FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
……康友は、まだ当主になっていない。
そもそもこの名簿に書いてある人数から考えてもこの『五代』が本造院家の家長を示しているとは思えない訳で――では、一体何を指した数字だ、これは?
一応、隅々まで読んではみるが……その説明らしいものはまるでない。
「……」
「――先輩、どうしたんですか?」
「何か、見つかりましたか?」
……ふと、そこでマシュと香子に声をかけられて、ハッと振り返る。どうやらかなり考えこんでしまっていたらしい。
「とても難しい顔をされていましたが……?」
「ごめん。ちょっとね……この本なんだけど」
取り敢えず、マシュに手元の本を渡してみる。受け取ったマシュは、その手元の本に視線を落とし。香子も、覗き込むようにしてその中を確認して行って……二人ともだんだんと顔を顰めていくのが見て取れた。
「……家系図、にしては、書き方が単純すぎるような」
「それに、この『五代』、というのは……康友君の上に書かれてますけど」
「心当たりは、無いんですよね」
「えぇ、全く」
……マシュから、再び本を受け取って改めて、開いたページに目を落とす。
表で掠れて読めなくなっている物以外、この本にはほぼ名前しか書かれていない。長い時間をかけて黄ばんだであろう紙の一面に、黒い文字で無機質に並べられた人の名前と、上に書かれた正体不明のナンバリング。
書いてある名前は……康友で終わり――いや、もう一人。康友の後に、『本造院』という名字『だけ』が書いてある。名前の部分は完全な空白だ。
現在の家族構成から考えれば、恐らくこの名前の書いていないのは、なぎこさんと言う事になるだろうが、何故彼女の名前が書かれていないのだろうか。
見れば見る程……異様だ。明らかに、何か意図があって書かれている事は確かなのだがその意図がまるで読めない。
式部さんにも心当たりはない……となってくると、現時点で分かっている情報から推測するか、それとも更に詳しそうな人に聞いてみるか。流石に現時点で分かっている事が少なすぎるし……となると。
「……よし。香子さん。此方、後でお借りしてもいいですか?」
「は、はい」
「ありがとうございます。本造院のご当主さんに話を聞いてみる事にします」
話を聞くべきは――やはり村一番のご長寿さん、だろうか。
「……ん゛ぅ~~~」
難しい顔をして、おばあさんが目の前の書物と向き合う。低めの唸り声と共に、ムスっとした表情で、じぃ~っと隅々まで見つめる姿は、まるでにらめっこでしているかの様。
彼女であれば何か分かるか、と思っていたのだが、しかし…………なんだか、妙に雲行きが怪しい、気がする。
「――おいババア! やっぱり駄目だ! おっさん達の予定表確認したけど、戻って来るのに最短でも一週間は……って、何読んでんだ?」
「お黙りクソガキ」
「はぁ~~~~~~? んな事言われて黙るガキはいませんが~~~~~~???」
スパァン!と激し目の音をさせながら入って来た康友に目もくれない辺り、間違いなくおばあさんは真剣に読んでくれているようなのだが……一緒に村を回ってくれていたなぎこさんと、万が一の場合の護衛として一緒に行動していたリリィが、後から部屋に入ってきた辺りで、大きなため息を一つ吐いて顔を上げた。
「……すまんね。間違いなくコレ、と言えるものは無いよ。ソイツは私の管轄じゃない」
「管轄、ですか」
「恐らく……それを管理してたのは、多分だけどアタシの旦那……『前』まで、ここらの当主をやってた奴だ」
……なんでも、昔ながらの習慣で、基本、緊急事態以外は男が家長をやる事になっていたのだという。おばあさんが此処の仕切りをやっているのは、他に継げるだけの格を持った人が『残らなかった』からとの事。
ちらりとなぎこさんの方を確認しつつ……だが、とおばあさんは話を続ける。
「可能性があるとしたら、この家の言い伝えが絡んでるって所か」
「伝説……そう言えば、香子さんも言ってましたね。鬼の伝説、って」
「……まぁ、それも間違っちゃいないけどね」
……鬼の伝説。
康友の方を確認すれば……物凄いこう、嫌そうな顔をしている。彼がその事について話をした時のような。いや、それよりも大分、しょっぱい表情と言うか。
「アレだろ? 俺達のご先祖が鬼の一族だったって言うの」
「違う! その血を引いてるってだけだってんだよ!」
「変わらねぇだろ! ったく、小さい頃からイヤになる位に聞かせやがって……」
「先祖代々の言い伝えだ。ちゃんと残して行かないと駄目なんだよ、ったく」
……さて、何処から話したものか、という。
どこか、重苦しいその入りに。あれ、と違和感を覚えた。
康友の話を信じるのであれば、おばあさんは嬉々としてその話を始めるのだろうと、てっきり思っていた部分がある。しかしながら。
今のおばあさんは、寧ろ口元を引き締めて、眉間に刻んだ皴はかなり深い――昔話をする様な気楽さは、まるで無くて。
「この村の始まりは……カルデアさんはご存じなのかい?」
「それは――えっと。先程、香子さんの家の歴史書で」
「あぁ、ソイツは『対外』向けの歴史書だろ? そっちは私も知ってる……旦那も、そろそろ作らにゃならん頃だって言ってたからね」
少しばかり、刺激的な話だから、と。顔を僅かに顰めながら、おばあさんは言う。
……対外向けの歴史書、と言う言葉に、少し驚いていた。それはつまり、この村の歴史を偽る前提で、あの本は作られていたという事になる。
刺激的な話、という言い方をするとなると……やはり、そう言う事なのか。
「――と言っても、そう話が違う訳じゃない。母親が何処の家の出なのかは結局ここまで伝わっちゃいないしね……ただ、父親の方に関しては、あの歴史書は意図的にぼかしてある」
「というと」
「……その女は、遥か昔に、鬼の子を孕んで村までやって来たのさ」
――曰く。
遥か昔、都に住んでいた一人の娘の胎が突如として子を宿した。男の影もまるで無かった箱入り娘に起きた異常に父親は大いに焦り、召し抱えていた異能の術者に事の次第を調べさせた。そうすると――娘のお腹に宿ったのは、都に災いを成した怨霊の類であるという。
その事に恐れおののいた父親は、最低限の供回りだけを彼女に付けて、即刻家どころか都からも追い出したのだという。関わり合いになるのすら恐れて。
堪らないのは、文字通り何も知らなかった箱入りの娘だ。今までの華やかな暮らしを取り上げられた挙句、都に住まうのすら許されずに放逐された――その時代、都以外は安全など担保される訳もなく……唯一の幸運は、お腹の赤ん坊や供回りと一緒に、生きてこの辺りに辿り着けたことか。
「……初めはどうだったかは知らないがね。村に辿り着いた女は、すっかりとやつれ、それこそ鬼のような形相に変わり果てていた。道中、どれだけの艱難辛苦を乗り越えてきたのかは、想像するしかないが……そこまでなっても尚、女は必死に産む事に拘ったのさ――」
――生まれたこの子が、何れ人の世に災いを齎します様に、と願ってね。
「そ、んな……」
「……酷い」
……マシュが、言葉を途切れさせたのが。リリィが、顔を僅かに伏せたのが。嫌と言う程に分かる。ごく普通の娘が、理不尽に住まいを追われた挙句、最後には生まれてくるであろう赤ん坊に、そんな呪いのような願いをかけるような夜叉となったなんて。
自分は、何も言う事すら出来ない。そもそも、何か口にする資格があるのかすら分からない。自分はごく普通に生まれ、ごく普通な暮らしをしてきたのだから――
「……女は、常々言っていたそうだよ。生まれる我が子は、きっとこの世に仇成す鬼の子となる。都を代々祟った、魔性を宿した人ならざるモノに、と。お腹の息子に、全ての栄養を吸われ、更にやつれながらも、ね」
……鬼の子。
怨霊が宿り、生まれた異常な子供。康友の言っていた事は、まだ生温い言い方だったのだろうか。こんな……地獄のような話を、誰が想像できただろうか。
「と言っても、この話を知ってるのは私達……その血を引いている人間だけさ」
「……他の方々は?」
「大人になって。ちゃんと村の事を知ってもいい年に成ったら……それまでは、村に伝わる言い伝えとして、ぼんやりと知らせておく――この山には古い時代、『腹のでかい鬼』が暮らしていた、ってね」
おばあさんは、最後に僅かに顔を顰めながら……そう話を締めくくった。
我ながらこんなひどい話を良く書けたもんだ……