FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――マスターが閲覧を希望したのは、世界の歴史、それも悲劇について書かれた書籍のデータでした。
「此方の本に、何かご興味が?」
「あ、いいや。ちょっと目に付いたもんでね。こんな本まであるとは。人間の興味とは尽きぬものよなぁ……藤原の」
「えっと、そう呼ばれるのはちょっと」
「へへへっ、ジョークだよジョーク」
それを適当に端末でスライドさせて、あるページで、マスターは手を止めて。
何が目に留まったのか、ちょっと気になってしまって、立ち上がって見に行ってみました。本好きが高じて、こうしてライブラリの司書など任せて貰えたので。どんな本でも気になってしまうと言えば。そうです。
「……『カリギュラ』、ですか」
「狂った皇帝様のお話だよ。凄いなぁこりゃあ……弟の様に可愛がった養子を殺し、妹と近親相姦。更には浪費三昧と。これ全部本当なのか、って言えば疑わしいらしいけど」
マスターはその本を、俺は妹は大切にしたいねェ、なんて呟くくらいには、読み込んでいた模様で。
「彼に目が留まったのは、次の目的地が、ローマだからですか?」
「いや気になっただけなんだよなぁ……この格好の俺が言うのも変だけど、ヤクザよりヤクザしてねぇかこの皇帝様」
事実は小説よりも奇なり、とは申しますが。確かに物語に描かれる任侠の方々よりも確かに、強烈な逸話である、とは思います。
その道の方の様な格好云々に関して言えば……今マスターの格好が実際そうとしか見えないのは、あの、えっと。そう言うファッションという訳では無く。マスターが注文した礼装が、たまたまそう言った感じの物に仕上がっただけなようで。
しかし見た目だけではなく、その性能は本物だと、先程の試験で、証明されています。
「――という事で、レオナルドの作った礼装の試運転をしたい」
「礼装、って。注文してた、俺のアレを制御する為の……? いや、幾らなんでも早くねぇか?」
マスターがそう言うのも無理はなく。
マスター自身、制御なんてとてもできず、どうやって発動するかも分からない。それを外からどうかしようというのです。詳しくない私でも、非情に困難な事は分かります。
「本当に可能なのですか? 血に眠る……その」
「カルデアのデータベースを舐めないで欲しい。神秘の発動の仕方はそれこそ無数。ありとあらゆるアプローチを考え、その中でも最も可能性の高い幾種類かを組み合わせる形で礼装に組み込んであるんだ。ふふん」
「もちろん、僕も監修して君の体に負担がかからない物を厳選してある。医療班のトップとして、安心して使える代物じゃなければゴーサインは出してないよ」
ロマニ様の言葉は……それこそ、余人が思い浮かべるような『暴走』や『副作用』などの不安要素を先に取り除いている、と宣言していて。
その言葉に、感嘆した、という表情と共に、マスターは口笛を一つ。
「良く分からない物に初挑戦するんだ。多少なりとも一か八かの要素は入る、なんてのは創作で良くあるし、そうなるのも不思議じゃないと思ってたけど」
「創作だからそれは許される。リアルでは、一か八か、奇跡を信じるなんて、それこそ基本的にあってはいけないんだ。だから。万が一にも君に危険のない様に、組織に所属する者として、責任もって仕上げたよ」
それを誇らしげに言うでも無く、自慢げに言うでも無く。当然の事だとでも言いたげに自然な表情で。
「その礼装は、君も想定していない脅威にも対応できるように、と出来るだけを施したんだ。ぜひ活用して欲しいな」
「――そうかい。なら、その気遣いに応えないとなぁ?」
ロマニ様が手渡したのは、黒いスーツ……の、様な礼装でした。
それにマスターが手を通せば、黒いシックに決まっているスーツは……確かにマスターにはとても似合うのですが。しかし、あの、似合い過ぎてしまっていて。本当に。本当に失礼なのですけれども。
「ま、マスター……あの、えっと……良く、お似合いです」
「えっと……デザイン、考え直した方が良かったかなぁ」
「いや俺が『普通なスーツで』ってオーダーしたんだし。俺もここまでその道の方に見えるようになってしまうなんてなぁ。俺の顔って、本当にそっち方面なんだね」
そうなのです。明らかにそう言った道の方にしか見えないのです。しかも、幹部というよりは、どっちかと言えばちょっと中間管理職で、自分から戦場に殴り込んでいくような些か、そう。あの……言い方は宜しくないのですが、
兎も角あんまり上の役職ではないと申しますか。そんな感じの迫力が。
「でも、式部さんの護衛みたく見えない事も無いな。此処まで厳ついと」
「そ、それでは立場が逆なのでは」
「まぁそうだわな……でも、こんな綺麗なご婦人を護衛できるなら、俺は喜んで志願しちゃうけどなぁ?」
「きれっ!?」
――ちょっと、マスターに揶揄われたりしたりもありましたが……今の若い方は皆こうなのでしょうか……い、いえ。それは今気にしても……それは、兎も角。
その後、簡単な試運転をしてから、新作のお披露目とばかりにマスターがカルデア全体を練り歩こうと提案されて。その時に、ロマニ様からカルデアのライブラリルームの管理をついでに任されて、ビックリしたりもしまして。
それなら、と。カルデアのライブラリルームはそこまでしっかり見て居なかった、というマスターの言葉で。
行ってみようか、という話に。
……その結果、じゃあいっそ藤丸様やマシュ様も一緒に誘って行こう、という話になりまして。それでついでにお披露目でもしようじゃないか。と。
……因みに藤丸様は、マスターの格好を見た時『うわっ! 似合い過ぎ!?』とビックリされてましたし。マシュ様は『これがジャパニーズ・GOKUDOですか』と冷静に反応されてましたし。どう足掻いてもそういう風にしか見えない模様でした。
「……そんなに怖い顔してるかなぁ」
「ええと、それは、その」
「顔とかに傷、出来てるからかなぁ。でもしょうがねぇんだよ。この傷、全然治る気配とかないしなぁ……」
そう言って、マスターは少しその顔の傷を撫でました。
……マスターは、まだ若い身です。そんな顔に傷が出来るほどの修羅場に身を投じるなんて想像も出来ません。そもそも、傷が治らないで残ってしまうとは。それ程に深い傷なのか。それとも、幼い頃に出来てしまったキズなのか。
荒事にも慣れている、というそこから邪推してしまうのを止められず。
聞くのは、正直失礼だと思ってしまいます。けど……逆に腫物の様に、その事に触れないのも、如何なものなのでしょう。
「――あ、あの」
「ん? どないしたん?」
「その顔の傷、って……」
迷った結果。
かつて晴明様に言われた『君は迷ってウジウジしてるよりも思い切って振り切った選択した方がおもし……いい結果になると思うから、迷ったら突っ込んでみなさい』という言葉を思い出し、突っ込んでみる事にしました。
何かを間違った気がするのは……気のせいとして。
「あぁ? これ? いやーお恥ずかしながら、小っちゃい頃に妹と遊んでたら、ちょっとした事故でね……顔がザックリいったから皆、凄い声を上げてたっけな」
しかし覚悟を決めて突っ込んだわりに、案外と肩透かしなお答えが返ってきて、ちょっとだけ力が抜けそうになったのと……同じくらい、良かった、と思ってしまいました。恐ろしい鉄火場をマスターが経験して居なくて良かった、と。
「あ……そ、そうなのですか」
「こんなおっかない傷だけど、案外拍子抜けする由来でしょ? 喧嘩で出来た名誉の負傷とかだったら武勇伝になるんだけどねぇ」
「いえそんな」
「まぁでも、これも家族との大事な思い出だから。愛しい傷ではあるんだけどね」
――そう言って傷を撫でるマスター。
ふとその横に、浮かんで来る文字が。マズい、とは思いましたが。もうこれは止められません。せめて私以外が見ない事を願って、チラリと見てみますと。
『あの時の妹は本当に楽しそうで。可愛らしかった、と思う本造院康友であった』
……そんな言葉が、見えて。
「――マスター」
「ん?」
「妹さんは……その」
「あー、いや。大丈夫だよ。これの黒幕を恨んではない。世界を救う、なんて難行に恨みなんて持ち込みはしないよ。それが足引っ張ったら、良くないしな」
そう言って踵を返すマスターの横には、もう何も見えなくなっていて。
……それが本音なのか、どうなのか。今は分かりません。けれど……いずれにせよ。マスターをきっと、日常に返さねばならない、と。
そう思ったのです。
本造院家家族構築とか言う必要なさそうな情報