FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:幽霊に連れられて

 まだ日は落ちていなくても……周りを包み込む深い霧で、視界はあまり良くない

 俺を先導する奴が常に青白い灯を纏っていなければ……もしかしたら、普通に迷っていたかもしれない。多分。正直、急な霧なんかは離れているつもりだったが、認識を改める必要しかなかった。

 

 というか、目の前の幽霊が意外と優しいというか。離れそうになったらぴたりと動きを止めるし、足元が危なかったらジェスチャーやらなんやらで教えてくれるのだ。

 お陰で、今の所は特に不自由なく霧の中を歩いて行けている。とはいえ、満ちの横の下りの斜面も、そこまで傾斜がきついって訳でも無さそうだし……いざ、となれば、かな。

 

「……あの世への案内人、か」

 

 幽霊の背を追いかけて、霧深い山奥の小道を進んで行く……これでこのままあの世への入り口まで連れていかれたりすれば、なんだか昔話にありそうな展開だな、と。思わず笑えて来る。あんなカビ生えた伝説を語り継いでいる村だというのにこれ以上昔話増やしてどうするんだっていう。

 

 ……それにしても。

 

「うちの村に、こんな所があるなんてなぁ」

 

 周りを見回しながら、ぽつりとつぶやく。

 

 蔵の方から回りこみ。ちょうど、マシュさんとあのデカいのに襲われた辺りを抜けて。うちの屋敷の裏手を進んでいくと……あったのだ。石畳、っていうか平たい石がぽつぽつと埋められた、小さな道が。

 歩いてみると分かる。うちの集落周りの、歩いて無理矢理切り開きましたって感じとは違う、ちゃんと『作られた』感じがする。長い間この村に住んでいて気付かなかったのが不思議な位に。

 

 お陰で、歩く分には一切支障はないし。一定間隔で埋められた石が目印にもなる。

万が一、前を行く背中、というか背骨を見失いそうになっても、もう一つの目印を辿ればいい安心設計である。

 

「……しかし、何処まで行くんだコレは」

 

 大分、とは言わないが。村からは離れた場所である事くらいは分かる。霧の中でもまぁある程度は方向はしっかりと把握しているので……村をそってぐるりと動いているっていう事も無い。

 

 こんな村外れも良い所に、一体何があるってのか。

 前を行く背に問いかけてはみるが……残念ながら、今までと同じく無反応。どうやら案内に徹しているらしい。まぁ、ちゃんとこっちが付いて来てるか、時折確認がてら立ち止まる辺り、気は使ってくれてるっぽいのが救いだが、さて。

 

「幽霊に案内される、か。まるで昔話だな」

 

 怖い話なんかで、幽霊に連れていかれる……いや、着いていった先にある物の大定番と言えば、やっぱりアレだろうか――

 

「……お?」

 

 ぼんやりと考えていた所で……不意に目の前を行く案内人の動きが止まる。

 どうしたのか、と思った所で。くるり、とゴーストが此方へと振り返った。此方も足を止めて……周りを見回してみる。

 

 案内は終わり、目的地はこの辺り、という事か。と思ったが、周りをどう見ても、分かれ道一つもない一本道のまま。どう考えても、道程の途中にしか見えない。

 

 ……一瞬。軽く拳を握る。何時でも横の斜面に飛び込む準備は出来ている。昇りは体力を消耗する。下りならまだ『逃げ切れる』可能性はある、筈だ。

そう思った所で……目の前のゴーストは此方を振り向いたまま、親指で自らの背後を指し示して見せた。

 

「……こっからは一人で行けってか?」

 

 その問いかけに、こくりと髑髏が縦に揺れる。

……成程、ここまで案内しておいて、途中からは俺一人で行け、と。中々にクールなご提案な事で。持ち合わせの親切は、護衛役を連れて来た辺りで品切れとでも言いたいのか。

 

……ここまで来て、いきなり過ぎる提案。文句が無い訳ではないが。まぁ、そんな文句を垂れ流して無駄な時間を過ごす事こそ馬鹿らしいし、仕方ない。

一応、周りを見回すが……霧でほぼ見えないので、視覚的情報もクソもない。まぁこうやって立ち止まっても何にもない辺り、警戒するのすら無駄な気もするが。

 

「ったく……行き先知らねぇけど、道なりで良いのか?」

 

 ……あ、頷いた。本当に後は道なりで良いらしい。

 

「分かれ道とかないよな?」

 

 ……髑髏がかくん、と傾けられる。っていうか、ものっそい首捻ってる。考えてくれてる様なのだけれど、あの、案内するんであればすぐさまその辺りはちゃんと把握して頂きたいのですけれども。不安になるので。

 腕を組みつつ、じっくりと間をおいてから……ゆっくり、というより。ちょっと自信なさげに。傾いたまま、ゴーストは小さく頷いて見せてくれた。うーん、不安に過ぎる。

 

 口元を抑え。少し考えて――ふと、真っ黒な眼孔が此方を見つめているのに気が付く。手を合わせ……なにやら、その身体を少し申し訳なさそうに縮こませたまま。

 一瞬、間をおいてから。

 

 ――ぷふっ、と噴き出してしまった。

 

「……分かった分かった。信じるよ。案内ご苦労さん」

 

 それが、あんまりにも可笑しかったもんで。

 だって、まるで……悪戯がバレた時の『妹』にそっくりだったのだ。ちっちゃい頃の。ああ見えて根は真面目だから、自分が悪いと思ったら直ぐに体をちっちゃくして。こっちにバレてない時もそんな風にするもんだから『あ、なんかしたんだな』ってすぐ分かった。

 

 悪気はあるんだろう――良心も、きっとある。

 それを信じるには十分な、人間臭さだった。

 

「ここまでありがとさん」

 

 ……一言、お礼を言ってから。

 

 道の真ん中に立つ骨格の横をすっと抜ける。道には、やっぱり埋め込まれた石がある。コレを道しるべにすりゃ、道なりで迷うって事は無いだろう。多分だけど。

 

「さーて……」

 

 ――かちゃかちゃっ

 

「……お?」

 

 ふと、そこで聞こえた声に、振り返る。

 道の真ん中に立っているゴーストが、此方を見ている。そして――片手を上げて、手のひらを振ってくれていた。

 控えめだけど。でも、ちゃんと俺に向けられたそれに、思わず微笑みが零れる

 

「……いってらっしゃいってか?」

 

 かたり、と首が揺れる。

表情の無い髑髏が――なぜか一瞬、微笑んでくれたように見えた。ここまで来て、俺に妙な霊感でも生えたのか。それとも……まぁ、どうでも良い。見送ってくれるなら、返す言葉は一つで良いだろう。

 

「――あぁ、行って来る」

 

 手を振り返して、一歩踏み出す。

 さっきよりも、ちょっとだけ。足取りが軽くなったような気がした。

 

 

 

 

 

 

『――あぁ、行ってらっしゃい』

 

『追手は、此方で引き受けよう』

 

『どうか。どうか元気で。僕の……『僕ら』の……』

 

 

 

 

 

 

「――っと、うおっ……」

 

 霧を抜けたのは……というか、霧が晴れたのは、唐突なタイミングだった。

 暫く、濃霧と道と埋まった石の、代わり映えしない景色の中を黙々と進んで、そろそろ感覚おかしくなりそうだな、と思う位に歩いていた所で。目の前の白い靄がすっと薄れて行って、開けた視界に木々の緑が飛び込んできた。

 

 そして……緑以外の色も、同時に。

 

「おいおい……本当に昔話じゃねぇか、こりゃあ」

 

 木々の中。開けた場所に並んでいたのは――墓石だった。

 

 今時ほどつるつるもしていない。明らかに『古い』って言うのが一目で分かる……っていうか『墓』よりも『塚』って感じがする様な墓場。

 一体誰の墓なのか、と言われれば。まぁ多分だけど……

 

「そっか。ご先祖様は、ここに葬られてた訳か」

 

 俺の村の、墓場なんだろう。

 

 今まで気にした事も無かった、というか。俺が経験した葬式が『アレ』だったせいでマトモに墓に葬った事なんかなかったけど。

そうか。本来は、この辺りにちゃんと埋葬されるはずだったのか、皆は。

 

「……立派なもんだなぁ」

 

 他の墓がどうかは知らないけど。こうして見ると、自然と言葉が漏れてくる。一つ一つの墓石の大きさも本当に立派なだし、あの、良く分からない石造りの『塔』も、凄い厳かって感じの造形をしてる。ちゃんと死者を葬る場所として、丁寧に作られてるって感じがした。

 

 ……さて。

 

 先ほどのゴーストさんが案内人だとすれば。

 この、目的地の墓場に……俺を連れてくる目的が。もしくは、『連れて来る様に』指示した『目的の人物』が居る筈なのだけれども。

 

「……んー、っと?」

 

 一歩。一歩。墓場を行く。

 

 立ち並ぶ墓石の間を抜けて行って……時折、その影なんかを覗き込んでみる。しかしながらそれらしい影は見つからない。今は割と明るいというのに、人影すら見えないというのは何とも。

 

 ……秘密の呪文とか必要だったりする? だったら俺何も知らないから、詰みが確定するな訳なんだけれども……っと。

 

「……デケェな」

 

 そこに、辿り着いた。

 他と比べて明らかに大きくて。そして……石の『装飾』の施された墓。何やら文字が彫り込んであるが……それを読むまでもなく、何となく分かった。

 

 刻み込まれた――『鬼の面』の紋様を見て。

 

「悪趣味じゃねぇか? ご先祖様よ」

『――いや、外連味が有って。これはこれでいいかもしれんよ』

 

 ――伸ばした背筋に、ピリッとしたモノが走る。

 

 視線の先。線香の置き場らしい『箱』の目の前……階段の一番上。

 ぼんやりと……浮かび上がる。白い影。ハッキリと見えなくて、目を凝らそうとして。

 

ふわり、と。花びらが、舞った。

 

「……あ?」

「済まないね。警戒させるつもりは無かったんだ……」

 

 一瞬。

 濃い桃色の花舞う向こうに――『男』は姿を現した。

 

 悠然と腰かけたその身に纏うは、立派な黒の着物。袖にあしらわれた『雷』と『梅』は男の言う『外連味』に溢れている。ゆったりとしたズボンとは違う……あの、モンペとも違う白の衣服は、片方だけが白と黒のまだら模様。

 

 整えられた顎髭と口ひげ、一見痩せぎすにも見えそうな顔立ち。オールバック……っぽい髪型の男が、静かに此方を見つめている。口元に浮かべた微笑みは……『上品』だ。

 

「ようこそ。歓迎するよ――本造院康友くん」

 




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