FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:コントラクト

 此方を見下していた瞳が。なんか、急に『理解できないモノ』を見る様なそれに変わった。

 どうしてだろう……あ、いや。目尻が吊り上がった。怒らせちまったかコレっ!? なんか粗相でもしたか俺っ!?

 

「……おい」

「な、なんすか」

「神、とは。どういう事だ。私が、そう見えるか」

 

 ……そう、見える、って。言われても。

 どう答えたら良いものか。下手に答えようものなら、どうなるのか。さっきの一発も、明らかにこっちをぶっ殺そうとしてたし……『なんでか』は、今、サッパリと分からなくなってしまったけれども。

 

 流石に、ぼんやりして答えて良いもんじゃないだろう。取り敢えず警戒だけは、怠らない様にして。しかし何と言ったモノか……

 なんか、変に構えたまま動けず。ただ見つめ合う事しか出来なくて。

 暫くすると……はぁ、と目の前の女神さまが、ため息を一つ吐いた。

 

「何を言おうと構わん。許す。言え」

「え、だったら――こんなに神々しくて、気高くて、綺麗な人が神様じゃない訳が……」

「やっぱり待て」

 

 止められちった。

顔を覆いながら、女神様は此方に掌を突き出されている。えっと、俺は、これどうすればいいんだろうか。

 

「……貴様、そう、私を見ていたのか」

「あ、いや。見ていたっていうか、一目見れば、何となくそう思うっていうか……御髪の蛇も、その。凄い、力強いし美しいし……」

 

 ……他にどう見ろってんだろう。黄金の鱗なんて、それこそ人とは隔絶した『神威』の象徴みたいなもんだろうし。というか、下品すぎて言えなかったけど、その……

 お胸のその、デカいモノとか。人とは思えない程に、綺麗な形で、つやつやで。もうそういう芸術かな? っていうレベルで目を奪われそうになったし。んで全身も、そのトップに負けない凄いグラマーだし……セクシーとかとはちょっとモノが違うっていうか。

 

「もう、いい」

「あ、はい」

 

 ……女神さまが顔を上げる。眉間に深い皴を刻んでるあたり、やっぱりまだ怒ってるっぽかった。たださっきよりは、大分雰囲気は柔らかくなった……かな。多分だけど。

 取り敢えず、この状況でやる事は一つだ。後ろを振り返って墓の方に視線をやれば、さっきまでひっくり返っていたキャスターが体を起こして、ぽかんと口を開けながら彼女を見つめている――呆然としているんだろうが、悪いがそんな時間は与えてやれん!

 

「おい、アンタ」

「……」

「キャスター!」

「あ、あぁ。うん。ええと、どうした」

 

 二度、三度と声をかけてから……漸く、キャスターが再起動を果たした。

そしてどうした、じゃないんだ。俺はあくまで招かれた側なんだよ。教えて貰う立場なんだよ。どうしたはこっちの台詞なんだよ。

 

「この御方は、一体何方さんなんだ」

 

 当然、ウチの村の関係者って訳も無いし、ワンチャンここら辺の土地神、的な人かもしれないかもだが、こんなセクシーでグラマラスでエロスな神様、ウチの辺鄙な土地に全く似合わないし多分違うと思うんだけども。

 

 という事で全く心当たりがない此方としては、目の前のキャスターの関係者か、と思うしかないのだが……しかし、此方から水を向けられたキャスターはと言えば、困ったように頭をガシガシと掻いてから、女神様の方に視線を向けた。

 

「え、あー……そう、だね――」

「――黙れ」

「あ、はい」

 

 ……が、キャスターが口を開くよりも前に、その女神様から鋭い視線が飛んだ。

 あ、これは味方じゃなさそう。なんか、敵を見る様な目じゃなかったから、知り合いかと思ったんだが。いや、知り合いだったらあんないきなり強襲なんかしないで、声の一つくらいはかけるか。妥当だった。

 

「……貴様もだ。私の事を知ってどうしようというのだ?」

「あ、いや、その」

「お前は、私の『獲物』に過ぎんのだ――弁えるがいい」

 

 しゃー、と。分かりやすい警戒音と共に、その牙が向けられているのは……あ、うん。そうですね。俺ですよね。チクショウ、ちょっと前までは『なんで俺が!?』ってリアクションも出来るだろうに、一応の心当たりがあるって分かっちゃったからどうしようもねぇ!

 

「えっと、もしかして俺……丸のみとかされちゃいます?」

「するか。私の事を大蛇か何かと思っているのか貴様」

「あ、いえスミマセン見るからに蛇の神様だと思ったもんでつい……」

「ふん。貴様の様な、煮ても焼いても食え無さそうな分かりやすいゲテモノ等、頼まれても口にするものか」

「ひ、ひでぇ!?」

 

 げ、ゲテモノて……クソぅ、でも微妙に否定しがたいのが悔しい。俺、明らかに消化に悪そうな見た目してるしなぁ……ああいや、そうじゃない。

 ダメだ。シリアスの空気が完全に霧散してる。だってこんな美人さんがいきなりやってきたらそりゃあ重苦しい空気だって吹っ飛ぶだろ。香子さんといい勝負じゃねぇか。あ、香子さんは女神レベルで美しいって事か。すげえな香子さん。

 

一つ、呼吸を入れる。

気を引き締め直して、目の前の巨体に向き直る。

 

「……じゃあ、俺をどうするつもりなんだよ」

 

 こんな襲撃を喰らって『獲物』と明確に定義されているのだ。食べもしません、何もしませんな訳がない。目の前の女性は、今までの出来事に一切関係ないような闖入者で、何を要求してくるかも想像もつかない。

 

 そんな此方の問いに。

彼女は……ふ、と。とても穏やかな笑みを浮かべて見せた。

 

そう、穏やかで――酷薄な冷笑を。

 

「そうだな。到底食える気はせんが……それ以外になら、それなりには使える。如何様にでも利用する方法は思いつく」

 

 くつくつ、と笑う。

 

「取り敢えず、『契約』の一つでも交わすか。貴様を上手く使う為には必要な事だ」

 

 ……変な笑いが漏れそうになった。

 村に表れた異形に始まり、過去の記憶に疑問を持ち、幽霊に導かれて……神様から契約を迫られる、か。人生の波乱万丈を、この数日に詰め込んだかのような超ハイペース。

 正直、『俺が何をしたってんだ』と言ったって許されるだろう。全く、こっちの都合なんざ無視する様に畳みかけられては。

 

 この契約が、普通に家電とか買う様な感じの契約なんかじゃないのは、流石に誰だって容易に想像できるだろう。借金の形に売られるのよりも、はるかに酷いやもしれん。文字通り頭のてっぺんから、爪先まで――おかしな力で縛り付けられる、とか。

 

「断っても構わぬぞ。その場合、貴様の末路は保証せんが……」

「……っ!」

「何、契約するというのであれば――その代わり、一つくらいは願いも聞いてやろう。互いに利があってこその契約であろう?」

 

 ……絶対に、平等になんてならないだろう約束になる。

それを分かっている。此方も、向こうも――その上で、彼女は、平等な利を口にする。嘯くように。甘く、囁くように。殊更に、此方との力の差を、見せつける様にして。

 

「そんなに……俺の中に流れる血ってのは、希少なもんなのか。アンタ程の、凄い神様が欲しがるほどに」

「いいや、私自身はその価値を詳しくは知らん。知る必要もない」

 

「ただ――獲物を隣から搔っ攫われるのは、我慢ならんだけだ」

 

 ……成程、納得だ。

 この人が俺みたいな小僧を欲しがってる、って言うよりも。単純に面子が潰されるのが嫌なだけで動いた、って方がよっぽど説得力がある。

 こちとら、自分の価値も何も、まだサッパリと分からん訳だしな。

 

 しかし、この人自身が狙ってる、って訳じゃないとすると。

 拳を握る。どういう経緯を経て、この人が動く事になったかは知らないが……コイツをけしかけられる立場にいる人間は、随分と悪魔的らしい。こんな小僧一人の為に動かしちゃいけない格のお方を動かすとは。

 

「貴様らと違って、私は約束を反故にして騙し打つようなせせこましい真似はせん。そんな事をするのは面倒だからな」

 

 浮かぶ優しい笑みは、強者の余裕そのものと言ってもいい。格の違いを、表情一つで分からせられる。

 

 ……理不尽に、歯を噛みしめる。

 それでも。泣きわめくよりも前に。呼吸を落ち着けて。胸の内に問いかける。

 

 選択は――これで良いのか、と。

 

「そら、願いの一つでも口にして見せろ――哀れな末路は辿りたくないだろう? 人間」

「――分かった」

 

 今この状況で、俺には何かできるような事はない。これは完全な事故だ。俺の全く知らない所で全てが動いている状況で、こうして一人出て来た。その我が儘へのツケである。

 なら、自分の招いた事ならなおさら……全てを諦めるよりも。

 

 顔を上げる。目の前の紫紺の瞳を覗き込む。此方を覗き込む視線は、矮小な獲物を前に僅かな悦に揺れている。獲物がどう足掻くのかを、見物でもしている様に。

 

「ただし――条件が、ある」

 

 この状況下で、少しでもマシになる様に。

 足掻かない選択肢は……無いだろう。

 




こ、この女神様を書くの楽しいぃ……っ!
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