FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
――一歩、此方へと『相馬』が踏み出す。
マシュが、盾を構え直す。気圧されたのか――否、視線は一ミリもブレてやしない。警戒を怠っていないだけだ。目の前の異質な男の気配に、彼女は全く吞まれていない。
敵ながら、彼女の評価は一つも間違っていない。理知的ながら、豪胆。五つの特異点を超えて、勝負度胸は随分と逞しく育ってきている。
男の下ろした視線に射抜かれても、毅然と見つめ直す姿に。二、三度ほど瞬きをした後に……『相馬』は、ゆっくりと笑った。
「……いやはや、全く以て惜しい。敵でなければ、是非とも我が方に引き入れたいほどの逸材だ。マシュ・キリエライト」
「ありがとうございます――もう一つの事についてはお答えいただけないのですか?」
そして、そのまま更に言葉を続けるだけの図々しさまで。なんだろう、本造院おじちゃん、ちょっと涙もろくなってきたかな。ちょっと涙が……ああいや、式部さんがまだちょっとふらつき気味だから拭えねぇや。
……こうして見ると、式部さん達にとって『平将門』という存在がどれだけ畏れるべき相手なのか分かる。式部さんは、しばらく動けそうない。元々戦闘畑の人じゃないんだし、寧ろ今までこうならなかったのが式部さんの頑張りそのものだ。そこをとやかくいうつもりもない。
さて――他はどうだろうか。
「あぁ、誤解をさせてしまったかな。些かと昂り過ぎた為ね、少し姿勢を正し、落ち着きを取り戻そうとしただけなのだよ――リンボ、椅子を頼めないかな」
「ンンっ!? いやまぁ構いませぬが……今でございますか?」
「この語らいが終われば、直ぐに血が吹き荒れる事となる。今で無ければ腰を据えて話す事も出来ないだろう……その辺りに、ちょっとのモノで良い。頼むよ」
……先ず、残りの藤丸のサーヴァント達。
セイバー・リリィは……元から戦意は全く喪失していない。寧ろ先程の発言から、更に奮起しているようにも見える。相手は間違いなく此方どころか人とは相容れぬ悪意の持ち主だ――それに対し憤るのは、騎士の正義か、彼女自身の善意か。
巌窟王の方もやる気は十分って感じだが……リリィと違って、明らかに憮然とした表情から、『殺』の方のやる気が感じられる。
んで、似たような顔してんのはウチのゴルゴーンさんも同じ。だけどもこっちはまぁ理由が分かり易いというか。過剰反応と言えばそれまでだが、敗北者っていうのはゴルゴーンさん的には見過ごせないワードだったか……ちょっと牙剥き出してんな。
「――さて、もう一つ。カルデアの『もう一人』のマスターを狙う理由だったか」
そんな二人からのメンチすら『相馬』にはまるで通じていない。というか、今は話しているマシュに意識を割いているから、ハナから気にしていないって感じで。
自分の立っている位置から少しずれた所。リンボが空中に置いた、何枚もの札の上に腰かける……その仕草もメッチャ無防備そのもので。休日の中年オヤジみたいに、何処かのっそりとしてる。目の前のマシュを見つめたまま、身体に無駄な力は入ってない。
「そちらに関しては……まぁそれなりには、長くなるが……如何かね? 少しその盾を下ろし、語らいの時間としないか。互いに睨み合っているこの状況は、些かと息苦しい」
「いいえ。私は、マスターの盾ですので。その責務を疎かには出来ません」
「成程……加えて、無粋だったか。すまない。話を続けようか」
じゃあマシュだけを見ているのか、って言うとそうじゃない。
今の話の内容的に俺に視線を向けてるのか――最初に一歩を踏み出したあの時、数度の瞬きのその刹那……僅かに一瞬だけ、奴はマシュの後方をちらりと見ていた。
しかし、見ていたのは俺ではない。
今、奴がいる位置で確信できた。マシュを正面に捉えつつ、その後方……正確に言うなら俺の後方を一緒に目に入れられる位置に、陣取ったのだ――他の全員と違う、ある意味で異質な反応を見せている『人外』を、冷静に視界に入れられるように。
後方を見つめる。地面に突き立てた大剣に背を預け、小さな口で一欠伸。先ほどまでの剣戟の中で、相手の脊髄をへし折って楽しげに笑っていた姿は、そこにはない。腰の瓢箪に手を伸ばす気配すら、アサシンには見られなかった。
ゴルゴーンさんと違って、まるで敵の親玉に興味はなさそうだ。こういう時にこそ、楽し気に笑うと思っていたのだが……
「っとその前に、確認をしておかなければ」
――ふと。
顔を戻したその一瞬。暗い瞳と、視線が絡む。
「ここからの話は、君の出自に関係のある事なのだが。流石にここまで旅をしたのだ。その一片程度は――」
「――話してねぇよ。生憎と、そちらさんの猛攻が強くて、話す暇もなかったもんで」
……一呼吸の間に、気持ちを整える。
余計な事は、今は考えない。最低限の返事だけをして、改めてアサシンの方に視線を移す。奴がアサシンだけに注視を払っているのは、何か意味があるんじゃないか。実力の定かではない相手である以上、一挙手一投足に注目するのは当然だ……いや、流石に俺の方に手を振るのは気を抜き過ぎなんでやる気出してくれアサシン。
兎も角。如何せん不気味な相手ではあるが、それで怯んでビビッて戦えません、なんて言い訳は出来ねぇ。
「……君ねぇ。もうちょっと驚くとか、反応するとかないのか」
「今までの『嫌がらせ』で想像つかない訳は無いと思うんだが……んで、どうすんだ。話すなら、俺に止める権利はねぇ――恨み骨髄で、耳を傾けさせてもらうが」
話すときは、強めの言葉を使って必死に内心の恐怖を覆い隠す。そんなモンが歴戦の英霊相手にどれだけ通じるかは知らないが……何もやらないよりは、取り敢えずは何倍もマシだと信じたい所だ。
「ふむ。であれば……済まないね。マシュ・キリエライト」
……さて、此方の無言の抵抗は、如何ほどに通じたのか。
『相馬』は、僅かに顎髭と、服に一輪だけ書かれた花の紋様を、ちょいと撫でてから。僅かに眉を八の字に寄せて……ゆっくりと、頭を下げて見せた。
「我が目的と、彼の出自の話は、切り離して語る事は難しい……本人の話していない事を私からべらべらと喋るのも流石に配慮というものに欠けるだろう。彼を狙う理由は、詳しく話せそうにもないな」
「……そう、ですか。はい。であれば、私もそちらの方が」
「残念だ。君の様に純真な乙女と、もう少し語らいたい所ではあったのだが。それを、立場という者は許してくれないらしい」
腰を下ろしたまま。
マシュが、ぺこりと頭を下げて。それから、一歩下がって藤丸の傍らに立つまで。『相馬』はただじっと見つめていた。視線は――自然と、マシュから、藤丸へとスライドしていく。
「カルデアのマスター。我が宿願の前に立ちはだかる『敵』よ……さて、これからは君たちと殺し合いに入る訳なのだが――」
――穏やかな目元が。かっと見開かれた。
「悪の親玉らしく、一応、聞き遅れていた事を尋ねておこう」
途端に――溢れだすのは、忘れがたいあの感覚。それぞれの膝の上に、片肘ずつを乗せて。顔の前に置いた両手が、口元を隠し。その瞳だけを
巨大な悪霊が撒き散らして来た、あの呪詛にも似たもの。だが……これは、ああいう分かり易い『力』ではない。僅かに低くなる声、その奥に見える燃え滾る炎の様な揺らぎ。ピリッと肌に感じる、圧力。
瞳孔まで開き切った、暗がりに見つめられて。僅かに、藤丸の顔の険しさが増す。
「――見て来ただろう、歴史に敗れた、輝かしき敗者たちを。皆、敗者になるには、余りにも惜しい人物ばかりであった……違うかね?」
「……」
「彼らの無念に、一つの慰めを、そう思う事に何の罪があろう――君も、私と共に、彼らに手向けの花を、飾ってくれないか?」
最後に、僅かに緩む熱。差し出された手。剥き出しになった口元が、三日月の形から白く濁った歯を剥き出しにする。一瞬、交錯する視線の後。
「――いいえ。俺の出会った彼らは、そんな事を望む人たちじゃ無かったと思います」
「成程……重ねて、残念だ」
絡み合った線は、すぱりと切って落ちて――俯いたその顔の隣で、ぴん、と指が立てられる――その合図に合わせる様に、『相馬』の背後に控えていたリンボが再び一歩、前へと進み出た。
抱えていた式部さんの肩を、ポンと叩く。
先程から、腕の中でゆっくりと呼吸を整えていたのだ――顔は、まだ僅かに青いままだけれども、それでもゆっくりと、立ち上がってくれる。
「いやさ、やはり問答に何の意味がございましょうや――やはり我らには、血風舞う地獄が似合いにて! そうでございましょう、カルデアのお歴々!」
「マシュ、リリィ、戦闘態勢! エドモンは改めて背後の警戒を!」
「アサシン、ゴルゴーンさん、派手に頼むぜ!」
今のを見て、容易く終わるとは思えない。周りのシャドウ共を叩き潰しても、後方のアイツが残っているんだから……少なくとも、余力はたっぷりと残しておかないといけないだろう。
出来るかどうかは、兎も角として。
「リンボ、程々にしておきなさい――我々の本番は、コレからなのだから」
「そう言われましてもなぁ。今まで呑まされた煮え湯たるや、滝の如し! その勢いでうっかりと首を取ってしまっても、自業自得という事で!!」
今まであんまりしゃべらせられなかったから、相棒兼頼もしい後輩の成長をドバァっと書いてみたぁ!!