FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――で、結局敵の反応は無かった、と」
「あぁ。特段、此方は行動を隠していたつもりもなかったが、それでも全く動きは無い。此方の戦力を削るつもりも無し……やはり、向こうにはカルデアの戦力を削る意図はまるでないと見える」
「そっか……ありがとう。お疲れ様」
……和室の畳の上、どかっと胡坐をかいた巌窟王に頭を下げた。普段からあまり気を抜いてリラックスする姿を見た事が無いせいか、こういう風に腰を落ち着かせた彼を見るのは何処か新鮮だ。
そして、サーヴァントの彼が、それだけ疲弊したという事は――多分、精神的に――それだけ念入りに仕事をしてくれたのだろう、真面目な人だ。そしてどうやら……念の為に行った探索も見事に空振りに終わった事も、これで確信できた。
「される事をじっと観察されてる、か……」
「まるで実験動物と言った所か」
「いやそこまでは……いや、でもその表現がピッタリなのかな」
今の状況を端的に表した言葉に、ちょっと笑ってしまう。
「完璧に罠にはまった形だからな。カルデアとの通信は遮断され、戦力は半減している。此方がどのような一手を打とうとも、向こうは盤面を広く見るだけの余力がある……何処へ行っても虎口が広がっていると思うべきだな」
「やっぱり、向こうの望んだ通り……この村の中で、出来る事をするしかないかな」
まぁ、何時もの事と言えば何時もの事だ。違いがあるとすれば……向こうは一切此方を妨害するつもりも無くて、寧ろこうして自分達が藻掻く事を望んでいる節がある事だろうか。
諦めずに、出来る限り頑張り続けるのは、ずっとやって来た事だけど。しかしこの場合は頑張れば頑張る程に、向こうの思う壺になってしまう。
「くくっ、向こうの思惑に乗るのが気に喰わんか?」
「――いや、そんな事は気にならないんだ」
……それ自体は、別にいい。相手の思う通りに動かされるのが腹が立つ、なんて思えるほどに、自分は誇れるような大層な人物じゃない。
それに、動かない事こそが肝要な時はある、動く事だけが大事じゃない。でも……動かなくていいのは、基本は人事を尽くした後だ。何もしないままで、ただ吉報を待つっていうのは、それは怠惰なだけだ、と思ってしまう。
だから……今は、相手の思惑通りだとしても、動かないといけない。そうじゃないと相手の思惑を打ち破る切っ掛けすら満足に掴めない。
「ふん……そうか」
「――けど、その結果としてどうなるかは、どうしても気になる。向こうの狙いは、間違いなく康友なんだろうけど……」
……そう、行動する事自体には躊躇いは無くとも。しかしそうした事で康友をどうするつもりなのか、それが見えないのが不気味に感じてしまう。
ちょっとした行動一つが、友達の命にかかっているかもしれない、というその不透明さは流石に無視する事は出来ない。
「出来るとすれば、康友を良く見てる事くらい……でも、そうすると特異点調査の方が遅れてしまうかもしれないし」
「意外だな。あの男を優先して、多少の遅れは気にしないと思っていたが」
「……俺だって、だらだらとしてても向こうが許してくれる、とは思わないよ」
とはいえ、だ。
相手は、あのキャスター・リンボや、アメリカで激闘を繰り広げた剣客を擁している勢力だという事を忘れてはいけない。そも、あの『相馬』と言う男が、落ち着いてずっと待っている様な穏やかな人物であったなら、人理焼却などと言う荒事の極のような事に手を貸すだろうか、と言う話だ。
間違いなく、変に時間稼ぎをしようものなら全力をもって攻め寄せてくるだろう……それらを、バックアップも無しの今の戦力で迎撃できるかと言えば。
「それこそ、自分達諸共、康友も、おばあさんも、なぎこさんも……纏めて全滅って言うのを想像出来ない訳でも無いから」
「……良い判断だ。純朴な子供ではいられなくなったか」
「流石に君に揉まれたからね……となると、やっぱり彼女に協力を仰ぐしかないんだけど」
……これらを解決する手段は、実は無い訳でもない。
先ず式部さんは、今は戦力にならない。村人としての意見を求める方を期待するべきだろうとは思う。しかし……もう一人、遭遇した彼のサーヴァントの方は、確かにカルデアの記憶を保有したままだった。
「アサシンか」
「うん」
身軽で、それでいてダ・ヴィンチちゃんや、巌窟王以上に頭が回る人だ。その上、アサシンとしての気配遮断の能力も持っていて、相手の目を盗む事も可能。
彼女なら康友の様子をこっそりと見張っていてもらって、いざとなった時の最後のストッパーをして貰えるかもしれない……彼女が自分の頼みを聞いてくれるかは、ちょっと分からないけど。
ただ、その不安点を除いても……彼女と合流できた場合、かなり打てる手が増えるという可能性を考えると、一度は接触しておきたい。
それに……正直、コレは自分の勘にはなってしまう、のだが。
「……彼女は、多分何かを『掴んでる』。だから『こっちの康友』についての情報を、今の康友や村の人達に伝えない様に、こっちに合図を送ったんだと思う」
コレが当たっているのであれば……それは、アサシンの立場で無ければ見えないものなのだろう。
「キーパーソン、って言っていいのかは分からないけど……少なくとも、この村が『鬼』ってモノと一緒に生きて来た、って考えると、彼女の意見は必要になって来る」
「……次に俺が動くべきは、そこか」
「うん」
しかし……状況的に、彼女は村の外に潜伏していると思われる。自分達は、敵の戦力全てを賭けて、この場に釘付けにされてしまっている。その中で、どうにか接触できる可能性があるとすれば。
やはりサーヴァント……更に、目立たずに動く事を得意としている、巌窟王くらいだ。
「しかし、流石に今はあの享楽者も、目立たぬ様に月明かりを避け、影に潜んでいるであろうよ……探すのは、かなり手間取る」
「向こうの動き次第になっちゃうけど、ギリギリまでお願い」
「ン……分かった。くれぐれも、張った糸を緩めるなよ、我が共犯者――貴様が探すべきは未だ底の見えぬ真実や、解き明かす為の鍵だけではないのだから」
す、と外套を翻し、巌窟王が立ち上がる。
ポークハットを抑えながら背を向けて歩き出し、ちらりとその金の瞳で此方を一瞥したかと思えば――その姿は、部屋の入り口に満ちた影へと、滲んで消えていってしまう。
……巌窟王は『ああ』言ったけど。心配はない。生前のシャトー・ディフからの脱獄に比べれば。彼にとってはさしたる難行じゃないだろう。世界でもっとも有名な『復讐者』は伊達じゃない。
どっしりと腰を降ろし――信じて、待っているとしよう。
「……さて」
次は巌窟王の『ヒント』か。
真実は、村の歴史の事。鍵とは……恐らくは、『こっち』での康友に関する事だろう。彼は言い回しが少し難しい部分があるが、しかし聡明な人だ。その二つを調べるだけでは、この特異点をどうにかするのは難しいと、彼は見ているのだろうか。
……となると、だ。
今、自分達に見えていないのは? 腕を組んで……顎先に片手をやって、一つ一つ、頭の中を整理していく。
「敵の動きは……そもそも見る必要がある位に大きく動いてない。村の中は、今のところはおばあさんと、香子さんと、なぎこさんくらいしか村人はいない。マシュとリリィは……ちゃんとお互いに見てないといけないのはそうだけど、見えてないって事は当然ない」
……巌窟王とアサシンは、見えずとも動く事は確信できている。となれば……あと一つ。
カルデア側において、見えていないのは――そこで、ふと頭に浮かんだのは、奇しくもアサシンの言葉。
『それと、もう一つだけ。夜中は出歩かん方がええで? こわぁいかがちが、出歩いとるさかいな?』
かがち――日本での古い『蛇』の言い方だっただろうか。
……そうだ。カルデアのサーヴァントは、自分と契約してくれている三人、そして康友と契約していたサーヴァントの皆――式部さん、アサシン、そして、もう一人。
恐らく単純なスペックであるならば、カルデアでも最強格の、彼女が。
「――ゴルゴーンさん!」
ギリシャの大妖にして女神、恐るべき『かがち』。
未だ姿は見えないが……そう簡単に倒されてしまう様なタマではないのは、今までの旅で嫌と言うほど知っている。アサシンと同じく、やっぱり自分の言う事を素直に聞いてくれる人ではないけれど。
並行して探す必要しかない、頼もしい御方だ。
アサシンとゴルゴーンさんがフルで活躍すると多分特異点が秒で解決するので実質封印してるような状況です(白状)