FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「――邪魔を、するなぁっ!!」
受け止められた刃を――それでも尚、獲物へと襲い掛からんと、大楯へ向け押し込もうとする『女武者』。しかし、滲み出る様な殺意の圧に晒されても尚、マシュは一歩も下がらない。がりがり、と耳ざわりな金属音と共に、ほんの一瞬、両者は拮抗して。
瞬間、リリィの側に向けられていたもう片方の切っ先が僅かに揺れ――
「はぁい……お預け」
その空白を縫うように――しなやかな少女の指先が、その胴鎧に添えられる。
気づいた時にはもう遅い。無造作に放たれた掌底は、ズドンと中心線を深く射抜き、女武者の身体を『く』の字に折り曲げた。
「がっ……!?」
そのまま、垂直に吹っ飛ばされ――しかし、直ぐに地面に転がりざま、片手を突いて立ち上がる。此方を睨みつける眼光の鋭さは、まるでダメージを受けている様には見えない。
……マシュの盾の奥。そこから覗く着物の柄は、やはり見覚えのあるそれ。エドモンの感じ取っていた気配の正体に漸く合点がいった。
「助っ人」
胸をなでおろす。どうやら、今回は力を貸してくれるようだ。
「――あぁ、頼むよ酒吞童子!」
「ふふふ。素直でよろしいわぁ――ほな」
着物を翻し――童姿の鬼が、盾の英霊の隣に悠然と並び立つ。リリィには、一歩下がって康友の前へ。最後の砦として。
此方の陣容を見てか。仮面の奥――女武者が大きく舌打ちを一つ鳴らした。
「ちっ! この様な『尻拭い』でなければ……その首、獲れていたものを……っ!」
苛立ち交じりに、勢いよく片手を振り上げる。と同時に、後ろの暗い空間が歪み……その奥から、独特のがちゃり、がちゃりという鎧の金属音が響くと共に現れるのは、やはり彼らの主戦力たる黒武者達だった。
しかし――しゅらん、という『一つ』の音と共に抜き放たれる大太刀、一糸乱れぬ太刀捌きはそれだけで、文字通り先ほどの烏合の衆のそれとは比べ物にならない程に、キチンと統率されているのが良く分かる。
尻拭い、という言葉もそうだが――やはり、先程の襲撃は、向こうにとっても『狙った動き』ではなかったようである。
女武者の方も、明らかに苛立ちを隠していない。そも感情を抑えるタイプではなかったにしろ……流石に、ここまで溜まったストレスを剥き出しにしているのは初めて見た。
「……旗色が悪いって分かっているなら、下がった方が良いと思いますよ!」
「抜かせ、姿を見せた以上はそう容易く退いてたまるものか。せめてお前達の内、一人でも首を取らねば収まりもつかぬ……!」
数自体は、先程の襲撃よりも少ない六体程。しかしながら……隙間を見せず、じりじりと詰めてくる黒武者達の整然とした動きに加え、敵の将たる女武者が出張って来ている。先程とは比べ物にならない程に厳しい戦いになるのは請け合いだ。
「な、なんだぁアイツ!?」
「本造院さん、建物の中へ! ここは私が死守しますから!」
「あっ、えっ、ちょっと……!?」
どん、とリリィに押されるようにして、建物へと非難する康友を確認し……改めて、目の前の敵に意識を集中させる。取り敢えずこれで屋敷の方は大丈夫だ。あの中にいるという前提があれば、リリィだけじゃない――
「――黒服の男の援護には期待せぬ事だな。リンボの奴も出張って来ている」
「……っ!」
別行動のエドモンが、と思った所で――見透かしたように女武者が口を開いた。
まさかと思うが……同時に、上手い、と思ってしまう。
エドモンとリリィの二人で万全、と思っていた所で、本当ならば実質戦力は半減だ。嘘だとしても、真偽を確認する暇も無い、先程とは違って敵将が伏兵を回している可能性だってある。どうしても背後を気にせざるを得ない。耳を傾けてしまった時点で詰みだ。
振り向いて、リリィに視線を送る。一番厳しい事態に置かれるのは、もしやリリィになるかもしれない――そう思ったが、しかし。彼女は、困った様な素振りすら一つ見せず、にっこりと笑い返してくれる。
「大丈夫です! 背後は、私がバッチリ押さえますから!」
――その言葉に、此方も頷きを返して女武者に向き直る。
今は、リリィの言葉を信じて任せるしかない。何方にせよ、後ろにばかり気を配っていたら、そこを突かれて押し切られかねない。そうなれば、余計にリリィが苦しい事になりかねない。自分達は前に集中するしかない。
「人理の防人は、随分と窮屈そうだな――まぁ、考慮してやる必要もない。己のしがらみを恨みながら……死ぬがいい」
空気が張り詰めていく感覚がする。今まで、彼女と戦った事が多いのは康友の方だ。
しかし、傍から見ていただけの自分でも凄まじい強敵である事はよく理解できている。もし一瞬でも気を抜けば――
せめて。背後の安全が確保できれば、という思いが頭を過る。しかし……普段から周辺の敵にまで意識を向けてくれていた、頼もしいとの連絡は……
『いいや、もうそっちの好き勝手にはさせないよ』
――そこで、頭が真っ白になった。
ハッとして、通信機に目をやる。まるで反応しなかった筈の通信機が、動いている。
聞いていなかったのは、本当に短い間だった筈なのに――その声が聞こえたのは酷く、久しぶりに思えた。白衣姿の、ちょっと情けなさそうな『大人』の姿が今、はっきりと浮かび上がっていた。
「「ドクター!」」
マシュと一緒に、思わず声を上げてしまった。
通信が回復したのか――此方に微笑みかるドクターは、直ぐに表情を引き締め、此方を見つめてくる。
『話は後だ藤丸君! 周辺に敵性反応は無し、伏兵も居ない! 前だけ見て、思いっきりぶっ飛ばしてやんなさい!』
「ば――馬鹿なっ!?」
頼れるバックアップの復活――敵からの悲鳴が飛ぶ。移り変わる状況の中で、とっても頼もしい一言。疑問も何もかも彼方に放り投げて。視線を前に向ける。
「リリィ!」
「――はいっ! 私もっ!」
後ろを見てくれる『目』があるのなら。周りに敵が一人もいないというのなら。目の前の敵が全員だというのなら――後は、前を向くだけだ。もう後詰もへったくれもない。
楽しそうにくすくす、と笑う酒吞童子の反対側。晴れやかな表情のマシュに、元気いっぱいの少女騎士が並ぶ。
「マシュさん!」
「はいっ! カルデアの頼もしい援護で、フルパワーです!」
盾が掲げられる。剣が構えられる。着物の裾が躍る。
明らかに動揺し、動き出す事の出来ない敵へと――今度は、此方から!
「――ええいっ、リンボめ適当な仕事をぉっ!!」
女武者の刃の先が、空を切る。それと共に、敏捷な動きで飛び出した全ての黒武者が、此方の前衛――マシュとリリィを迎え撃つ。
サーヴァント一人に、三人がかり。戦力を使う一切の迷いのない指揮と共に、その視線を此方へ……違う、酒吞童子に向けている。
盾が振り下ろされた太刀を弾き飛ばす。両刃剣が、片刃の凶器を受け止め、切り結ぶ。その中心に、ゆっくりと女武者が進み出る。対して……一歩前に出てから、酒吞童子は一切動く素振りもない。
目端を釣り上げ、刀を震わせる女武者と、微笑みながら手招く酒呑童子――余裕が見て取れるのは、明らかに後者であった。
「――余裕だな。もう勝ったつもりか」
「えぇ? そないな事あらへんわぁ――其方さんこそ、えろう難儀しはって……大変そやねぇ?」
「……あぁ、お陰で、全てがご破算だ……っつ!」
ぎり、と。かみ砕かんばかりの歯ぎしりに。柔和な微笑みが返される。
――二人の姿が、掻き消える。
太刀を受け止める大剣。甲高い金属音と共に始まるのは、勝負の趨勢を占う大将戦。マシュとリリィは優勢、けれども、ここで酒呑童子が押し負ければ、一気に形勢は傾きかねないだろう。
それでも……確信はあった。
今、『流れ』が此方に傾き始めているという。見えなくとも感じるモノが。
今回の投稿はここまでになります。
次回は七月の頭に投稿しようと思っているので、見かけたら読んでいただければ、幸いです。