FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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第一章・裏:山に棲む少年

 ――この季節になると、獣共が降りてくる。

 目覚めから、丁度飢えてくる時期なんだろう。人里に現れて……悪戯ならまだいい。町に住んでる奴に被害を齎したら洒落にもならない。普段からも忙しいというのに、更に忙しくなるのだから、プロに任せてしまった方が良いと思うのも、当然だ。

 ……プロ、というには、少々と若すぎる輩も居るが。

 

「おう、坊主。来てくれたか。待っとったよ」

「呼び出すなら電話の一本でも寄こしてくれよなぁ、爺ちゃん……こちとら、今日の夕飯豪華にしようって野菜とか張り切ってさぁ」

「お前以上に、あの山に詳しい知りあいがおらんのだ」

「あっそう……へへ、そう言われちゃやる気になっちゃうんだ、これが」

 

 ドカッと些か乱暴に椅子に腰を下ろす。まるで極道の鉄砲玉の様な厳つい見た目をしておいてこの男は酷く呑気だ。今、目の前で机に置いてある菓子をどうでも良さげに齧っている辺りで、何となく察する。

生意気盛りだろうに、そんな生意気らしさも無い。もう少し、スジモノらしい気合いと熱が欲しいと思ってもバチは当たらんだろう。

 

「今年の山の具合は、どうなんだ?」

「どうなんだって言ってもなぁ。山全体を見れてる訳でもないし? そんな正確な意見出せって言われても無理だっていつも言ってるじゃんか」

 

 だがこんなでも、頼らないよりは大分、大分マシなのが、頭に来るというか。伊達にあの山に住んでいる訳じゃない。

 

「それでも良いって言ってるのも何時のもの事だと思うんだが?」

「あー? そうだっけか?」

「いい加減にしろボウズ。こっちは生活掛かってんだ。お前のおふざけに付き合ってる暇はねェ。さっさと言えってんだ」

「おおこわ……へいへい。じゃあまぁ所感で宜しいなら、と」

 

 決して真面目な様子を見せないのは、別に真面目にやる必要も無いと思ったからか。こやつがこの町に来てから、ずっとこの調子で。

 正直それでも問題ないと分かっているのが余計に小憎たらしいと言えば小憎たらしい。

 

「まぁ、よかぁねぇっすわ」

「良くない」

「いつもより大分気が立ってる。俺がちょっと見回ってただけで、こっち突っ込んで来る奴も結構多かった。面倒くせぇったらありゃあしねぇ」

「そこまでか……人里には」

「降りてったら、まぁ、エライ事態になるだろうな。間違いなく」

 

 回答に淀みはない。虚勢を張っている様子もない。体はリラックスしたまま。常に自然体で話をしてる。そこから虚飾の色は全く見えない、って事を読み取るのは容易い。

あくまで事実を陳列しているだけだと言わんばかり。随分とふてぶてしい貌をしてやがる――その上で。もう一つ。

 

「……降りて行ったら?」

「うん。そう。降りて行ったら」

 

 違和感を突けば。

 待ってました、又は、良く出来ました、とばかりに笑う。わざわざその下りを強調したのは恐らく。気づいて欲しかったからこそ、露骨にしたのだろう。こうやって、相手をおちょくったりするのも、基本的に真面目に事を進めたがらないこやつの性分からか。

 

「降りない、のか?」

「降りない、って言うよりは降りられないって感じだろうよ」

「どういう事だ。この時期になれば多少なりとも荒れると言っていたのは……」

「俺だけど。今回は例外って奴だよ。怯えてるんだ」

「怯えてる?」

 

 それと同時に……コイツが余程気にして欲しい部分でもあるのだろう。そう言う所をさりげなく、というやり方が出来ないのは、まだまだ若い部分でもあるが。だがしかし今回は何というか。いつも以上に露骨と言えば露骨か。

 

「興奮してるって感じじゃあなかった。警戒して、必死に追い払おうって言う感じだった」

「そうなのか」

「あぁ。興奮してるならいつも以上に理性的じゃあなかっただろう。だが、今日の山は人生に一度レベルで……暴走して居た気がする」

「暴走?」

「感情に従ったんじゃない。決して。感情に振り回されてたって感じだ」

 

 ――言い方としては似たような物に聞こえるが。

 少しばかり真剣になったような感じの坊主の顔からは、そんな……汲み取って欲しい、という表情をしてやがる。寧ろこれは……分り易いくらいだ。

 

「山に入らない限りは安心だと思う……ま? 断定は出来ないがな~」

「そうか。そう言う事なら、猟友会とも話し合う事も、少なくて済みそうだ」

「お役に立てましたかね? ご老体?」

「おう。参考になったよ。町の奴らにも、暫くは山に入らぬ、入らせぬように徹底するように固く言っておく。任せて置け」

「……ありがと。爺ちゃん」

 

 恐らく、その辺りを望んでるんだろう、って事を強めに口にしてやれば。奴もその表情を少し緩めた。恐らく、ここに来る前から、こういう会話になる事は想定していたのか。

 だがそれでも結局は真剣な顔を隠せない辺り……そして、その真剣な部分を出さない方がカッコイイ、と考えている辺りはまだガキ、という感じはするが。

 

「じゃあまぁ俺はこれで失礼するよ。用も終わったろ?」

「オイ、小僧。チョイと待て。もう一つある」

「なんだよ」

「最近、怪しい余所者が町に入って来ておる。気を付けて置け」

「……よそ者って。時代がかってる言い方してんな、爺ちゃん」

「儂とて普通に町に来る奴をその様には呼ばん……害にしかならんと思っているからこういう言い方をしている」

 

 ガキだからこそ。こういう時はしっかりと注意しておかねばならん。思い出すのは山の事と一緒に話題に出ていた、不審者の話。町の奴らが見かけるようになった輩。服装自体に特に怪しさは無いのだが……どうも、態々町の外から、何日か間隔を開けて、何度も来ているらしい。この街にも宿位はあるのに、だ。

 タクシーの運転手が、念のために、と話していた事だが。酷く個人的な、老人の勘らしきものが、働いていたのだ。

 

「ほーん。不審者って奴?」

「そうだ。とはいえ見分けが付くかどうかは分からん。夜には迂闊に出歩かぬようにとだけは町の奴らにも周知している。お前にも、一応な」

「ま、本当に一応だな。俺は基本的に御山でのんびりしてる訳だし」

「つっても偶に降りてくるだろう。暫くは直ぐに帰るようにしろ」

「へいへいっと。お節介な爺ちゃんだねぇ」

 

 ……正直な所。儂だって明確な根拠なんて無い。

 だがこの町は特に何か名所がある訳でもない。一応、北の天神様の分社があるがそれが観光の名所なんて呼べるかどうか。それが態々、何日か空けて、なんて言う面倒な真似をしてまで幾度も。って言うのは。

 

「もし面倒が起きたら儂の責だ。それは避けたい……お前は知らぬ顔でもないからな。一応、忠告はしておいたぞ」

「大丈夫だよ。こんなおっかない見かけの奴を攫う物好きなんて居ないだろうし」

「世の中、常識で計れる事ばかりじゃあない。一応気を付けておけ」

 

 正直な話。小僧が言う事を聞くとは思っていない。まだ若いからこその無鉄砲。無理、無茶。当人に自覚はない。こういうのは言っておくのが肝要なのだ。

 

「へいへい。じゃあ精々気を付けさせてもらうけどさ」

「……けどさ、なんだ」

「あの御山の獣共に比べたら、大抵の事はそんな大変じゃないよ。うん。全然」

 

 ――そう言って立ち上がる背には、自信があった。

その自信は……しかし、一切の根拠もない虚構、という事も無いだろう事は、分かる。小僧にとっては、今も住んでいるあの山の方がやっかい極まりないだろう。そもそも、自分であの山を管理したくてしている訳ではないのは間違いない。

初めてあの山に越して来た時の話を、今でも覚えて居る。それ程に、あの小僧の表情というのは酷いものだった。

 

「……管理をそもそも考える積りも無いクソの如き山か」

 

 そもそもの話。あの小僧はこの町の人間ではない。元は別の都市に住んでいたのが、あの山の管理の為にここに越して来た……たった一人で。

 それが一年、それに加えて半年ほどか。正確な時間は分からないが、その間ずっと山の中で暮らして来ていた。苦労する様子も見せなかったのは不思議と言えば不思議だったが。

 

『どうもどうも。この度、あの山のボロ小屋に引っ越す事になった者ですー。まぁ頼りない管理人ではございますが……そう言っても、やりたくて来た訳じゃあございませんのでその辺りはご容赦頂ければ、と』

 

 そう言った時の苦々しい、小僧の顔は忘れられん。無理矢理余所行きの笑顔を、パイ生地の様に張り付けてその下の明らかに、『ふざけるな』という恨みと憤りを忍ばせて。それも若さだったのだろう。不満を決して隠し切れないその態度は。

 

「ま、足腰は山の仕事でイヤって程鍛えられてるもんでね。逃げるだけならそう難しくも無いでしょうよ。山育ち舐めちゃいかんよ町長さん」

「……自分が山猿みたいな育ちしてると言いたいのか、お主」

「山猿はちょっとヒドイ言い方だなぁ……ま、劣ってるつもりもねぇけどさ」

 

 今、目の前に居る剽軽な若造とは、似ても似つかぬ。山にやって来てから少しはマシになった、と思ってしまう程に。来たばかりのアイツは――

 

「他になんかある?」

「いいや、特にはねェよ」

「あっそ。なら今度こそ帰らせてもらうけどダイジョーブ?」

「構わねぇ。くれぐれも、さっき言った事忘れんじゃねぇぞ」

「……うん、ありがとうな。爺ちゃん」

 

 ――いいや、あんまり嫌な過去を思い出すのは止めよう。

 少なくとも、ここに来た暫くで、漸く此奴は、こうやって屈託なく笑えるようになったんだ。掘り返しても、ロクな目に会わねぇって言う話だ。

 彼奴がここに来る前、どんな目に会ったか、なんて。それこそ、お節介って奴だ。

 




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