FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:ドクターとして

 天から墜ちて、地に伏せる。

その、どさり、という重たい音が……戦いの終わりを告げる合図だった。

 

 落ちる、というより叩きつけられる勢いの、酷い落ち方だった。顔面から、身体全体で地面に身体を打ち付ける勢い。相手が敵のサーヴァントだとしても、見ているこっちの方が心配になるレベルである。ドクターも『うわぁ……いい音した』と若干ヒくレベルだった。

 全員が、しばし大地に打ち捨てられた女武者の方を見つめていたが……その内、震えながらも両手を突いて、ゆっくりと上半身を起こして見せた。

 

「――きさ、まぁっ……!?」

 

 ひび割れた仮面の奥――そこから覗く瞳が怒りに吊り上がり、その両手の刃に匹敵する程の鋭さを見せつける。凄まじい気迫ではあるが……しかし、そのまま立ち上がろうとしても、震える足にはまるで足に力が入っていない。

 ……霊核にまで響く一撃、とは行かなかったようではあるが、それでも無力化するには十分だったと見える。

 

 目を離さないまま……漸く、一呼吸入れられた。

 結果として丸く収まったが――地面に尻餅を突いて、倒れ伏す女性に視線を向けている彼が無防備に歩み寄って来た時、一歩間違えればその首が飛んでいたと考えると……

 

「な、なんなんだ一体……?」

「康友さん、早く屋敷の中へ! 早く!」

「えっ、は、はいっ!?」

 

 鋭く飛ぶマシュの叱責も、まぁ当たり前で。本当に肝が冷えたというしかなかった。というか、どうして屋敷の外へ……黒い影が見えたと言っていたが、可能性があるとすれば、まだ戻って来ていないエドモンと、敵方のリンボだろうか。

 

 多分、屋敷の人達の事を考え、様子を見に行ったと言った所だろう。なんというか、こうして記憶を失った状態でも平気で無茶をする辺りは、根っこからそう言う質なのだろうとしか思えない――急いで体を起こし、屋敷へと走り出す彼の背を見ながら、そう思う。

 

「ま、待てっ……!」

「はいはい、あんたはこっち。逃がさへんよ?」

 

 ……さて。

 

 取り敢えず、これで襲撃は一段落ついた、と言って良いだろう。そして……目の前には思わぬ『成果』が倒れている。

マシュと共に、酒呑童子に両肩を抑えられた彼女の元へと歩み寄る。逃げられぬようにと捕まえられて尚、それでも女武者は、康友の方へとにじり寄ろうとしている。

 

「逃がさんっ……源氏っ、その首をっ……!」

「ほんま、こないな様でよう頑張りなさるわぁ」

『は、反応的にまともに動けるような状態じゃないんだけどなぁ……本当にすごいね、サーヴァントって』

 

 そして……成果、ではないが。もう一つ。

聞こえてくる声は、途中で途切れる様子も全くない。安定、してると思う。少し肩の荷が下り、安堵と共に大きく息を吐いて……声をかける。

 

「「……ドクター」」

 

 ――そのタイミングが、マシュと揃った事に。思わず、互いに軽く笑いあう。

 

『……ごめんね、二人とも。復旧が遅れて。レオナルドと一緒に、夜通し復旧を試みてはいたんだけど、ダメで』

 

 ……ドクターの話によると。

 

 康友のバイタルの反応に突如『ブレ』が生じた時点で、特異点全体から『揺らぎ』が観測されたらしく……その揺らぎに巻き込まれる形で、存在証明すらも困難な程に此方への観測に支障が出始めていた。

 

 レイシフト中の存在証明は、命綱にも等しいもの――故に、ドクターやダ・ヴィンチちゃん達は咄嗟に全てのリソースを自分達の存在証明を、安定させる為に割いた。

 それが結果として、敵の付け込む隙となってしまったらしく。何とか、此方の観測が安定した時にはもう、此方との通信は完全に途絶した……いや、『遮断させられた』後だったのだという。

 

『……その揺らぎに寄って、特異点自体も形を変えていった。立夏君達、全員の反応はギリギリ追えては居たけれど、中で何が起きているかを把握する事は出来なくて……皆が頑張ってくれてたのに。情けない司令官で、本当にごめんよ』

「……いいえ。大丈夫です。皆さんが頑張ってくれたの、伝わってます」

 

 ――通信のホログラム越しでも、はっきりと伝わる。

 

ドクターの目の下の隈を見ながら……マシュはそう呟いた。

 

「でも、だとしたらどうして、急に?」

『それは此方も詳細な理由は分からなくてね。ただ、急に此方の通信の……えーと、まぁ電波が物凄い安定したんだよ。妨害電波を貫通する位に』

 

 どうして安定したのか――分かりやすく言えば、突如として『アンカー』の様なモノが設置されたのだという。電波を受信する為のアンテナ兼、妨害電波をすり抜けられる安全地帯を兼ねた何かが。

 そこからは、通信が繋げられるとなって慌てて通信再開の準備を整えて……漸く、また戦闘が始まったであろう、という反応を横目に通信を間に合わせる事が出来た、との事。

 

『何か心当たりがある……訳じゃなさそうだよね、そちらも』

「うん。こっちはこっちで、色々と大変で。通信を立て直すどころの騒ぎじゃなくて」

『何があったんだい?』

 

 その『アンカー』についても気になるが……まず優先すべきは、情報共有だろう。此方もあまり、特別に余裕がある訳では無い状況に陥っているのは確かなのだ。頑張ってくれていた所に大変申し訳なく思うが、猫の手も借りたい状況なのである――

 

『……というか、本造院君は……あの、屋敷に行かせちゃってよかったのかい? 彼も色々大変だったんじゃ』

「実は……ドクター。康友さんは……その、今……」

「記憶が、無いんです」

『……えっ?』

 

 ――そこから立香は、ドクターに対し分断された後の事をほぼすべて話してみせた。

 

 康友の出身と思われる集落。その当人の記憶喪失。集落に伝わる不穏から、何年も前の悲劇に至るまで……話せば話す程に、ドクターの眉間の皴はどんどん、見た事も無いレベルで深まって行くのが分かる。

 

『……やだぁ……それって所謂、因習村って言う奴じゃないか……Jホラー系の大定番なシチュエーションじゃないかぁ……すっごいやだぁ』

「ドクター! 康友さんのご実家に対してなんて失礼な!」

『いや、彼の生い立ちを聞いてた時から凄い不穏は感じてたんだけど、ド直球に来るとは思わないじゃないかぁ……こわいよぉ……』

 

 ……まぁ、それがシリアスへとしっかり繋がるかは兎も角として。

 

 今にも泣きそうなしょぼしょぼ顔のまま、ドクターは一つ大きな溜息を吐いて……けれども直ぐに表情を引き締めてみせた。

まぁシチュエーションが怖いとか言ってる場合ではない状況だ。寧ろ、ドクター的には状況を和ませようとしたジョークだった可能性もある。

 

それ程に……今の彼の顔は、真剣だった。

 

『――それは兎も角、本造院君の記憶障害だけど』

「何か分かるかな」

『さっき、彼の反応を見た時、少し違和感があってね……普段のデータと比較してみる。ほんのちょっと待ってくれないかな』

 

 流石は医療班のトップなのか。普段も真剣に取り組んではいるが、今に関して言えばその度合いが全然違う。普段の頼りなさが嘘かのような強い意志の光を、その瞳から感じる様な気すら――『分かったよ』いや早いっ!?

 

「ま、まだ三十秒と経っていません……早業です!」

 

 ……ちょっと待っても居ないレベルでちょっと驚いてしまった。。

 

『恐らくは……洗脳魔術の応用と言った所だろうね。起きたまま夢を見せられている様な状態だ。厄介なのは、本来の記憶を『苗床』として偽の記憶を作っているだろうから、本人が違和感を感じづらい様になってる』

「そ、そんな事が出来るんですか!?」

『うん。魔術っていうのは思ったよりも何でもありだからね。とはいえ、これに関しては術者の技量も出る部分も大きい――この念の入れようと無駄に手の込んだ仕込みを見ていると、やった奴の腕と、腐ったような性根がはっきり見えてくるね。反吐が出る』

 

 ……珍しい。ドクターが普通に怒っている。いや、楽しみにしてたおやつ食べられちゃったとかで、ぷんすかする事は今までも何度もあったのだが。

 こんな風に、青筋浮かべて静かにブチ切れる、って言う感じの怒り方は、実は初めてなのかもしれない。

 

 こう言っては何だが……普段がほにゃっとしてる分、物凄い怖い。不自然な程に無表情のまま淡々としゃべる彼は、まるで別人のようですらあって。思わずマシュと顔を見合わせてしまう。彼女も、見るからに困惑しているのが良く分かった。

 

『……時間を貰えるかい。必ず彼にかけられた術は解析して見せるから』

「ドクター……」

『大丈夫。本造院君の記憶は必ず取り戻す。任せてくれ』

 

 ……そう言って微笑むドクター。けれど、その表情は何処かまだ固いように見えて。

 今回の一件で、消耗しているのは明らかだ。それに加え、更に精神的負担をかけてしまったようで、少し申し訳ない気分になって――

 

「――それはまた、好き勝手言ってくれるものですなぁ。拙僧、術にその様な趣味を乗せる様な変態ではありませぬぞ?」

 

 その声に、背筋にぞわりとした感触が走った。

 

 声のした方向へと振り返れば。そこに立つ大柄な人影が一人。黒と白、緑に彩られた派手な色合い、その妙に優美を思わせる立ち姿に――ケダモノのようなその獰猛な気配。一度見たら忘れることは難しいだろう。

 その鋭く伸びた爪で、ちっちっ、と弧を描きながら。心外だ、とばかりに男は眉を顰めて見せた。

 

「リンボ……いや、芦屋道満っ……!」

「ん~、私としては、リンボの方が好みなのですが……まぁ良いでしょう。今はその様な事を言っている場合でもありませんし」

 

 マシュと共に身構える。リリィを呼び戻そうとして……止める。女武者に変に隙を見せれば、そこから大きな傷が生じかねない。

 

 ……それよりも。リンボが此処にいるという事は。

 

「エドモンは、どうしたの」

「ンンン――拙僧、目の前の獲物を逃がす程、甘い肉食獣ではありませんので」

 

 ――答えと共に、男の頭上から身体の周りに至るまで、無数の呪符が宙に浮かぶ。

 

 ぎり、と歯を食いしばった。

 倒されてる訳がない。けれど……無事なら、彼が目の前の男を逃がす訳が無い。もし時間がかかってしまえば、『万が一』もあるかもしれない。

 意識を尖らせる。一挙手一投足を見逃さない。素早く、決着を付ける――

 

「下らん嘘を吐くな」

 

 ――その、直後。

 

 頭の上を、芯に来るような熱が突き抜けた。

 

「ぬぉおおおっ!?」

 

 リンボが顔色を変え、飛び下がる。

 その場に残された浮かぶ呪符を――『蒼い焔』が、悉く焼き払う。

 

 目を丸くして、目の前の光景に釘付けにされている最中。

 ばさり、と。深緑の外套が――目の前で、確かに靡いたのが見えた。

 




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