FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――思えば、本当に山奥の、何もない屋敷だったな。
ドクターの座っていた椅子に腰を下ろしたマシュに対しして。俺は、そう話の口火を切った。
周りには、町は愚か、まともな他の村らしいものも一切無し。あるのは、うっそうと生い茂る木々と、舗装なんざされてない獣道と、山に住む無視やら動物位なモノで。
そんな中の、僅かな隙間に俺の住んでいた、無駄にデカい家はあった。
築何百年かも定かじゃない家の割には、妙に手入れはしっかりとしていて、現代の生活に合わせられるように内装はキッチリと現代にアップグレードはされてたし。お陰で住むのにも特には不満は無かった、と思う。
「……少なくとも、こういう神秘って事に関係した家では無かったかな。ドクターにも言った事はあるけども」
自分がこんな可笑しな事になっている上に、一応『身に覚えがある』位には家には古臭い呪い染みた言い伝えもある。そんな中で、こんな事を言っても信ぴょう性は微妙やもしれないけれども。本当にそうとしか言えない。
本当に、家の中にいる間に可笑しな儀式やらなにやらをずっと行ってる、なんか明らかにヤバイ一族……って訳でもなかった。
「こんなのを抱えてた割りには、そんな妖怪やら神やらの存在をずっと唱え続けてる、みたいなヤバい家、ではなかったかな」
「普通の家だった、と?」
「うん。割と普通な感じに『狂って』た」
……マシュちゃんの顔が僅かに歪むのに、思わずくすりと笑ってしまった。
「いやまぁ、そりゃあそうでしょうよ」
前提として。
山奥の秘境……国道とかがある訳でもない、本当に人の世とのかかわりが完全に閉ざされたような場所で、何百年とずーっと暮らしてる時点で、先ず当たり前のご家庭な訳がないって話。可笑しな奴らの中では、イカれかたが普通だったってだけの話で。
「今、こうやって思い出してみても、だーれもあんな小さな集落から出ようとも考えない時点で、色々と歪んでいるのは確定って感じかなぁ」
年食った親戚は、それなりに居たと思う。本当に、豆粒の様なコミュニティを形成できるくらいには。そいつらが、隔絶した環境の中で、人の世の法を模倣しそこねたような歪な法を敷いて過ごしていた。
「……世間の法に従う必要がない程に、隔絶された環境だったと?」
「ん。そうだな。というか、世間のルールと関わらないようにしたから、その代わりに自分達のルールを作ってたって感じだ」
「でも……その割に本造院さんは、その」
「案外普通に見えるってか? まぁ、『そうなる』様に努力はしてたっぽいよ」
……不運か、それとも幸運か。俺達の一族ってのは、どうにも地頭自体は悪くなかったようで。こうして引きこもっている自分達と違い、世の中はどんどんと移り変わっていくことを誰よりも良く理解していた。
故に、その仕組みやら倫理観やらの変化に、置いて行かれっぱなしにされてしまう事を――外からの風を適度に入れる事で防いでいた。
「まぁ、婿やら嫁を迎え入れた後、そう言う人達から、一緒に生活する間に聞き出してみたいだなぁ――今の世の仕組みやら、流行やら」
閉鎖的な考えになった方が『閉じこもれない』というのを良く分かっていたんだろう。変わらないまま、世間と大きく変わっていると、まぁちょっとしたことで変に干渉を受けてしまう。如何に人里から離れた秘境の家とはいえ、ちょっとした事で人が迷い込んで来る可能性を誰が否定できるのか。
もしも、の時に備え……自分達の内情が暴かれない様にと、上手く擬態するやり方を取っていたのだと思う。
「多少の毒なら薬にもなる――多少でも自分達で変化する事を選ぶ事で」
「……結果として、自分達の閉じた環境を守ろうと考えた?」
「真実は、今は闇の中だがね……そうなんじゃないかって邪推する位には、我が家は酷く徹底してた気がするよ。外も、内も」
ふと思い出す。
俺が幾つだったかの誕生日の事だ。
「ケーキが出て来たんだよ」
「ケーキ、ですか?」
「うん」
結構大き目のしっかりした誕生日ケーキだった記憶がある。ロウソク付きで、新鮮な苺がまぁたっぷりと乗っていて。なんと、中心にチョコレートの板に俺の名前までご丁寧に書いてあったのを覚えている。綺麗なもんだった。
「誕生日ですから、普通の事では?」
「まぁ、そりゃあ普通のご家庭ならそうなんだけどな。マシュちゃん、我が家がどういう所か覚えてたりする?」
「えっ……あっ」
……はてさて。それこそ町までの距離はキロ単位で、真っ当に行き来するだけでもそれなりに困る様な所だというのに。子供の喜ぶようなバースデーケーキだ。
……普段もカレーに、肉じゃが。コロッケ。そうめんにフルーツポンチが付いて出てきた事もあったっけか。麻婆豆腐なんか、ちゃんとピリッと辛みが効いて本格派だった。
更に言えば、普段着ていた服は何処から? そもそも近代に適応できるように家をリフォームしていたのは確かだが、何時、どうやって改築していた?
「その出所も何もかも……今もサッパリと分からんのよなぁ」
――ごくり、と。目の前で、唾を飲む音が聞こえた。
少しでも空気を緩めようとして、笑顔なんか浮かべてみようかと思ったが……やめた。このタイミングで浮かべる笑顔は下手すると逆効果になる気がした。
いやまぁ、仮にも自分の実家の事だ。
それを指して『不気味』、なんていうのもアレだが。
あの家は内側に住んでいた俺からすら全くその実情が知れない。酷く秘密主義な家だった。外から見れば猶更、だろう。
「うちの歪さってのは、そう言う一族内の独特なルール、とかそういう分かり易い部分じゃなくて――最早そう言う生態って呼べるレベルの『閉じた生き方』に現れてる」
実際、婿や嫁を取る時にも、出来るだけ身寄りというか家族と上手く行っていないような人物を選んでいたみたいだし……必ず家まで連れてくるのだ。そして、それからその人は不思議とその家からは出なくなる。
そう。『不思議と』。今から思えば、洗脳染みた事でもされたんじゃないか、って邪推する位には。
「……そんな」
「そうやって聞くと、なんか怖いよなぁ。でも……そうして取り込んだ人たちをなんか、生贄とかにしないのがフィクションとの違いでね」
ちらりとマシュちゃんを見る。悲しそうに眉を潜めていたのが、なんだかちょっと呆けたような表情に変わったが、可笑しかった。
「くくくっ、残念ながら我が家はそんな物語の人食い一家と違って、何処までも大層なもんじゃない、引き籠りなもんでね」
恐らくは、そういう閉鎖的な村で起きてしまった悲劇、的な事を想像してしまっていたのかもしれないけれども。そんな事は全然なくて。ただ一族の中だけで生活していも、ごく当たり前の幸せを送れるように、年寄り共は努力していた……んだと思う。
「俺が知る限りだけど、少なくともあの閉鎖的な場所でも……ぶつくさと文句を言ってた人たちは誰も居なかった、気がする――子供の記憶だし、正しいかも分からんけども」
外より充実していたかは分からない。けれど……少なくとも、出て行きたくなるような地獄を作っていた訳ではない。ただ過ごすにはそれなりの環境を、作り上げて……ずっと誰にも知られないまま、ずっと生きてた。
悲劇もなく、ただ、静かに暮らすだけの箱庭……どうしてそんな風な暮らし方を俺の家が選んだのかは、まぁこれまた分からん。
「……」
隣で、マシュちゃんが考え込んでる。律義な子だ。なんか気持ち悪い家だなぁ、位で流されても何ら不思議じゃないって言うのに。まぁこれ以上考えさせるのもアレだし……もうそろそろ話しも切り上げ時だろう。
「――つっても、もう調べようもねぇけどな。その辺りは。無くなっちまったし」
自重するように天井を見上げる。
「っ、いいえ! この人理修復の旅が終われば、きっとご実家だって」
「――いいや、無いのさ。あの家はもう。燃える前に。無くなってる」
……咄嗟に。といった様子でかけてくれた言葉に向けて、敢えて『切って落とす』様に此方の台詞で遮った。
え、と。呟きが彼女の口から漏れた。ちらりと視線を彼女に向ければ……少し、ぽかんとしているようだった。まぁ、いきなり二の句を継ぐ間もなく口先でスパンとされたのだからそりゃあ仕方ないだろう。でもまぁ……仕方ないのだ。
「……俺がこうして外にいるって時点で。俺を閉じ込めていた檻の扉は開いている事なんだよ。はてさて、あんな閉鎖主義の一族が……檻の扉を開けっ放しになんざするかね」
椅子からゆっくりと立ち上がる。
彼女が此方を見上げている。何かに気が付いたかのように、瞳が一瞬パッと開く。はてさて……俺の言葉を全て信じるとして。ではなぜ『俺がここに居る事が出来るのか』という話になってくる訳で。
「――マシュちゃんとの予行演習は、ここまでかな」
「あ……あ、あのっ!」
「あぁ。さっきの質問に返す答えは、イエスだよ」
背後からかけられた声から逃げるように、立ち上がって扉の前まで足早に歩を進めてから……最後に、答え合わせの様に口を開いた。
「塔の中で見せられた光景が、アレだったもんでね……向こうさん、よっぽど此方に詳しいようだ。自分の『恥』を衆目に晒されるのなんざ、誰でも怖いもんだろ?」
後でうだうだと説明するよりはと、一つの話に詰め込むのがここまで難しい事だとは思って見なかったんだ……(難産)