FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:故郷の人々

 マシュの足元に転がっていた大きめの石を、先んじて脇に避けておく。今の彼女は、他に意識を向けているから――もしかすると、躓く可能性もあるかもしれない。

 そうすると、背負っている少女まで揃って山道を転げ落ちてしまいかねない。病人には些かと酷すぎる仕打ちだ。

 

「いやすまない。こんなこと任せちまって……なぎこ、水飲むか?」

「さんくす~……っていうか、マシュちゃんは大丈夫系? 重ない?」

 

 当然、気を付けているのは俺だけじゃない。隣の康友もそうだ。マシュの事を、そして何よりも彼女が背負っている、なぎこさんの事を。

 

「大丈夫です。先程、その……とんでもないご迷惑を被らせてしまったのは、私の責任ですから……」

「いやアレはババアが全面的に悪いよ。凍ったペットボトルが容易に人を殺し得る凶器だってのを知らないらしい、あの旧世代」

「いや言い方」

 

 ……横目で、マシュの背中の上のなぎこさんをちらりと見る。

 似てない。ビックリする程似てない。髪色は染めている――この小さな集落であのビビットカラーはちょっと気合いが入り過ぎてるとは思うけど――にしても、目つきが余りにも似ていらっしゃらない。

 

 なぎこさんのまん丸で可愛らしいおめめと、康友の三白眼とでは、チワワとサーベルタイガーくらいの印象の差が出て来てしまう……まぁ、なぎこさんはご両親似だと考えると一応、納得も出来るのだが。

 多分一見するだけだと……この二人が『兄妹』っていうのは、俄かには信じがたいかもしれない。

 

「まぁ何にせよ、本当に助かった。ありがとう……えっと、確かここら辺の調査に来てたんだっけか」

「うん。それで、偶然ここに迷い込んで……今日は遅いから、明日までは泊めてくれるっておばあさんが」

「そうか……なら、せめて俺が出来る全力でもてなさせて貰うよ。世話になった礼だ」

「つっても兄貴そんな大層な事できんじゃろがい!」

「おっテメェ言いやがったなこのぉ!」

 

 でも、こうして傍から見ていればわかる。なぎこさんの頬を突く康友も、突かれてくすぐったそうにするなぎこさんも。とても、無邪気に笑い合っている――仲睦まじい兄妹以外には、全然見えない。

 

「ちょっ、やめっ、おにいちゃんやめてっ♪ 私たち兄妹なのよっ♡」

「テメェ何誤解招くような言い方してやがるコラァ! おらっ、徹底的にデコだこら!」

「あちょっ、痛いっす兄貴、マジでちょっ……やめろゴラァ!!」

 

 まぁ、兄妹でなくてもなぎこさんは良く笑うタイプなのだろう。

 快活、というか。アッパー、というか。髪の毛の色と同じくらいにビビットな、現代の若者そのまんま。笑ったり、びっくりしたり、かと思えば何の脈絡もなくすとんと表情が抜けたり――いやまぁ良くもそこまでくるくると表情が変わるなぁ、と見てるこっちまでなんだか楽しくなってくる。

 

 ……で、そんな風に明るいから、自動的にそうなっているのか。

 

「おのれ兄貴、であれば――喰らえっ! マシュバリアー!」

「なにぃっ!? マシュちゃんの側面に回り込んで彼女を盾に!?」

「えぇっ!? あ、あのなぎこさんっ!? 降りて大丈夫なんですか!?」

「応よ我が友よ! 水とマシュちゃんの思いやりで、なぎこさんのエモーショナルエンジンはフルドライブになったのさ……!」

 

 距離の詰め方が、凄い。

 

「へへっ、どうだ兄貴! 友情パワーで復活した私と、マシュちゃんのコンビは!」

「いやコンビとかじゃなくて、普通にお前個人を狙うけども」

「容赦ゼロ!? そこはりっちゃんと組んで私達コンビに挑む流れでは!?」

「りっちゃん……?」

 

 精神的な距離も、物理的な距離も、何方もとんでもなく欲張ってる。見てくれ、目の前のなぎこさんとマシュの距離を……拳一つ分もない。彼女的には女性同士ならまぁ、と言えるレベルを遥かに超えている気がする。

 なんだ、縮地でもしているのか。いや距離を詰める縮地ってなんだ。って言うかりっちゃんなんて呼ばれたのも初めてなんだけども。こっちとの距離の縮め方もちょっと勢い強すぎるよ。こっちも首傾げちゃうよ……

 

「ええい、もう立てるなら遊んでんじゃねぇテメェ! お客さんにまでご迷惑かけやがって全く……!」

「うみゃっ!? ちょっ、猫みたくつまむな兄貴!?」

「あっ」

 

 確保された。

 

「ったく……改めて……コイツの、謝罪ついでに……っと自己紹介させてもらうぜ。本造院康友だ。『ふるごう』にようこそ」

「抱えるな~! 猫かアタシちゃんは! あ、本造院なぎこさんだぜい!」

 

 そうして、今度は康友の小脇に抱えられたまま。なぎこさんと康友の自己紹介。改めてされずとも、なぎこさんの事は嫌って程、頭に刻まれたのだが。とりあえず、此方も改めて、名乗り返す。

 

「マシュ・キリエライトです」

「藤丸立香です。明日まで……ここで、お世話に、なります」

 

 お世話になるであろう、この……康友の『故郷』と思われる場所の、住人達に――やはり、そこは、どうしても気になってしまう部分だ。

 

 そもそもの話。『相馬』と名乗っている男が、康友を捕まえた理由もはっきりしていないのだ――今、彼の『故郷』の光景を見せる事に、何の意味もないとは思えない。

 

 この穏やかな光景も――人理修復によって、焼かれる前の故郷の景色の筈だ。それを態々蘇らせて、記憶を失った康友をそこへ返す。

ここまで手の込んだ事をする理由は、一体何なのだろう。

 頭を埋める疑問の中で……隣を行く康友が、ふとこちらから視線を明後日へと向け、僅かに頭を掻く。そして、そこで自分も気が付いた。彼の向いた方向から、僅かに――ぱたぱた、と足音がしている事に。

 

「――香子さん?」

「お二人とも! なぎこさんが沢で倒れたと聞いたのですが――!?」

 

 康友が見つめるその先に……坂道の向こうから、危なっかしい足取りで降りてくる女性が一人。ロングスカートに、縦模様のセーター、そして。

 その、艶やかな黒髪と、楚々とした美貌は……間違いようもない。その赤紫の瞳が、此方の視線と交わり――不思議そうに、小首を傾げたのが見えた。

 

「あの、其方の方々は……?」

「助けてもらった! 海外の学者さんで、ここらには調査に来たんだってよ!」

「マシュっちとりっちゃん! マシュっちはパワーがマジヤバなピュアっ子で、りっちゃんはメッチャ好奇心旺盛っぽい! 色々見てた!」

 

 ……康友もそうだったのだ。可能性はあると思っていたが……どうやら彼女の方も記憶を抜かれているらしい。しかも――彼女の方は、自分がサーヴァントであるという自覚すら、無いのではないのだろうか。

 

 マシュと、一瞬視線を交わす。気落ちするのは、避けられない。状況は好転したともいえるし、悪化したともいえる。

本造院康友のファーストサーヴァント、紫式部――どうやら、彼女も向こうに捕らえられてしまっていて。その際、何らかの細工を受けているようだった。

 

「そうでしたか……お二人がお世話になったようで、私からもお礼を――『中之宮香子』と申します。マシュさん。あと、えっと……」

「……藤丸、立香です」

「あ、はい! 藤丸さんですね。本当に、ありがとうございます」

 

 ……存外、向こうの目的は、こうして嫌がらせをするのが目的なのかもしれない――共に戦って来た仲間にこうして改めて自己紹介するこの感覚は、まるで体の芯に爪を立てられ、削られるかのようで……決して、心地の良い物ではない。

 そんな此方の気持ちは、まぁ知る由も無いだろう。康友は、呑気そうに彼女について口を開いている。

 

「香子さんは、ここで貸本屋やってるんだ。いや、貸本屋って程カチッとした商売じゃないけどな。殆ど代金とか取ってねぇし?」

「わ、私はその……我が家に残る古い蔵書を、村の皆様に楽しんでもらえれば、と思っているだけですから」

 

 そして、気になった事は、もう一つ。

 自分達と違い――彼女は、元からこの村の住人として扱われている様だ。

 

「ぶっちゃけ金とっても何ら文句言われないレベルの充実具合だけどなぁ。ま、こんな風にお人好しで、優しい人だから、昔っから俺となぎこでサポートなんかしてる。な!」

「おうよ! かおるっちの大切な本は、あたしちゃんがジジババから回収する……!」

 

 イエーイ、とハイタッチを交わす兄妹も、その事に何の違和感も感じていない。なんなら昔から、彼女の家と深い交流があった事になっている――彼女は、そもそも古くは平安時代の住人で、ここに住んでいた筈も無いのだが。

 

「それにしても二人とも……本当に、大丈夫なのですね?」

「ん? おうよ。俺は別になんともねぇし。なぎこの方もまぁ……この通りだ」

「フルパワーーーーーーっ!!!!」

「うるしぇ!!」

「……なら、本当に良かった。最近、この辺りで『不審な影』を見かけたと、本造院のおばあさまからも伝えられていたでしょう?」

 

 ――不審な影。

 

 その言葉に、香子さんの方に視線を向ける。

 

「あー、なんか言ってたなそんなの」

「この山は、『鬼』の伝承も残る旧い山なのですから。如何に慣れていると言っても、気を付けないといけませんよ?」

「んな事言ってもなぁ。ババアが口酸っぱくして言ってるだけの言い伝えだし……?」

 

 鬼の伝承。

 ……彼と縁を結んだサーヴァントは、残り三騎。恐らく――隣に並んで来たマシュと自分が浮かべている顔は、同じ者だろう。もし、彼女達も同じようにこの山の何処かに居ると希望を持つのなら。

 

 その不審な影、というのは。万が一の、突破口になりえるのかもしれない。

 




バカな……なぎこさんの方が、相方としてしっくりくる……!?
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