FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:こわーいこわーい

 指先で、目の前の翠を掻き分ける。茂みの奥を覗き見たが……何もいない。

 並ぶ木々の向こうに視線を向ける。林立するその間を抜ける影も――また、無い。

 

 周りを見回しながら、耳を澄ませる。聞こえてくるのは、葉っぱの擦れる僅かな音、風にそよぐ枝葉の音、遠くから聞こえる鳥の鳴き声――そして……もう一人の同行者の、地面を踏み占める足音、それ位なものだ。

 他には、特に不審な物音は、何も感じない。

 

 背後を振り返る。地面に伏せ、草木の影に至るまで念入りに探しているが……しかしやはり見つからなかったようで、ゆっくりと体を起こして、その青々とした黒髪を、苛立たし気にガシガシと掻いた。

 

「――うーん、やっぱ獣かなんかで、もうどっか行っちまったのかねぇ……マシュちゃん。そっちはどうだった?」

「いいえ、此方にも特に異変はありませんでした」

「んー、そうか……ワンチャン気のせいだった、って可能性もあるかぁ?」

 

 ……それはない、とマシュは思う。彼――康友が苛立たし気に頭を掻いたのは、先程聞いた物音が『確かなモノ』だったからだ。それは自分も、しっかりと耳で聞いているし。小動物の類が立てるような、微かなモノではなかった、と思う。

 

 しかしながら、大型の、熊の類が出す音にしては……余りにも一瞬の事だった。山の自然が奏でるには、僅かに『違和感』のある音――それを康友は理解していたのだろう。だから、こっそりと『なぎこと先に戻っててくれないか? 妙な音がした』とマシュに耳打ちして、一人で向かうつもりだった。

 彼は知らないだろうが――大型の動物よりも俊敏で、物音を最小限にとどめる最低限の知能を備える、不審な何者か……マシュは、それに明確な心当たりがあった。彼らの知らない、黒い影。

 

「まぁ居ねぇなら、取り敢えずは仕方ねぇ、か?」

「もう暗くなってきましたし、戻りましょうか」

「そうだな。すまん、マシュちゃん。結局付き合わせちまって」

「いいえ。お役に立てたのであれば、嬉しいですから」

「……ホント良い子だなぁマシュちゃんは。なぎこに爪の垢煎じて飲ませてやりてぇよ」

 

 もし彼らだったとすれば……今の康友に対応できる訳もない。先輩に一言伝える事も考えたが。万が一にもそうしている間に彼が襲われたらマズい。

 そう考え、自分一人で同行する事にしたのだが……ここまで一切の手応え無し。心配も無事杞憂に終わりそうで、少しほっとしていた。

 

 とはいえ、康友の方は、彼女と違って僅かに不満そうではあるのだが。

 

「……漸く不審な影っていう奴の尻尾を掴めると思ってたんだがなぁ」

 

 ここに到着する直前、マシュは共にここに向かう康友から聞いていたのだ――『もしもこの集落の周りに居る不審者なら、締め上げてやる』と。村の数少ない若い男手としての責任感を滲ませていた。

 

『……正直気が気じゃねぇんだよな。香子さんとか、なぎこちゃんとか、若くて綺麗な娘とか、特によ。だからまぁ、腕っぷしならそれなりだっていう自負もあるし。俺みたいな若いのがどうにかするのが筋かなって』

 

 義憤と、活動的な性格。

 カルデアに居た時と変わらない彼を見て、少し嬉しかったりしつつ、同じくらい『付いて来て良かった』と安心したりもしてしまった。例え、相手に刃物をちらつかせられたとしても彼ならば――という想像は容易に出来てしまったから。

 

 それに……自分達にとって、不審者は彼の言う通りの意味ではない。可能性はもう一つある。分かれた『彼自身』のサーヴァント……紫式部はここに居るとして、後の二人は、未だ姿を見せていない。

 彼女達と接触できる可能性も、僅かながらもあるというのなら。

 

「――不審者の目撃証言は、ここ最近増えているという事で宜しいのでしょうか」

「あぁ。今までもアンタら以外に迷い込んで来るって奴はいたんだが。村の周りをうろついて、全然近づいてこないってなるとなぁ……チラって覗いてるのを見つけたり、木の上からこっちを見てたりって、色んな処から見てるし」

 

 探る様に問いかけるマシュの言葉に、康友は木々を見回しながらそう返し。

 

 オマケに、小さな子供位だった言う人がいて、大人位の背丈はあると言った人もいて。正体がイマイチ掴みづらいというのも、村の住人の不安を煽っている――頭を掻きながらため息と共に、言葉をつづけた

 

「中には、熊ぐらいゴツイって言うのを見た人も居るんだよ」

「く、熊ですか」

「まぁぶっちゃけ、香子さんと、なぎこちゃんなんだけどな? しかも、本当にアンタらが此処に来る直近の話だから、まぁ過敏にもなっちまうって言うか」

 

 その言葉、僅かに眉をしかめてしまう。その特徴は、自分の想像している最悪の可能性の方に合致するものではある。彼らも、この村の周辺に潜んでいると考えて良いだろう。

 

 やはり、今回も付いて来たのは正解だった。もう日も暮れて周りも暗い。月明かりしかないこんな場所であの黒い巨体に奇襲など受けようものなら――と。

 

 見回した、その視線の先で。僅かな灯りを目にした。月明かり……ではない。角度が全然違う。何の光だろう、と思ったその一瞬。それが月明かりを『反射』しているモノだと漸く気が付く事が出来て。

 

 その瞬間、マシュの背筋を駆け抜けたのは、これ以上ない悪寒だった。

 

「――危ないっ!」

「おわっ!?」

 

 咄嗟に、目の前の彼の体を突き飛ばす。何をする、と此方に視線を向ける――康友のその目の前を、瞬間。ギラリと光る一閃の銀光がすり抜けた。

 それは、間違いなく――先ほど、一瞬目にした『刃の照り返し』である。月の光で気づいていなければ、完璧な不意打ちだったろう。

 

「な、なんだっ!?」

「下がっていてください、危険です!」

 

 康友を庇って、前に出る。

 睨みつける茂みの奥――緑の幕を押し割って、大柄な影が姿を見せた。甲冑を纏い、鬼の様な面を付けたそれは、人の形に似て、熊よりは流石に小柄ではあるが……間違えようのない、人外のそれ。

 

「不審者っつうか、化け物……!?」

「キャスター・リンボの尖兵――シャドウサーヴァント!」

 

 改めて、此方を認識したのか――振り下ろされたその太刀が、再び構え直される。

リンボが『精鋭』と称していた改良型だ。サーヴァントではないにしろ、今の彼に対処は到底出来ない強敵である。

自分が相手をしなければ、と。即時武装を展開しようとした所で――

 

「なっ……めんなぁっ!!」

「っ!?」

 

 その、直前の事だっただった。

 日常では到底あり得ない怪異との遭遇である。日常に慣れている今の彼が、咄嗟に動けなくても当然だろう――そう、思っていた。

 だが、侮っていた。飛び出した一瞬の横顔は、確かに恐怖で歪んではいたが、それでも尚、歯を食いしばって。恐怖に打ち勝って、拳を握っていた。

 

 あぁそうだ。この人も、自らのマスターと同じ。特異点Fから絶望を跳ね除けて駆け抜けて来れるような人だった。たとえ記憶がなかったとしても――ここで引きさがる選択肢が取れる人じゃない。

 

「ま、待って――!」

「――うぉわぁああああああっ!!」

 

 その予断が、今。目の前の彼を殺す。すぐさま盾を展開しようとするが、自分の盾の重量では、一歩間に合わない。守れたとしても、一太刀は浴びせられてしまう。

 絶望の未来。それが目の前で展開されそうになった――その瞬間。

 

「――今は大人しくしとき」

 

 耳元で。涼やかな声が聞こえた。

 

「えっ――」

 

 瞬間、二人の一歩よりも早く、刃よりも疾く――色鮮やかな一陣の風が、黒い大柄な影へと吹き荒れて。その巨大な身体が、ほぼ直角、上向きに弾き飛ばさる。

 ごきり、と言うその音は、真上に仰け反らされた首から聞こえた。仮面の化生の顎を真下から見事に捉えたのは、真上へと伸ばされた、白く細い、艶めかしい少女の脚、その足尖である。

 

 呆然とその景色を見つめる康友の目の前で――ぴょん、と軽く飛び上がったその小柄な人影は、くるりとその着物の袖をはためかせながら、くるり一回転。怪物に一撃を加えたその足先でもう一発、今度は伸び上がったその頭の側頭を捉え。

 

「ほれ」

 

 彼方へ向けて、蹴飛ばした。

 文字通り、大柄な体が、真横に向けて、吹き飛んだのだ。木々の枝葉、細めの幹をへし折りながら、シャドウサーヴァントは闇へと消えていく。この場合は、首が取れなかったのが、不運、なのだろうか。

 

 圧倒的。シャドウサーヴァントの人間離れした体格など何の意味も成さなかった。自身よりもずっと小柄ながらも、まるで叶わぬ剛力を持ち合わせる『人外』相手には。

 すと、と。酷く静かに、少女は地面に着地する――あどけなく、美麗、色気に溢れた童女の姿、そこから発揮される尋常を遥かに凌駕する大力。二つの相反する要素を両立させるのは、その額に映えた二本の『角』

 

「――あ」

 

 それを――彼が視界に捉える。思わず、声が漏れてしまっていた。今の彼にとって、その姿は、どのように映るのだろうか。

 

「――坊。こないな夜に、どないしたん? 迷子にでもなったんかねぇ?」

 

 にんまりと。鋭い牙を覗かせながら、悪戯に少女は笑う。

 

「……鬼」

「うふふっ……せやねぇ。こわーいこわーい、鬼やねぇ……♪」

 

 月明かりを照り返す、白磁の如き白い肌に、赤い目元の化粧が良く映える。着物の胸元から覗かせるのは、水着の如き大胆な黒い肌布。そして……戦っている最中でさえ片手から、赤い盃を手放さないその姿。

マシュは、とても良く知っていた。

 

 アサシン、酒呑童子。

 本造院康友、第三のサーヴァント。恐るべき魔性の反英雄。

 月明かりの中で、康友と、アサシンは――まるで、お伽噺の様に。再びの、出会いの時を迎えていた。

 




因みにちゃんと『出会った』のはコレが初めてだったりします。はじめましてしないで仲間に成りすましてたのがファーストコンタクトでしたし……
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