FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得   作:秋の自由研究

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断章・裏:暗中静争

「――どういうつもりだ……っ!」

「……すまないね。些か、逸ってしまった。ここまで君達の足を引っ張る結果となるだなんて、想像だにしていなかったんだ」

 

 ……普段の涼しげなそれと比べずとも、顔色の悪さは一目するだけで明らかだった。

壁に背を預け、俯いたまま……ぽつぽつと零す口元にかかる影。それは、僅かに乱れた毛先の奥から覗く瞳にまで、深くかかっているように思え……普段の怜悧な意志の光も、そこからはまるで感じ取れる様子が無い。

 

今なら――容易に首をかけるか。思わず口元に浮かんでしまった笑みを、着物の袖でそっと隠す。労せず、どころか、赤子の手を捻るが如きだろう。ここまでこの男が弱り切る等と誰が想像出来たか。

 

「ンンン――足を引っ張る、で済めば宜しいのですがねぇ?」

 

 とはいえ、今その首を『獲って』も此方にとっては利が半分、害が半分、と言った所である――故に、まだ『優秀な作戦参謀』の皮は脱ぎ捨てない。

 

 板張りの床に敷かれた座布団の上に座したまま……リンボは、最早怒り心頭と言った様子の景清に詰められた、自らの主へと苦言を呈した。

 

「万が一の為にと此方へ残しておいた予備戦力を逐次投入。及び、その被害を何とか抑えと向こうへと控えさせていた現地戦力が消耗。それに加えて――」

「分かっている……保管していた『眼』を無為に消費したのは、余りにも大きな失態と言わざるを得ないだろう。全責任は、私にある」

 

 ……ちらり、と。

 棚に並べられた『硝子の容器』へと視線を向ける。

 

 その中に浮かぶのは――宝石の如く、色とりどりに輝く『眼球』。

 かつて収納されていたモノから、態々容器を移し替えて個別に保存したそれらの内、一番上へと置かれていた筈の一つは、部屋の真ん中……リンボがしつらえた『祭壇』の上へと鎮座していた。

 

「全く……あのカルデアのからくりを利用し手に入れた我らの切り札――魔眼蒐集列車から掠め取った『魔眼』の数々。我らの『眼』も、これに依存する事が大きいという事をお忘れなきよう」

「……あぁ」

 

 力ない返事。大方、彼が此処まで弱っているのは、自分の感情を御しきれず、そうしたリソース配分を完璧にして置いた計画を、自ら台無しにした事へのショックが原因だろう。

 事が自分の思う通りに動く、それが一番心地よく感じる類の人間だ。それを自ら台無しにした、というのは相当に効いていると見える。

 

 しかし、彼は決して打たれ弱いという訳でもない――一つ息を入れてから、顔を上げる。表情は苦々しいままだが……しかし、目の前の景清へと向ける瞳には、なんとか今までの意志の光を取り戻したように見えた。

 

「……私としても、あのような事をするつもりは無かったんだよ。しかし、どうしても見逃すわけにもいかない点があってね。慌てて自分が動かせる戦力を送り込んだ」

「何だと?」

「あの村は――私達にとって『都合のいい』情報だけが残してある。村を再現するにあたって、『役者達』が違和感を覚えない程度に、抜き去る情報は選んで、ね」

 

 ――そう。

 

 あそこは、此方の都合のいい方向へと駒を進ませる為の舞台として用意した『箱庭』である。それ故に……以前の特異点を『叩き台』として作ったこの『特異点』の中には目の前の男にとって『毒』となりえる様な情報も確かにあった。

 そこは、この場所の『再現』と『模倣』を重視した故に避けられない部分でもある。特に模倣する、というのは魔術にとって大きな意味を持っているからこそ。我ながら、正しく主に『望まれた通り』の見事な仕事ぶりだと言っても過言ではない、と自負している。

 

と、相馬がそこまで口にした所で……目の前の景清が、僅かに首を傾げた。

 

「……抜き去る、だと? 貴様、あの場所に何か関係があるのか?」

「ん? あぁ……そうか。ここの準備に関してはリンボに全てを任せていたから、君にはまだ話していなかったのか」

 

 ……そこでリンボも思い出す。そう言えば彼女は、この中でも一番の新参だ。

 

 しかも召喚してからというもの、特異点中を駆け抜けて、敵を討ち取る事だけに執心して来た。それ故に、此方との情報共有が十分に行えていなかったか、と。

 

「あそこは……単刀直入に言えば、私に所縁のある土地なんだ」

「……貴様自身に繋がる何かがあるという事か?」

「そうだ。そこから辿られると、少々と面倒な事になる」

 

 ……それ故に、一度完璧に再現した土地から情報を抜き取る、という面倒な手順を踏んでまで、目の前の男に繋がる物は全て回収していている。そこまで準備をして、漸くカルデアをここへ引き込んだのだ。

 

 無駄な手間、と思われるやもしれないが……この土地と、集落の再現。これに寄って成立する『策』は、最早彼らが特異点を解決しようとすればするほどに、必ずや陥る仕組み。リンボ渾身の仕上がりだった――のだが。

 

「……まさか!」

「あぁ――何者かは知らないが、それを崩そうとも目論む者がいるらしい……此方へとつながるような『手がかり』が何時の間にか紛れ込んでいた」

 

 ぎり、と奥歯を噛み鳴らす。自ら丁寧に細部まで仕上げた整えた舞台。役者についても念入りな選考を重ねた上での抜擢である――そこに突然、物語の詳細なネタバレが記された小冊子を投げ込まれたような物。

 

 職人が趣向を凝らした御前に、たっぷりの調味料をぶちまけるが如き暴挙。

 リンボは激怒した。一体何者かは知らぬが、かの無粋極まりない愚か者を縊り殺してやらねば気が済まぬと思った。

 

「……その程度で瓦解するモノであれば。リンボ、貴様の手落ちではないのか」

「貴様ァ!!!」

「そこまでだ……これに関しては、リンボが何か悪い、とかいう話ではないんだ。そこは留意してくれないか、景清」

「…………チッ!」

 

 舌打ちの一つもしたいのは此方ではある。

 だがここで目の前の『復讐者』と打ち合った所で……まぁ、前提として勝つのは自分であろうが。そこまでで、無視しえぬ程に深い傷を負いかねない。

 

 ……一旦、気持ちを落ち着かせる。所詮目の前の田舎武者に、自分の丁寧に仕上げた舞台の価値など分かるまい。気にするだけ阿保らしい。

 そう言い聞かせてから……改めて、雇い主の方へと振り返った。

 

「全く、ふざけた真似をしてくれるもの――私にお任せを。その無作法者の首、見事に献上して見せましょう」

「そうなってくれれば嬉しいのだけどね。今の君が何かをすると、何かしら致命的な『やらかし』をしそうだ。今は落ち着いて貰えると、助かるのだが」

「チっ……ンンン」

 

 今度はしっかり舌打ちした。どうやら完全に私情で動こうとしていた事は見抜かれている。さっきまでの完全に弱り切っていた時から大分回復した様で、宜しい事である、という苛立ちも込めて。

 

 僅かに困った様な色を滲ませて微笑んでから……しかし、男はその表情をすっと引き締める。口元に浮かぶのは、これもまた苛立ちのような。

 

「機会は与えるさ。今回の事へのお詫びとしてね――それに、相手はそう甘くない。君とて苦労する程の難敵だと思われる」

「……というと?」

「君の舞台へ無粋を働いた相手は、『此方を良く調べている』という事だ」

 

 ゆっくりと部屋を歩き――彼は、壁際の『玉座』へと腰を下ろす。ちょっとしたお遊びで自分が作ったもの。それ故に、ほぼ誇りを被っていたモノではあるが……そこに、男は深々と腰を下ろし、重たい溜息を一つ漏らした。

 

「あの村から抜き取った情報は幾つかあるが――その中でも、最も警戒していた種を、まるで狙った様に……という事だよ。他に幾らでもこの特異点自体をご破算にするものは、あったも関わらず、ね」

 

 ……暗い瞳が、此方を見据える。

 その言い回しには、含みがある。即ちは――特異点解決『のみ』を、相手は狙っている訳ではない。

 

 そして、リンボにも覚えがある。一つだけ……これまで隠すのは必要なのかという類のものが。彼は、その問いに対して……こう答えた。

 普通に考えれば、最も価値はない――しかし、もしそれによって『上振れ』を引いた場合には……特異点は愚か、此方の喉首にまで牙を届かせる切っ掛けに成りえる代物だと。

 

――苦しい部分を、的確に見抜かれている。

 

「……『此方』を潰す為の一手を、態々選んでいると」

「そうだ。そして未だ姿を見せないゴルゴーン、結局何処へ潜伏しているのかが分からない酒呑童子……余りにも、臭う」

 

 『相馬』を名乗る男も――根本的には『知』を扱う事を得手とする。調子を取り戻したその頭脳が、見えぬ敵に対する脅威を嗅ぎつけたのだろうか。その口から語られる内容に、景清も……そしてリンボも。その顔を顰めてしまう。

 

「力だけでも、知性だけでも、さした脅威ではないが。此方の足元を掬おうと狙っている何某かは、その両方を持っている可能性が高い……」

 

 ……未だ、盤面での有利は此方が握っている。

 

 しかし、それを根本から覆されかねない可能性が浮かび上がって来て。男は……置物の玉座の上、強く両手を握りしめた。

 

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