FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:真実に辿り着くために

 ごくり、と。唾を飲み込む音がはっきりと聞こえる。少年は、目の前の童にも似た怪物に、ずっと視線を釘付けにされていた。

 

「――本当に、いるもんなんだな……」

 

 呆然と、呟くように、康友はそう口にした。目の前で起こった現実を、受け入れ切れているのか。それとも……状況を理解しきれず、半ば現実逃避の様な気持ちで呟いてしまったのか。マシュからは見れば……何方も取れるような言い方だった。

 よた、よた、と。よろけるようにして、彼は一歩を踏み出した。伸ばした指先は……ただただ、真っ直ぐ。その指先が、ぐぐっとこぶしを握る。

 

「あぁ……チクショウ……文句を言ってやりたかったんだ……

 

 堰を切ったかのように――どんどんと、言葉が溢れだしていく。口元を震わせながらそれでも尚……彼は、口を開く事を、止めなかった。いや……自信の意志で喋る事を辞められなかった、と言うべきなのだろうかと。マシュは思う。

 

「ずっと、ずっと、アンタ等に強烈なのをお見舞いしてやりたかった。あぁそうだよ、殴り飛ばして、やりたかったのに……クソっ、なんだよ、コレ……っ!」

 

 知っている。総てを、とは言い切れないが。それでも、彼が鬼と言う種族に、複雑な感情を抱いていた事は――知っていたつもりだった。けれど……これは。

 

 一歩を、踏み出す。彼女との、距離を詰める。伸ばした手は、縋る様にも、目の前の酒吞童子を求めているようにも見える。

 酒吞童子は、そんな彼の姿を見て――にやり、と。笑ってから。

 その手に触れる直前で、ぴょんと一歩、下がって距離を取ってしまう。

 

「あ――」

「そないにこわーい顔して、手ぇ伸ばして。うちをどないするつもりなんやろか……ふふふっ♪」

 

 そのまま、袖で口元を隠しながら、くすくすと。耳の奥を擽る、甘く媚びた声。

ちろりと覗いた紅い舌が口の端をぺろりと撫ぜて……まるで、酔っているかのような足取りで、彼はもう一歩を踏み出し――酒吞童子は、その指先からすり抜ける様に、もう一歩下がってから。後ろの木の上へと軽やかに跳び上がった。

 

「うちのナカまで、めちゃくちゃにしたいんやろか……あかんよ、まだ、だぁめ。まだまだナイショ……な?」

 

 慌ててその下へと歩み寄った康友に……小首を傾げながら、ひらひらと酒呑童子は手を振った。牙を少し覗かせながら見せる笑みは、少女のモノとは思えない程に、艶やか。

 

「『うちら全員』の事は、まだまだ内緒やけど……そっちの嬢ちゃんなら、うちの事、なんか知ってはるかもねぇ?」

 

 そう言って……酒吞童子は、此方に視線を向けた。目をぱちくりとさせたマシュに、彼女は一つ、ウィンクをして見せて。

彼女と面と向かって話した事はそう多くないのだが、しかし。不思議と、此方に対して行われたその目配せの意味は、そう深く考えずとも、マシュには理解出来た。

 

「……どうして」

「――マシュっ! 康友さん!」

 

 その疑問について、考えようとしたその時――枝葉を掻き分ける音と共に、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。その声に、ハッとして振り返れば……そこに居たのは、果たして自分のマスター、藤丸であった。どうやら、先程の叫び声を聞きつけて、駆け付けてくれたらしい。

 

 そしてもう一つ。別方向から、木々を掻き分ける音と……その直後に、どうと何かが倒れ伏す様な音が聞こえて来て。今度は視線を其方に向ければ、先程吹っ飛んだのとは別固体と思われる『シャドウサーヴァント』が地面に倒れ伏していて。

 

「――マシュさん! マスター! ご無事ですか!」

 

 その奥から、小柄な少女が飛び出して来て――僅かに息を切らしながらも、その構えた剣でシャドウサーヴァントを討ち取ったのであろう。リリィが此方に駆け寄ってくる姿が確認できた。

 

「リリィさん!」

「此方も襲撃を受けまして……巌窟王さんが残りの二体を引き付けている内に、私が先行させてもらいました! それで、此方に敵は!?」

「彼女が、既に」

 

 ……視線の先に転がっている大柄な影、そして木の上の酒吞童子を見て、彼女も納得したのだろう。声をかけようとした所で――マシュは、その動きを制した。

 どうして、と問いかける様に此方を向く彼女に、今は、とだけ返しながら改めて。酒吞童子へと視線を向けた。彼女は上手に出来ました、とでも言わんばかりにマシュに向けてほほ笑みかけ。改めて、自分を見上げる少年へと、手を振って見せた。

 

「――ふふっ、ほいじゃ、今日はここら辺でお開きにしとこか」

「ちょっ――待て、話はまだ!」

「また会えるさかい、そう焦らんの……あぁ、せや」

 

 木に登ってでも、逃がしはしない――そんな勢いの康友に向け、酒吞童子はその手に持っていた何かをポイと投げつけてくる。

 頭上に伸ばした伸ばしたその手の中に納まったのは……マシュも見覚えのある――ルーン文字の刻まれた、黒い石であった。

 

「――石?」

「ふふっ、坊への贈り物なんやから、落としたらあかんよ?」

 

 それは康友がスカサハから貰ったという、『お守り』――投げ渡されたつやつやの石の表面を、彼は訝し気に見つめた後、もう一度酒呑童子の方へと視線を向けた。

 

「それと、もう一つだけ。夜中は出歩かん方がええで? こわぁいかがちが、出歩いとるさかいな?」

 

 その言葉を最後に。

 酒呑童子は、月の光を背に、宙へと舞う。追いかけようとも届かぬと、彼に示すかのように、殊更に高く。白い光の中に、赤く三日月を描いて、笑いながら。

 ……こちらと合流する気はまるで無い。何を考えているのか良く分からない。その振る舞いの一々が、まるで彼を揶揄い、誘い、蕩かすように蠱惑的。

 

 正しく魔性――人を惑わし、手を伸ばしても届かぬ、圧倒的な力の象徴。こうして間近で眺めていると、彼女の生き方というモノを改めて見せつけられている気分になる。

 

「ま、待てよっ」

「『宴』はもう直ぐ――楽しみにしときなはれ」

 

 森の木々の向こうへ、酒呑童子は消えていく。それを……康友は、よろよろとした歩みで、数歩ほど歩きながら、彼女の消えて行った先を、ずっと、ずっと見つめていて。月明かりに照らされたその横顔。まるで見捨てられた子供の様なその顔を……隣のマスターと共に、マシュは見つめる事しか出来ない。

 

 ……リンボと、敵の首魁である『相馬』と。彼らばかりを気にしていた。長閑な彼のこの故郷について、その異常さを見ながらも、何処か楽観的に見始めていた、自分が居た。

 しかし、こうして見ていると、思う。この故郷で凄しながらも、この複雑で、何処までも奈落に向けて落ちていくようなこの感情は、育てられたのだと。

 

「……マスター」

「どうしたの?」

「私達は――敵方と相対し、そしてその企みを打ち破る為にも……改めて、この場所についてよく知る必要があるのではないでしょうか」

 

 思った事を――素直に、マシュは口に出した。

 酒吞童子が自分に言った『うちら全員』とは。彼にとっては……あの黒い甲冑と、そして自分と。そんな風に見えているのではないか。

 

 だが本当の意図は……恐らく記憶を失う前の『本造院康友』とサーヴァント・酒吞童子の関係……ひいては、彼と三人のサーヴァントについての事なのだろうと。自分については、マシュに聞け、と言うその奇妙な言い方からも、何とかその意図はくみ取れた。

 状況を打開する為の切っ掛けの一つと見ていた酒呑童子は、敢えて自分達の関係については伏せる様にと、言外に自分に伝えてきている。その上で――自分と言う存在については、此方に聞く様に、と。まるで……目の前の彼を、焚きつける様に。

 

「酒吞さんは……そのきっかけを、私達に」

「――なぁ。アンタ等」

 

 ……目の前の少年が、此方に視線を向ける。

 先ほどまでの、泣きそうな表情は……大分、落ち着いたか。それでも尚、顔を顰めた表情の裏には、色々なものが――それこそ、様々な感情が渦巻いているであろう事は、想像に難くない。

 

「アレは……誰なんだ。アンタ等は、知ってるんだろう?」

「……うん。知ってる」

「そもそも、アンタ等は、なんなんだ。普通の学者さんかと思ってたけど……いや、そっちのマシュちゃんの格好見て、普通じゃねぇのは察しは付いてたけどさ」

 

 それでも尚、彼はけらけらと笑う。それが、少しでも今の状況を受け入れようと、康友が努力しているように見えて――マシュも、そして隣の立香もきっと、同じような気持ちで、微笑んだ。

 

「この村に、一体何が起きているんだ。頼む……教えてくれよ」

 

 そう言って、頭を下げてくる彼が。例えどれだけ苦しくても……前を向いて足掻こうとしているのが分かって。それが、なんだか嬉しかったから。

 




長かった……ホント主人公のパーソナルを書くためにここまでかけるとか自分の無能ぶりに涙がで、出ますよ……(悔恨)

今回の更新はここまでとなります。
年末は更新できるか分かりませんが、頑張って短めでも更新できるように頑張ろうとは思います。よろしくお願いいたします。
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