FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:古くから伝わる諸々

「――なぎこは、もう寝たかい?」

 

 部屋に入って来た康友に、おばあさんはそう問いかけた。開いた襖を後ろ手に閉め。一つ息を吐いてから康友は席に着いて……苦笑しながら口を開く。

 

「あぁ……何時も通りだ。はしゃぎ回ってたからグッスリだぜ。ったく……だからって俺に疲れるまで相手させるとか鬼かよアンタは」

「あの子を寝かせるならそれが一番効率がいいのさ。我慢しな……さて、お待たせしたねカルデアの皆さん。アタシに話が聞きたいって言ってたけど」

 

 ――夜。

 

 なげきぶちの調査から戻って見れば、もう既に日は傾き始めていて――取り敢えず、これ以上の調査は一旦明日へと回し、残る時間は……この家での聞き取りに当てる事となった。

 リリィと巌窟王は、迷い出たゴーストがいないかどうかの警戒に出ている。今回は、マシュと自分だけがここにいる。

 

 香子さんの所から借りている書物を、改めて机の上へ広げ、おばあさんの前へと差し出した。それを見て、またかと言いたげな怪訝な顔をしているが……彼女にこの前聞いたのはこの書物についての事、今回聞きたいのは、個人の事。

 

 おばあさんの問いに対して、先ず口を開いたのはマシュだった。

 

「単刀直入にはなるのですが――康友さんの事についてです。何か、以前のご当主から彼について、お聞きになっている事は無いのでしょうか」

「……俺?」

「そこの馬鹿孫について、かい?」

 

 頷いたマシュは……今までに調べの付いた事について。出来るだけ専門用語を交えず端的に、分かりやすく説明してくれる。こういった事は、やはりマシュの方が得意らしく。あくまでその本に書かれていた『特殊な産まれ』に康友が該当している可能性について、分かりやすく説明してくれた。

 

 ……彼ら五人を調べ直すにあたり、一番身近なのはその血を引く『当代』である康友だろう。そしてその辺りは書物よりも、おばあさんの方が詳しいのではないか。

 今回、こうして話を聞く事になったのは、その辺りの理由もある。

 

「……ご先祖様と同じ症状、かい」

「何かありませんか? 何でもいいんです。小さなことでも」

 

 その問いに、おばあさんは暫し首をひねってから……その視線を康友の方へ。

 向けられた当人が怪訝な顔をするのを見つめながら。一つ、長めの溜息を吐いた。

 

「……んだよ、」

「いいや……前の当主、アタシの旦那から聞いてた事があるか、だったね」

 

 ――あるよ、と。

 

 隣の康友にも負けない位の苦い表情、深い皴を眉間に刻むと共に……今一度、重たい溜息を吐いてから。おばあさんは、そう呟いた。

 誰かが、息を呑む声が聞こえた気がした。それが誰のモノなのかは、マシュとは反対の自分の隣、そこから聞こえた物音が示していた。

 

「――あんのか?」

「あぁ。と言っても……正直、何か関係があるとも思ない様な類の話だよ。ただ、『旦那から聞いた事』を聞かれたらね、黙ってる訳にもいかんだろ」

 

 そう口にしてから……おばあさんは、改めてマシュの方へと向き直る。それでも構わないかとでも言いたげな視線に、マシュは黙って頷いて見せて――

 

「……アンタ等に言った通り、ここら辺はなんも無い土地だ。が、その割には古い時代なんかの言い伝えだけは豊富に残ってる」

「村の成り立ちのお話、等もそうでしょうか」

「そうさね……んで。これもその内の一つさね」

 

 曰く。

 この家では『何代』かに一度、この村の繁栄を祈る儀式が催され、必ず次期当主が参加するのがしきたりになっているのだという。

 

とはいえ、儀式と言っても何か格式ばった事をやる様な、厳かな物では無く……村人を集めた宴会の様な物で、選ばれた次期当主の役割も、多少の祝詞を読み上げたり、特別な席を用意される程度のもの

 そもそも、風邪で具合が悪ければ参加は見送って良い……狭い村所帯の中での、ささやかな集まりの席を超える事はない。

 

「……あの、おばあさん。その集まりって」

「そうさね……ここのモノ共がほぼ皆殺しにあった、その時の集まりさ。んで――その集まりの『次期当主』として、アタシの旦那に指名されてたのが……」

 

 伸ばされた指先。

苦虫を嚙み潰したようなその顔を横目で見つめながら――『そこに座ってるバカ孫だ』とおばあさんは続ける。

 

「まぁ、それで準備に手間取って、アンタと、アンタから離れなかったなぎこと、んで二人を連れて会場に向かおうとしてたアタシが助かったってんだから、人生どうなるか分からんもんだけどね」

 

 ――マシュと視線を交わす。

 

 『何代か』に一度行われていた儀式。そして、その内の一人に康友が任命されていた事。コレが単なる偶然か、それとも――確かめる方法はもう頭の中に浮かんでいる。

 今度は……自分から口を開く事にした。

 

「一つ聞きたいんですが……それ、今までで『何回』くらい行われたか、分かりますか」

「何回……あぁ、爺も言ってたっけねぇ、そんな事。アタシが手間取ってるのに文句言ったら『今までで四回しか行われてないから色々と伝わってない部分もある』とか言い訳してたよ。高々ちょっとした宴会に何を拘ってたんだか」

 

 過去には、四回。そして……康友を含めれば、これで五回目。

 ほぼ確定、と言って良いだろうか――その催しは、恐らく何代かに一人産まれた、鬼の血を引く子供がいる時にやる行事なのだろう事は。

 

 古くから伝わる儀式で、その数。恐らくは最初の鬼の血を引いていた『初代』の頃からのモノか。であれば……それに関する文書があれば、何かもっと深く探れるかもしれない。

 

「あの、その行事についての記録も、やっぱり香子さんの蔵の方に?」

「……さてねぇ。言い訳とは言ったが、実際旦那の方も仕切るのに苦労する位に伝わってる事が少なかったのは確かみたいだしねぇ。そっちにも残ってるかどうか」

「そうですか」

 

 ……が、しかし。話はそう甘くない様で。

 

「――ま、うちの蔵も、割とごちゃついてるからね。そこにあるかも知れないし。この状況を解決すんのに必要なら、一応攫っては見るよ」

「ありがとうございます。私も手が空いたらお手伝いしますね」

「あいよ。全く、ウチの馬鹿孫と大して年も変わらないのに出来た子だねぇ、マシュは」

 

 今すぐに進展、と言う訳にも行かないが……しかし、はにかむマシュに、にかっと笑うおばあさん、二人ともやる気は十分。他の皆にも十分に伝わっている。可能性は必ずあるという事で――後は、明日以降か。

 後はこまごました事をちょっと聞いてから解散か――と。

 

「……なぁ、婆ちゃん」

 

 ――その時だ。

 

 静かな声が、部屋に満ちていた空気に、すっ、と。

 口を開いたのは、隣に座っていた康友だった。そう言えば、なんだか先程から静かだった様な、と。視線を隣に向け――目を見開いた。

 

「ほ、本造院さん……どうしたんですか……!?」

 

 ……にこやかな表情は一瞬で抜け落ちて。慌てた様子でマシュが傍に駆け寄った。

 そうなるのも当然だ。彼女が行ってくれてなければ自分が行っていた――それ位に、今の彼の顔は。

 

「あぁ、だい、丈夫だ。ちょっと、聞きたい事がある、だけで」

 

 土気色――と言う言葉がこんなに似合う事があるか。顔全体から血の気がすっかりと失せて。その目は、何処を見ているかも分からない位に、虚ろ――ぎこちない喋り方まで、まるで死に逝く直前の人の様だ。

額に、頬に……何処にも汗一つも掻いていない。浮かべた笑みは、引きつっていない自然な物。それが余計に、彼の不自然さを煽っている。

 

 視線は一点。目の前のおばあさんを見つめたまま。

 その瞳の先――先ほどまで浮かんでいた活発な笑みは、何処かへと消え失せていた。

 

「……なんだい」

「本当に、俺らは……会場に、『行ってない』のか? あの時……俺は……確か、皆の前で」

「行ってないよ」

 

 錆びついた機械の様な、途切れ途切れ、震えるその言葉を――しかしおばあさんは、一発で切って捨てた。鋭く、あっさりと。

声はは冷たく。肉親とは思えない程に。康友の異変に対し、まるで表情一つ変えていなかった――能面の様に、冷たい表情のままで。

 

 異様な光景だった。

 

 さっきまでのにこやかな空気は一瞬で消えていた。

 

「物心ついたばかりのガキの記憶だろ。アタシの方が良く覚えてるに決まってらぁね」

「で、でも……」

「そちらさんの話は終わったんだろ――今日はこれでしまいだ。早く寝ちまいな」

 

 おばあさんが、ゆっくりと腰を上げる。

 康友が、声にならない呻き声を上げて、その手をおばあさんに伸ばし――しかし、その手を一瞥する事すらせずに、部屋の襖を開けて部屋を出ていく。

 

 ……部屋に、静寂が満ちる。

 おばあさんの出て行った襖を、少しの間ぼーっと見つめ……途中ではっと気が付いてから、座ったまま康友へと視線を向けた。

 康友は……マシュに肩を抱かれ。うつむいたまま。ただ黙って、肩を落としていた。

 




ああいうのって滝汗を掻いてるとギャグチックになりません?
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