FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――ホントです。ただの獣道に見えますけど……進んでみると、分かり易いです。こんなに歩きやすい獣道はありません」
リリィが、周りを見回しながらそう口にする。
周辺は、とても人が通る様な道とは思えない。鬱蒼とした雑木林の中。低木を掻き分けながら進んでいるのだが……しかし、こうして踏みしめる足元は、周りとは違いまるで整備された道を歩いているかのように、とても安定している。
「似たようなモノは無数にあるが、『例の集落』に続く道はこれ一本だけだ。恐らくはここを隠すために、獣道の多い場所を集落を置く地に選んだのだろうよ」
先頭を行くエドモンは……先ほどよりも、大分纏う空気が穏やかになった気がする。
如何に周囲が平穏そのものでも、油断してはいけない――自分達も、初めはそんな風に警戒していたのだが。しかしここに来るまで、敵は愚か野良の獣すら現れず。空は燦燦と日が照って、長閑な日和その物である。
こんな穏やかな時間の中で、どうやって緊張感を続けられるのか――結局、エドモンも周囲に利かせていた睨みを止めて、散歩でもしてる様な感じに落ち着いた。
「カモフラージュの為、という事なのでしょうか」
「はえー……隠れ里を作る人たちは私も旅の途中に見た事はありますけど。ここまで手の込んだ偽装は、初めて見ました」
……先ほどまでの事を、思い返す。
自分達が居る場所に戻って来たエドモンは、先ず自分の発見した物を詳細に語ってくれた――ここが山のどのあたりで、山頂に何か見えるのか、山自体に先ほど違う何か異変があったのか等。
結論を言えば。
かれが見ていた限りではあるが、山自体に大きな変貌や、異変らしきものは見られなかったとの事だった――しかし、その代わりに一つ、見つけたものがあったという。
『――集落だ。小さいが、村らしいモノを発見した』
……麓ではなく、山の中腹辺りに、ひっそりとそこは佇んでいたという。
一見して、近くに大きな道が通っているようにも見えず。寧ろ周囲を鬱蒼とした密度の木々に閉じられて封鎖されている様にすら見えた、というのが第一印象だった。
そこから、廃村か何かではないか、と初めは思ったのだが……しかし、それにしては集落の窓は、まるで新品同様に光を照り返しているし……近づいてみれば、人影が幾つか蠢いているようにも見えた。
では、リンボがそこに拠点を構えているのか――とも考えて、周辺を徹底的に見回って見たのだが。しかし、見回りのシャドウサーヴァントらしき影もなく。
『この特異点内で暮らしている人々、という事なのでしょうか……?』
『それ以外だと判断できる材料は一切なかった。山奥の寂れた村、というのをそのままデッサンでも書き起こせば、ああなるだろうな』
結果、安全かは兎も角として……何かしらの手掛かりが欲しい今、人のいる集落は情報を集めるにはうってつけだ、という事で。
先程いた岩場から離れ、その集落に向かう事に決めた訳で――もうそれから大分経過している。
エドモンが『凡そ』と付け加えた、到着までかかる時間くらいは……そろそろ、経過するだろうか。目の前の背に声をかける。
「後、どれくらいで付くかな」
「もう少しだ――到着し次第、俺とリリィは霊体化して、村の近くに潜伏する。聞き込みは貴様とマシュとで行え」
「分かった。マシュ、サポート宜しく」
「お任せ下さい、マスター」
……結局、村に辿り着くまで襲撃は一切なかった、という事になる。リンボはもう此方を気にも留めていないのか――それとも、村落の方で待ち受けているのだろうか?
村に入ったら、囲んで此方に切り込んで来るのか……しかし、エドモン曰く『それにしては、俺が接近しても尚、まるで動きを見せなかった』との事だった。
確かに、単騎で偵察しているサーヴァントなら、これ以上ない狙い目だ。シャドウサーヴァントを向かわせたりしても不思議じゃない気がする……こうして合流した所を叩くよりは、各個撃破の方がやりやすいという彼の理屈は良く分かる。
「……万が一の事が有ったら、頼むよ」
「分かっている」
未だ安全とは言えないけれど……それでも、警戒し過ぎて村に住んでいる人たちに怪しまれてしまったら元も子もないだろう。今は、最低限の警戒だけする事として――エドモンの視線の先に見えてきた、その集落に目を向けた。
……確かに、エドモンの言う通り、規模の大きい集落じゃない。
というか、家屋の数が、ここから数える限り二桁に届いてないのだ。規模としては最も小さいのじゃないのだろうか。
そうなのだ。余りにも小規模ではある――けど。
「……寂れてる、って感じじゃないよね」
「はい。どの家も整備されていて、とても立派な門構えです」
小さな家が寄り集まって、何とか形を成してる限界集落……って感じでもない。
豪邸、って言う訳じゃない。けれど現代の日本の基準で考えるのであれば、かなり立派な一軒家。ご近所でほんの少し、噂になるだろうかっていうレベル。山奥で考えるのであれば……邸宅と言い切ってもいいレベル。
「うわー……こんなに立派な家が山奥に一杯。なんでしょう、凄い不思議です。本当に異界に迷い込んじゃった、みたいな感じが」
そうなのだ。今、こうして目の前で見る分には、かなりしっかりとした集落だ。しかしながら……こうして、獣道を抜けている間は、その片鱗すらも木々に阻まれて明らかになることは無かった。
こうして、目の前に立つか……特定の角度からでなければ見えない様な位置に、集落を建設した、という事なのだろうか。
……ある意味で、リリィの言う通りなのかもしれない。無数の木々という結界の中に作られ、俗世から切り離された別の世界、っていう感じがする。
「後……どの家も、屋根の色が一緒、なんですよね」
「……うん」
そして――不思議なのはそう言った部分だけではない。
リリィの視線を追って、屋根の辺りを見つめる。集落の全ての家の色は――どれもこれも斑に色が混ざった特徴的なカラーをしていて……到底鮮やかとは言えない。というかコレって……
「……迷彩色?」
「はい。恐らくは……一般的なそれと違い、模様やパターンに若干の違いがありますが」
……一軒だけなら、家主の趣味とかなのだろうかとか思う所なのだけど。
見回してみると、他の全ての建物の屋根も、同じ迷彩柄で塗装されていて……画一的な統一感が、妙な威圧感を感じさせる、様な。
迷彩柄は、人の目を欺くための模様だ。草木茂る自然の中に紛れ込むための細工だ。じゃあ……この隠れ里においてのあの屋根は、何に対してのカモフラージュなのだろうか。
ごくり、と喉が鳴る。山の静けさが、今は妙に不気味に感じられる――とはいえ、ここで怯んでいても始まらないだろう。視線をマシュと合わせ、頷き合ってから、リリィとエドモンに視線を向ける。
「マスター。何かありましたら、迷わず声を上げてください。直ぐに駆けつけますので」
「少なくとも、真っ当な村落ではない――油断は、するなよ」
蒼い燐光と共に、二人の姿は山の中に溶け消えていく……が、パスの繋がりは何となく感じているままだ……その感覚が、心を落ち着かせる。
「――行こう」
「はい」
ゆっくり、と。一歩を踏み出す。秘されている場所に、態々足を踏み入れるのだ。歓迎されるなんてのんきには考えられない――最悪、見つかったその場で襲われる事も考えなければならない。
ただ、そうならなかった場合を想像せず、初めから戦うつもりで行くのは、それは違うと思う。無理に警戒し過ぎる必要はない。自然体で――草木に隠された道と、集落に続く通り道、その境界を、踏み越える。
「……」
一歩、一歩と。先へと踏み出しながら、建物を見回す。
屋根の色を除けば、何処の家も形はまちまちだ。でも、こうして近くから見てみると初めから『そう』だったって言うよりは……自然とそうなっていったのではないか、と思えてくる。今、見ている家の裏手など、顕著だ。
「……板戸なのに、周りの壁は、現代建築その物」
「何処かちぐはぐな印象がありますね……」
古さと新しさが、交じり合っている。どの家も凡そは現代でも見る様な建築技術で作られているように見えて……色褪せて何度も修復された跡の見える板戸や、石の古井戸、レンガの壁、と。
増築や改築を、幾度繰り返せばこうなるのだろうか。いや、それよりも、一体何年位前から、ここの家々はずっと……?
「……」
疑問と共に、視線を彷徨わせ、住人を探し続ける――エドモンが嘘を言っていた様にも思えない。誰か一人くらいはいると思うのだが。
「……あ」
そこで。
視線の先に漸く一人、道行く人を見つけた。
背をピシッと伸ばして歩く――にしては、余りにも年を経た老人だった。真っ白な髪を後ろで纏め、着物をバッチリと着こなしたその姿は、遠くから見れば三十歳は若く見えるだろう、キビキビとした仕草をしている。
誰かを探しているのだろうか、先程の自分達の様に視線を巡らせて……その顔が、此方へと向いた。
「――ん?」
「あ、あの。すみません――」
旅の者なんですが、と続けようとした所で。
「――何者だい」
その視線が――鋭く、まるで猛禽の様に、此方を睨みつけた。マズい、戦闘になるかと思った所で……ふとそこで、違和感に気が付く。睨みつけているにしては、気配が穏やかな様な。
「っ……?」
「山の道から外れたのか? ったく、旅行するにしたって『まっぷ』にちゃんと従わないとこういう所に迷い込むんだ。仕方ない」
人でも殺せそうな鋭い視線――ではなく、元から結構鋭い印象を与える瞳だったらしい。その顔にくしゃっと、人の良さそうな笑みを浮かべて。
「付いてきな。今日は山を下りるにはちょいと遅い――一晩くらいは、宿を貸してやる」
そう言って、背後を――村落の奥の方を親指で指し示して見せた。
特異点特有の個性強めな現地人。