FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
焼き切れた呪符が地面に落ち。直後、はっと詰まっていた息が抜ける。
目の前に降り立つと共に響く靴音――翻る外套が、その呪符の燃えカスすらも容赦なく打ち払い、空気に霞む塵へと変えた。
――思わず、その名を呼ぶ。
「巌窟王っ!」
幾度と言われただろうか。そして、何度呼んだろうか、その名前を。その頼もしい背を誰が見間違えるだろうか。
その声にこたえる様に、一瞬此方にその金色の瞳を向けてくれた彼は――直ぐに、目の前のリンボに向けて向き直った。その手に、焔を滾らせながら。
「――舐めるな、陰陽師。あの程度で振り切れると思うか、俺を!」
「あの程度、とは言ってくれるもの! 都にあぶれる十把の陰陽道の使い手程度ならば、容易に煙に巻ける代物なのですが!」
悠然と、さらに燃え上がる蒼い焔を纏って立つエドモンを前に。リンボはおどける様に両手を広げ……そして、攻撃的に牙を剥いて、笑う。愉快、とは思っていない事は良く分かるような表情だった。
「ふん。教会の代行者共に比べれば。気合いの乗らぬ仕掛けだ」
「おやおや、あの様に『遊び』の足りぬ伽藍の徒と比べられるとは――屈辱!」
「よくぞ貴様が言ったものだ、拾われたに過ぎぬヒトガタが!」
瞬間、再びリンボの周囲に無数と浮かび上がった呪符が、その指揮者が如く振られたリンボの腕の指図と共に、此方へ向けて殺到する。
当然、狙いはエドモンを含めた此方全体か。咄嗟に盾を構えた少女が前へ出ようと踏み込んだところで――黒い復讐者の革靴の爪先が、カツンと鳴り響く。その動きを制する様に。
「――貴様は、己の契約者の守りに意識を傾けていろ」
「ですが」
「清廉なる徒に差す色には、あの極彩色は些か趣味も悪い。アレは、外から見るだけに留めて置け。肌で感じれば否応なく理解する事になる」
すぅ、と。虎の瞳が見開かれる。空を滑る無数の呪符をちらりと眺め、零れた呼気と共にその手から燃え上がる焔は――更に激しく、熱く燃え盛り始める。
「――貴様の盾は出番ではない。奴に似合いは、俺の焔であろうよ!!」
振りかぶられる両手。
直後、振り抜かれた両の掌、黒の手袋の奥から溢れだした焔の波が、飛翔してきた呪いの弾丸に浴びせられ――再び、その悉くを焼き捨てて見せた。
ちらり、と。再び此方にその瞳を向けてくるエドモン。ほんの一瞬だけだが、その瞳と視線がぶつかる――彼に向けて、頷きを一つだけ返してから。
マシュに改めて下がる様に伝えると共に、そっと耳に口を寄せた。
「――多分、リンボが何かを企んでるんだと思う」
「っ……それは」
一連のやり取りだけで分かってくれる。物分かりも良く、聡明なファーストサーヴァントに感謝をしつつ、周辺に――特に、屋敷の周りに、改めて気を張った。
彼は、直接明言していない。しかしながら。マシュに対して出番ではない、という彼の言い回しと、先程の彼の目線。一瞬、自分を見つめ、それから改めて視線を向けたのは……背後の屋敷の方だった。何もない、とは到底言えない。
「……分かりました。ドクター」
『うん。一旦こっちに集中するよ』
……これで、周りも探索に入った。何か異常があったなら、即座にドクターが伝えてくれる筈。少し出て来た余裕に、一つ呼吸を入れ……視線を前方へと滑らせる。
青黒い焔を纏い、ジェット機染みた加速で飛び立ったエドモンは、そのままリンボへと殴り掛かり――が、リンボもまるでネコ科の猛獣を思わせるような機敏さと身の躱し方で、そう簡単にクリーンヒットを許さない。
互いに互角。リンボからは何かを仕掛ける隙もない――そんな風に見える。
……やっぱり、リンボの表情や仕草から、何かしら見出すのは難しい。が、それでもやらない訳には行かない。背後と前に意識を向けながらも、常に緊張感は保つ。今までにない嫌な感覚に、何かがガリガリとすり減っていくような気がしていた。
「反応は?」
『……今の所は特に、かな』
「何を仕掛けてくるつもりでしょうか」
……正直、エドモンからの『背後に気を付けろ』という合図を基に動いてはいるが。向こうが何か仕掛けて来る、という確証自体は特にないのは確かだ。しかし、相手が相手だ。油断をしていいわけがない。
だらりと、額からねばつくような汗が垂れ、頬を伝う。その感触ですら、尖った集中を揺さぶる様で、煩わしい。口の端を思い切り噛みしめた。
「……一体、何処から……?」
向こうは、此方の通信が回復した事は分かっている筈。何かを仕掛けても、此方に察知されるのは分かっていない訳がない――仲間も抑えられ、殆ど孤立状態なのも含め、決して余裕はないのだ。その状況から、一体何が出来るのか。
……ちらりと女武者の方を確認する。動きは無い。最悪、酒呑童子に抑えを任せてリリィにはこっちへ来て貰った方が良いか――
「そう」
……その一瞬。
そのリンボの声が。嫌に、ハッキリと聞こえた。。
咄嗟に視線を、前方で繰り広げられている戦いへと向けた。リンボは――繰り出された巌窟王の肘を掌で受け止めながらも。確かに此方を見て。
ニヤリ、と。口の端まで裂けたかのような。犬歯を剥き出しにした、不敵で、酷く不気味な……『嗤い』を、浮かべて、見せつけてくる。
「それ故に、迷う。最悪を『定めて』しまう――分かりますとも、人とはその様な生き物だ」
――背筋に、ぞっとしたモノが走った気がした。
何か、やられた。そんな直感があった。
「耳を貸すな、集中を乱すぞ!」
『っ……藤丸君、反応ありだっ! でもこれはっ……!?』
「それ以上の最悪を、想像出来なくなるものですなァっ!!」
咄嗟に背後を振り返り、屋敷全体を見回してみる。
しかし、何処を見ても敵の影らしきものは確認できない。ちらりとマシュの方を伺ってみるも、自分とは別方向を確認していた彼女の方も反応は芳しくないように見えた。一瞬、ただのハッタリなのか、という思考が過るも、あり得ないと速攻でその考えを捨てた。
となれば……いやしかし、一体、他に何処に、何が起きて――
『藤丸君違うっ、外じゃない! 『屋敷の中』だっ! 中の一室に直接敵兵が送り込まれてるっ!』
――思考が、止まった。
中に、直接。それは、つまり。
視線を玄関に。その時点で、足を動かす。足がもつれる。それでも、一歩でも前へ。
中にいる人たちは、全員が非戦闘員ばかりだ。もしも中に召喚されたのがあの黒武者だったら、一呼吸も持たない――間に合わない。
やめろ諦めるな。一歩でも進め。本当に、間に合わなくなる。
玄関の扉に手を伸ばした。
でもそれより先に、マシュの盾が、玄関の扉を打ち破った。がしゃりとガラスが散らばる音、散らばったガラスを踏みしめ、玄関に駆け上がろうとして――
「いやぁあああああああっ!?」
――悲鳴。
頭が真っ白になる。走る。廊下を駆け抜ける。
もっと急ぎたいのに、足が追い付いてくれない。もどかしい。気持ちがから回る。胸が苦しい。脳が軋む。言葉にならない何かが、口から漏れだす。
手を伸ばして。間に合って。目をぎゅっと瞑る。ただただ、奇跡を願う――
「――ッらァぁアあぁッ!!」
ぐしゃり
「……へっ?」
その直後だった。
伸ばした手の先で――黒い巨体が、室内から『飛び出した』のが見えた。
面を被った顔が、背後へと靡くように『ねじれ』……そのままの勢いで室内と縁側を仕切る扉をなぎ倒して。外へと倒れ込む。
間違いない。リンボの召喚したであろう、黒武者だった。それが今、『殴り飛ばされた』のである。
先行していたマシュはと言えば。ぽかんとした顔で、縁側に大の字で倒れ伏した黒武者を見つめてから……此方に視線を向けた。いや、自分にも何が起きたのかは分からない。
「――んだよ、人間ってのは、やろうと思えば……やれるもんだなぁ」
しかし。
直後、耳に聞こえたその声と――ばちり、という電流の流れるその音。
とっさに、黒武者が出て来た室内を振り返れば……先ほど、室内へと戻って行った筈の少年が、姿を現した。
――その額に煌々と輝く、雷の角を、輝かせながら。
ほんへ主人公がずっと戦力にならない一般人枠なのは許されねぇんだ