FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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ただいま(小声)


断章:かつての悲劇の傷跡

「……成程ねぇ」

 

 ――信じて貰えるかどうかは、この際考えなかった。

 

 事の次第を話すにあたり、関係者を集める事になる――合流したリリィと巌窟王を含めた自分達カルデアの面々と、この村の人達を。当然、康友の家族――おばあさんも、その中に含まれる。

 康友の家に集まってから……出来る限りの事を、全て話した。カルデア、と言う組織の事と……あの黒い影と、現れた存在について――康友と、そしてそのサーヴァントの事については、出来るだけかいつまんで。

 

 この特異点は、普段のそれとは大きく違う。神秘と言う概念も薄い場所だ。自分達の話はさぞ荒唐無稽に聞こえるだろうと……それでも構わない。兎も角、今の現状を伝えなければ危ない。そのくらいの気持ちで、話をした。のだが。

 

「康友――今の話、嘘は無いだろうね」

「逆に聞くが……こんなバカみたいにぶっ飛んだ設定の嘘を、なんで俺がこの人たちと共謀して吐かなきゃならんのだ?」

「まぁ、そりゃそうか。全く……事実は小説より、なんていうけど、この村以上に頓狂な事実があるなんざ、思っても見なかったよ」

 

 だが――こちらの話を全て聞き終えたおばあさんは、そんな予想に反して……特に驚いたような様子を見せず。酷くあっさりと、此方の話に頷いてくれた。

 

「信じて……くれるんですか」

「ま、このガキは馬鹿ではあるが……可笑しな嘘は吐かない。それに、ここ最近の妙な出来事にも、一応の説明も付く。何より、アンタ等がただの学者の卵っていうよりは、そっちの方が納得も出来るさ」

 

 ……曰く、初めて会った時に『大戦』の時に目にする事があった、兵隊さんのような空気を感じていたらしく。学者の卵、という説明にも具体性はあったが、全てを話している訳では無いだろうとは思っていたらしい。

 

「その後、まぁこんなババアとクソガキの二人にも愛想よく誠実に接してたし、何かコソコソするそぶりも見せて無かったから、警戒は解いてたがね。ったく、そっちの嬢ちゃんに至っては、疑う方がバカらしい位に良い子だったし」

「きょ、恐縮です」

 

 ……マシュの人柄と、少しでも特異点の人達と触れ合おうという自分の意志が、認めて貰えた要因と言うのがなんだか嬉しかった。今までの旅で続けて来た事が報われた様で。

 信じてくれて、ありがとうと。胸にこみ上げる感情のままに、おばあさん……いや、この場にいる『二人』に向けて頭を下げた。

 

 ――そう。

 

 この場にいるのは、おばあさんと康友の二人だけ。

 なぎこさんと、式部さんは……今、ここにはいない。と言うのも、話をするとなった時に、先ずはおばあさんと自分だけに話して欲しい、と康友に強く頼まれたのだ。理由は後で話す、今はそうして欲しい、と。

 

「――アンタにしては、上等な判断だ」

「当たり前だろうが。まだ昔の事、傷が癒えてるかも分からねぇってのに」

「……昔の事、ですか?」

 

 マシュの問いに、康友と、おばあさんは此方にちらりと視線を向けてから、一つ溜息を吐く。口を開いたのは、おばあさんの方。

 

「……あんまり人がいないだろう、この村」

「そう、ですね。私達がこの村に入ってからお見かけしたのは、皆さんだけでした」

「昔は、もう少しいたんだよ。少なくとも、こうやって他の奴らが仕事に出ても、それなりに留守を預かれる奴が残る位には、ね」

 

 ……おばあさんは、そのまま家の中をゆっくりと見回してから、ぽつりと呟いた。

 

「綺麗なもんだろ? この家」

「え、えぇ。とても掃除も、整頓も行き届いてて――」

「何年も前は……この部屋回りなんかは血の海に沈んでたかね」

「――え?」

 

 ……彼女が続けようとした言葉が、止まってしまったのが分かった。

 

 思わず、自分もおばあさんに倣って部屋の中を見回す。自分達が座っている、この机の周り、リリィが座っている座布団の近く、巌窟王が背を預けている柱回り……おばあさんが目を向けていた辺り、全てを。それから……自分の座っている辺りも。

 

 ……ゆっくりと、顔を上げる。

 目の前の康友の眉間には、深い、深い皴が刻まれ……ぎり、という歯の軋む音が、嫌にハッキリと聞こえた気がした。

 

「……あぁ、良く覚えてるよ――本当に、良く、な」

「あの日は、ちょっとした集まりで、村の奴らの殆どがこの屋敷に来てたからね。私は当然として、ガキ共も一緒にこの屋敷の中に居た……」

 

「でも――生きて屋敷を出たのは、アタシ達四人だけだった」

 

 ――ひゅ、と。

 

 誰かが、掠れた様な悲鳴を上げた。

 

「……生憎だが、何が起こったのかは詳しく覚えちゃいない。私達も、生き残るので必死だったからね――ただ、少なくとも二十数人いた他の村の奴らは……全員、朝には死んでた。誰一人、この大広間から出る事もなく、ね」

 

 ――朝、この部屋は地獄と化していた。

 

 心臓に達する程の深い切り傷を負わされた者、自分が沈むほどの大量の血を吐いてこと切れた者、首の骨が真横にへし折られた者……全員が、この大広間から出る事も無く、部屋の中で殺されていた。

 ……子供たちは、鳴く事は愚か、口もきけなくなる程に憔悴しきっていた。おばあさんは、体調不良で参加できなかった僅かな村人と共に、全ての死体の片づけをした。

 

 その中には当然、彼女にとっては娘、息子である、康友のご両親も……いや、それを敢えて口にしない、その理由が分からない訳でも無い。それを聞く事は、しなかった。隣の康友の、人でも殺しそうな程に歪んだ表情が、全てを物語っていた。

 

「……全員が老人って訳でも無かった。いや、老人も山仕事をしてたから身体は言うほど衰えてはいなかった。それが二十数人、碌な抵抗も出来ないまま、殺された」

 

 ……あの日、この村には得体の知れない『何か』が現れた。熊のように、人の肉を喰らうような獣ではなく。しかして、人間では真面に太刀打ちも出来ない様な、正体不明の存在。その手に寄って――そう、結論付ける事しか、出来なかったらしい。

 

「……私達も、信じたかなかったけどね。状況が、そう伝えてた」

「んで、この村は住人が二桁行くか行かないかの寒村になった訳だ……こうしてここまで持たせたのは、殆ど奇跡みたいなもんだよ」

 

 ……その事件は、村に致命的な傷を与えた。物理的にも……精神的にも。

 

「……こっちのは、何とか早めに立ち直ってくれて助かったんだけどね」

「俺は……まぁ、兄貴だし、男だし……ただ、俺よりちっちゃかったなぎこと、元から荒事とか苦手な香子さんはな……」

 

 ……香子、と呼ばれてる式部さんに関しては、流石に除外するとしても。今、アレだけ明朗快活にはしゃいでいる彼女が。その先の様子すら、濁すようにして口にしなかった辺りに、詳しく聞かずとも察せられるものがあった。

 

「ま、アンタ等の事情を素直に受け入れられたのは、そういう事情もあるのさ」

「……成程」

 

 康友が、荒事に慣れていたり、精神的にもある程度は強い理由が、何となく察せられた気がした。自分の村の知り合いが、想像だに出来ない様な『不幸』に見舞われた。しかもその惨状を見せつけられたのが、人生で最も『弱さ』を許される幼少期である。

 

 強くなった――と言うよりは強くならざるを得なかったのか。

 数の減った村の人々。残されたのは、僅かな自分の親族と深い中の女性含む、片手で数えられる程度の数……今の彼の頭皮がああなってしまっているのも、頷ける程の窮地と言っていい。目の前の彼の髪が戻っているのは……向こうのサービスのつもりなのか。

 

「……今回の一件は、当時の理不尽を思い出させかねない。だからまぁ、今は……詳しい事情は話さず、の方針で行きたい」

「ですが、それでは」

「あぁ……今、村を取り囲んでるのは、『昔より上』の脅威らしい。それをキチンと周知しなきゃマズい、って言うのもな。だが……多分、伝えたら今度こそ『持たない』」

 

 ……その方針に、誰が異を唱えられるだろうか。マシュも、リリィも、重苦しい表情で静かに頷く事しか出来ず。巌窟王はそこまで表情を変えていないが、意見があれば無駄に隠さず、必ず口にするであろう彼がだんまりと言う事は、そう言う事だろう。

 

「……分かりました」

「助かるよ」

 

 良い人達だ。危機的状況であっても、他人の心をキチンと慮れる。奇妙な村で暮らしているという事実では、この善性の輝きを曇らせる事が出来ない程に。

 

 ……だからこそ、疑問は増える。

 普段の彼は、おばあさん含む自分の実家の一族を余り宜しくは思っていないように見えた。だが……村の為にと逞しく成長したという背景を知った今では、その態度に矛盾があるように思えた。

 カルデアに来るまでに、彼に何があったのか。それを考えてしまうのは、人間の好奇心の強さが悪く出てしまっているからだろうか――

 




と言う事で、更新を再開したく思います。
とはいえ師走ですので色々忙しい事もあり、何時も以上に更新はぽつぽつとしたモノになる可能性が高いですが、それでも頑張りたいです……
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