FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:わがこへ

 ……身を少し屈めながら、洞の中へと入り込む。

 若干、黴臭いというか。籠ったような匂いと……微かな生臭さがする。入り口が閉ざされてどれだけの時間が経ったのだろうか分からないが、この生臭さは、恐らくは……続いて入って来たリリィも、入った途端に顔をしかめて見せた――ただ。

 

「なんていうか……空気が、淀んでいる様な」

「まぁ何年も閉められてたし、塵とかも結構溜まってたりしてるしね――」

「あ、いえ、それもそうなんですけど」

 

 背後を振り返る。

 彼女を洞の壁を見回しながら、少し困ったように口を開いた。

 

「良くない空気――あの、瘴気的な方向の、嫌な感じがするというか」

「……分かるの?」

「感覚みたいなものですけど。一応、ブリテンに妖精だとか魔物だとかが跋扈していた頃の出なので、そういうのは感じられるんですよ。というか、そう言うのに敏感じゃないと上手く生き残れなかったので」

 

 自分は一応、カルデアのマスターとして何度も戦ってきたが、ぶっちゃけ魔術師としての才能なんてある訳もない。そう言うのがあればもうちょっと人理修復も何とかなってたかもしれないと、自分でも思う位に才能がない。

 だからなのだろうが、物理的な空気の悪さは分かっても……そっち方面はまるでピンとこないのである。

 

「ただ、マスターが分からなくても仕方ないですよ。私も、『あれ、ここら辺ちょっとおかしいかな』位しか感じませんし……マーリン流に言うなら『残り香』って感じですから」

「感じるのが、薄いって事?」

「はい……ただ、それでも感じられるっていうのが……濃さは無くても、沁み込んでる感じはするんですよね」

 

 周りの岩壁を見回しながら、リリィはそう呟いた。

 そう言われると、何となく納得できる気がする。ここに書かれた血文字たちを見れば、納得しか出来ない。ここに文字を書いた人物の思いというモノが、この文字と共に嫌と言う程に込められているのだろう。

 

 リリィの感覚を信じると……途端にここに書かれたこの文字の内容に、かなり嫌な予感しかしてこなくなってくる。

 一つ、息を吐き出してから――目の前の壁の前へしゃがみこんだ。未だ読んですらいないというのに、並ぶ文字を見るだけで、背筋を冷たいモノが流れていく気がする。

 

「……マスター、読めますか?」

「まぁ、何とか行けそう、かな……式部さんと、古い本の解読作業をしてたから、読むのに慣れて来ていたのがラッキー、だったかな」

 

 ……流石に、こんなに書かれた血文字を読めるのをラッキーとは思いたくはないけれども。でもコレが分からなかったら、折角のヒントを直ぐに調べられなかったし、取り敢えずは喜んでおく、事にして。

 ペンライトをリリィに手渡してから。取り敢えず――書かれた文章の一部に、指先を伸ばす。先ずは、背後のリリィが明かりで照らす中に浮かび上がった所から。

 

『――わがこ いとしこ とこよに うまる うれし うれし』

 

 ……かなり癖の強い字ではあるけれど。酷く単純な、子供が書いたような文章だ。

 少し、安心した。こういうのが続くのであれば、少なくとも読むのに苦労するという事はなさそうである――それにしても……わがこ――我が子、か。

 

「マスター、これって」

「うん。多分だけど……村の伝承の中の、娘さんだ。コレを記したのは」

「うえぇ……ま、まさかこの血ってぇ……?」

 

 彼女は、都を追い出され、放浪の果てに子の岩場の辺りに辿り着き。その後に子供を産んだとされている――恐らくは、その時期にコレを記した。こんな岩場に態々血文字、と言う辺りから……考えたくはないが、出産の直後が一番可能性が高い、か。

 そう考えるとあの話の信憑性は、ほぼ完ぺきに担保されたといって良い。元から疑う必要は無かったが、良い事ではある……が、今重要なのは、そこじゃない。

 

「それにしても、」

 

 ……ある意味当然の疑問だ。

 出産の後だ、当然ながら当人にマトモに体力が残っているとは考えられないし。態々追い出された彼女について来た供回りの人材達と彼女と仲が悪かったとは考えにくく、子を産んだ直後の女性を放っておく、とも考えにくい。

 

 それらの静止を振り切ってすら、どうしてこんなモノを――と考えつつ、指先で文字を追っていく。

 

「『おひたて こはしこ おおいなれ』……えっと……多分だけど、立派に育って、っていう意味、なのかな」

「……お、おどろおどろしい雰囲気のわりに、書いてある事は意外と普通、ですね?」

「うん」

 

 確かに、そうだ……書いてあることは本当にごく普通極まりない事ばかり。血文字で書いてあったり、リリィの言葉もあって、てっきりもっと恐ろしい事がつらつらと並べ立てられていたり、何かしらの呪文が書いてあったり、なんて思っていたのだけれど。

 

 寧ろ追放された辺境の地でそれでも尚、生まれた子供の健やかな成長を願えるというのは賞賛されるべき事だろう。

 純粋に誕生を喜んでいた訳ではないが……それでも、血文字を使っても書き残そうとしていた辺り、余程伝えたかったのだろうか、この思いを。

 

 ……だが。どうしても引っかかってしまう。

 

「……さっきの嫌な感じは、勘違いだったのかな……?」

「いや……断定するにはまだ早いとは思う」

 

 リリィに向けそう口にしてから……視線を向けたのは、この洞の入り口の辺り。

 さっきまで、触っても分からない位に完璧な偽装がされていた場所だ――ただ塞いだだけじゃない。完璧な『岩肌』として偽装されていた。素肌の指先で触れても分からない位に高度な偽装がされていた。

 

 ――見えるのだ。ここを『封じなければならない』という思いが。

 

 此処を閉じていたあの壁は、人外の嗅覚で無ければある事すら分からない程に――決して、一朝一夕で出来るものではない、余りにも精巧で完璧に過ぎる様な仕事だ。

 ……この村は、決して裕福な集落ではない。昔なら更なり、と言った感じだ。おばあさんが何もない村、と言っていたのもあながち嘘じゃないとは思う。

 が、この偽装はそんなこの村の状況に反比例する様なレベルの高度な偽装だ。一体どうやってここまでの仕事が出来たのか……いや、やっているのだからどうやってを考えるのはあまり意味がない。

 

 如何様にかして、成し遂げた――として。しかし実に困難だった事は簡単に想像できてしまう訳で……それでも、この村の人々は『やって見せた』のだ。

 とても、確固たる強い意志を感じた。二度とこの場所が開かない様に、という。

 

「……ここを隠す必要があったんだろう――」

 

 ……疑問を抱きながらも、文章――にもなっていない様な文字の並びを追い続ける。余り文章を書くのが得意じゃなかったのか。それとも……真面な分を書けない程に消耗していたのに、それでも尚、書いたのか。

 壁に書いてある血文字を見て――後者ではないかと思ってしまうのは、先入観に囚われているだろか。考え過ぎだろうか。

 

『わがこ ててなきこ おおいなり いつか いつか とこよに なせ』

 

『あだなせ おにのこ』

 

「……えっ?」

 

 指先が――止まる。

 突然だった。その並びに、背筋に冷たいモノが走った。

 故の知らない子供。それは、昔話にも語られた事ではある。しかし、そこに続いているこの言葉は。あだなせ――即ち『仇成せ』。仇敵に、復讐しろと。産んだ自分の子供を、はっきりと『鬼の子』と書き記して。

 

 そして――

 

「……マスター?」

「なんだ、これ……!?」

 

『うばわれ そこなひ おかされ けがれ けがれ けがれ』

『とこよは ならく おにのなくよ そなたの いくるに ふさわしき』

 

 段々と、書いてある文字が、荒れていく。殴り書いたような乱暴な物に。血の色は更に深く。端から垂れた血の跡は床にまで届く――まるで、地の底まで続くようなそれは……岩肌で指先が傷ついて、零れだしたのだろうか。

 ……そこで、はっと気が付いた。

 

 自分は、こうしてしゃがんで文字を読んでいる……彼女はどうだったのだろう。

 しゃがむ事は愚か、普通に立つ事すら難しい状態じゃなかったのだろうか――地面を這いつくばってでも、自らの血で文字を書き上げたのか。

文字の隣に、視線が滑る。もし……もしこの文章を、自分の体を支えながら書き上げたというのなら。

 

「う゛っ……!」

 

 そこに――確かにあった。真っ赤な、手の跡が。

 

『のろへ のろへ とこよを のろへ わがこ おにのこ とこよへ わざわいなせ』

『ほろべ ほろべ おとこ おんな としより こども すべてへ わざわいあれ』

『てて やから(一族) みかど ひとのよ いね いね いね わがこ おにのこ とこよ はつく(八苦)で みたせ あだなせ わざわいなせ』

 

『のろへ いね ほろべ ほろべ いね ほろべ のろへ いね のろへ ほろべ のろへ いね いね ほろべ ほろべ のろへ いね のろへ いね ほろべ いね ほろべ』

 

 ……もう、残りは文章の体を成していない。壁いっぱいに、ただただ、呪詛を只管に書きなぐっている。

 飛び散った血の雫の間に、向きも何もぐちゃぐちゃに。隙間まで、埋めるように。只管に。遠くに行くほどに文字は崩れて行って……初めに書き始めたであろう文字以外は、のたくったミミズの様にしか見えない。

 

 だが……読めなくても理解出来た。

 脚から力が抜けて、へたり込んでしまう――この、今までに経験した事の無いような……剥き出しの、憎悪は。

 

「マスターっ!?」

「……あまかった……っ!」

「えっ?」

「認識が甘かった……彼女は、もっと強く、この世を……っ!」

 

『すべて わざわい あれ』

 

 これは全て――女の呪詛だ。

 彼女に不幸を齎した、世の中の全てへと向けられたそれを……自らの子へと遺そうとしたのだ。

 




文法もクソも無いですが、まぁそれだけ書いた方に余力が無かったって事で……こういう文章書くのって難しいね……

追記:ちょっと内容変えました。途中の文章に苦戦し過ぎて色々と可笑しなことになってましたので……今度からはもっと余裕もって書きたいですねぇ……
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