FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――くっ……」
……瞼が開き。入り込んでくる輝きに、僅かに目を細める。
掌を翳し、差し込む光を遮りながら、もう片方の手を寝ころんでいた所について、身体を起こす。掌に感じるのは湿った……土の感触だろうか。どうして自分は、こんな地面の上に寝転がっているのだったのだろうか――
『――皆々様に置かれましては、存分にご堪能いただければ! これより開くは我らが一座が渾身の人形劇! 話すは涙! 聞くは八苦! 開くは人の世の獄の蓋! さぁさカルデア御一行様、どうぞ喝采あれ!!』
「……っ!?」
頭に浮かび上った景色に、跳ね起きた。
「――俺、は……!?」
咄嗟に頭に向けて伸ばした指先が、『髪』を掻き分けて地肌を掻く。そうだ。思い出した。俺達は、特異点に突入した後、リンボと激突して……それから、どうなったんだ。
まだ記憶がはっきりとしない。靄の様に定まらない頭の中を、必死にかき集めて思い出す。途中までは、此方もかなり奮戦できていた、気がしている。
で……それから、そうだ。
その戦いの最中に、現れたんだ。リンボを率いる相手の首領が――『平将門』を名乗る男が。その男と、マシュが――
「あ……」
そこで、目の前で此方を見つめている、アメジストの目と視線が絡む。ぱちくり、と瞬きを一つしてから……張り詰めていたその表情が、少し、緩んだ。
「目が覚めたんですね、先輩! 良かった……!」
そこで、漸く今、何処にいるかが把握できた。
洞窟……というより、岩場の影か。ぐるりと周りを見回す。生えている木々は……先ほどまでいた場所と同じ様な……同じ山の中ではあるのだろうか。
「ま、マシュ……俺……あっ! 他の皆は!?」
俺も無事じゃなかった、じゃあ――
「……リリィさん、巌窟王さん共にご無事です。リリィさんは、私と共にこの臨時キャンプの護衛を。巌窟王さんは、周辺の偵察を引き受けてくださっています」
――マシュは、そう言って、自分の背後を指し示す。
影の外。剣を構えて日向で周辺を見回しているリリィの姿が目に入って……此方が起きた事に気が付いたらしく、ぱぁっと顔をほころばせながら手を振ってくれる。
周辺に、他の人影は……見えない。
「マスター! 良かった、御無事そうですね!」
「あ、ありがとう。えっと……」
改めて、マシュに視線を合わせる。どうやら、自分が『足りない人影』を見つけられない事に気が付いたらしい。その表情が、分かり易く曇ったのが分かった。
顔色が、良くない。それを見るだけでも……今が全く良い状況ではない事は、察するに余りあった。
「――マシュ、康友達は」
「……いません。私達が目覚めた時には、姿かたちもなく――やはり、あの一瞬を突かれて、向こうに確保されてしまったのかと」
――奥歯をかみしめる。
思い出す。リンボと此方の激突の最中の事だった。
その直前まで、普通に敵と殴り合っていた康友が……突如として頭を押さえ、苦しみ出したのだ。
『――がっ……ぐ、うぉ……っ!?』
『マスターっ!?』
『くそ、がっ……この為に……仕込んで……やめろっ……やめろっ! てめぇら……近寄るんじゃねぇっ……母さん、父さんっ……早く、逃げっ……!』
うわごとの様に、何事かを呟きながら……そのまま、康友は崩れ落ちてしまった。
地面に蹲りながら、獣の様に唸り、額に脂汗を滲ませて。明らかに正気じゃないその様子は、此方にとっては緊急事態以外の何者でも無く。そして……敵にとっては、これ以上ない程の好機だったのか――それとも、初めから待っていた『機会』だったのか。
『――いやはや、やはり『この土地』においては相性が宜しいのでしょうなぁ! ひと時の郷愁にそれ程喜んでくれるとは、此方としても御招待した甲斐があるというもの!』
その一瞬を突くように、リンボは術式を展開した。それに、誰よりも真っ先に反応したマシュの一撃と、シャドウサーヴァントが衝突して――
「……多分、その後にリンボが術を発動して、分断されたんだろうね」
「私も、記憶があるのはその辺りまでなので、恐らくは」
……正直、康友が狙われているのはロマニも、ダ・ヴィンチちゃんも、二人とも想定していた。体質の事もあって何かしら細工がされているかどうかの精密検査も、ずっと欠かしていなかった筈だ。
それでも――それでも、連れ去られて、しまった。
「――くそっ」
地面に、拳を叩きつける。起きたばかりで、力も入らない手から返って来る軽い感触に歯噛みする。から回っていると嗤われている様だった。
もっと警戒出来ていれば、なんて。今更で、後の祭りだって事は、分かってる。それでも思ってしまう。一緒に戦って来た、たった一人の、初めてのマスター仲間。
守れていたかもしれないのに。
「先輩……」
「……」
一度、目を閉じる。胸の内にざわめく、苛立ちを感じる。頭を焦がす……衝動だ。
それを――深く、深く、呼吸する事で。胸の奥で、鎮めていく。これ以上、燃え上がらない様に、と。思考は、努めて、冷静に、氷の様に。
本当にそうするのは、自分では無理だけど……感情のままに取り乱してもどうにもならないのは、この旅の中でいい加減に学んだ。だからせめて、焦っちゃいけない。
「――マスター」
「……カルデアとの連絡は?」
先ずは――現状把握。
焦燥で高鳴っていた鼓動が、落ち着きを取り戻す。一つ、最後に深呼吸を入れてから。目の前の頼りになる『相棒』と再び視線を合わせて。
僅かに曇っていた表情が……少し、緩んだ気がした。
「接続状況が不安定になっており、今は困難です。向こうからの通信もありません」
「オッケー……初めてかな。向こうからの通信が無い状況でのミッションは」
「そうですね」
「――やれる事からやる。コレからのプランは、エドモンが偵察から戻ってきたら立てるとして……取り合えず、それまでは、感覚を開けて何度か通信を試してみよう」
立ち上がって、身体の調子のチェック。手をぐぱぐぱと開いて閉じて、痺れとかはなさそうだ。何処か怪我をしているとか……も、無し。完全にこっちを分断して、でもそれ以上の事は出来なかったのか、それとも此方は『取り敢えず捨て置く』と判断されたのか。
何れにせよ……頭の良さそうな人だったけれど、意外と詰めは甘いっぽい。
カルデアは何時だって、酷く諦めが悪いんだ。こんな状況だって、取り敢えずは足掻く事は止めない。そうじゃなかったら――こんな旅なんか、していない。
「よし……あ、その前に。リリィ、周辺にエネミーは?」
「――特には見当たりませんでした! シャドウサーヴァントの姿も全然見えません!」
「なら問題は無いか……マシュ、通信を試してみよう」
「分かりました。今度は、出来るだけ障害物の無い場所で――」
「――悪いが、其方の予定はキャンセルにしてもらうぞ。共犯者」
と。
マシュが通信機器を起動するその直前――コツ、という革靴の音が、岩場に僅かに響いて。音の方向を振り返れば、入り口に立っているリリィの、傍らの辺りから青黒い焔が迸り。その奥から、黒い外套が翻った。
「――エドモン!」
「おかえりなさい!」
「遅くなった。随分と自由な偵察を行えたものでな。少しばかり情報集めに耽り過ぎた」
そう言ってから、ポークハットを深くかぶり直し――エドモンは、近くの岩場に腰を下ろした。特に傷や、戦闘の跡もない。
ここら辺でも、敵の姿を見かけていない。間違いなく、敵の懐だというのに。エドモンの口ぶりからして、偵察中でも何か邪魔が入った訳でも無さそうだ。って事は。
「――エネミーとかは、居なかったって事なのかな。ここだけじゃなくて」
「そうだ。アレだけいた影法師共も姿かたちも無い。恐らく同じ山であるとは思われるのだが……酷く静かだ」
隣のマシュと、思わず視線を合わせる。
入り口近くに立ってるリリィに手招きを一つ。もう見張りは良いのか、という言葉に取り敢えずは今は大丈夫、とだけ返して――顎に手を当てる。
分断され、放置され――しかし、此方を襲う素振りもまるで見えない。
酷く、不気味だった。
藤丸君を主人公としたエピソード、スタート