FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「……こうして顔をつき合わせて、二人きりで話すというのは……実は、初めてなんでしょうか」
「あー……まぁ、何時も君の隣には藤丸が。俺の隣には基本的に式部さんが居るからね。二人きりって言うのは」
目の前に立つマシュちゃんから、思わず床に項垂れる様な姿勢になって、目を逸らしてしまっている。
……気まずい。っていうか、なんだろう、この、凄い、居心地の悪さ。この子と一緒にいるべきは基本的に藤丸だと思っているから、こうして二人きりになる事自体に違和感があるのだろうか。俺ってもしかしてカプ厨、って奴だった……?
「機会がないのも、そう不思議じゃないというか」
「ですが、本造院さんもカルデアの大切な仲間ですし、こうしてお話しする機会が出来て良かったと、私は思います」
「……うん、ありがとう」
バカな事考えてねぇで目の前の事に集中しろタコナス。
そりゃあさっきまでマシュちゃん置いてきぼりにして特異点にカチコミに行こうとしてたんだから気まずくもなるだろうが。いや、悪意を持ってやってた訳じゃないですよ俺だって。でも……その、何だ! 俺だってさっきの事になんも思ってねぇわけでもねぇよ!
我が事ながら、水臭いことしてんなー、とか。マシュちゃんの覚悟土足で踏みにじってんなぁ、とか思ってたよ! 俺だってに人間の心理解できない悲しき生き物じゃねぇし!?
……でも、あの一瞬だけちょっと不満そうな顔してただけで、今は穏やかそのものなんだよなぁ。今なら……ギリでいける、かな?
「……なぁマシュちゃん」
「はい」
「お休みとか取る気、ないかね」
さっきの会話を聞かれていたならば、それでいい。万が一にでも、ここで彼女がこっちに付いてくれりゃ、もう誰も止める者はいない。俺の提案も大手を振って通せるってもんだ。いや褒められたようなプランじゃないのは自覚はあるし、
「……カルデアの皆さんと一緒に、休暇を楽しめるのであれば。それは私も是非に、と思います。はい!」
「そっかぁ。それなら――」
「ですが当然ながら本造院さんも一緒に、ですよ。言った通り、貴方も大切なカルデアの仲間の一人ですから」
……と、まぁ一応言っては見たが、やっぱりダメだった。これであっさりじゃあ休みますってなったら、逆に俺が『えっ、この子本当にマシュちゃん?』って疑うもんな。誘っておいてオッケーだされたら偽物判定とか厄介オタクかな?
「……オッケー、分かった。もう余計な心配はしねぇ。悪かった」
「……いいえ。本造院さんが私の事を気遣ってくれたのは、紛れもない事実ですから。余計な心配、なんて事はありませんよ」
「そいつはどうも」
もうちょっとこう……色々と互いに腹を割って話す、なんて事になる訳ないのは分かってた。この子の純粋さに、まぁ俺みたいなどっかスれたクソガキはクソほどに弱い。
外郭ギリギリ狙いのひねくれたカーブも、反応すらされなきゃ意味もない。しかも狙ってやっている訳でもなく天然でスルー喰らってんだから、やられた方はボディブロー喰らったようなもんである。
まぁ、下手にじっくり話して、こっちのヘドロの詰まった腹を探られるよりは良かっただろう。綺麗な純白のハンカチが泥まみれになるのを見るのは、誰だってあんまりいい気持ちはしないだろう。
「ただ……私の心配だけ、ではないですよね」
「――」
……こんな風に。
他人の言葉に、疑問を持って、その奥を探る――差別をする趣味は無いが、しかし。イメージと違う、と無意識に思ってしまう訳で。それこそ彼女にした余計なお世話と同系統の無礼である事は、良く分かっているのだが。
彼女に誰かの言葉を疑わせてしまう、というのは……それだけで、何か罪を犯してしまった気になってしまうのは、多少は彼女の人となりを、こうして旅をして俄かに知る事が出来たから、だと思う。
「ふむ……なんでそう思ったか、教えてもらえるかな。名探偵?」
ただの身勝手な感傷だとは分かっている。けれども、それでもこれ以上は――そう思って少し、強めの言葉と共に、彼女に視線を向ける。
「い、いえ。私はその、そこら辺にいる十把一絡げのシャーロキアンに過ぎなくて。推理と呼べるようなものをしたつもりもなくて……名探偵なんて」
「えっ反応するのそっち?」
あ、そうなんだ。マシュちゃんシャーロック・ホームズシリーズのファンなんだ。寧ろ推理とかするのは好きな方なんだね。コイツはまたとんだ御無礼を。
……という事で、ひねくれたカーブの魔球第二号、再び無意味にて終了。お前良い加減に学習しろやって話ですよね、はい。本当に申し訳ないです。
「ただ、紫式部さんから聞いていた話から、そうなんじゃないか、って思っただけで」
「……式部さんから?」
「はい。式部さんとは、以前の本造院さん単騎での特異点解決の一件から交流する事が特に増えまして」
――曰く。
今までも、マシュちゃんはカルデアのサーヴァントと交流は行ってきたのだが……しかしながら、その全員と綿密にコミュニケーションが行える時間は無い。藤丸の元で共に戦うという事を考えると、リリィと巌窟王に比重が偏るのも、ある意味仕方ないというか。
そんな中で。俺だけが特異点へと向かう事になったあの一件だ。
俺が帰って来るまで……式部さんの取り乱しようと言えば物凄かった――らしい。それこそ、顔を青ざめさせたまま、カルデアスの前でへたり込んだまま動く事も出来なくなってしまっていた、と。
「……式部さんが、そんな風に」
「意外、ですか?」
「いや、俺の事を心配してくれた事に関しては、そんな事は……ただ、取り乱す程って言うのは想像してなかったっていうか」
ちょっと気恥ずかしくて……嬉しくもあって。
つい、誤魔化すようにそっぽを向いて頬の辺りを掻いてしまう。
んで。そんな彼女の事を励ましていたのが――リリィと、マシュだったのだ。
特に、お互いにそれぞれのマスターのファーストサーヴァントであるマシュは、式部さんの事を強く気にかけていたようで――
「お互いに、色々な事を話せて。自然と以前より仲良くなれたのかな、と」
「……そっかぁ」
……そんな風に憔悴していたようには、俺からはとても見えなかった。確かに、そりゃあ帰って来た時にすげえ心配こそされたけど。でもそこからはちゃんといつも通りだったというか……ちょっとマシュちゃんと距離が近くなってはいたような気はしたけど。
「その時に、式部さんの生前の事、そして……カルデアに来てからの、貴方と共に特異点を駆けた日々の事を、聞きました。同じくらい、沢山。楽しそうに話してくれました」
「ははっ、ソイツはまた……」
どんな事を話したのだろう。いや……どんな事でも構わないけど。ただ、俺とこうして人理修復した日々の思い出を楽しく話してくれたっていうのが。それだけでも嬉しい。
彼女には似合わない、血みどろの旅だ。しかも俺に関しては命の瀬戸際、ギリッギリの所で巻き込む形で引きずり出した。何なら正式にカルデアの縁として呼んだわけでもない、俺の個人的な召喚……って事になるのだろうか。
人理修復という大きな旅の為にと呼び出すなら兎も角。こんなクソガキの命を救うために呼び出された挙句、流れでその大変な道程に同行させてしまっていた。罪悪感だってそりゃあまぁ、あった――せめて、呼び出した張本人として、何かできないかとあれこれ話しかけてみたりもしてたから。彼女がそう思ってくれている、というのは、うん。
「……ただ、少し寂しそうにもしてました」
「寂しそう?」
「はい……共に死線を潜り抜けて、何度も自分の前で身体を張って」
……そう思ってからこそ、その次に続いた言葉は。
「それでも尚……本造院さんが式部さんに見せているのは、ほんの表面の少しだけ、って」
いやに、ハッキリと聞こえたような気がした。耳の奥が痛くなる位に。
「……」
「……さっき。私は、本造院さんの表情が、ハッキリと見えました」
「……どんな風だった?」
「安心、していました――怖い物から逃れた、小さい子供の様な」
――これは、失礼に当たるかもしれませんが。
その後に続けようとしたマシュの言葉を……彼女に向けた掌で遮った。
凡そ想像も付くし……きっと彼女の感想は、何も間違ってはいない気がする。一つ、大きく呼吸をしてから……医務室の天井を見上げた。
その先も――そして、彼女が想像している事への、解答も。それこそガキじゃないんだから、自分でしなけりゃならないだろう。
「……式部さんと話すつもりだったんだ」
「何を、ですか?」
「色んな事。でもま、多すぎるからな――その話の触りくらい、話す練習するのも悪かないだろう……付き合ってくれるかい?」
目の前に立つ少女に向けて顔を上げてから。改めて、視線を合わせる。
俺の言葉に、彼女は……ただゆっくりと、頷いてくれた。
第一部のマシュって結構書くの難しい事に向き合ってみて気づきました(情弱)