FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:僅かな気配

「――これで、最後ですっ!!」

 

 渾身の一振り――カリバーンによる横薙ぎの一閃が、最後のゴーストの群れを纏めて蹴散らし。その身体が、黒い塵となって空気に溶けていく。

 

「お疲れ様、リリィ」

「はい、マスター」

 

カリバーンの切っ先を下ろしたリリィは、しかしアレだけの大立ち回りの後だというのに、息を切らさず、にこやかに此方の言葉に応じてくれた。流石だなぁと思いながらも、こんな『容易い』事で褒めても、彼女自身も少し困ってしまうかもしれないとは思う。

 

正直な話をすれば――烏合の衆、と呼んでも良いほどの相手だった。個々の質の高さは確かに感じたが……それらがバラバラに動き、連携したとしても拙いもの。

向こうから一塊になって、しかも連携してる訳でも無く。数が居ても、一騎当千のサーヴァント相手には纏まって蹴散らしやすくなっただけ。そんな大チャンスを、リリィが見逃すわけがない、ただそれだけの話だ。

 

「……」

「――易きに過ぎても、やはり悩みは尽きぬか」

 

 口元に手を当て、僅かに俯いて――ふ、と。傍らに降り立ったエドモンに視線を向ける。

 

「くく……難儀だな。共犯者」

「……でも、仕方ないんじゃないかな」

 

 そう思っても、仕方ない程に容易い戦いだった。

結局、最後まで特に何かどんでん返しが起きるでもない。終始、此方がペースを握ってのワンサイドゲームと言っても差し支えなかった。

今まで、敵勢力の影に隠れながら、冷静に、そして狡猾に、此方の隙を狙っていた敵の動きを思えば……稚拙に過ぎる。何なら『焦り』すら感じられた様な気すら……。

 

「こっちの油断を誘う、更なる攻勢への布石……って言われた方が、まだ俺だって納得できるよ。俺達相手に、そこまでするのかとは思うけど」

「敵方にとっては、そのレベルの脅威ではあるだろうよ。貴様は、五つの特異点と試練を乗り越えた。油断をしろ、とは言わんが……謙虚も過ぎれば毒になるぞ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどね」

 

 ……そう考えると、余計に首を捻りたくなる。空いても最初から油断せず、更に激しい攻勢に打って出るのではないだろうか。こんなお粗末な戦い方をするだろうか。

 思わず眉間に皴を寄せ――そこで、ハッと顔を上げた。

 

「そう言えば、敵の取り逃がしは?」

 

 今は、敵の意図を探る事よりも……屋敷の方の安否だ。エドモンには遊撃と共に、万が一にも打ち漏らしが出た時の撃破を頼んでいたのだが――実に平然とした様子で、彼は口を開いた。

 

「何処にも居ない。安心しろ」

「良かった……」

 

 その言葉に、ほっと胸をなでおろす。

 

 良かった――そう思ったのも束の間。

ただ、と。零すように呟いたエドモンは……その瞳を僅かに細めながら、屋敷の――正確には、屋敷から少し離れた方向の、山間へと鋭い視線を向けたのだ。

 

「――気になる事はある」

「えっ?」

「敵のそれとは違う、微かな気配を感じた……様な気がした」

 

視線がぶつかる。俺の気のせいかもしれん、と彼は言うが……エドモン・ダンテスという英霊が感じ取った事だ。本当にただの気のせい、と切り捨てるには……

特別勘が良い、という逸話がある訳では無い。しかし、あの孤島の監獄塔から見事に脱獄せしめた彼だ。サーヴァントとしてのスキルではない――脅威を嗅ぎ分ける一種の『鼻の良さ』を持ち合わせていても不思議ではない。

 

彼だけではない。英霊達というのは、その多くが窮地を乗り越えて来た超人たちだ。窮地や試練に打ち勝ち、輝かしい栄光や、焦がれた願いへとたどり着いた。あるいは――そんなサーヴァントの『気がかり』を到底、立香は聞き逃せなかった。

 

「――マシュ! 周辺の確認が終わったら急いで戻ろう!」

「え、あ、はいっ!」

 

 頼れる後輩に一声かけてから、自分も残った敵がいないか周りを見渡す。

 焦っては駄目だ。もし、敵の打ち漏らしがあれば『新しい』問題につながるかもしれないのだ。万が一の事があれば、この僅かな隙すらも、致命打になりかねない。

 カルデアからの援護もない今、自分達の目視でやるしかないが――それでも、出来るだけ早めに、かつ丁寧にやる事を意識して……

 

「リリィ、残敵は!?」

「居ません! ゴーストの残滓も残ってません!」

「こっちの方も……大丈夫! マシュ、敵の追加戦力らしい影は!?」

「……無しです。森の方も、その周辺からも、追加の攻勢の気配なし!」

 

 声かけ確認。良し。ならば――急ぎ、この場から取って返す。視線の先の、本造院のお屋敷は、静けさに包まれている。さっき確認した時と、一見して変わりはないように見えるけれど。

 

「戻ろう! エドモンの勘が正しいとしたら――マズいかもしれない」

「まさか……お屋敷の皆さんに何か!?」

「分からない。けど……エドモン、先行して周囲の確認を!」

「あぁ」

 

 その可能性があるのなら。

 

 念には念を入れる――黒衣を翻し、巌窟王が空気に溶けるように消えた。不意打ちや待ち伏せに関しては、これで取り敢えず……後は。

 

「マシュ、気を抜かないで行こう――もしもの場合は、民間人の安全を第一に」

「……わかりました」

 

 ――がちゃり、がちゃり、と。

 

 鎧や、剣。金属音を立てながら、お屋敷の前まで走り寄る。エドモンからは……特に反応は無し。何かしらあったなら、直ぐに合図か何かをしてくれるだろうから……?

 ちらり、と。隣にいるマシュに視線を送る。一応の為、背後を任せ。カリバーンをしまったリリィと共に、扉の前に立つ。

 

「――あの、熊たちは山に帰りました。もう大丈夫です!」

 

 声をかける――ひとつ、息を吐いた後……玄関の奥から、此方に向かう『足音』が。

 

『……大丈夫なのか?』

 

 若い男の声――康友の声に間違いないだろう。思わず、身体から力が抜けそうになってしまった。良かった、エドモンの感じた事は……どうやら気のせいだったらしい。

 リリィと二人、ほっと一息ついて笑い合い。背後のマシュに『大丈夫そうだ』合図を送る。それから、扉を開けば――果たしてそこに立っていたのは、やっぱり微妙に見慣れない黒髪と、見慣れた鋭い目つきの青年。

 

「……いや、なんでそんな熱視線を?」

「ごめんごめん――もう大丈夫」

「まぁ、ならいいんだけれど……?」

 

 入れよ、と言わんばかりに促す康友に従い、もう大丈夫だと伝えようと一歩、踏み込もうとした所で――

 

「――そこ、危ないんちゃう?」

 

 突然、伸びて来た白い手が此方の襟首を掴んで、玄関から屋敷の外へと引っ張り出す。一瞬、康人と互いに『え?』という驚愕の表情で見合ったかと思った時にはもう、背後のマシュの手の内に抱かれて――

 

「今の、声って――」

 

 すぱん、と。

 俺の立っていた所の石畳に直後、一筋の傷が刻まれた。深い深い、刀傷が。

見覚えがある。間違いない。この一撃は――背筋が冷える。マズい、狙いは誰だ。読みを間違えた時点で、間違いなく『首が飛ぶ』。声の主についての事は一旦、思考の外。彼女は確か……っ!!

 

「――な、なんだぁっ!?」

 

 康友が視線を下に落とす。突然の事に、目を白黒とさせている。急いでマシュの懐か転げ落ちながら、声を上げる。指差したのは――何事なのかを確かめようと玄関から足を一歩踏み出そうとしている康友。

 

「マシュッ!」

「――はいっ!!」

 

 瞬間、緩めていた気を引き締め、即座にスイッチを切り替えて、盾を構え直したマシュが前方に飛び出した。恐らく、狙いを切り替える刹那に、滑り込めたのだろう――屋敷の天井から下りて来たその影の次の一撃――『二刀』を振るう仮面の剣士の一閃は。

 

「――かぁっ!!!」

「させませんっ!!」

 

 ――甲高い金属音と共に。

 

 マシュの大楯に、阻まれた。

 




マシュの頼もしさは異常。
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