FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
……呆気にとられた此方の顔を見つめるその笑顔は。
何処か、困ったようでもあり、呆れたようでもあって――昼間、満面の笑顔を浮かべてはしゃいでいた時の、天真爛漫で何処かあどけない印象は……今、その顔に浮かぶ哀愁交じりの微笑みに溶けて消えた。
可愛らしい、エネルギッシュな村のおてんば娘、なぎこさん――だが、暗がりの中、僅かな月明かりの下に立つ今の彼女は。
気が付けば見惚れ、魂を奪われてしまうのではないか……なんて、可笑しな想像をする程に程に美しく。けれど、腰も細く、肌も白い彼女は、今にも溶けて消えてしまいそうな程に儚げで……
「――おーい?」
「えっ……あっ、へっ」
「へへっ、変な顔」
……一瞬の事だった。
気が付けば、そんな微笑みは何処かへ消えて。目の前にいるのは、自分が見慣れたなぎこさんの姿。今のは幻だったのか。と、首をひねる自分に、はぁ、となぎこはため息一つ吐いて見せた。
「まぁ……そりゃあ分かるよねー。おばあちゃんも隠し事下手って言うかさぁ」
「えっと、その……」
「いーよいーよ。あんまり話題にだすなとか言われた系っしょ?」
……流石に誤魔化そうと思った。
けれど――視線が絡んだ、その瞬間。此方を見つめるその目に……こっちがハッとさせられてしまった。穏やかに澄んでいて……ただ此方を見つめる瞳は、何処までも真っすぐで、揺らぎも無くて。
まるで、此方を映している鏡のようで。その前で……なんだか、下手な誤魔化しなんて、言えなくなってしまって。
「……ごめん。その、せめてこっちから、言い出すべきだったかな」
「気にせんで良いって~!」
気を使わせてしまった、と思って謝って見た……が、なんというか。彼女的に言えばそんな事も無いのか。
何処か哀愁漂わせる表情が、引っ込めた代わりに浮かべたのは、けらけらとしたライトなスマイル。どしたん話聞こか系とはまさにこの事か
「おばあちゃんも大げさだよね~……アタシちゃん的には、全然気にならないんだけど」
「……それは、どうして?」
「ん~……克服した、とかじゃないよね、ぶっちゃけ。実感が無いってヤツ。でも兄貴とばあちゃんにそんなこと言っても、まぁ信じんよな~!」
わはは、と。腰に手を当てながら、なぎこさんは豪快に笑った。家族から気を使われていた事なんて、まるで気にもかけてない。虚勢、だと思いたいのだが……普段のテンションに戻った彼女の声にハリが乗り過ぎていて、『もしコレが嘘だったら女優どころの騒ぎじゃないぞ』という話になって来るので流石に本当だと思う。
「やっぱり、小っちゃかったから、かな」
「あ~……うんまぁそんな感じ、か?」
「何で視線反らしてるの……」
「ワンチャン位、アタシちゃんがバカすぎて忘れてる可能性があるからのぅ……」
……思わず視線を逸らす。無いとは言いきれない気がするのがこう、なぎこさんの人柄と言うか。いや、別に悪い意味はないのだが。
しかし……ちょっと、意外に過ぎるというか。まさかトラウマになっているとまで言わしめた記憶を覚えていない、忘れたかもしれないとは……余りにも豪快に過ぎる。
「えっと……本気?」
「マジもマジ」
若干『あぁそうなんですね』と首を振るのも躊躇する程だ。こうして思わず、その辺りを問うてしまうのも……当たり前ではないだろうかと思いたいけど実はそうでもないだろうか……なんてこっちの葛藤を他所に、帰って来るのはあっけらかんとしたお返事。
いかん、開いた口が塞がらない……いやまぁ特異点の度にその土地由来の色んなモノを楽しみ尽くしている自分が言うのも何だが、ちょっとお気楽すぎやしないだろうかなぎこさん。
「まぁでも体感した、って実感ないとね。こんなモンよ実際!」
「……実感、ないの?」
「ないっすね。物心ついてなかったからじゃね? 知らんけど!」
……ただの強がり、という可能性は? けれど強がっているにしては、流石に昼間の元気っ子なぎこさん過ぎるというか。これですべて演技と言われると、ちょっと完璧で究極な女優さんが過ぎる気もする。最早『英霊』染みてるレベルの演技力だ。
いや、流石に康友の妹さんは一般人なんだろうし、普通の人がそんなぽんぽこ英霊染みた事をするだろうか……いや、どうなんだろう。もしかしたら世界は広いのかも……いやいや流石に常識を捨てすぎるな自分。
「んで? どうする? 今聞いちゃう?」
「じゃあ、えっと……」
それなら張り切ってインタビューとか行ってみようか――と。
「……いや、止めておくよ」
「ん? いいの?」
「うん――流石に、こんな所で適当に聞く話じゃないから」
そうすれば手っ取り早いのだが……しかしながら。流石事の解決の早さよりも、目の前の少女や特異点の人達に、誠実である事を優先したい――きょとん、とした表情のなぎこさんに対して、しっかりと首を振った。
彼女は平気、とは言っているが……しかし、本人がそう言っているだけで、彼女自身でも知らない所に傷が出来ていて、話を聞く事で、結果としてその傷口を抉る事になってしまうかもしれない。
それを考慮せず、そんな事を根掘り葉掘り聞き出すのは……些か以上に礼に欠けている気がするのだ。目の前の彼女にも、おばあさんにも、そして……何よりも。
「それに……呼びに来たお兄さんに聞かれたら、殺されかねないからね」
「……ぷはっ! あー、まぁそっか! 兄貴ってばアタシちゃんの事め~っちゃらびゅらびゅ~♡って感じだし!」
「ホント、仲の良い兄妹だとおもうよ」
……康友に、失礼だ。
カルデアで出来た友達。初めての(そして多分最後の)マスター仲間。共に背を預けて戦った戦友。今はカルデアでの記憶を失っていても、それでも……今でも、自分達の仲間である事は、間違いない。
そんな彼の願いを踏みにじる様なやり方をしたくは無いのだ。
「俺達は仕事をしたいけど……でも、そんな中の良い兄妹を怒らせてまで、っていうのは違うと思うから」
「――そっか、そっか」
誠意が伝わってくれたのか。それとも、単純に納得出来ただけなのか……なぎこさんは頬を緩めながら、頷きを返してくれた。
……しかし、なぎこさん自身が本当に気にしてない事を考えると、康友の願いを踏みにじるもクソも無いのは確かにそうで。そもそもの話、康友の気遣いを全力で空振りさせちゃってるのはなぎこさんの方って言うか。
いやまぁ、結果として二人の心配が杞憂で終わっているという事になるから、そう考えると取り敢えず良かった……のだろうか?
「成程……良い子ちゃんだねぇ、りっちゃんは」
「別に普通だよ」
「いーや良い子だね! そんなりっちゃんにはなぎこさんスタンプ一杯贈呈からの~? スタンプカード満杯! プレゼントと相成った!」
評価すっごい雑だなぁ……と思いつつ。飴玉でももらえるのかな、なんて気楽に考えながら、ちょっとおどけて頭を下げる。ありがたい幸せ、なんてちょっとこっちも調子乗った言い回しをしながら――
「――見つけたいのなら、かおるっちのトコだけ探してちゃダメだよ」
「……えっ?」
……急に振って来た静かな声に、ふと顔を上げる。
「……閉じこもってるだけじゃダメ系って奴さ! 村から上手い事外に出て、外に活路を見つけ出すのじゃ……なんてね!」
「そ――それって」
「んじゃ、行こうぜい! 飯の時間だ!」
わはは、と声を上げながら。なぎこさんは通路の奥へと歩いていく。待ってくれ、と声をかける暇もなく。
結局伸ばしただけとなって……所在無くなった手を、そっと降ろす。
「……アドバイス、なのか?」
何かしらの親切心、からなのか。
しかし……それにしては今。顔を上げた時に見えた彼女の顔は。少し、何か冷たいモノを感じる程に――無表情で。
……まるで、今までの顔が、仮面だったかのような――
ちょっとずつ、撒いていこう。