FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「……それで、この本自体はどういう本だったのでしょうか、ま……主任」
全員で車座になって座り――丁度、正面に座ったリリィが、中心に置かれた本を指さして問うてくる。広げられた目の前の和綴じの本には……この村の『地図』が確かに描かれているのが見えた。
「香子さんにざっと見て貰った感じ、この村付近の……食べていい野草とかを纏めた本っぽい。だから場所の解説用に地図が付いてたみたいだね」
「成程! 昔はそういう知識がとても重宝しましたから、納得です!」
……旅の騎士をやっていたリリィの言葉だからなのか、なんだか重い。
まぁ、昔は兎も角。現在はそっちに関しての情報はあまり重要ではないが……しかし、この地図自体は間違いなくありがたいものだった。そのお陰で……今まで『知り得なかった情報』が一つ、入って来たのである。
「この地図に記されている名前は、この村……『ふるごう』ともう一つ。あの岩場だ」
「『なげきぶち』……ですか」
「この辺りの地名で残ってるのは、この村のモノだけ。長い時間を経て失伝してしまったと言う事なのでしょうか」
「どうなんだろう……」
先ほどまでに調べ終えた本の中にも、一切この名前は登場しなかった。ではこの本が、それらに比べて特別に古いように見えるか、というと……断定しづらいというか。古いのは間違いなく古いのだろうけれども。
しかしもっと『古い』と分かる様な本は幾らでもあるのだ。それらに載っていなかったというのが……微妙に、気になる。
「……香子さん、此方の詳しい解読、ちょっと手伝って貰えませんか?」
「は、はい。ですが……」
「空振りならそれでもいいんです。でも……今、この本を発見した事に、ちょっとした縁を感じるというか」
特異点での戦いもそうだった。奇跡の様な縁に恵まれて、それでギリギリで突破出来た様な難関ばかり。こういう時に『縁』というのはとても大切だって言うのは、マスターとして人理修復を行って実感した事の一つだ。
何かがある様な気がした――それが、偶然なのか、それとも準備された者なのかは分からないけれど――それならば手を伸ばしてみようと思った。
此方の言葉に、一瞬香子さんは口元に手を当てて、ゆっくりと頷いて見せてくれた。
「分かりました……とはいえ、古いもので、しかも個人の書いたモノです、文法や書き方にも癖が多く、どこまでできるかは」
「――構いません。お願いします」
即座に頷いた。
香子さんと共に、目の前の本に手を伸ばす――何が得られるのか、については考えない。ただ『何か』が得られる事を信じて、彼女の指し示す文字を追い始めた。
香子さんだけじゃない。リリィも、マシュも、共に頑張って解読を進めてくれる。三人寄れば何とやらか……先ほどよりも、するすると解読は進んでいったような気がした。
書かれている事は、やはりこの村の植生に関する事が殆どではあった。相当頑張って調べたであろう事が分かる、多くの情報が記されている――その頑張りも熱意も、胸にぐっと迫る位のものが伝わって来たけど……やはり、其方は余り欲しい情報じゃない。
でも、その頑張りと熱意とが、『彼』自身の事を確かに此方へと伝えてくれた。
「……これって」
「はい、先輩。どうやら、この本は『ここへ移住したばかり』の学者の方が記した物のようです。そして……『なげきぶち』についても、一つ分かった事があります」
――コレを書いたのは、この村で『新参』と呼ばれていた学者さんだった。
ある意味、この村に馴染んでいなかった頃――彼が惚れた相手と、その子孫の為に、この本を残そうと思って書いた。出来るだけ『正確』な本を。故に……
「『なげきぶち』……この名前を記すからって結構苦労したらしいね」
「禁忌、というよりは『秘密』と言うべきですね。むやみに口にするべきではない、門外不出のその名前を……長い説得の末、記す事を許されたと」
その名前と、その名を冠するあの岩場について、断片的な情報が記されていたのだ。
「他の文書に載っていなかったのは、元々から記されるべき名前ではなかったから……でも村の成り立ちのお話には、あの岩場も出て来ていましたよね、マシュさん」
「はい。確かに……『何かしら』の理由で言う事すら禁じられていた、という事でも」
「無さそう、かな」
先ずその名前自体が、『魔術的』な力を持っているという事はなさそうだ。呪詛の類だとすれば、こうして口に発した時点で何かしらの影響が出ていたかもしれないし。そもそも秘密どころではなく禁忌扱いされていただろう。となると。
隠す理由が何かある。
それは、自分達が探している『何か』に繋がっているかもしれないのだ。であれば……ココで調べない理由にはならないだろう。
「……岩場をまず調べるべきなのかもしれないな」
「『なげきぶち』についてですか? ですが……ココが何方なのかはお分かりですか?」
「うん。この村に辿り着く前に見つけてるよ……マシュ。あの場所って『範囲内』かな」
「分かりませんが……この地図では、村の一部として書かれている様に見えます」
……最悪、何か起きた場合の為にリリィを残すとして……いや、村の防衛戦になる可能性が高い。住人への被害を最小限に減らす為にも、残って貰うなら防衛能力の高いマシュの方が任せられるだろうか。
一応、村を出る時には巌窟王に一声かけてからいく事にするとして……
「リリィ。ついて来てくれないかな。『なげきぶち』へ調査に向かいたい。マシュは村に残って調べものと……何かあった時は、任せるよ」
「分かりました!」
「お任せください。マシュ・キリエライト、張り切って村の警護をさせて頂きます!」
腰を上げる。
もし『なげきぶち』への調査へと動いて、村への妨害行為が行われた場合でも、何かしら多少の成果は上げたい。向こうの思惑に乗っかる形で調査をしてはいるけれども、何時までも相手の導くままに動くだけではいけないだろう。
万全の態勢……とはいかないが。出来る限りの警戒はしつつ。岩場への調査を行う事を決定したのだった。
――が、そんな此方の警戒を嘲笑うかのように、道中一切の妨害は無く。
リリィと二人、何の問題もなくこの岩場へとたどり着く事が出来てしまった。正直、ここらで何かしらのアクションが来るとばかり思っていたのだが……どうやら未だ自分達は彼らの掌の上にあるらしい。
まぁそれならそれでいい。調べて欲しいというのであれば、張り切って調べさせてもらうだけである。調べさせてもらうのだが……
「――とはいえ、普通の岩場っていうか……ちょっとした空間って言うか」
「何か不思議な部分があるかと言われると、見当たりませんよね。あんまり」
パッと見た限りだが……ちょっと色の濃い灰色の岩石で構成された『空間』と言う以外には他に特徴的な部分はない。大きなスコップで岩肌を削り取ってできた様なその中に、何かしらメッセージが記されていたりって書かれてたら分かりやすかったのだが。
ちらりと周りを見回してみるが……他は鬱蒼と生い茂る木々があるばかり。こういう時にロマニやダ・ヴィンチちゃん、少なくともキャスターである式部さんがいてくれれば、何かしら隠された空間やら、魔術的な隠ぺいなんかも見破れたかもしれないんだけど。
「無いものねだりしても仕方ない、か。地道に探してみよう」
「了解しました!」
と言う事で……そう言う事が出来ない以上、今は手と足で色々と調べるしかない
取り敢えず二手に分かれ、色々と調べてみた。岩肌をぺたぺた触って見たり、地面を何度か強めに踏みしめて見たり、ここの周辺に洞窟なんかがあるんじゃないかというリリィの言葉に、木々の中も探してみたりとしてみた。
のだけれども……無い。まるでとっかかりすら見つからないと来た。
「うーん……どうしようかな」
「こうなったら、思い切ってこの辺りをドカンとしてみるとか!」
「いや、それでここが崩れちゃったら元も子もないし……」
周りを見渡しながら剣を抜いたリリィの一言に首を振る。何かがあるとしても流石にむやみやたらに、と言う事は避けたい。
見つかるという確証と、その場所に辿り着くための道しるべがあればありがたいのだけれども……流石に、それを態々用意してくれるほど、向こうもお人よしではないらしい。
なので、もう少し時間をかけてというのが正しいのは間違いない――の、だが。
「……でも」
今でも八方ふさがりなのだ。多少のリスクを背負うべきなのだろうか、というのも分からないではない。折角の手がかりを見に行って、何も分からなかった、で終わるというのも良くないのは分かる。
いっそ、覚悟を決めるべきなのだろうか――。
「――それは勘弁してほしいわぁ。ここ、今のうちの寝床なんやし?」
……そう思った時だった。
聞きなれた声に、ハッと上を仰ぐ。
鬱蒼とした木々の中――そこに映える、艶やかな着物の柄と、朱色に染まった角が、瞳に留まる。枝にちょこんと腰かけて、此方を楽しそうに見下ろすその姿に、目を見開く。
「酒呑童子!?」
「こんにちは。なんや、探しもんでもあるん?」
ひらひらと此方に手を振ったその少女は……間違いなく、酒吞童子その人だった。
ただいまです。
今回もマイペースに更新していきたいと思います。よろしくお願いいたします。