FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「ほーん……アンタらはその『かるであ』とかいう海外の研究所から、態々この山の調査に来た学者の卵って訳かい」
「はい、そうです。特に此方の先輩は、若いながらも現地でのフィールドワークに関しては群を抜いて優秀であると所内でも評判で――」
……マシュの誉め言葉が物凄く、その、こそばゆい。今でも未熟なマスターとしての自覚しかないというのに。ある程度身分を隠しての会話とはいえ、マシュが変に此方の成績を盛ったりするような子じゃないのは、嫌って程身に染みてるし……コレが本心だと考えると、余計にこう……ああもう駄目だ。頬が変に緩みそうになる。
とはいえ、下手に口出ししたりして何かしらのボロが出たりしたら、流石にマズい。今は康友や、逸れたサーヴァントの皆の情報が一刻も早く欲しい所で。変にトラブルを起こすのは得策ではないのだから……あ、でも恥ずかし……
「はぁ、全く最近の学者様は、随分とまぁ暇な事だ。こんな辺鄙な山奥まで調査の人をやるなんざねぇ……まぁ、学者なんてのはそんな物好きじゃないとなれんか、昔から」
「ああいえ、暇をつぶしている訳では無くて……あ、そう言えば。此方の山に赴く事になった時、このような集落がある、とは此方も把握していなかったのですが」
……で、こんな照れてばっかりの恥ずかしい先輩と違って、マシュは早速、この村について聞こうと積極的に話題を振っている。うーん、やっぱり自分より圧倒的に有能な後輩で若干肩身が狭い。
さて、そんなマシュの質問に、おばあさんは僅かにほほ笑みながら口を開いた。
「まぁ、外から来たんだったら、そりゃあねぇ……アンタらのお眼鏡に叶いそうな特産品やら、特別な言い伝えなんざとは縁も所縁もない場所だ」
こうして話していると分かるのは……目の前のおばあさんの快活さだ。
話し方はハキハキとしていて、受け答えも早い。こうして話をしてみても、見た目ほどにお年を召しているとは到底思えない。というか、此方と全然変わらない歩きの早さからして、足腰が弱っている様子もまるで見えない。
……寧ろ、こうして話していると、こっちが元気を貰えるような。そんな若々しい活気に溢れている。
「まぁ、ガキ共が何時も何事もなく、元気に暮らしてるのが、特徴っちゃ特徴だよ」
「そうなのですか……それは、一番素晴らしい特徴ですね」
「ふふっ、そうだろう? 何だ、話が分かるじゃないか嬢ちゃん。頭でっかちな学者さんの卵にしちゃ、良い教育を受けてる」
「ありがとうございます」
こんな風な閉鎖的な集落だ。正直、もっと警戒されても不思議でも何でもないと思っていたのだけれども……そんな素振りとかはまるで見えない。いや、正確に言うと、無駄に警戒する訳じゃなくて。ちゃんと此方の事を知ろうとしてくれている。
善い人だ。こうして短い間、話をしただけでも良く分かる。遠慮ない口ぶりや、その怖めの顔付きで、誤解してしまいそうになったけど……それが恥ずかしくなる位に。
最初に出会ったのがこの人で良かった。この人の話してくれる事なら、素直に信用できる気がしている。
「……ですが、その若い人たちは何方に? 村に入ってから、他の村人の方を、一度もお見掛けしていなくて」
「あぁ、健やかすぎて、ちょいと力が有り余ってるのか、デカくなっても落ち着くって事を知らなくてねぇ。この時間なら『兄妹』そろって、知り合いと野山をかけてるよ。他の奴らは……まぁ色々さね」
――ちらり、とマシュは周囲の建物を見回してから。おばあさんに問いかけた。
とはいえ、先ずいきなり自分達の聞きたい事を問いかけるのも些か乱暴ではある。マシュもその事を理解しているのだろう。先ずは、この集落の事についてから、話を聞くつもりらしかった。
「お仕事、等でしょうか?」
「そうだねぇ……働いてる奴、いない奴、半々くらいか」
「は、半分の方がお家で休んでる、という事でしょうか?」
「学者さんから見れば目から鱗かい? とはいえね、こんな辺鄙な村じゃ、本当に『ここで日々を暮らす』為以外の事はしないもんさ。昔っからね」
うーん、とてものんびりとしている。今の忙しない現代社会とは云々……は、置いておいたとして。休んでいるのは半分、残りの人たちは働きに出ているという事で。それでも姿が見えない、というのは……どうしてなんだろうか。
単純に人が少ないから、会わなかっただけなのだろうか……しかし。
「――村に人は見えませんけど、働いている人たちも結構遠くまで行ってるんですか?」
自然と、口から疑問が滑り出た。
おばあさんが、ちらりと此方を見てから……歯を見せて、ニヤリと笑った。
「まぁねぇ。このままに維持する為には色んな事をせにゃならん。日々の地道な積み重ねが
「成程……」
ちらり、とおばあさんの方を見つめる。言っている事は、ごく当たり前の事だ。暮らしを維持する為の労働。何の疑いようもないけれど。
からからと笑うおばあさんを見て、思う……それだけだろうか。
コレ、と言ったその時。おばあさんは……首を軽く回し、その視線を、ぐるり、と。村全体に巡らせてた。普通に考えれば、この村での、暮らしを続けるための努力、という意味だったのだろうか。
でも……直前のあの笑みは、何と言うか。普通な感じというか、『してやったり』っていう得意げな笑いというか。コレ、という言い方も変にぼかしている言い方の様な。
「あぁ――見えて来たよ。私の家だ」
そうこう考えている内に……もう既に、集落の大分外れの方へと歩いて来ていた。他の家は、もう大分後方に。そして、おばあさんの視線に従って前方へと視線を巡らせればそこに――見えてきた。
「せ、先輩……お屋敷です! かなり立派な、武家屋敷が!」
「ホントだ……」
「かかっ、驚いたかい? 箱だけはデカいもんだろ?」
……びっくりした。今までの家とは全然規模っていうモノが違う。塀とかも付いている勢いの、立派な和風建築。他の家が何処かちぐはぐだったのと比べると、ピシッとして違和感の無い造りをしてる。
「あの……もしかして、おばあさんは、此方の集落……えっと」
「……『ふるごう』って、ここの奴らは呼んでるよ」
「『ふるごう』の、もしかして、纏め役のような……?」
「ま、そうさね。ここらは麓と違って、村独自の決まりなんかもあるからそこの仕切りもしてるし、領主様なんざ名乗れやしないが……それなりに、お偉いさんだよ」
成程。仕立ての良い着物に、凛とした態度。ここまで元気なのも……彼女がバリバリにこの村を仕切っているから、という事だろうか。
ちらりと、改めて家を見る――そして、その表札が、目に入る。
三文字のその名字に――どくん、と心臓が跳ねる音がした。
「ま、明日に帰るまでなら村を調べてもいいさね――『本造院』の客って言えば、村の奴らも力を貸してくれるだろう。精々がんばりなよ、学者の卵殿」
……その名字は。
今も、自分が探している仲間の――
「――ババア! なんか飲み物のストックねぇか!」
横から、声が聞こえた。ちらりと脇を見ると……自分達が通って来た道から分かれるようにして、下へと向かう小道が一つ。そこから――若い男が、駆けてくるのが、見えた。
「……ったく誰がババアだってんだこのクソガキィ!! どうしたぁ!?」
「『なぎこちゃん』がはしゃぎ過ぎて目ェ回しちまったんだよ!」
「ああもう言わんこっちゃない! 今日は日が照ってるから、夏じゃないからって油断すんなって言っただろうが、ちょっと待ってな!」
――ぱたぱた、とおばあさんが家の中に駆けていく。
でも……それを気にする余裕は、今の俺達にはなかった。喉から、思わず声が漏れそうになるのを――ギリギリの所で、堪えた。自分ではあり得ない位に、頭が冷静に回ってその行動を押しとどめたのは……それ以上の驚きが、頭をよぎったから。
「「――禿げてない!?」」
「……は? えっ、喧嘩売られてる俺……?」
目の前から走って来た、目つきの悪い青年……体つきも、がっしりとした彼は。『その部分』以外、確かにカルデアの仲間の『本造院康友』そのもので。でも……カルデアではトレードマークの、ピッカピカの禿げ頭には。
黒々とした、毛が生え揃っていたのだった――
しゅ、主人公の個性が一つ、潰れた……?