FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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ただいま(小声)

神田明神と湯島天神にお参りして来ました。


第百十一章:敗北者たちに慰みを

 ――その時、リンボの方を見つめていたから。

 

 俺は、奴の背中の奥に現れ始めた変貌に、誰よりも早く気が付けた。

 鬱蒼としていた木々の緑が、茶が、影の黒が。突然、絵の具の様に――『融けた』。いいや、『歪んだ』、のか。

兎も角、その輪郭を失い、そして……それらすべてが混ざり合う様に渦を巻いていく。中心へ向けて、ぐる、ぐる、ぐる、と。

 

 その全ての色が混ざり合って生まれるのは、底なしの黒。中心に表れたそれはどんどんと色を喰らって膨らみ続け、そして――遂に、一つの大きな『孔』へと姿を変える。

 

「――なんだ、アレ……!?」

 

 ……藤丸のその声に答える様に。

リンボは背後の孔へと振り向き、口を開いた。

 

「――我が主、些かとお早い御着きで。野暮用とやらは?」

『ついさっき終わった所でね。君の奮戦を聞いて、居てもたってもいられず、飛んできたところだ』

 

 ずるり、と。

 

 影の奥から、光の下へ……そいつは、酷く軽い足取りで、革靴の先から踏み出した。

 ここは戦場だってのに、休日にするっていうドライブか何かだとでも思っているのだろうか――酷くゆったりとした仕草で。ベルトに張り付いた何枚もの金属板が、カチャリと音を立てている。

 

 詰襟の学生服に良く似た、黒の艶やかな上下の揃いのスーツを着た男は、顎に蓄えた黒々とした髭を一撫でしながら。周りの兵隊をぐるりと見まわして……最後に、リンボへとその身体を向けた。

 

「――想像よりも、圧倒的に消耗していない。彼らを相手に……流石は君の用意した五百の精鋭といえるかな。リンボ」

「ンフフフ……『関八州』を治めた王からの直々のお褒めの言葉、心に沁みますまぁ」

「それが本気での言葉であればいいのだけれどね」

 

 僅かに苦笑してから……続いてその首が、此方へとぐるりと回る。

 僅かに右に撫でつけられた髪型……その下から此方に向けられる瞳は、酷く沼の様に深く、暗い。

 

 リンボが主と呼ぶ、その意味……つまり、コイツがカルデアに敵対しているもう一つの勢力の親玉という事――

 

「――あぁ、済まない。挨拶が遅れたねカルデアの諸君。お初に、お目にかかる」

 

 酷く鷹揚に。そして……わざとらしい位に、朗らかに。男は口を開いて、胸元に片手をやってから。老紳士ぶった、妙に洗礼された仕草で頭を下げて見せる。

 

「この一党を束ねる――相馬、と申す者。以後、お見知りおきを」

「……相馬、関八州……!?」

 

 その言葉に最初に反応したのは――式部さんだった。

 その変容に、思わず目を見張る。見る見るうちに引いていく血の気。僅かにふらついたその身体を、慌てて支えた。

 

「し、式部さん!?」

「そ、そんな……まさか……!?」

『――相馬群の出身の貴方は、その名を名乗っていた事もあったらしいけど。本来の名を名乗らないのは、『余裕』のつもりなのか』

 

 通信機から聞こえてくるロマニの声も、若干硬い、気がする。まだ俺にはピンとは来ていないが、第三特異点のヘラクレス、第五特異点のカルナ、アルジュナを思い出させる――明らかに『ヤバイ相手』をしているような。

 

「その様な……単なる仮の名だよ。そう名乗るには、『今』は些かと、ね」

『しかし貴方の名を呼ぶ事すら、ちょっとした『呪詛』となり得る程となれば、それを隠す事自体が余裕と取られても仕方ないだろう。神にすらなった『荒魂』――平親王』

 

 ――平親王。

 

 その名前に……思わず顔が歪みそうになる。

 知らない訳がない。日ノ本に住んでる人間なら――最も有名な『平氏』の一人。当時の日本の社会の根本を揺るがしかけた、間違いなく英霊と呼べるレベルの、傑物。

 そして……以前、向こうが彼を『手本』にした理由が、良く分かった。そりゃあ自分自身を手本にするなら祟られようも無いだろう。

 

「……将門……平将門……!?」

「それは我が『本霊』の名……今はただの影法師故、相馬と呼んで貰えればいい」

 

 ……リンボを従える親玉。成程、格だけならソロモンにも劣らないか。何せ、死ぬ前にも伝説を残し、死んだ後から現代に至るまで伝説を増やし続けた偉人は、人類史でもそう多くは無いだろう。

 

 そして――俺を記憶の特異点で襲ったゴーストの手習いとなった人物。

 

「――片田舎の貴族を率いて反乱した男、以上の評価がされないのも、今は仕方あるまいよ」

『おや、私の発言も耳にしてくれていたのかい? 存外と、噂話に耳聡いようで』

「誰かを纏め上げるのには、意見が良く聞こえる耳も必要なのだよ。『万能の人(ウォモ ウニヴェルサーレ)』」

 

 ……あの時の巨大なゴーストを思い出す。ただ一体だけでも、十分に俺たち纏めて粉砕できるレベルの怪物だった――それが、『最低』だ。

 

 目の前にいる男は、どうだ? 今、此方を見つめる男は?

 なんて事も無いように立って、此方を観察する様にまじまじと見つめる男は――少なくとも、あんなレベルの呪詛を撒き散らしちゃいない、気がする。それこそ、戦う者っていうより、前線に視察に来た政治家の様に、薄っぺらなにこやかさを纏っている様な。

 けど……それが演技じゃない理由が何処にある。あのリンボが付き従うのなら、実力は確かなものだと思っていい。胎の奥に隠し持ったその力は――どれ程だ?

 

「――ではその耳で。私達の言葉も聞いてもらえるのでしょうか。『相馬』さん」

 

 ――そうやって、俺達は無駄に警戒してしまうから。

 

 ここで、真っ直ぐに口を開くのは。誰よりも純粋で、そして色眼鏡で見ない。白い少女だったのは、当たり前だったのだろう。リリィの隣から、藤丸を守る様な位置へと踏み出しながら、マシュは、此方を見つめる男に毅然とした態度で、口を開いた。

 

「あぁ、当たり前だとも――マシュ・キリエライト。無垢なる少女よ。聞かせてくれたまえよ私に……何を問いたい?」

「人理焼却に手を貸す、その理由を。そして――本造院さんを狙う、その理由も」

 

 そしてその言葉は、愚直な程に一直線。黒幕が目の前にいるのであれば、とりあえず聞いておくか、位にあっさりと。余計な問答も挟まず、最短のその問いに……ぴゅう、と『相馬』は口笛を吹かせた。

 

「良いな。真っすぐで、そして要点を臆さず狙う。情報よりも何倍も剛毅で、そして勇敢な少女じゃないか――リンボ、報告は正確にしたまえよ?」

「申し訳ありません。しかしまぁ、アレの伸び方は雨後の筍の如しで……」

「想像を超えた、という事か。成程成程……であれば、だ」

 

 腰に当てていた手をするりと下ろし、もう片方の手と合わせ軽く広げ。僅かに頭を低くしつつ、マシュの方を覗き込むその仕草は……何処か、おどけているかのようだ。

 

「命儚き彼女の逞しき成長の祝いに――その問い、真摯に答えさせてもらおう」

 

 ……ぴくり、と片眉がヒクつくのが自分でも分かった。

 自分でもこうだ。藤丸の方は――と、視線をやれば。案の定、僅かに顔を顰めている彼女のマスターの姿が。挑発、にしては些かと分かり易く、チープだ。その上、厄介な事に喋り口から、本当に単純にマシュの事を憐れんで、言葉通り真摯に応えようとした言葉である可能性も、捨てきれない事。

 

 不気味だ。見た目はリンボよりも酷く地味で、印象に残らないというのに。此方を眺める暗がりの瞳と、口の端に浮かべた優し気な薄笑いが……うなじの辺りをチリチリと焦がして止まない。

 

「人理修復に手を貸すその理由……まぁ、単刀直入に言うのであれば、『敗北者』達の慰問の為というべきかな?」

「……慰問、ですか」

「そうだとも――リンボの正体は、もう勘付いているかね?」

 

 その言葉にゆっくりと頷いたマシュに、体勢を戻した男は楽しそうに一度、二度と頷いてから……すらりと伸ばした指先を、パチンと鳴らして見せた。

 

「素晴らしい、流石だ……彼はかつて、さる陰陽師に敗れる形で都を去る事となった。こんなにも優秀な術師が、だ」

 

 それから両手を……今度は先ほどより大仰に、鳥の羽の様に広げ。男は穏やかにほほ笑んで。そして、今度は鳴らした指とは逆の方の手で……傍らのリンボを指し示す。

 

「歴史とは、僅かな勝者と多くの敗北者が折り重なって出来ている。歴史が続くだけ、無念の内に敗れ去った者達の恩讐は、何処までも、ゴミ山の様に積み重なっていく――それを無情だと思うのは、当たり前の事ではないかね!」

 

 マシュが、真っ直ぐに見つめている。巌窟王が、僅かに稲妻を纏っている。ゴルゴーンさんの髪の蛇達が、本隊の苛立ちを表すように、ガチリと牙を鳴らす。

 まるで、演説かの様に、堂々とした語り口は……第五特異点で合衆国を率いていたエジソンを思い出させる。違いがあるとすれば……目の前の男は、情熱的に、しかし何処か寂しげにも言葉を語る――その全てが『芝居がかっている』ように見えてしまう、所か。

 

「君も見ただろう――ジル・ドレとジャンヌ・ダルク、ブーディカ、黒ひげ……何れも、歴史においては、凄惨なる敗北の憂き目に晒された者たちだ……!」

 

 しかし……その芝居がかった大げさな仕草は、一々が真に迫り、此方に訴えかけてくる確かな力に満ち溢れている――まるで、舞台に立つ名優の如しだ。

 天を仰ぎ、僅かに鼻をすする様に鳴らす。くしゃっと歪められ、表情に皴と共に刻まれた深い『哀』の感情は、言葉にせずとも理解は、出来る。

 

「彼らだけではない……歴史に名前すら刻まれぬ、負けという一言に埋もれさせられた者達……あぁ、何と、何と哀れな事であろうか!」

 

 ――けれど顔に張り付いていた感情は、すとん、と。

 

 此方へと顔の向きが変わるのと同じタイミングで、綺麗に落ちて。此方を見つめる『相馬』の表情は、先ほどまでの穏やかな微笑みに、写真を切り替える様にすり替わった。

 

「その敗北した者達の無念を如何に晴らそうか、考えた――ああそうか、なら『今の歴史などひっくり返してやれば丁度いい』……と、ふと思った」

「まさか……!?」

『だから人理焼却に手を貸した、というのか……!』

「その程度の理由だよ。大層な理想がある訳でも無いとも」

 

 背筋が冷えていくのが分かる。成程、お題目は立派なもんだ。敗者に敬意を表したいというのも、そりゃあ普通の事だとは思う。だが――そこから、まるで墓前にちょっとした供え物でもするかのように、世界を焼き尽くすという結論に、ならんだろう、普通は。

 

「その序に……私の反乱に付き合ってくれた、同胞達への少しへの慰めになれば、と。そう考えた次第なのだよ――」

 

 ……成程、と思う。

 

 実力がどうかは、まだ分からない。しかし……目の前の男が人理焼却を成すのに手を貸した男だというのは、良く分かった。

 どんな業の深い行いにも、足取り軽く挑める――逆に言えば、コイツの様な人物で無ければ、こんな世界を滅ぼすなんて言う真似は、出来やしないんだ。

 




こんな場末の二次創作とて、この御方の名前を出すのには覚悟が要り……という事でちゃんと参拝はしてきました。

いやーオリキャラ造形するの本当に大変ですね……でも取り敢えず満足できるレベルの悪役が出来てとっても嬉しいです……
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