FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「ほっ、と……」
音もなく、酒呑童子は地に降り立った。正しくアサシンのサーヴァントの動き――修練で己を磨いて鍛え上げた、と言うよりも。闇の中に潜み、人を引きずり込む魔としての本能が為せる技だろうか。
「ふぅ。こんな所まで、ようおこしやす……なぁんて。ふふっ」
着物の袖で口元を隠しながら、彼女はくつくつと笑う。
……岩窟王は未だ彼女を見つけられていない、と言っていた。それが、こんなにも呆気なく姿を現し。しかも、自分達が調べようとしていた場所を根城としているとは、なんとも幸運と言うべきなのだろうか。
彼女に聞きたい事は正直、山ほどある。
「酒吞童子――」
「――『あさしん』でええよ。うち、その呼び方も気に入っとるさかい」
「……分かった。アサシン。色々と聞きたい事がある。一旦こっちと合流……してくれるとありがたいんだけど、どうかな」
だが……それが素直に聞ける、と思う程、自分だってバカじゃない。
彼女は自分達の前に一度姿を現しながら一旦は撤退し。そして今も、巌窟王に見つからない様に色々としている。彼女は何かしらの意図があって行動しているのは明白だ――ここで出会って直ぐに素直に合流してくれる、とは思えない訳で。
「えぇ? うち、寝床に帰ってきたら偶々、其方はんが居はっただけなんやけど。なんや期待されても困ってしまうわぁ……ふふっ」
「……あえっ? あの、戻って来てくれないんですか? 酒吞童子さん」
「まぁ、やっぱりそっか」
酒吞童子が自由人で我の強い気質なのは、彼女と康友とのやり取りで十分過ぎる位にわかっている。そんな彼女が独自で行動しているのなら――しかもこっちの探索を掻い潜りながら――こうして顔を合わせたとしても、こっちと素直に合流してくれるとは思えなかったのだ。
「……何か、狙いがあるって事でいいのかな」
「さぁ? どないやろねぇ……うちはうちの好きにしとるだけやさかい、そない勘繰られても困ってまうだけなんやけどねぇ」
少なくとも、彼女は自らの目的を果たすまでは単独で動き続けると思った方がいい。
それならもう仕方ない。無理に彼女に帰って来て貰っても、余計な軋轢を生んでしまうだけの結果になってしまうかもしれないし……
「まぁ、深くは聞かないでおくよ」
「んー、なんや変に期待させてしもたん? それは申し訳あらへんなぁ……」
頬に手を当てたまま、小首をかしげる仕草。ほんの少しだけ眉を顰めて目尻を下げ、いっそわざとらしいまでにしおらしい態度を取る酒呑童子に少し苦笑してしまう。
流石に本気で言っていないんだろうなって事は、こういう事に疎い自分にも何となく分かる訳で……『い、いえっ! そんなお気になさらずとも!!』ってわたわたしてるリリィとあんまりにも対照的過ぎて。
さて、此方に戻って来てくれるという訳では無いのであれば――酒呑童子に向けて振り返る。彼女が立ち去ってしまうまでに、せめて何か一つ聞いておきたい所だが。
一体何を聞くべきか……色々と候補は上がる。単騎で行動しているその理由、どうして自分の事を隠すように示唆したのか、一体『何を』知っているのか。
頭の中で色々とつらつらと考えるが……しかし、どうしたって聞きたい事が多すぎる。
どの質問もあくまで此方が想定したものであるから、中には勘違いしていて意味のない質問だってあるかもしれない。彼女がこうして目の前に居るこの時間で大空振りするのはちょっとだけ避けたいな、なんて考えていたら――
「――あぁ、せや」
――ぽん、と。
顔の前で掌を合わせながら、酒吞童子が此方ににっこりと微笑んだ。
「お詫びに、ええ事一つだけ教えたるさかい。それで堪忍して欲しいわぁ」
「ええ事?」
「ここを寝床にしておると、えらい鼻につくところがあるんよ――壁のどっかの奥。寝るときまでぷんぷんして、たまらんのよねぇ」
そう言うと、酒吞童子の視線が岩場の方へと向かう。
一瞬、それがどういう意味か分からなかった――が、直ぐに思い至って、咄嗟に酒呑童子の視線を追いかける。彼女が見つめているのは……先ほど調べて、何も見つけられなかった壁の辺りだ。
「……あの辺りに、何かあるの?」
「さぁ? えらい臭うってだけやさかい、詳しい事はなんも知らんよ……何やあそこで探しとるみたいやし、思い出したから言うてみただけ」
そう言いながらも――酒呑童子は、すたすたと岩場の傍へと歩み寄ってから……こんこん、と。立ち止まった後ろの辺りの壁を、軽く握った拳でノックするように叩いて見せた。
僅かに口元から覗く牙が、楽しそうな笑みの中に、僅かな悪戯心を滲ませて。
「――どないする?」
「お願いできるかな」
……くすり、と。
「――はぁい」
可愛らしい声と共に、酒呑童子の両手の着物の袖がはためいた――くるり、駒のように回るその身体、滑らかに伸びる足先……壁へと向かうのは、後ろ回りからの鋭い一蹴り。
少女の細足、なんて侮ってはいけない。平安の世を震わせた魔性の膂力をもって成されるそれは、何物をも蹴散らす様な破壊の一撃だ。
ご が ん っ!
ほんの一瞬の後――響き渡るのはハンマーでも叩きつけたかのような豪快な破砕音。
目の前で、岩壁がウエハースじみてあっさりと割れて、崩れ去っていく――果たしてその奥から現れたのは、崩れた跡の残る岩壁……ではなかった。
「……マスター、これって」
「あぁ……流石は鬼の嗅覚だ。どうやらビンゴみたい」
灰色の中に、ぽっかりと浮かび上がって来たのは『黒』――壁に開いたのは、周りの岩場とは全く別の『洞』であった。
見るからに怪しい、人が一人ずつなら入れる程度の大きさの穴――まるで『なげきぶち』の中に『隠されていた』かのようなそれは、奥のまるで見えない不気味な闇を湛えながら此方へその口を広げている。
――なげきぶちに、確かに『アタリ』は存在した。
「マスター、明かりは?」
「特異点を探索するにあたって最低限の品物は持ってきてるよ。ペンライトだから、広く照らせる訳では無いけど」
片手に取り出した懐中電灯。かちり、と親指で底についたスイッチを入れてから――そこで、穴の傍らの壁に寄り掛かった酒吞童子に視線を向ける。
「……ここまで来たんだし、最後までいてくれない?」
「まぁ、ええけど。なぁに、怖くなってしもた?」
「いいや……ただ、ちょっと意見が聞きたいだけ」
ややあってから、彼女は曖昧に微笑みながらも、こくりと頷いてくれた。
それを確認してから、傍らに立つリリィと頷き合い、穴の中へとライトの明かりを向ける。白い光の中に浮かびあがるのは岩肌。何かないか、光の円を滑らせていくと――
「――うっ」
「こ、これって……」
その中浮かび上がったモノに――思わず、呻き声を漏らしてしまう。
白の中にハッキリと滲み出て来たのは――紅。しかも、酷くどす黒い類の物。この色を自分は知っている。特異点の戦いの中で……もう、嫌と言う程に見て来てしまったもの。
刃にこびり付いた色。戦場に飛び散る色。海の青と反対の色。霧の路上に撒き散らされた色。包帯に滲み出した色。
それは確かに――血の色。
「ち、血文字……これ、血文字ですよ!?」
「なんなんだ、これ……!?」
何年物なのかはさっぱりと分からない。しかし……乾ききってしまったそれは、今でもなおその色を保っている。
それが描くのは……確かに、文字だ、文章だ。平仮名だけで書かれた文が、岩肌をびっしりと埋め尽くしている。一体どういう意図で書かれたのかは分からない。入り口からでも分かる異様な光景。
「――へぇ……何や、面白そうなのが出たわ」
「マスター」
「……行こう」
ごくり、と唾を飲みこみながら目の前の洞を見つめながら、何とかそう捻り出す。
今までにない異様な雰囲気。それに立ち向かうだけの勇気を維持するには――そうする他は無かったのだ。
FGOに今まであんまり血文字びっしり見たいなホラー要素なかったなって思って……っていうかホラーシナリオ久しぶりに見たい……見たくない……? と思ったけど周りが頼もし過ぎてホラーになりにくい……!