FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
凄いと思う。素直に。
人間って、振る舞いたった一つでこんなにも『品』って言うのを滲み出させる事が出来るというのか。先ず自分と比較したら『あっ、すみません』って謝る事しか出来ないもん。敗北感うんぬんより先に。
明らかに、俺とは違う『上流階級』ってのが分かる。
そんなイケおじを目の前にして……俺はと言えば、思わずたじろぐ事しか出来ず。
「あの……えっと」
「あぁ、そんなに畏まらなくても大丈夫――取り敢えず、今は楽にして欲しい」
此方に向ける笑顔は、酷く穏やかで、自然体そのもの。大仰な表現をしない余裕と、落ち着いた仕草が、そこに確かな『品』を感じさせてくれる。
それは、笑顔だけではなくて――男の声は、低いが良く通り。此方まで響いて、とても聞き取りやすい活舌の良さ。聞くまでもなく、『高貴な産まれ』って言うのが聞いているだけで容易く想像出来るような、話しなれた喋り口だ。
「とはいっても、楽にしても、座れるところはないな、んー……こっち来るかね?」
「え?」
「いや、流石に墓石やらの上に座るのは無礼だしね。こうして、半ば見下ろす様にして話すのも、余り性に合わなくてね。なら私の隣で、目を合わせて、話そうじゃないか」
だというのに。
墓地をきょろきょろと見回したり。ぽんぽん、と自分の座っている所の隣を掌で叩いて見せたりと……仕草の一つ一つは何処か親しみやすく、ごく普通に働いている一般男性のそれにしか見えない。
不思議な感じがする男だった。
意外と言えば意外だ。こんな墓場に、態々幽霊に案内させるような相手だし、もっと、仰々しい、明らかに『怪物』って感じの何者かが来てもおかしくないんじゃないかとは思っていたのだ。本当に。
昔話に語られたり、秘密の呪文とかで呼び出されたりするような、そんなレベル。
その点で行くと、目の前の男は『格』はそれはそれは高そうだが、なんていうか、迫力的なものには欠ける気がしている。
「そら、大丈夫。別に取って食ったりはしないとも」
「え、えーと……」
……まぁ、迫力がない理由として、明らかに良い育ちの空気や喋り方から飛んでくる、この『気安さ』がある。
纏う空気は上流階級、仕草が一般男性で、距離はもう親戚のおじさんみたいな感じがしているという。言われた通りに隣に座ったら普通に肩組まれそうな勢いだ。
いや、こっちとフレンドリーなのは良い……というか一旦置いておくとしても。先ずはその前に一つ、聞いておくべき事を聞かなければならないだろう
「貴方は……」
「ん?」
「その、そもそも何方さんなんでしょうか……?」
「……」
……空気が凍った。
此方を招いていた手が止まり。そのまま、その手が顎に伸びた。
暫し、さっきの幽霊と同じ様にして首を捻ってから……あ、という声と共に顔を上げた。
「……あ、あぁ! そう言えばそうか……いや、本当に済まないね。君の名前を把握していたから、此方の名前も既に教えたつもりになってしまった」
おい間違いからレベルが一気になぎこクラスに下がったぞこの人。
……いかん。思わずとんでもない悪口が飛び出しそうになった。どんな理屈だこのオッサン、とか不躾も追加して。落ち着こう俺。
しかし……『昔っからこれで色々顰蹙買ったからなぁ……』とか言いながら頭掻いてるのとか、一気に上品な空気が窓際の哀愁漂うサラリー風に。昔話が井戸端会議レベルに下がってしまった。何だろう。この残念な空気。
その辺りの気持ちも込めて、ちょっと強めにジト目を向けてやれば……流石にこの空気の悪さに自覚はあるのだろう、男は露骨に此方から目線を逸らした。
「あー、すまなかったね……どうにも、変な所で自己完結して話を進めるのは私の明確な悪癖だ。先ずは、自己紹介をするべきだった」
それから。ぺこりと一度、深く頭を下げてから――
「と言っても……訳があって本名は名乗れない。済まないね」
そう、口にした。
……思わず目を細めてしまう。さっきのなっさけないミスから、中々に面白い事を言ってくれる。名前は明かせない、か。
「……呼び出しといて、ってチクチクすんのは無しか?」
「出来れば。私の『目的』位は話すから、取り敢えずはそれで勘弁してもらいたいな」
「えっ」
ちょ、ちょっと待て。
名前とかと比べたら、そっちの方が隠さないとまずいんじゃないのか? 何をしたいかの『動機』ってミステリーとかでもかなり重視される要素じゃなかったけか……いやでも明らかに悩む素振りとかも無しだったし……
いや、こっちにしてみれば、ありがたい……のか? いやそれも分からん。ダメだ。取っていた間をいきなり外されて……何なんだコレはっ!
言い様の無い、こう……空回りというか、手応えの無さというか。そんなモヤモヤ感。今度は、こっちの方が天を仰いで頭をガリガリとするしかない。
「ははは。まぁ『その辺り』は場合にもよりけりだよ」
――視線がぶつかる。
此方を見つめたまま。男は、顎に手をやって朗らかに笑うばかり。
……成程、漸く『らしく』なって来やがった。
言っても居ないのに、こっちの内心を見透かした様な口ぶりで喋りやがる。いや……余裕たっぷりって態度的に『様な』は余計まであるかもしれない。
腰を降ろしたままの男に視線を向ける。
目元を緩めて此方を見つめているのは、何処か好々爺染みているが……それがかえって得体の知れない不気味さを醸し出しているような気もする。さっきまで窓際係長的な空気だったってのに、温度差激し過ぎだろ。
「今回は『名前』の方が『重い』というだけの話だ、うん。情報の重みは、立場や時によって流動が激しいから、一概に間違いとは言えないね。普通は、此方の方が重くなりがちというのは」
「……俺は良く知らねぇが、学校の先生っぽいな」
「はは。そうかな……あぁ、なら取り敢えず『仮の名前』はこうしておこうか」
「取り敢えずは『博士のキャスター』だ。よろしく頼むよ。少年」
……ちらり、と。
墓地に転がる、石の一つに視線を向ける。形的に墓石とも違う……そこに、ゆっくりと腰を降ろす。座り心地は良くないが……一歩引いた所から、全体を見つめられる位置なのがいい。素人の俺に出来るとも思わねぇが、一挙手一投足だって目を離したくない
間違いなく、『キャスター』と名乗った男は、相当な曲者だ。
「……おや、隣には座ってくれないのかい?」
「あぁ――素人判断ながら、油断ならない相手ってのは何となく分かったからな」
「成程……うむ。その判断は、正しい。卑下しなくても大丈夫だ」
膝の上で手を重ね――そこから此方をじっと見つめる視線。口元は見えない。表情はまぁ読めないけど……此方を見つめるその瞳が、先程よりも鋭くなっているのは、分かりやすかった。まるで、こっちを観察している様にも見える。
……まぁ、ちょっとばかし時間はかかったが。
本題に入らせて貰うとしよう。
「――態々、あんな迎えに『餌』まで準備したんだ……こっちが何を聞きに来たのか、分かってんだろ」
「まぁ、そうだね。『彼女』を見れば、キミは反応せざるを得ない。君の周りに起きている事態について、深く知りたいだろう――」
……知りたい、どころではない。
爆発しそうな感情を、ぐっと堪えて……目の前の『キャスター』の言葉に、静かに耳を傾ける。
「では、そうだな。先ずは私の目的からかな。当然、関係していない訳も無いしね」
結論を言えば、と一言おいてから。
「君達という『血筋』を狙っている今回の一連の黒幕――アレを『鎮める』事になる。身内の不始末だからね、必ず成し遂げるつもりでいるよ」
どんな手を使ってでも、ね。
そう――男は言葉を結んだ。
天気の移り変わり激しくて風邪引きそうですが私は元気です