FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:恩讐の彼方より

 それは――やはり、といって良いのだろうか。

純粋な我が子への祈り、等ではなかったのだ。

 

 突然に宿った子供を災いの種として恐れ、血族の情など捨てて都を追い出した父親、それらに反対しなかった一族――迫害を受けた側が彼らに抱いた憎悪を、自分は話で聞いて、何処か知った気になっていたのかもしれない。

 

これが、真実だ。こうして間接的にでも肌で感じれば……底の見えない暗がりを覗き込んだ様な、寒気を感じる。

 

「――こ、これが、全部……!?」

「間違いない、と思う……ここに書かれてるのは……」

 

 自分以外の全ての人間を憎んだ。

 父と同じく都で栄華を謳歌する貴族を。幸せに暮らす貴い身分の娘達を。こんな運命など迎えずに、都で安穏と暮らす人々を――帝でさえも。

 否。そも、自分を『穢し』、苛んだ『人の世』そのものを、恨んだ。異物を如何様にしても排除して、そうして生き残る、人の業を。

 

 いやと言う程に自分の無力さを知って、苦しんで、絶望して――無力な小娘じゃどうしようもないその、余りにも大きすぎる絶望を、自らを追い出したモノ達が『鬼の子』と呼んだ我が子に、全て託すと決めた。

 胎を守り、赤子を産み、我が子を育て――自らの子が、自分を苛んだ者達が恐れた『鬼』と成り果てる事を願う。そうなってしまう『想い』と言うのを、甘く見ていた。

 

「――こら、鼻につく匂いもするわなぁ」

 

 背後で、酒吞童子がなんて事も無さげにそう呟くのに……顔が歪むのを、歯を軋ませるのを、胸にムカムカとしたものが上って来るのを、抑えられなかった。

 

 そうだ。この文章全てが、この村に辿り着くまでに彼女が覚えた恐怖だ。そこから芽吹いた底知れない人の世への恨みだ。そして……多くの苦難を経ても尚、彼女自らが命を懸けて守った我が子へと向けられた、歪んだ愛情と、どす黒い破滅の願いそのものだ。

 後の世に一族が生き残ると『信じて』、自らの恩讐をこうして託した。何代の後の子孫が必ず晴らすのだと――この『怨念』を。

 

「……『なげきぶち』……だから、そう呼ばれてたのか」

 

 納得しかない。村の人たちが、みだりに口にする事を禁じた理由がここにあった。未だにその負の念が渦巻くこの洞は……

 

「――っ!?」

 

――ふわ、と。首筋を生温かい物が撫でた気がした。

 

「マスターっ、下がって!」

「えっ、うわぁっ!?」

 

 直後――暗がりの景色が、薄明りへと一瞬で移り変わった。

リリィに服の襟を引っ掴まれ、外へ連れ出された。そこまで理解が追い付くのに時間を要してしまう程の急転直下。しかし……そうされた理由が分かるまでは、そう時間はかからなかった。

 

「リリィ!?」

「戦闘準備を、来ます!」

 

 そう言って、カリバーンを正眼に構えたリリィと、背後の自分――その周囲に青白い炎の様な何かが、幾つも渦巻き始めていた。それらは、不定形の煙の様な状態から少しずつ、しかしハッキリとした形を成していく。何度も戦った相手だ、見覚えが無い訳がない。

 

「――ゴーストっ!?」

「多分、洞から漏れ出した邪気が呼んだんだと思います……あくまで残滓の様な物だと思ってたのに、数を呼べる程なんて!」

 

 宙に浮かぶ、肉も足も無い、痩せこけて透けた人型――ゴーストタイプのエネミーに間違いない。

彼女の怨念が、これらを呼び寄せたというのか。あくまで、残り香の様なそれだけで。複数の怨霊を実体化させた。しかも、決して神秘が濃いとは言えないとロマニが断言していた現代をモチーフにした、この特異点で――背筋が凍りそうになる。

 

しかも……数体で収まらない。もう既に自分の視界に収まるだけでも……十数体のゴーストが、その姿を現し始めている。

 

「一体一体は強くない、と思うけど……こんなに徒党を組んで……!」

 

 気が付けば、完全に周囲を取り囲まれてしまっている。リリィが苦い顔をするの当然だろう。群れを成したゴーストタイプエネミーの怖さは特異点上で嫌と言う程に学んだ。対して此方は……ちらりと酒吞童子へ視線をやる。

 周りを見回しながらも、緊張した様子は特にない……時折、明後日の方を見つめながら一つ溜息を吐くその姿は、リラックスしているようにも見えるが。口元を抑えながら眉を顰めている姿は、何処か困っている様にも――

 

……兎も角。

状況から考えると、決して油断できる相手じゃないのは確かだ――ぱしん、と頬を叩いて立ち上がる。

 

「酒呑童子さん! 援護お願いします!」

「んー……残念やけど、こら『あかん』わ」

「え?」

「後は『彼方さん』に任せんとねぇ……うちはこれで」

 

 ――と同時に。

 

 酒呑童子がその場でくるりと身を翻し……ぴょん、と生い茂る木々の一本へと飛び乗ってしまう。あぁ、うん。そうなるんじゃないかとは思ってた……それだけに、リリィが完全に想定外と言わんばかりに、ポカーンと口を開けて彼女の姿を見ているのが、もう何とも言えない気分になる。

 

「……あ、あのーっ!?」

「ほな、また――」

「ちょっと!? ちょっとー!?」

 

 ……そのまま、たったの一蹴りで森の奥へと消えてく酒呑童子。背に向けて伸ばされた手が空を切り、リリィの困ったような悲鳴が岩場にこだまするのが物悲しい。

 これは酷い。少しくらい戦ってくれても問題ないんじゃないか――とは思うのだが。しかしながら。流石に『彼』が近づいて来てるのは分かっていて撤退したのだろう。どうしてそこまで合流したくないのか……それは何れか。

 

 兎も角。どうやら、本当に頼りになる我がサーヴァントは、律義に仕事を続けていてくれていたらしい。そうでなかったら、こんな素早く辿りつける訳も無い。

 

「ひ、酷い……この状況で一抜けたするなんてぇ!」

「うん、文句は合流してからしこたま言おうね……それより今は、合流してくれた心強い味方と協力して頑張ろう、リリィ!」

 

 涙目になっているリリィの肩をポンポンと叩く。『え?』とでも言いたげに此方へと振り向いた後ろで、金色のポニーテールが、ふわりと揺れて――その直後。

 

 青白い流星が、後方に位置取っていたゴーストを、纏めて貫いた。

 正確には――青白い焔を纏った黒い人影の掌底が、彼らの身体を焼き尽くした、と言う方が正しいか。

 

「……が、巌窟王さん!?」

「全く、アレを追っていたら妙な現場に出くわしたな」

 

 包囲をあっさりと抜け――深緑の外套を靡かせながら、彼は悠然とその場に立つ。

片手で抑えた帽子の下からゴーストを達を睨みつけるその目は虎の如き眼孔。マントの背中に刻まれた黄金の魔法陣が、僅かに差す日の光に煌めいている――頼りになる男だ。監獄塔の頃から、ずっとエドモン・ダンテスは変わらずに。

 

「……しかも、この『炎』の効きがこうも良いとは。先ず碌な相手ではない」

「ありがとうエドモン! 助かった!」

「はしゃぐな。まだ終わっていないだろう――それにしてもだ。貴様、一体何を『開けた』のだ。嫌と言う程に先ほどから耳につくぞ、『コレ』は」

 

 顔を顰めながら周りを見回して――そのまま彼は視線を、洞の方へと向けてそう口にした。どうやら既に原因があの洞だという事は悟っている様だ。が……?

 

「何か聞こえてるの?」

「ハッキリとはしない嘆きの様なものだ。俺の歪んだ在り方故か、今はこういった妄執の声に耳を傾ける事も出来るようになっている――」

 

 瞬間――金切声と共に飛び掛かって来たゴーストの顔面を片手に捕らえ、その腕の内に吹き上がる轟炎で焼き尽くしながら、巌窟王は嗤う。

 

「クハハハッ、まぁありがたがる類のものではない。単なる『業』に過ぎんが」

「何か分かる事はある?」

「――ふん。今しがた立ち去った『鬼』に大層ご執心だ。この悪性共の呼び水となったのは、アレで間違いないだろうよ」

 

 次々と悲鳴のような声を上げ始めるゴーストたち。それらを睨みつけながら一歩前に踏み出すエドモン――どうやら、ここを調査するのには彼の助けが必須になって来るようだ。

 

 となれば……本番はこの後。

 この場を切り抜けて、改めて『なげきぶち』を調査する――剣を構える金属音を片耳に聞き、滾る焔の熱を感じながら――自分も、身に着けた礼装を起動した。

 




こういう時巌窟王すっげぇ動かしやすくて助かるゾ……
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