FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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ただいま(猛暑)


断章:苦境を超えて

「「――これでっ!」」

 

 戦乙女の、決着を告げる鬨の声――鉄槌と一閃が、最後の黒い影を容赦なく打ち倒す。

 

 趨勢は決した。盤面に姿を現した黒武者は全滅した。後は、追加の軍勢が現れるかどうかになって来るが――

 

「ドクター、反応は!?」

『……何かおかしなものは無し! 追加は送られてこない……と、思う! 多分!』

「ありがとう! でもそこは言い切って欲しかった!」

 

 何時もの、何処かちょっと頼りない返事。

 そうぼやいたが。しかし口元に浮かぶ笑みは抑えられない。こうしてバックアップが万全で気が楽になったのもあるが……しかし、それ以上に。こうして問いかけに何時もの何処か頼りない声が返って来る事に、胸に温かなモノが溢れ出しそうになる。

 

 カルデアの仲間が、ちゃんとここにいる。それをこうして確認出来る事が……こんなにも心強くて、頼もしい。

 

『後は……酒吞童子と、彼女の決着次第だけど……』

「それも、多分大丈夫だと思います」

 

 ……対して敵は、まるで動揺を隠せていない。

 

 鬼の手に握られた大剣と、指先の爪。二つの太刀で、交差する一瞬に切り結んでは飛び下がり……しかしながら、その衝突の都度、圧されては下がっているのは女武者の方。そして、一歩下がればその分、酒呑童子が容赦なく更に一歩を詰め。

 

 僅かな動揺から発生する僅かな遅れで、完全に酒呑童子が戦いのペースを握っていた。先程から、僅かな隙を縫って切り返そうとしている様には見えるが……その起死回生を狙った斬撃を、酒呑童子の化生の反射神経が、容赦なく喰い潰している。

 

「下手に手を出した方が、隙を作ってしまいかねない位で……だから、ドクター」

『分かった。他からの横入りにはしっかり気を払っておくよ』

「ありがとう」

 

 ……とはいえ、間違いなく勝てるという保証は何処にも無い。油断は出来ない。

 正直な話をすれば、どうして急に通信が回復したのか、気にならないわけが無いし。色々と聞きたいというのもあるけれど。その事を話している内に何かが起きてしまったら。正直対応出来ないかもしれない。

 

 目の前の戦いに意識を向けつつも。しかし、背後にも気を配るのも忘れちゃいけない。目の前の戦いで勝っても、後ろの人達に被害が行ったら元も子もないだろう。今は十全にバックアップを受けているのだから、その辺りにも気を配って――

 

「それと……後ろの民家にいる人たちにも気を使って貰えるとありがたい、かも」

『了解したよ――えっと、反応は……三つ、で良いんだよね?』

「うん。三つ……三つ?」

 

 ――が。

 

 瞬間、尖らせていた思考がぱっと解けてしまった。

 

 家の中に居るのは……四人だ。四人の筈だ。反応は三つ。三人だ。一人足りない。誰が足りないんだ。そもそも何時の間に。ドクターが来る前だ。でも見逃したのか。じゃあエドモンはどうしたんだ。二人の戦いに集中するべきか。これを企んで時間稼ぎを?

 頭の中で、一瞬の間、一杯、色んな事がぐるぐる回り――ガチリと歯を鳴らし、むりくりに『最優先』を捻り出した。

 

「近くに他の反応は!?」

『えっ、無いけど……まさか、足りないのかい!?』

「四人いた筈なんだ!」

『なんてこった、探査範囲を広げないとっ……!』

 

 今は――目の前の戦いよりも、先ずは民間人の保護だ。そもそも誰が足りないかも分からない状況だ。直ぐに確認しないといけない。

 

「マシュっ! お屋敷の人達が!」

「――っ!? リリィさん、この場をお願いします、私は先輩と一緒に背後の確認をっ!」

「分かりました、お願いしますっ!」

 

 詳しく説明は出来なかったが、最低でも緊急性は伝わった。目の前の戦いに意識を傾けつつも、一息入れていたマシュの表情は……瞬間、険しいものに変わり。すぐさま屋敷へと走り出した自分の後へと続いて――

 

――否、そのままの勢いで此方を追い越して、先んじて屋敷へと駆け抜けてくれた。

 

「玄関は――開いてない!」

「裏庭にっ!」

 

 入り口に異変が無いのを確認した直後、マシュはそのまま一転し屋敷の周りを確認するコースに入る。一瞬、付いていくべきかを考えた所で……万が一にも自分にまで何かがあったらマズいという『前提』を確認。彼女の後についていく事を決めた。

 

 ……一体誰が居ないのか。

最低限でも、その辺りは確認しなければ、と。そう思った時だった。

 

「――おーいっ」

 

 その声に、足を止め……視線を、其方の方へ。

 

 屋敷から一歩外れた横道。森の方から、見覚えのある目つきの悪い姿が此方に手を振っている。そこで、誰が居ないのかと、その安否も同時に確認できた――康友だ。その手に酒呑童子から託されたお守りを握りしめ、此方に歩み寄っている。

 確認できた、同時に。たたらを踏む勢いで、本気の加速の方向を無理矢理に変え……マシュが慌てて、康友の元へと駆け寄って――

 

「や、康友さん!?」

「悪い、さっきこっちの方に黒い影を見かけたもんで、つい出て来ちまって」

「それは後で……急いで私の元へっ! もし『気付かれたら』大変な事にっ!」

 

 それですら、遅かった。

 

「逃がさん」

 

 ――あ、と。

 

 声が漏れる。視線の先。一足飛びで、空へと駆けた武者が、歓喜に口を裂きながら、獲物を獰猛な光と共に見下ろしていた。

 

白銀の刃は、既に構えと共に、放たれている。

マシュの盾が……一手は、確実に凌いでいる。だがその次、隙を生じぬとばかりに振り下ろされた二の太刀は、間に合わない。

 

少年のシルエットが二つに分かれ、小さな丸い塊が飛んでいく。白いシャツが、真っ赤な色に塗り直される。力なく、身体が地面に崩れ落ち――

頭に浮かぶ凄惨な光景。喉の奥から溢れ出す感情のまま叫ぼうとする。でも、それすらももう遅い。その刃は不思議な程、スローモーションな動きで、怨敵と定めた少年の首を刎ねようと弧を描く。

 

 どんっ!

 

「――ぁっ!?」

 

 そして。

 

 どさり、という音と共に、地面に倒れた――のは、二人。それも、女武者の凶行によるものではない。

 

目に映ったのは……お互いに反対の方へと倒れ込む、マシュと康友の二人の姿。そして倒れた二人の上で、振り切られた二刀が虚しく空を切る光景。

女武者は……何が起きたのか分からない、と言わんばかりに目を見開いて呆然とするばかり。倒れなマシュも、目をぱちくりとさせている。

顔を顰めながらも、空中の敵に視線を向けているのは――康友だけだ。

 

「つき、飛ばしたっ……!?」

『嘘ォっ!?』

 

 思わず言葉が零れてしまう。

 状況から考えて、あり得るのはそれだけだ――只の一般人だった彼が、意識の外からとはいえ、重厚な盾を構えて踏ん張っていたマシュを突き飛ばせるか、と言えば……

 

「ちい……っ!?」

 

 当人以外、想像だにしない事態に。ほんの僅かな空白が生まれた。

しかし、その間に地面に降り立った女武者も流石にさるもの、速攻で携えた二刀の切っ先を、康友の方へ。

 

 ――がぎぃいんっ!!

 

「……チィっ!?」

「好きには、させませんっ……!」

 

 ――続く二太刀は、届かない。

 

 今度は、マシュの盾が間に合った。カルデアの誇る勇敢なデミ・サーヴァントが、そう何度も相手の凶行を許さない。耳ざわりな金属音と共に、太刀を押し込もうとしても、マシュは一歩も下がらない。力強く大地を踏みしめて、押し負けない。

 その表情が、怒りに歪むのが見える。その目には、自分の標的と、その標的への一撃を阻む邪魔者しか見えていないだろう――だから。

 

「――逃げたらあきまへんえ?」

「なっ……がぁっ!?」

 

 背後から飛んで来て突き刺さった――小柄な影からの一足は見えていない。

 

 そのままの勢いで。蹴り飛ばされた身体は盾に叩きつけられる。しかも、その壁は先ほどまで押し合いをしていた盾だ。いきなり相手の踏ん張りが効かなくなって透かされた勢いは急に止まらない。

 

「あっ」

 

 ごしゃっ

 

「がっ――!?」

 

 ……蹴り飛ばされ、反るような姿勢で吹っ飛ばされたと思えば、目の前から迫る、超重量級のホームランバットの一発によって跳ね返って。

 その細身の身体は軽々と宙を舞う。

 

 呆然とした表情で、弧を描いて飛んでいくその姿を、康友が見つめていた。

 




どうも。

今回ものんびり更新していきたく思います。
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