FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
……目を覚ます。
一体どれくらいぶりだろう。こんな和室でぐっすりと眠ったのは。布団の中で眠りについたのは。体を起こし、若草の畳敷きの部屋をぐるりと見回し。それから、天井に広がる木目を眺め……ゆっくりと伸びを一つ。
ごきごき、と言う音と共に解れた身体に、血液が活発に流れていくのを感じながら……昨日の事を思い出す。
『――え゛っ!? マシュちゃんと兄貴、熊襲われたん!?』
『そ、そうなんです……身の丈なんて私よりも全然大きくて、ですね……』
『でもそれを、こっちのお仲間の人が助けてくれてな――本来は、こういう山で活動する為の護衛みたいなもんだったんだけど、漸く合流できたらしい』
……昨日の悲鳴は、取り敢えず熊に襲われた、と言う事で済ませた。事を詳しく説明しないのであれば、恐らくそれが一番説得力があるだろうと――まぁ実態は熊以上に恐ろしいモノではあるのだが。
結局、自分達はここを調査しに来た学者の一団、と言う事で通す事にした。熊がうろついている様なので、暫くは下山も難しそうだ、と言う事にして。
カルデアとして、容易く正体を明かせないのは、正直行動する上で不利になってしまうのは否めないが――逆に、利となる事もあった。それは……この村を調査しに来た、という言い分が、堂々と仕える事である。
『――ダ・ヴィンチちゃんとの連絡が取れない以上、我々の手で、この特異点……というより、この村周辺についての情報を収集する必要があります』
『奴らからは、この村にお前達を閉じ込めたいであろう意志が透けている』
……外から監視をしていた巌窟王曰く、だが。
村に到着しても、敵方は行動する意思を見せなかった。
彼らが動き出したのは、マシュと康友が、村の近くの林を探索していた頃――それまで全く行動する素振りすら見せなかったというのに、二人が家から出て、そして藪の奥を探索し始めてから急に、である。
『俺達が二人で村の周りで待機していても、まるで反応しなかった。襲う意志すら見せなかった――だというのに、其方が村から離れ、少し探索しただけでアレだ。どうやらここから離れる意思を見せるというのが余程お気に召さないらしい』
……この村の中から出て欲しくない。かといって、ここに追い詰めて襲う訳でもない。
となれば……何かをして欲しいのだ。この村の中で。探すのか、調べるのか、それとも推理の一つでもして欲しいのか、詳しい事はサッパリと分からないが。この村には、向こうが何かを仕込んでいると見える。
『向こうの意志に沿う形にはなりますが……特異点解決、及び、康友さんとそのサーヴァントの皆さんとの合流を目指す為にも、この村の内部の調査は必須と思われます』
『調べる事で何か起こったら、マシュさんも、エドモンさんも……勿論私も! 気合いを入れてマスターを守ります!』
『……気合いを入れてしまってはバレてしまうので、こっそりになりますね』
『あっ、はい、そうですね……』
……色々な制限はある。その上で広げられた虎口に態々飛び込んでいく事にはなってしまうのだが……カルデアとの通信も満足にできない今は、他に出来る事も無かった。
それに、不幸中の幸いとでもいうべきか。この村に調べるのであれば、最適な二か所は既に判明している。
村の調査にあたるという話になり、その事について康友について相談した時……この土地に古くから根付く本造院家は当然として、それからもう一つ、式部さんの『貸本屋』を、彼は候補に挙げたのだ。
『香子さんの蔵には、まぁ古い本が大量にある。他所から持ってきたモノも多いが、貸してない本の中には、ここで書かれたモンも数は少ないが、ある筈だ』
と言う事で……バッチリとサーヴァントなリリィと巌窟王は、出来るだけその正体を悟らせない様に、本造院家の探索を。そして、自分とマシュに関しては、既に交流のある香子の家の蔵を調べる事となっている。
朝餉を頂いたら、直ぐにでも行動開始となる。急いで……しかし、焦らない様に。部屋に敷かれた布団を片付けるのも、忘れない様に――
「――うぇーい!!! 朝飯出来たぜい!!!」
「どわぁあああっ!?」
……なぎこさんのパワフルボイスで保とうと心掛けた平常心を早速乱されつつも。カルデア一行の、村での滞在二日目はスタートしたのだった。
「――ここです」
式部さんが指さしたのは――如何にも、と言った感じの古い蔵。それこそ、時代劇なんかで良く出てくる様なタイプの、白い漆喰の壁に、瓦屋根。二階建ての立派なモノだ。
貸本屋においてあるもの、それ以外の手元に置いてあるもの……そして、残るそれ以外の本を納めているのが、この蔵なのだという――早速、鍵を開けて貰ったその重厚な扉を押し開けて、中へと踏み込んでみれば。
「……お、多い!」
「もの凄い蔵書量ですね……!」
壁際から、室内に至るまで……積まれた諸々の荷物や骨董品。そして……それすらも圧倒する量の、圧倒的な書物の数たるや!
「……元々、この家は村の外から集めた蔵書を集めていたのですが。それ同時に、古い時代からこの村にて書かれた書物を補完する役割を持っていたのです」
「この村にいた方々は、書を記すだけの教養があったのですね」
「えぇ。この村を作ったご先祖様は、元々落ちぶれて来た都人だったそうで……ここでの生活の合間に、せめてもの気晴らしにと書をしたためていたようです」
……式部のご先祖様が此処の住人であったという記録は何処にもないのだが、やはりある程度はこの『村の住人』として諸々の洗脳……というより、偽の記憶を植え付けられているのだろう。
しかし、嘗て生きていた遠い先祖の事を語る彼女の口調に淀みは無く、その内容も村の建物の特徴などを踏まえてのもので、かなり具体的であり。内容的に考えても、ここまでしっかりと喋らせる意味もないようなモノばかり。
偽であっても、嘘の記憶とは考えづらい。
「――特に本造院家の方々の記した書物は、殆どここに。念を入れた管理の元で保存されています。恐らく、この村で書かれた書物の中で、最も多いかと」
「調べるのであれば、その辺りを念入りに、という事になるでしょうか……ですが」
……この集落の事を『深く調べる』となれば、この村で最も古株である本造院家を調べるのが基本となってくるのだが。問題は、この積み上げられた箱やらなにやらの数だ。
これら全てが本造院家所縁の品、と言う訳では無いだろうが……しかし最も多いという紫式部、もとい『香子』の証言を信じるのであれば、この積み上げられた箱の中に、かなりの量が収まっているのは間違いない。
「今日中に全部調べる、って言うのは難しそうだね」
「二日……三日ほどは見るべきでしょうか」
「私も、どれほどの量があるのかは把握しきれていないので……ともすれば、それ以上にかかるやもしれませんが」
頭を掻きながら、倉庫の中を改めて見上げつつ、ため息を一つ。取り敢えず、何処から手を付けるべきかから考えるべきだろうか……これだけ積み上げられているとなると、下手に手を付ければ、この蔵の中で大崩壊時代を迎えかねない。
「……良し! 頑張って、ここの村の諸々を調べよう!」
「おーっ!」
「微力ながらお手伝い出せて頂きます!」
……取り敢えず、皆で気合いを入れなおしてから。一歩を踏みだして――そこからは、とにかく地味な作業が続いた。少しずつ、ちょっとずつ、書物を納めた箱を引きずり出しては中身を検め、それが有用なものであるかを確かめる繰り返しの作業。
なんだか、閉じた空間の中で大量の書物と殴り合いでもしているのではないかと言う、妙な気分になって来た辺りで……漸く、マシュが『それらしいモノ』を見つけた。
「マス――んんっ、先輩。これを」
「……『古郷ノ成立チ』」
飾り気も何もないシンプルなタイトル。和綴じにされたその一冊は、他の日記だとかの類とは確かに一線を画すようなものであるのに、間違いは無かった。
最近の調べものパートで実際本と殴り合いするあの表現大好き。