問が燃えている。いや、燃えているって言うか、煮えている。

いやまぁ、気持ちは良く分かる。寧ろ、彼らが徹夜で組み上げたであろうカルデアの防衛システムを掻い潜って、あのド派手な『果たし状』が叩きつけられたのだ。

技術屋のプライドとかを考えるとそりゃあそうだろう、としか思えないというか。

 

「……それに、第五特異点を攻略する最中に僕達も良く分かった。人理焼却の首謀者と共謀するキャスター・リンボの勢力は、一度大きく叩いておかないといけない、とね」

 

 そして、同時に。

 カルデアとしても、そろそろ特異点修復も佳境に入って来てるこのタイミングで……第五特異点での経験からこの両顧問は、リンボの後ろに入る奴らに関してこれ以上の放置……というか、静観は不可能だという結論に達したのである。

 

「スカサハが始末してくれていたから良いものの。彼らは女王メイヴの要請の元に、シャドウサーヴァント一個大隊の戦力を即座に用立てていたって話だ」

「……サーヴァントの集団の戦術的運用。それが如何に影法師の影法師であったとしても、それがどれだけの脅威かは、カルデアだからこそ良く分かる」

 

 ……そりゃあまぁ。ちらりと思考の斜め上辺りに浮かぶ我が頼りになるサーヴァントの皆様を眺めれば、良く分かるというか。

前線をアサシンが搔き乱し、ゴルゴーンさんが乱れた戦列を広く焼き、それに式部さんの火力支援も加わる。酷く単純だが、これだけの連携でも、相手はどうしようもなく殲滅されるしかない……伊達に『最強の使い魔』の名を冠してはいない。それが三人がかりである。

 

一桁でもまぁえげつないというのに……それがよもや四桁だ。如何に本物に及ぶべくもないシャドウとはいえ、間違いなく第五特異点の選挙区をひっくり返しかねない切り札だった……それを単騎で殲滅したスカサハ師匠はもう一体何なんだって話になってくるけれども、あの人は『そういうモノ』なんだろうって事で納得するしかない。

 

「……向こうが真っ向勝負を仕掛けてくる、って保証は何処にもないけれども。だからって言って手をこまねていては、肝心要の所で、背後から刃を突き立てられるかもしれない」

「今、この機会が一番彼らに改めて向き合うのに一番いいタイミング……それは、先ず間違いない事は、前提として、だ」

 

 ……兎も角。

 

 幾度も戦ったリンボの術式も、式部さんから情報提供もあってある程度は解析し終わっていて。出来るだけの対策は練った。カルデアとしては初の、正に『万全の対策』を施した状態で決戦に打って出る――そうなる、筈だった。

 

「……けど、ね」

「どれだけ彼らが脅威で、それを一旦叩くメリットがあるにしろ――流石に『君一人』をマスターとして、特異点に送り込むリスクとは、釣り合わない訳だ」

 

 ……ちらり、と視線を。こうして俺が検査を受けている医務室の、そのまた奥の方へとやった。その向こうには……今も、マシュ・キリエライトが眠っている。

 彼女が倒れたのは、キャスター・リンボの挑戦状が再生された、その直後の事。その原因は――マシュ・キリエライトの『設定された命』である。

 

「……長く生きられるように『作られていない』って娘が不調だってのに、連れて行く方が可笑しかないか? ドクター・ロマニ」

「そっちには否定の意見は出していないんだけどな~?」

 

 ……元から、そう言った様に『設計された』デザイン・ベイビー……無菌室で、無垢に育てられた少女は、カルデアの外では生きられない、限定『されてしまった』命。

 ロマニや、ダ・ヴィンチちゃん。カルデアのスタッフたちが、彼女をどれだけ可愛がっていたかは、よく知ってる――マシュをそうしたロクデナシを恨む事を、一旦は忘れても良い位には――そう、良く知っているからこそ。

 

 倒れた彼女と共に、リンボの元へ殴り込みをかけるのは、どうしても賛成できなかった訳だ。そして――彼女の支えである藤丸を、彼女をカルデアに置いたまま、俺と同行させるって言うのも、まぁ無理だろう、と。

 それを理解していたから――二人は、俺の言葉の半分、マシュを休ませるって事には頷いてくれた。けれど。

 

 俺が一人で向かう、っていう提案には――頑として、首を縦には振ってくれなかった訳だ。

 

「こんな事を、僕が言えた義理じゃない。けれど……彼女は、君が一人でリンボの策略の待つ特異点に乗り込む事を、望むことは無いと思うよ」

「……ま、だろうな。マシュちゃんは良い子だ。純白の雪みたく、汚れの無い子だ。ちょっと親しい隣人位の俺だって、気遣ってくれるだろうし。藤丸に、助けたい、って言ってくれるかもしれねぇな」

 

 ……だが。話を聞いちまった訳だ。俺は。彼女の事――彼女の歪んでしまった、生命の事を。いやこれで変に気遣わないで欲しいと言われても、はいそうですか、じゃあ今まで通りに一緒に命懸けの旅を……なんて。

 

 頭を掻く。自分がクソみたいな事思ってる自覚は、あるけれど。それでもまぁ……無理だろうよ。今回の一件に関しては。

 

「だってカルデアっていうか……奴の、狙いは俺な訳だろ?」

「……今までの行動を観察するに、その可能性は高い、ね」

「へっ、じゃああの子も藤丸も、今回の一件には関係ない訳だ。付いて来てくれ、なんざ口が裂けても言えねぇよ。俺個人に喧嘩売って来たなら、その鼻っ柱は俺がぶん殴ってやらねぇと、だろ?」

 

 ……敢えて茶化すように言ったのは、これ以上二人の決断が重くならない様に。

 

「それに……あの子が少しでも休む事が出来る、それくらいの時間は稼げるかもなんて、俺単独の方が余計やる気になるぜ、お二人さん」

 

 ちゃんと保護者やってくれてる二人だ。加えて、最悪人理修復っていうモノ自体には関係のない相手……行かないって言う選択肢もギリギリである位の塩梅の一件だ。

 俺との折り合いが付かないって言うんであれば、敵からの宣戦布告を無視するのも一つの手だとすら考えるだろう。

 

 でも、それは良くない。問題の先送りになってしまうのは、俺だって分かる。もしも黒幕との決戦の時、背後からブスリ、なんざやられたら……その時の選択を後悔してもし切れないだろう。ここで、動かない選択肢だけは、あるけど、選んじゃいけない。

 それならば……俯かせていた顔を上げ、二人の方を見つめ直した。

 

「……繰り返すようだが、特異点は速攻で修復するに越したことはない。今のマシュ・キリエライトに直ぐの行動をさせるのはリスクだ。んで、基本藤丸とマシュちゃんはニコイチって事を考えると……俺単独ってのが一番現実的だ」

 

 二人は、マシュちゃんに限界が来ている事を、誰よりも知ってる。如何に彼女自身がそれでも戦う事を望む強い子でも……本心から彼女を戦場に送り込む事を良しと出来る様な人たちじゃない。

 

 その二人には――俺の提案は、蜜よりも甘く感じるだろう。

 俺が頑張っている間、精神的には兎も角、身体的には彼女は休む時間を作れる……確定はしていないが、その可能性は出てくる。マシュちゃんが二人にとって大切な娘であればある程に、だ。

 

 ……巻き込んでしまう式部さん達には、土下座してもし足りねぇ位には申し訳なく思うけれど。そこは今までマシュちゃんが頑張った分のご褒美を上げるって事で、人生の先輩として気合い入れて貰いたい、なんて。これは、俺の我が儘になってしまうけど。

 

「……」

「マシュちゃんが頑張りたいって思う事は、絶対に否定しねぇし、出来ねぇよ――でもあの子の本当の頑張りどころは、きっとここじゃない。そうだろドクター?」

 

 酷い交渉をしてる。

 二人の装備は棒切れ一本、こっちは城と大砲と兵隊まで準備されてる様なもの……利も情もこっちに味方してると来た。負ける要素なんざ見つからねぇ。薄笑いを浮かべながら椅子毎、くるりと背を彼に向ける。診察の続きをして貰わないといけない。

 

「って事だ。今回は気合い入れねぇといけないからな。身体のメンテナンスはちゃんとしておかないといかん。念入りに頼みますぜ、ドクター・ロマニ」

「……それは、君が決める事じゃないよ、本造院君」

「じゃあ誰が決めるのかな~?」

 

 ……酷く卑劣な勝利を確信し、顔を上げる――視線の先には、何時の間にか開いている医務室の扉があって……ん?

 開いてる。誰かが、医務室に来てる。で、それは誰なのか。

 パッと見えたスカートと、パーカーに……なんというか、酷く見覚えがある気がして、完全に思考が停止した。

 

「――それは、私が決める事かと。本造院さん」

「……ま、マシュちゃん……?」

 

 そして……その向こうから。真っすぐに、こっちを見つめてくる……藤色の髪の少女と視線が、バッチリとかち合った。

 何時からそこに――と、問いかけようとした所で。口元が引きつって、止まる。ちょっとだけ吊り上がった彼女の瞳と、むっとした口元、僅かに真ん中に寄った皴……まさかとは思うが、と最悪の想像が頭の端を過った。

 

「あ、えっと……ま、マシュちゃん! 藤丸だったらここじゃねーよあはははっ! ドジっ子さんだなぁ、いや、お目覚め後だからちょっとぽわっとしちまったか!! えっと、アイツだったら多分食堂とか――」

「いえ、ここで良かったと思います。ドクター。ダ・ヴィンチちゃん」

 

 口八丁手八丁でなんとか撒こうとしたその先を、軽く制された。

 あ、これヤベェ。額にたらりと冷や汗が垂れた。本能で理解する。真っ向からやり合っちゃいけない感じだコレ。遅れまいと急いで背後の二人に振り向く。目覚めたばかりだ、検査も必要だろう――そんな感じで味方に付けられれば。

 

「……検査は三十分後くらいにするから、それまでに終わらせてね」

「さーて一旦発明品の具合でも見てこようか――のぼせ上がった若人も、それ位あれば頭を冷やしているだろうし?」

 

 ジーザス。慈愛たっぷりの微笑みと共に、そそくさと大人二人は医務室を出ていく。

 

 ……改めて、その視線と目線を合わせる。アメジストの様な透き通ったその瞳に、じっと見据えられて……情けなく、視線を逸らす事しか出来なかった。

 




そう言えばこの二人ってじっくり話した事も無かったな、と。
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