FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:ネゴシエイト

「ただし――条件が、ある」

 

 ――しゅっ……がごんっ!

 

 ……足元に、粉々に砕けた石の破片が転がった。

 一瞬だった。何時の間にか、足元に女神様の髪が変身した蛇が伸びて――俺の座っていた石を、かみ砕いていた。全く見えなかった。

 女神様は、此方を見つめながら……目を細め、虫けらでも見る様な視線で此方を見下ろしている。先ほどまでとは全然違う。纏う空気が、肌を刺してくる様だ。

 

「話を聞いていなかったのか?」

 

 ……声のトーンが、少し低い。そして、酷く冷たい。こりゃあ間違いなく彼女の不興を買ったと見える。まぁ、当然と言えば当然か。

 

「貴様は贄に過ぎん――此方が、僅かばかりの慈悲をくれてやった途端に『これ以上』を欲するとは」

 

 僅かな笑みすら、もう消えた。

 

 女神様と、俺の関係は、あくまで食う側、喰われる側。その力の差は、どう足掻いても覆る事は無いし――それが、俺にとってどれだけ突然で理不尽だとしても、そんなのは彼女にとっては関係ない。

 自分から見て、絶対的に格下の小物が『その代わり』だなんて、取引染みた事を言い出しながら対等ぶってお願いを聞いて欲しい、等というのは……どれだけの怒りを買うのか、想像も出来やしない。

 

「随分と思い上がれたものだ。そこだけは――」

「――そうじゃない」

 

 遮るように言葉を紡ぐ。俺だって、そこの自覚くらいはある。

主人公染みて、とんでもない勝負度胸と苦境での閃きでこの状況を切り抜けられりゃいいのだが。残念ながら、そんな物は無いので――自分が持ってるモノで、出来るだけ『マシ』に立ちまわるしかない。

 

 その為には……これ位しか出来ないのだ。

 

「以上、じゃない。アンタが俺も利用するってんなら……」

 

 此方を睨みつける瞳と、視線を合わせる。ビビるな。ここでツケを払わなきゃ、なぎこや香子さん、婆ちゃん達に、とんでもない迷惑が降りかかりかねない。

 唇を噛んで、逃げ出しそうになる足を、踏ん張る様にして制して、全力で立つ。寧ろ幸運だと思え。そのツケを払って余りあるいい買い物が出来るかもしれない。

 

前髪の一房を持って、分かりやすく持ち上げてみせる。

 

「……髪の毛一本、爪のひとかけらまで、無駄なくさ。それこそ、俺の頭になんも残らなくなる位まで――やるなら、全力でやって欲しいのさ」

 

 ――目を見開く女神様から目を逸らさず、努めて強く見返す。

 

「……貴様、何を言っている。条件を付けるという話では――」

「そして利用する分、俺の願いも全力で叶えて欲しい――ってだけさ。こっちは、もう貴女に逆らいようもない状況なんだ。だったら、身を捧げた分くらいは、しっかりと願いを叶えて頂きたいじゃない?」

 

 さて、そんな事を言って、コレからどんな事をされるのかは、さっぱり分からないけれどもまぁ……とことんまで利用されるってんなら、何処までも『最悪』を考えていた方がいいだろうな、と思う。人体実験とかまでされるかな。あー、こえぇなぁ……

 

 ……ビビるな。

 ここでブレるな。なんなら、余裕がありますよ、位に平静を装え。絶対に押し通せ。ここで芋引いたら上手く行くものも行かなくなるかもしれないだろ。

 

「『利用するなら互いに全力で』――これが、アンタに対する、条件だ」

 

 ぽりぽり、と頬を掻く。指先に、傷が触れる。

 さて。これは何時の傷だっただろうか。なぎこがなんかした時の傷だったけか。

この後、生き残れるかも分からない。生き残れるかもしれないけど。今、村で起きている事に関われるか、なぎこ達を守れるかは、酷く怪しい。

 

 というか、多分無理だ。目の前の女神様にとっちゃ、俺の問題なんざ気にも留める必要のない些事でしかないだろう。

 

「――なんでも、なんだよな?」

「……好きに言ってみろ、とは言った」

「ならなんでも、って事で良いですよねっと――」

 

本当は諦めず、『いきなり言われてハイそうですかって言える訳ねぇだろ!』って言って諦めず抵抗の一つでもして。家族の元へ帰るのが正しい事なんだろう。でもまぁ、正しい事が、その時の『最善』とは限らない。

 

 今の最善は、コレだ。

 奥歯を噛みしめ、拳を強く握りしめてから。出来るだけ、丁寧に頭を下げる。

 

「わが身一つと引き換えに。どうか、村に残った家族を……いや、村に襲って来てる災難を、打ち払って欲しい」

 

 ……結局。どうして村の皆が死んだのか。俺達の血筋についてとか。知る直前で、突然全てがおじゃんになったんだ。多分、今は実感がないだけで……後になって、多分死ぬ程後悔するだろう。こんな事になるなら家に居とけば良かった、とか。色々と。

 

 でも、残念ながらその後悔はその後悔だ。男手一人が消えて、他の皆に負担を押し付けて良い理由にはなりゃしない。しくじったなら、そのしくじりを埋めるだけの事を、出来るだけやらなきゃいけない義務が発生するのだ。人間って奴は。

 

「――随分と格好つけた割に、震えているな」

「俺だって……色んなものを諦めるしかねぇんだ。思う所は、あるさ」

 

顔を上げる。

 此方を見つめる女神様と目が合った。

 色々、胸の内に秘めた思いはある――口をついて出そうになるそれを、必死にこらえる。話した所で、どうなるもんでもねぇだろ。すぐ戻る、なんて言っておいて。可愛い妹、大好きな幼馴染、大切な祖母を置いて。事故みたいな出来事で、全部おじゃんだ。

 

 叫び散らしたい。ブチ切れたい。どうして俺なんだ、とか言いたい――でも、全部が今言う必要もない。

 

「精々、上手く使ってくれよ――不敬だが、俺もアンタを使わせてもらうからさ」

 

 女神様が、目を細める――何処か、呆れた様なモノを見るような目で。

 

「……間抜けが。私が敵と通じているとは――」

「あぁ、そこだけは信頼できる。っていうか、自分で言ってたじゃねぇか。そういうだまし討ちとか、面倒だからしたくないって」

 

 ……あ、黙った。よし。ちょっと意趣返しに畳みかけてみよう。なぁに、こっちの数十年分のリソースを持って行ったんだ。これくらいはしても良いだろ。

 

「何となくだけど……思うんだよ。貴女は恐ろしい御方だけど気真面目な人だって。信頼できる人だ」

「……ちっ。全く、癪に障る男だ」

 

 ほんの僅か。間をおいてから帰って来たのは舌打ち。

それに対し、不快感を抱かなかったのは――此方を見つめる瞳が、何処か穏やかなものだったから。先ほどまで滲んでいた敵意が、嘘なんじゃないかと思う程に。

 

 ぺし、と。額に何かが当たる。落ちて来たそれを手に取れば――どうやら、『和紙』の様であった。洋風の神様っぽいのに、こういうの使うんだな、とどうでも良い事が気になりながら、折りたたまれたそれを開いた。

 

「……これって?」

「護符は持っているな」

「護符……お守りの事? え、何で知って――」

「それをしっかりと握りしめて、その通りに詠唱しろ。それで契約は『再び』結ばれる」

 

 ……再び?

 

「あの、俺とアンタって初対面だけど――」

「良いから早くしろ。先程の望み通りに喰ってやってもいいのだぞ」

「え゛っ!?」

 

 ……何だろうな。こんなに理不尽な事を言われてるのに。不思議と腹が立たないんだよなぁ。ホント。

 

いや、ぶっちゃけた話をすると。

俺がこの人の言う事をホイホイ聞いちゃうのはなんでなのか。状況とか、力量差とかにも加えて――物凄い、俗っぽくて、酷い理由があるのは、自覚しているのだ。

最初に、顔を合わせたあの一瞬。あの夜、美しい鬼を見た時のように、胸に昂る感情があったのだ。まぁ、一言で表してしまうなら。

 

 見惚れた女に、なんか強く出れなくなってしまったのだ。うん。

 ……あ~っ! 絶対言えねぇ! 村の一大事に何を好いた惚れたの話をしてんだ! クソカスで草生えますわよ!!

 

「――告げる」

 

 誤魔化すように、口を開く。言われた通り、片手には、あの鬼から貰った黒い石のお守りを握りしめて。

 

和紙に書かれていた文字は……読みやすい日本語だった。最近の神様はバイリンガル的な感じなんだろうか。俺と話してる時も日本語だったしな。

……っていうか。

 

「汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。星見の砦の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば――我に従え!」

 

 この詠唱、俺が主体になっている気がしないでも――

 

「ならばこの命運、汝が『牙』に委ねよう!」

「アヴェンジャーの名に懸け、誓いを受けてやろう――再び我が主と成れ、マスター」

 

 ――えっ? 今なんて――

 

「――言った……え?」

 

 踏み出した一歩が――ふらつく。景色が、傾く。

 

 視界が、揺れてる。たたらを踏んでしまう。

 

 なんだ、これ。奥が、軋むっ……!

 あ、頭が……流れ込んでっ……これ、は、なんだっ……!?

 

「あ゛……ぎ……がぁ……っ!?」

 

 たおれる、立てない、無理だ、どうなってる……っ!

 知らない、なんだ、ここはっ……炎……アイツは……瓦礫の下の、彼女は……俺の隣にいる、この人は――っ!?

 

痛いっ、痛いっ……割れるっ……あ、溢れるっ……!!

 

「がァ゛っ――ア゛あ゛あ゛ア゛あ゛ア゛ぁ゛っ!?」

 

 

 

 

 

 

「……些か乱暴に過ぎませんか」

「知らん。時間は向こうへの利となると言ったのは貴様であろう――それで、本当に大丈夫なのか。悲鳴を上げてのたうち回っているが」

「いや冷た……ああいや、信じている、といった所でしょうか」

「……ふん」

 

「問題ありません。これで――漸く、反撃の狼煙を一つ、上げられます」

 




ちょっと早かったかもしれない。
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