FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
ちらり、と。縁側から、空を眺める――日が暮れていく。
「――ほらよ」
ことり、という音と共に。腰かけた所の隣に、お盆が置かれた。ちらりと視線を上げると……おばあさんが此方を見下ろして笑っていた。
「仕事はしなくていいのかい、学者の卵さん?」
「してますよ。仕事。自分達はこの辺りを調査して、その結果を帰って纏めるのが仕事ですから……今は、この辺りで過ごす事も、大切なお仕事なんです」
こうして特異点で暮らし、現地の事を知り、そうして帰った後、特異点での記録を細かに書いてレポートに残すのは、カルデアのマスターとしての立派な仕事だ。正確には、カルデアのマスターとしての任務は、それだけに留まらないのだが……
兎も角、サボってはいないですよー……という意思表示。が、どうやらそれが本気じゃない事は、おばあさんにも分かっていたようで。
「はっ、若い癖に沢の釣りジジイ共みたいな事いってんじゃないよ。今の内にやれる事はやっておきな。後でにっちもさっちもいかなくなったら、後悔するのは誰より自分さね」
「あはは……気を付けます」
流石に年の功。何も言えず、苦笑いして白旗を上げるしかない。
家の奥へと戻っていくおばあさんを見送ってから。ちらり、と、改めて周りを見回してみる。家自体の統一性とそのしっかりした造りから、生垣に囲われた庭のその広さに至るまで。大変に立派というか――やはり他の家とは、明らかに規模が違う。
更に、外側がつぎはぎになっていた集落の家と違い。外はそのままに、中のオール電化は見事なまでに進んでいて……しかしながら、家の中の箪笥やら小物やらは、そんな近代的な家具とは相反するが如く、年季の入った高級感あふれる品ばかり。
箱だけ、と言う割には、大きさも質も、明らかに段違い。纏め役、というのは伊達ではないという事だろうか。
「……」
茜色の空を見上げながら、思う。
この手元の冷えた麦茶は、台所にあった冷蔵庫から持ってきてもらったものだ――立派な冷蔵庫だった。高級品って言う訳じゃなくて、実用重視的なタイプの。
さて……こうして空を見上げても、『電線らしきものは見えない』。
そもそもの話、村の何処にも、電線らしきものは見つけられ無かった。
その事を聞いてみると、おばあさんは笑って『発動機は集落の家の必需品さ』とだけ返してくれた。発動機とは……要するに、電気を生みだす機械の事、らしい。
電気は自分達で賄っている――水道から出てくる水は立派な飲み水だったのだが、アレも井戸水を利用しているとの事。
先ほどまで、ここに一緒に居たマシュは――康友から聞いていた『実家』の事を、誰にも伝わらないよう静かに、俺に話してくれていた。
『――康友さんの言っていた以上に、ここは閉じた環境といって良いと思います』
実際、他の集落らしいものは一切なく――そんな中で、自らのルールを定めて生きていた。康友の言う『閉じた環境』は、マシュの思っていたレベルを超えている。
本当に、外界に頼らずとも、この集落だけで生きていけるレベル――マシュ曰く、康友の言っていたケーキの話の不気味さというモノを、『正しく感じられた』という。
確かに、ある一面だけを切り取れば。そこまで不気味に見える訳じゃない。
しかし、細かい所を見ていくと……迷彩職の屋根に、つぎはぎの家、他のインフラに頼らない地産地消。現代の集落のテンプレートに照らし合わせると、余りにも変わった点が多すぎる。
暮らしている人たちも、あくまで普通の人たちだ。おばあさんも、康友も、なぎこさんも、悪い人達には見えない。
『案外普通に見えるってか? まぁ、『そうなる』様に努力はしてたっぽいよ』
……彼は、この集落を、そう評していたらしい。
その言葉が、まるで毒の様に今、じわじわと体の芯に染み込んで来ている気がする。カルデアに居た時の康友は、一体この村の『何』を知っていたのだろうか?
「……巌窟王と、リリィと。一度合流するべき、かな」
色んな人の意見が聞きたい。明日は何れにせよ村を出る事になる。そこで、得た情報を二人と共有して、改めてこの特異点について、一度考えるべきだろう。恐らくは……この村が、この特異点を敵が用意し、康友を拉致したその理由を紐解く、鍵になってる。そんな気がする――
「――おっ、りっちゃんじゃん。何黄昏てんの?」
そこで、ハッとした。横を向くと……なぎこさんが、自分の隣に『どっこらしょ』と腰を下ろしているのが見えた。確か、マシュと一緒に蔵から食器を探す手伝いをしていたと思うのだが……
「食器、見つかったんですか?」
「おう! ウチの蔵は割と何でもあるからな、食器くらいは余裕なのじゃ! 骨董品の筆とかもあるから、見たけりゃ見せてやんよ?」
「うーん、ちょっと気になる!」
ご飯が終わったら見に行ってみようか。じゃなくて。
「それで、マシュと康友……さんは?」
「あぁ、なんか蔵出た時に変な音がしたとか兄貴が言い出してさ。マシュちゃんと一緒に村の入り口の辺りを見に行ってる」
「変な音?」
「気のせいじゃねぇかって思うんだけどなー……ま、いても獣かなんかっしょ」
ぱたぱたと、縁側の縁で足を揺らしながら、なぎこさんはケラケラ笑ってそう言う。獣が居るのは割と一大事な気もするのだが、こういう所は山間に住んでいる人ならではの感性なのだろうか。
ちらりと隣の少女を見つめる。
……おばあさんはここの纏め役で自分よりも何十年も長く生きて来ている、マシュ風に言うならば、人生の大先輩だ。何か聞いても、先程みたく意図を見抜かれ、上手い感じで煙に巻かれてしまいそうで。
『香子さん』と名乗っている、式部さんに関しては……元はここの住人ではない上にそもそもサーヴァントだ。話を聞いて、ここの核心に触れられる情報が出てくるだろうか、というと……分からない。正直に言えば。
そう考えていくと……話を聞くなら、記憶を失っているとはいえ、元はここの出身である康友か、それとも、彼の妹であるなぎこさんになってくる、のだろうか。
……ゆっくりと、息を吐き出す。
「いやー、村の若い衆ってあたしちゃん達だけだし、なんかあったら自分が、って最近変に張り切っちゃってるんよねぇ……」
「ここを守りたいって事、なのかな。良いお兄さんじゃないか」
焦って何か話を聞こうとしても、多分逆効果になるだけだ。それに……ここにはなぎこさんたちと、敵対しに来た訳ではない。仲良くなれるというなら、そっちの方がきっといいだろう。だから……こうして話しかけてくれるのなら、先ずはなんて事の無い日々の話から、聞かせて欲しかった。
康友の日々の話を――ここが本物の彼の故郷なのか、と言われると、自分には答え難いのだけれども。それでも故郷で暮らしている時の彼の様子が、聞きたかった。
聞くべきなのか、そうではないのか……多分、半々くらいだろう。それでも、自分は聞くべきだと思った。若い
「いやー、それ全然建前だから」
「建前?」
「兄貴、そんなお坊さんみたいに清廉って訳でもないし……単純に、かおるっちにいいとこを見せたいだけだと思うよー」
「……えっ?」
……と、思っていたんだけど。なんか話の行き先が怪しい。良い所を見せたい、ってカッコつけたいって事ですよね。あの、女性に対してそれって言うのは、あの、勘違いじゃなければ、そう言う事、なんですか?
「うん。二人とも幼馴染だし、それはメッチャエモいし良いと思うんだけど……変に建前つけて、隠してる辺りがあたしちゃん的にはマイナスかなーって」
「えっ、いやっ、ちょっと……そう言う話!?」
「うん。まぁ、そう言う話~」
なんかエライ話を聞いてるんだけれども。あの、待って。どうして急にそっち方向に舵を切ったんですか? いや康友のプライベートな話ではあると思うんだけれども。思ってたのと大分違うというか。
えっ、待って。康友の記憶は消えていて、でその代わりに記憶を改ざんして……で改ざんしてこうなって? えっ、えっ、えっと……?
「えっ、えぇ……?」
「まぁまぁ、なぎこさんの話を聞いておきなって。どうせ夜も長くなるんだからさ♪」
……こういうのは普通、女性同士でやるモノじゃないんだろうか。
そう思いながらも……目の前の妹さんから、逃れられる気がしない。
うーん、話を聞こうと思ったのは後悔していないが。もうちょっとこう、聞く話については、こっちからちゃんと指定するべきだったかなぁ、と今更ながら。そう思ってしまうのは、避けられなかった。
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