FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
右を見る。太刀を引き抜く黒い影が見える。
左を見回す。居並ぶ鎧武者共が、顔の横に大太刀を立てるようにして構えている。
そして、その何れの面構えも、成程成程……今までのシャドウサーヴァント達よりも、分かり易く人間離れしている。いや、もう人間――というよりは、『ヒトガタ』と言った方が正しいのかもしれない。
『デザインは拙僧の趣味ですが――中々のモノでしょう? 此方が拙僧の術と『良質な素材』を持って、英霊召喚という型紙にしたためた、『影霊武者』にございますれば!』
肉体を作り上げたボディビルダーをも上回る屈強な肉体。特に刀を振るう為の膂力を鍛え上げる為か、上半身の発達具合はかなりのモノ。
その顔は――いや、顔に見えるものは、張り付けられた真っ赤な面皰。その目と開いた口の奥からは、黒い『靄』のような物が常に溢れだしてきている。
何れも此方の身の丈程もありそうな大太刀を携えた、そんな人外に片足突っ込んだような奴らが、ぞろぞろと梢を割って進み出てくる――こりゃちょっとした悪夢だ。
「ふん、無駄に数を揃えたものだ。下らん」
「うわぁ、五百もいるっていう話、ハッタリじゃなさそうです!」
「向こうさんが態々言う必要もあらへんし?」
「……それが噓か誠か。何れにせよ関係はない――ここが死地である事にはな」
……巌窟王の言葉に、僅かにリリィが頬をヒクつかせているのが見えた。
周辺、全てが黒いシャドウサーヴァント――否、奴の言う所の『影霊武者』か――道満が改良せしめた、と断言する新兵力に取り囲まれてしまっている。正しく敵の懐に飛び込んだって感じだ。ゴルゴーンさんが顔顰めるのも当然の敵の密度。
まぁ、元から罠と分かって飛び込んだんだから、覚悟こそしていたが……あまりにも分かり易い待ち伏せの布陣で、もうアサシンと同じ様に、こっちは笑うしかない。いや、アサシンが笑っているのは『食いで』への歓喜か。一緒にしちゃダメだな。
マスター二人と、サーヴァント六人で、計八人。対するは五百。数で考えるなら間違いなく絶望的って言っても良いだろう。
「――ま、こっちも想定済みだっての……!」
……が、そっちから来いっていった所に突っ込むにあたり、こっちも全然何も用意できてない、なんて阿呆な話は無い訳で。
ちらりと片手に嵌めたゴツめのグローブへと目をやる。その手の甲側に取り付けられた白いボルト――此方の切り札の『安全弁』らしく、何れ使うかもしれないと動作チェックの為の試運転も兼ねてのお披露目って奴だ。
「はっ、一回こっきりのとっておきだ! 喰らって震えな――藤丸!」
「分かってるとも!」
――令呪が脈動する。
本来、サーヴァントへのちょっとしたブーストくらいにしか使えない、カルデアの令呪だが。しかし、今回ばかりはその限りではない。ブーストには変わりないが、最早ちょっとしたのレベルは越えている――!!
「「――ブースター準備――完了……令呪、起動!」」
絶望的な状況に向けて、牙と共に声を張る。
「皆、行くよ!」
「頼んますぜ、お歴々ィ!!」
此方の二人の手から、一画分の赤い紋様が消えて。
二つの輝きは天へと上り。それぞれ三つずつ、計六つの赤い流星へと分かたれて。その全ては、カルデアに力を貸してくれる、心強い英雄達へと向けて降り注ぎ。衝突すると同時に、弾け、力の渦となり、各々の身体へと宿っていく。
「――はいっ! マスター!」
「――承知いたしました、マスター」
俺達の声に応える、頼もしい二人のサーヴァントの声。一瞬の空白。
その後に――真っ先に飛び出したのは、敵方。静かに此方を伺っていた内の何体か、影霊武者なる異形達が、声にならない叫び声と共に、一直線に突っ込んで来る。
眼孔に当たる部分には影しか見えず。しかし、その目に燻る『もや』は、確かに此方を捉えている気がする。
さて、ご自慢の影霊武者、如何なるものか。
その前に、鋼を纏った、無垢な乙女が立ちはだかる。深く構えるは、十字を象った濃紺の大楯。未だその身体に宿る英霊の真名も知らない。けれども……今まで特異点を乗り越えてきた――マシュ自身の強さは本物だ。
彼女に対する武者たちの反応は――敏捷そのもの。此方を囲む様に、四方八方から襲い掛かろうとしていた所から、瞬時に突出したマシュへと取り囲む様に一点集中していく。
今まで、動き自体はキッチリとしていたものお、何処か覚束なさを感じさせる動きとはまるで違う。
「――ハァッ!!」
自分に突っ込んで来る敵に対し。
立ったままで思い切り振りかぶった、大ぶりの一撃が――カウンターの様に、向かう。
多数対一。子供でも分かる様な圧倒的な不利。如何に重量級の盾の一撃とて、普通ならそれを阻む事も難しいだろう……だが、しかし。
――べ き ん
一瞬の拮抗と共に――最初にへし折れたのは、武者共の大太刀の方。それを見たのか、それとも本能の反応か。慌てて自分達の勢いを殺し、一歩下がろうとしているがしかし。
その一歩が、余りにも遅かった。
「っ……やぁあああああああっ!!」
直撃――から、べぎ、ごぎゃ、どご、と。一瞬の間に、音が連続する。
堂々とした、腰の入ったスイング。マシュの盾の一撃は、突撃で勢いの乗った影霊武者共という弾丸を。その勢いをそのまま跳ね返すかのように。ホームランに、打ち取った。
空に舞う怪物共――しかし、吹っ飛ばされたとはいえ、流石に消滅する様子は無し。地面に落ちれば、またぞろ襲ってくるかもしれない。
「――逃しません」
だがしかし。
それを許さぬ、と言わんばかりに……宙へと舞う怪物達へ、放たれるは空へ書かれた黒文字と流星――浮かぶ五芒星から放たれた術が、一発ずつ。空に舞う怪物達の、その額を、正確無比に射抜いて見せる。
びくんっ、と僅かに震えてから。
怪物達は、吹き飛ばされたその時の姿勢のままで……黒い塵へと、解けて、虚空へ消えていく。そして、再び一瞬の空白。
「――ンンンンン……先走った未熟な固体、とはいえ。こうもあっさりと、とは」
僅かに。低くなった声が、確かに聞こえた。
先程から見せていた余裕も。漸く失せたか。此方を見つめる目の表面は。酷く静かに凪いでいて――けれど。滾る熱に、その瞳の奥は、揺らめているようにも見える。
どうやら苛立ちくらいは抱いてくれたみたいで、安心した。
「――法師様」
「くくくくくっ……晴明の弟子たる貴女にしてやられる。そこまで拘っていた訳でもございませぬが、あぁ――実際、やられて見ると、ここまで! 屈辱! 極まりないとは!」
微笑みは――その一瞬、笑みとも呼べぬ、歪んだ激情へと変貌し。
広げられるように、何かを迎え入れる様に。その両手が掲げられる。今度こそ。リンボの傍に控えていた影霊武者共の多くが、その大太刀を揃って構えた。
全軍突撃。その合図だろうか。さて。
それをこっちが待ってくれる、と。本当に思っているのだろうか。蹂躙への愉悦にその貌を歪ませて。
「良いでしょう、この屈辱は――」
「「囀るな」」
――その顔の横を、紫紺のレーザーと、黒い焔が、一瞬で飛び抜けて。
左右に展開していた影霊武者の……数人をあっさりと吹き飛ばし。数人の身体を焼き焦がして地面へと跪かせる。
顎を広げながら鎌首をもたげるゴルゴーンさんの髪の蛇。無造作に突き出された腕の先で黒炎を上げる巌窟王の手袋――それぞれ、カルデアでも最高峰の火力。奇襲に使うには余りにも贅沢な一発。
リンボも次の言葉は、続かないか――否、続けられないか。
「なっ――おぉっ!?」
「やぁああああっ!!」
完全に虚を突いたタイミング。疾駆するのは、マシュ以上に白い少女。バトルドレスとブロンドの髪を揺らし、踏み込む一歩は、何処までも真っすぐで。
振り下ろした上段からのカリバーンの一撃が、リンボへと向けて襲い掛かる。
その僅かな一瞬――先ほどの武者たちと違って、一歩下がっての後退が間に合い。僅かにその剣の切っ先は、リンボの身体を捉えずに空を切る。流石に他とは違う、そう言わんばかりに、男はリリィを睨みつける。
「い――きなりご挨拶ですなァ……っ?」
――その視線の先には、多分白い膝小僧しか映っていないだろうけど。
ご ぎ ゃ
「ふぐっ!?」
今度こそ、クリーンヒット。
武者共の奥へと、着物の裾をはためかせながら、リンボが吹っ飛んでいって。
真正面から、鼻っ柱を叩き潰す形で、見事に決まった飛び膝蹴り。地面にすとん、と着地し。その膝を、鼻から噴き出したであろうリンボの返り血で濡らしながら、アサシンは、袖口で口元を隠してくすくすと笑って見せる。
「油断大敵ちゃう?」
……その完璧な挑発に乗る様に。
吹っ飛んだ先から――背筋を嫌に真っ直ぐに伸ばしたまま、道満がダッシュで戻ってくるのが見えた。
無駄に健康的に走りながらも……未だ、その闘志は燻る様子もなく。
寧ろ、額に青筋浮かべて。油をかけて火すら付けた形か――上等だ。
「ンンンッ!!! 上等!!! 上等!!! 総員ッ、構えぇい!!!」
激昂したリンボのその台詞と共に。
些かと遅れる形にはなったが――緒戦の火ぶたが、切って落とされた。
皆様お気づきでしょうが劇場版のアレです。まぁ、いきなり投入するよりは、試験運用した後の方がいいかなって……