FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:なぎこさん

 ……今、こうして真正面から見てみると分かる。

彼のあのチンピラフェイスは、間違いなくあのおばあさん譲りだったのだろう――髪があると、余計にハッキリとその面影を感じてしまう。一見するとちょっと『おっ? どっかの極道さんかな?』と思えるレベルの目つきなんてまぁ良く似ているというか。

 

 だけど、カルデアに居た時よりも、雰囲気自体は何処か柔らかい。黒スーツ型の礼装が良く似合っていたのが……今は、ラフに着こなしたポロシャツで、凄い学生らしい雰囲気をしていて。

 

「……スキンヘッドだったのが迫力アップに繋がってたのかな……?」

「それは、どうなのでしょう……あの曲線は、丸い印象を与えるのにも一役は……」

「オイだから誰が禿だってんだよ」

「あ、すみません」

 

マシュと揃ってまじまじと眺めてしまう。いや、そもそも向こうに攫われてるとばかり思っていたので、こんな所で再会できたことが驚きではあるのだが――と。沢山、色んな驚きが、頭を満たしていて。

確かに、今は髪型の事を気にしている場合じゃない。兎も角合流出来て良かった、と真っ先に言うべきだった。

 

「――っていうか、アンタら誰だ?」

 

 ――けれど。言えなかったのは、ある意味で、幸運だった。

 

「――え?」

「村の奴ら……じゃねぇよな。ここら辺じゃ若いのって言えば、俺となぎこと『香子』の姉ちゃんの三人くらいだし。でも観光客……な訳ねぇか?」

 

 ひゅ、と。小さく、喉の奥が鳴る。

 ちらり、と横のマシュと、視線を合わせる。マシュも……顔色が、良くない。彼が言った事に嘘が無いのだとすれば――可能性は、いくつか考えられる。自分で

 

 目の前の彼は、俺達の探している本造院康友ではない。そっくりの別人。

 一応本人ではあるのだが、サーヴァントのような分身で記憶に不完全な部分がある。

 今の自分が想像できるのは、その二つ位だ……この何方かであるならば、まだマシだと思えてしまう。最悪の可能性は――一番、最初に想像できてしまったから。

 

「――あ、あの……私達はカルデア、という所から来た、のですけど……」

「カルデア? あー……湖とかそう言う感じのアレだっけ? 釣り師とかそう言う感じの方ですか? まぁ、ここら辺の沢は、結構魚とか取れるけどそんな感じですか?」

 

 ……マシュが、きゅっと口元を引き結ぶ。自分も、顔を顰めてしまう。

 

 分かっている。此方に対して嫌がらせをするのであれば……恐らく、最も効果的ではある。目の前の彼は、紛れもない本人で――しかし、自分達と暮らした記憶を、リンボによって奪い去られた後である、というのが、一番。

 

「……いいえ。その……カルデア、というのは……ちょっとした、研究施設、でして」

「えっ!? あ、そうだったんすか……すいません、その、無学なもんで。じゃあここら辺の調査とかに来た、って事で?」

「はい……」

 

 ……ずきり、と胸に来るものがある。否定する材料も見つからない今……彼は、自分達の事を全く覚えていない、と考えるのは、酷く自然な事だった。

共に戦ってきた戦友が、自分を全く知らない素振りをする、というのが、こんなにも苦しいコトだなんて。マシュも、胸元に両手をやって、俯いて……

 

「あ、えっと……ど、どうしたんだお嬢さん」

「い、え……その」

「そのじゃなくて。めっちゃ苦しそうじゃん。アレだ、君みたいな良い子そうな奴に泣かれると、その……すげぇ、なぁ……」

 

 わたわたとした後。困ったように頭の後ろを掻きながら。その気の良さそうな喋り方もやっぱり……記憶が消えていても尚、自分達の知っている康友その物の仕草。それが更にマシュには効いたのだろう――遂に。

 

「あ……う……」

「マシュ……っ」

「……はえっ? あ、あのちょっ!? ホントどした!? えっ!? まっ、ちょっと待ってそっちの兄さん!? この子どうした!? 話聞いてあげて!?」

 

 サーヴァントの皆が、記憶を失う事……それは、そう言う決まりだから、っていう事で何とか、ごまかしも効いた。けど、目の前の少年が記憶を失った事は……そう言う悲しみを逃がすための、抜け道もない。

 

 マシュにとっては、初めての経験だろう。僅かにその瞳から零れた涙が、静かに頬を伝っていって……彼女の肩を、そっと抱く。気持ちは、痛いほど分かるから。

 

「あ、あのちょっと待って。あの、俺の顔ってそんなに怖かったりする――」

「――おいクソガキ」

「……オイちょっと待てババア。出て来て早々その凍ったペットボトルをどうするつもりだ。待て。誤解だ。確かに俺が泣かしたのはそうだが、色々と事情があってだな」

「アンタが泣かした時点で事情もクソもあるか天誅ゥゥゥウウウウウ!!!」

「ぎゃあああああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

「本当にごめんなさい。お恥ずかしい姿を……そ、それに、その」

「うん、大丈夫……何時もの事だから……話を聞かないババアが悪いから……」

 

 マシュがぺこりと頭を下げる。康友も、あくまでにこやかに応じてくれる。昔のギャグ漫画染みて顔面がシュークリーム染みて腫れてるけど。

 

何時もの事なのか……彼の気性もおばあさん譲りなんだろうか。

落ち込んでしまった気持ちを一旦取り直し、顔を上げたら目の前で人間版太鼓の達人が行われていた。凍ったペットボトルと拳の二刀流のバチで、人間の顔面をリズミカルに撲殺する……太鼓の殺人とかそんな絵面だった。お陰で康友は顔面ボコボコである。

 

「じゃかあしい。アンタがその顔面でその子を泣かせたのが悪いんだろうが」

「うるせぇだからって言って山姥みたく孫を撲殺する祖母が何処にいる」

「優しそうな子に迫る見た目チンピラは殴られたって文句言えないだろう?」

「クソがっ、なまじ正論だから言い返せねぇ……!」

 

 正論だろうか。ちょっと血なまぐさすぎやしないだろうか……等と思っていた所で、康友は、ハッと何かに気が付いたように顔を上げ。

 

「とか言ってる場合じゃねぇ、なぎこちゃんがやべぇんだった!! 悪いお二人さん、特にえっと……マシュちゃん、だっけ? 後でちゃんと詫び入れさせてもらうから!」

 

 此方に背を向けて、降りてきた小道を足早に駆けおりていってしまう。

しまった、と思ったが……此方が止める間もない程に、その足取りは足早で、そして身軽だ。到底整備されているとは言えない急な坂道を、するすると何処までも駆けおりて行ってしまって。

 

……ちらり、とマシュと目を合わせる。僅かに目元を拭ったマシュが、こくり、と頷き返してくれる――誰かが困ってるなら、放って置けない、と思った。それに、彼をこのまま行かせて、話を聞くのが遅れたら困る、っていう言い訳も立つ。

 

「いこう、マシュ」

「はい、先輩」

「あ、ちょ、アンタら――」

 

 おばあさんに背を向けて、自分達も後を追うようにして駆けだす。今、山道を駆けおりて行った彼ほどではないが、それでも多くの特異点を越えてきたのだ。その背を追いかける事も、出来る。

 

「――あの子達の遊び場は、分かれ道を右に行った方だよ! その先はぬかるんでるから足元に気を付けな!」

 

 背後から飛んでくる声に、僅かに後ろを振り向く。ニカっと笑ったおばあさんが、此方に向けて手を振ってくれていた。僅かに、お礼代わりに頭を下げて――マシュと共に、山道を駆けおりる。

 

 周りを囲む緑は深く、そして足元は不安定。ちらりと視界の先で、逞しい角を生やした獣と目が合う――山で育った、という話は聞いていたがしかし、この環境で育ったならなる程、あの身体能力も、頷けるというモノ。

 いや、おばあさんの言う事が正しいなら、彼にとってはここは遊び場に過ぎない。もっと険しい山にも、慣れているのだろうか。

 

「分かれ道を、右だったよね」

「はい――確かに、地面の状況は悪いですね。水場が近いのでしょうか。先輩、転倒しない様に十分に警戒を」

 

 普段よりもちょっと気を付け気味に、山道を降りていく。曲がりくねった辻を抜け、耳に聞こえてくるのは――耳に心地いい、木々のそよぐ音と、清水の流れる音。マシュの言った通り、どうやらこの道は水場に通じているらしい。

 

 僅かに増えてきた石に気を配り、緑のトンネルを抜け、僅かに息を切らしながら……目の前に見えてきた、出口へと駆け抜けて――

 

「悪いなぎこちゃん、遅くなっちまった……」

「――大丈夫って事YO! いやー、それにしても兄貴慌てすぎっしょ! アタシちゃんそんなヤワじゃねーし♪」

「だぁほ。兄貴ってのはだな、妹をこれ以上ない程に心配してこそナンボなんだよ。知らねぇのか?」

「え、何それ知らん……コワ……」

 

 辿り着いたのは……小川の辺。渓流、というべきか。

 その半ばほどにある、大きな岩の上。康友と……少女が一人。腰かけて、楽しそうに話しているのが見えた。

 

「あの、すみません!」

「お? ってアンタら、なんで」

「手伝える事ないかなって。倒れたのってそっちの子、かな」

「えっ、それで追いかけて来てくれたのか!? い、いやぁ、悪いなぁ、なんか……なぎこも割と大丈夫そうだし、そんな気に掛けさせちまって、あの……」

 

 此方に気が付いた康友は、岩の上に立ち上がって、ぽりぽりと頭を掻いている。どうしたもんか、と頭を捻る彼の隣で。此方を見つめた――『青、赤、黒』の混ざった、特異な髪色の少女も、その金色の瞳を釣られるように此方に向けて来て。

 

「ぁ……」

 

 その瞳が、僅かに。見開かれた。

 そして、少しだけ……悲しそうに、その瞳が揺れた気がして――

 

「ん? どしたなぎこ」

「……んーん! なんでもね! 何々、兄貴の友達!?」

「いや、そんなんじゃねぇけど……」

 

 ……僅かに、困惑したのも束の間。

 すぐさま、にっこりと笑って彼女も、康友の隣に並ぶようにして立ち上がって、此方に手を振ってくれる――一瞬前の、あの哀しげな瞳は、嘘だったかのように。

 

「ヤッホー! アタシちゃんはなぎこさんだ! 兄貴の妹だぜい!」

 




あ、あのパリピなシルエットは!?
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